窓ガラスの向こうに広がる夜を、総司は見つめていた。
今、土方はシャワーを浴びている。水音が、細く開かれた寝室の扉の向こうから微かに聞こえていた。先ほど、彼は帰ってきたばかりなのだ。
いつも彼は家で食事をしないので、シャワーをあびたらすぐ、この部屋へ入ってくるだろう。
そして、総司が寝ているベッドにあがり、毛布をめくりあげて───
「………」
総司はため息をついた。
愛人だと言ったくせに。あんなふうに無理やり男を教え込んだくせに。
土方はあれきり総司に手もふれようとしなかった。バスルームでの事以来、総司はまったく彼に抱かれていない。それどころか指一本ふれられていなかった。言葉さえあまりかわしていないのだ。
同じ部屋に住んで、同じベッドで眠って。
そのくせ、言葉も視線もかわさない。
あんなにも心を寄り合わせていた頃から考えると、異常な程だった。いや、もともと、今の状況こそが異常なのだろう。
愛人として抱いた翌日から、土方は総司への関心を完全に失ってしまったようだった。ちらりと冷ややかな一瞥を投げることはあっても、すぐそらされてしまう。それが総司には妙に悲しかった。
あんな行為を望んでいる訳ではない。だが、優しかった彼を今でも忘れられないだけに悲しかった。
酷くされるのはいやだが、無視されるのはもっと辛い。彼の冷ややかな態度に接するたび、胸奥が鋭い錐で抉られるように痛んだ。
その一方で、総司の生活に関しては驚くほどの心配りがあった。服も何もかも必要なものは欲する前に、驚くほど的確に与えられた。掃除や洗濯はハウスキーパーがしているが、食事はいつも山口が持ってきた。そして総司と一緒に食べてくれるのだ。
初めのとっつきにくい印象と違い、山口は気遣いのできる物静かな若者だった。総司より年上なだけあってか、包容力もある。幾日かたつうちに、総司は山口と親しくなった。彼も総司を気にいったようで、訊ねられるまま色々と話してくれた。
今、巷で起こっていること。総司の境遇のこと。
この黒手団の事実上の首謀者は芹沢という代議士であること。むろん、テロに直接手を出すわけでなく、資金源であること。その芹沢が今一番気に入っているのが、隼人であること。
むろん、重要な部分は隠されていたが、総司にはそれで十分だった。
(テロリストだったなんて……)
あの時は、犯されたことの方がショックで他の事は考えられなかったけど。
ぼくが恋した男はテロリストだったんだ。
残忍なテロで大勢の人を殺しながら、その血塗られた手でぼくを抱きしめていた。
あの優しい笑顔の裏に、こんな恐ろしい本性が隠されていたなんて。
「……っ」
ぎゅっと総司が目を閉じた時、寝室の扉が大きく開いた。
濡れた髪をタオルで拭いながら土方が入ってくる。もっていたコップをナイトテーブルに置き、総司に背を向ける形でベッドへ腰かけた。
目を開き、総司はその広い背中を見つめた。
濃いブルーのパジャマを着ている。さっぱり整えられた黒髪が濡れ、耳あたりに少しかかっていた。しっかりとした肩のライン、時折、髪をタオルで拭う手。
まだ……信じられなかった。
こんなふうに、彼と夜を過ごしていることが。
ほんの数日前までは、想像もしていなかった光景の中にいる。
「………」
土方がタオルをナイトテーブルの上に置き、ベッドの上にあがった。僅かにベッドが軋む。
慌てて目を閉じたが、彼の黒い瞳がこちらに向けられた気がした。そんなことあるはずないのに、まだ自分に少しは関心をもっているのだろうかと思ってしまう。
いつまでたっても闇は落とされなかった。
寝るつもりだったんじゃないのだろうか……?
総司はしばらく我慢していたが、とうとう、うっすらと目を開いた。とたん、息がとまった。
「───」
土方がまっすぐ総司を見つめていたのだ。それも、いつもの冷ややかな目ではない。どこか切なげな色をうかべた瞳だった。
が、それも一瞬のことだ。
総司の視線に気づくと、すぐさま、ふいっと目をそらせた。固い表情に戻り、手をのばして明かりを消した。
ベッドに入ると総司に背中をむけて体を横たえる。しばらくすると、静かな寝息が聞こえた。
その闇の中で。
総司は目を閉じながら、土方のことを想った。
この世の誰よりも憎い彼のことだけを想っていた……。
マンションの窓からの眺望は最高だった。
さすがに超高層の最上階だけあって、遮るものがない光景は総司を惹きつけた。何もすることのない総司は、大抵リビングの窓傍に立って、あくことなく移り変わってゆく街の光景を見つめていた。
山口などから見ると、その姿はまるで籠に閉じ込められた鳥が自由な空を恋しがっているかのようだったのだが。
その日も、総司は暮れゆく街を眺めていた。
もう夕方になろうかという時刻だ。リビングの窓際に立って見下ろすと、街は乳白色と茜色に染まり始めていた。遠く見える川が夕陽を反射してきらきら輝く。
華やかだが、どこか淋しい光景を眺めていた総司は、扉の開く音に驚いた。
山口が夕食をもって訪れる時間はもっと遅いし、土方が帰ってくる時間はいつも真夜中だ。なのに、ふり返ったそこに立っていたのは土方だった。
濃紺のハイネックのセーターにブラックジーンズ。黒いコートを脱ぎながら、こちらへ歩み寄ってくる。
ぼんやり見ていると、土方は手をのばし総司の華奢な体を抱き寄せた。そのまま、甘く口づけられた。
「……ただいま」
男の低い声に、総司は目を見開いた。
そんな言葉も抱擁も口づけも、まったく初めてだったのだ。あの日以来、初めてふれてきた彼に戸惑いが隠せなかった。
優しく髪を指さきでかきあげられ、思わず体がびくんっと震えてしまう。あの頃に戻ったようなしぐさに、涙がこぼれそうになった。
「おかえりなさい……」
おずおずと答え、見上げると、深く澄んだ黒い瞳が総司を見下ろしていた。かるく眉をよせ、どこか切なげな色をうかべている。が、ふっと目がそらされた。
その時になって気がついた。
戸口に二人の男が立っていた。
あの日、総司を浚った平間と、新見だった。
「客だ」
とだけ告げ、土方は腕の力をゆるめた。
そのまま二人に坐るように告げ、何か書類を広げて話しはじめる。テロのことなど聞きたくない総司はどうしようかと迷ったが、珈琲でも入れたほうがいいのだろうとキッチンへ向かおうとした。とたん、声がかけられた。
「どこへ行く」
ふり返ると、土方がまっすぐ総司を見ていた。その前のソファに坐っている平間と新見もこちらを見ている。
「いえ……珈琲でも入れてこようかと」
「おまえはそんな事しなくていい。それより、こっちへ来い」
高飛車に命じてくるのだが、不思議とその声は優しかった。思わず総司はふらりと彼の方へ歩み寄った。
近寄ったとたん、腕をひかれ彼の隣に坐らされた。そのまま腰に腕がまわされ、強く抱き寄せられる。総司は驚いた。
「ちょっ……」
「俺の傍にいろ、よそへ行くんじゃねぇ」
パニックってる総司の耳もとに低い声で囁きかけ、土方はそのなめらかな頬に口づけた。そして、総司を片腕に抱いたまま、打ち合わせらしいものを続行する。
持ったペンで地図に印し、次々と何か指示をあたえていた。新見の言葉に首をふり、このデータを見ろと傲慢な態度でノートパソコンを押しやった。
その間も、土方は総司を絶対に放さなかった。それどころか、時折、総司の白い首筋や頬、耳もとに唇をおしあててくるのだ。まるで見せつけるように。
新見はにやにやしてるだけだったが、平間の方は露骨に物欲しそうな目で総司を見ていた。それを見て、このいやらしい男は自分を狙っていたのだと不意に思い出した。こんな男に犯されていたらと思ったとたん、背中がぞっと寒くなった。
思わず自分を抱いてくれている土方の胸もとに縋ってしまう。それを土方はちらりと見下ろしたが、何も言わなかった。そっと優しく耳柔を甘噛みしてくれる。僅かな痺れが全身に走った。
「……ぁ……」
思わず声がもれてしまい、総司は頬を赤らめた。恥ずかしくてたまらないが、土方は低く笑っただけだった。
やがて打ち合わせも終わり、平間と新見は帰っていった。それを土方はソファに腰かけたまま見送った。玄関の方でドアの閉じられる音が響く。
「………」
とたん、土方は小さく吐息をもらした。
一瞬だけ腕の中にいる総司を見下ろしたが、すぐさま素っ気なく腕を抜いた。すっと立ちあがり、放り出してあったコートを拾い上げた。
あまりの態度の変化に、総司は呆然となった。
いったい、何を考えてるのかわからない。
部屋を出て行こうとする彼に、思わず呼びかけた。
「どこへ行くのですか」
それに、土方は冷ややかな視線をむけた。先ほどの優しく甘い態度がまるで嘘のようだった。
「おまえには関係ねぇよ」
そう言い捨て、背を向けた。
出て行く彼を見つめたまま、総司はきつく唇を噛んだ。
その夜、総司は一人で眠った。
土方は真夜中を過ぎても帰って来なかったのだ。
総司は広いベッドの上でため息をもらした。
彼に囚われてから、もう二週間がたっていた。
初めのうちは逃げようと色々とやってみたが、それはすべて無駄に終わった。彼を殺しでもしない限り、ここから逃げられないのだ。
だが、そんなこと出来るはずもなかった。
確かに彼が憎かった。
こんなに誰かを憎いと思ったことはなく、これほど激しい感情が己の中にあったことにむしろ驚いた。
もともと総司は優しい少年が、どこか人に無関心なところがあった。周囲の人に、特別な感情を抱いたことはなかったのだ。
(……兄さんだけは別だけど……)
そう思い、総司はそっと手首にふれた。
逆に言えば、この無関心さは兄ゆえなのかもしれなかった。良くも悪くも、兄は総司の心の動きに大きく影響してるのだ。
だが、そんな総司が今、いつも一人の男のことだけを考えていた。
振り払おうとすればするほど、土方のことだけを考えてしまうのだ。
ベッドの中で一人、彼を想った。
自分を裏切った男に、殺意にも似た感情を抱きながら。
彼のすべてを想った。
抱きしめてくれた、力強い腕。じっと自分を見つめる黒い瞳に、熱い唇の感触──
今日の夕方、その唇がどこに押しあてられたか、総司はおぼろげに覚えていた。思わず頬がかぁっと熱く火照る。
「土方さん……」
独り寝のその夜、総司は彼の名を呼んだ。
何度も何度も。
憎い男の名をどうして呼んでいるのかも、わからないままに。
総司の声が夜の闇に溶けた……。
カタン。
微かな音が総司の意識を浮かび上がらせた。
うすく目を開くと、もう朝だ。秋の眩しい光がカーテンの隙間から射し込んでいた。
総司は起き上がって着替えると、寝室のドアを開けた。まだ山口が朝食に訪れるには時間があるが、広いリビングにはもう朝の白い光が溢れていた。
水でも飲もうとリビングを横切りかけた総司は、不意にどきりとして立ち止まった。
「え」
ソファに彼の姿があったのだ。
帰ってきて酒を飲んでるうちに寝てしまったのか、そこにはぐっすり眠り込んでいる土方の姿があった。黒いシャツとジーンズ姿のまま、自堕落にソファへその長身を横たえ眠っている。
あちこちに書類や酒のビンが散らばり、テーブルの上に置かれたノートパソコンも開かれたままだった。
「………」
総司はゆっくりと土方に歩み寄った。傍らに膝をつき、その顔を覗きこむ。
実際、ベッドまで共にしていながら、総司が彼の寝顔を見るのは初めてだった。いつも彼は総司より遅く帰ってきて、朝は総司が起きるより早く家を出てしまっていたのだ。
総司は息をつめた。
彼の寝顔は、まるで少年のようだった。
さらさらした黒髪が僅かに乱れている。男にしては長い睫毛が頬に翳りをおとし、小さく開かれた形のよい唇からは規則正しい寝息がもれていた。あの鋭い光をうかべる目が閉じられているからなのか、不思議なほどあどけなく見えた。
脆くて壊れやすい少年のような……。
総司はおそるおそる手をのばした。そっと、指さきで彼の頬にふれる。とたん、土方が微かに眉を顰めた。
「……ん……」
小さく息を吐き、向こうへ寝返りをうとうとする。だが、ソファなので背もたれにあたり上手くいかない。しばらく身動きしていたが、あきらめたように土方は目を開いた。だが、まだ寝起きの夢見るような表情で総司を見つめてくる。
「………」
突然、彼が微笑った。
あの頃のような、優しい笑み。
それに総司は息を呑んだ。体中が熱く火照り、心臓がどきどきした。
だが、何をしたらいいのかわからなかった。今更、どうすればいいのだろう。
ただ身を固くしたまま、彼だけを見つめていた。
身動き一つしない総司を訝しく思ったのか、土方は訝しげに呼びかけた。
「……総司?」
その優しい声に、総司は泣きそうになった。
あんなことは皆、嘘で。悪い夢で。
やっぱり、この人は優しいだい好きな人で───
「土方さん……」
この朝を壊したくなくて。この人を憎みたくなくて。
総司はそっと土方の胸もとに体を寄せた。彼の背中に両腕をまわし、ぎゅっとしがみついた。
それを土方は両腕で抱きすくめてくれた。髪を撫でてくれる。
「……どうした、怖い夢でも見たのか……?」
そっと訊ねられた。それにこくりと頷いた。
「うん……すごく怖い夢……」
「大丈夫だよ、総司。俺がここにいるから……言っただろう? いつでも、おまえの傍にいてやるって……」
「土方さん……」
額に頬に甘いキスが落とされた。それに総司はうっとりと微笑んだ。
土方は総司をソファに横たえると、おおいかぶさり、そっと唇を重ねてきた。頬を手のひらで撫で、甘い蕩けるようなキスをくれる。
まるで……夢のようだった。
彼の優しさが、彼の囁きが口づけが抱きしめる腕が、総司の体を熱くした。
嬉しさに幸せに、涙があふれた。大粒の涙が頬をつたいおちてゆく。それを土方は唇でぬぐってくれた。
「総司……泣くな。俺がいる、ここにいて、おまえを守ってやる……」
「傍にいて、ぼくを放さないで……土方さん」
「あぁ、いるよ。総司、おまえを絶対に放さないから……」
彼の掠れた声が囁いた。
それを聞きながら、総司は目を閉じた。この朝だけを信じたいと思った。
次に目覚めれば、儚く消えてしまう夢だとわかっているけれど。
でも。
どうか神様、今だけは───
泣きながら縋りつく総司の体を、土方は胸もとに優しく抱きすくめた。
誰かが話していた。
決して声高ではないが、押し殺された声に怒りを感じる。
「──だから、無理だったと言ってるだろう?」
苦々しく彼は吐き捨てた。
テレビが何かニュースを告げている。人の悲鳴と怒号? 爆発音が時折響いた。
「抑えようとしたが、暴走しちまったんだ。だいたい、あんたも悪い。はなから俺の言う事を聞いてりゃ、こんな事にはならなかったんだ」
「………」
うっすらと総司は目を開いた。
彼の腕に抱かれたまま眠ってしまっていたらしい。まだソファに横たわり、その体の上には柔らかな毛布が掛けられていた。
総司が眠っているソファの肘掛に腰かけ、土方は電話をしていた。子機を肩に挟んだまま、片手のリモコンで次々と画面を変えていく。どれも同じようなニュースの画面ばかりだった。どうやら大きな事件か事故が起こったらしかった。
「一刻も早く資金源を抑えることだ。そっちから攻めるしかねぇだろう? あちこちにスルー口座作っていやがるから手間がかかるだろうが、汚ねぇ金であることは確かなんだ。マネーローダリングなんかで誤魔化されてたまるか」
土方の口調は荒かったが、どこかいつもの冷たさがなかった。よほど気を許した相手なのだろう。
ふと顔をあげると、壁際に山口が凭れかかり両腕を組んでいた。総司が目覚めた事に気づくと、軽く手をあげてみせる。
それに土方も総司が目覚めたことに気づいた。ちらりと視線を投げたが、すぐ目をそらせた。苛立だしげに電話を切ると、テレビのスイッチも切ってしまう。
総司はのろのろと身を起こした。
「な…に……?」
思わず問いかけた。
「何かあったのですか」
それに答えたのは、山口だった。
「今朝、大規模なテロがあったんだ」
「はじめ!」
鋭い声で土方がさえぎった。総司の方がびくりとしてしまう迫力だ。が、山口はかるく肩をすくめただけだった。
「こいつに余計な事を話すな」
「どうしてです? ここまで巻き込んで、何も教えない訳にはいかないでしょう」
「俺は何も教えるつもりはない。知らなくてもいい事まで知る必要はないからな。とにかく、こいつに余計な事を話すのだけはやめるんだ」
「わかりましたよ」
ため息をつく山口と、それを見据えている土方を見ながら、総司はある事に気づいた。
彼の口のきき方が違っているのだ。
あの酷く乱暴なものではない、つきあっていた頃のようだった。声音も突き放すような感じがなく、落ち着いている。これは、山口が相手だからなのだろうか。
そう言えば、今朝もそうだった。あれは昔の優しい口調だった。
山口が「先に行ってますよ」と出て行った後、土方は書類やパソコンを鞄に突っ込んで慌しく外出の用意をした。それをじっと見つめていると、不意に彼がふり返った。
黒い瞳でまっすぐ見つめられ、俯いてしまった総司に手をのばしてくる。びくりと体をすくめた総司の頬に、そっと指さきがふれた。
「おまえも……いいな?」
突然の問いかけに戸惑った。
「……何を、ですか」
「余計な事を知りたがるなってことだ」
土方は低い声で言った。
「自分の身が可愛かったら、おとなしくしているんだ。わかったな?」
いつもなら、反射的に言い返していただろう。だが、総司はこくりと小さく頷いた。
それにほっとしたように、土方が安堵の息をもらしたのがわかる。離れようとする彼の手を感じ、総司は顔をあげた。思わず彼の手を掴み、その手のひらに頬を寄せた。目を閉じ、仔猫が甘えるように擦りつけた。
「……総司」
苦しげに土方が呻いた。総司は彼の手を己の頬にあてたまま、目を開いた。じっと目の前にいる男を見つめる。
今までの生活も何もかもを奪った彼。
身も心も奪い去り、そのすべてを手にいれたとたん見向きもしなかった残酷な男。
なのに……どうして、こんなにも求めてしまうのだろう。
世界中の誰よりも、この人だけを───
「………」
土方が不意に総司の体を抱き寄せた。しなやかな背中がしなるほど、きつく抱きすくめられる。
そのまま激しく口づけられた。
貪るような、激しく濃厚なキス。
何度も角度をかえて口づけられ、くらくらするのを感じた。
震える指で必死に彼のシャツの胸もとを掴む。力が抜けて縋りつく総司の細腰を片腕で抱きとめ、土方は額に頬に、そしてまた唇に熱いキスを落とした。
それにうっとり目を閉じると、不意に土方のコートの中で電子音が鳴った。はっとした総司を抱いたまま、土方は携帯電話を取り出すと耳におしあてた。
「俺だ……あぁ、はじめか」
総司を見つめながら、会話をかわしている。そっと指さきで唇にふれてきた。
「あぁ、わかった。悪い、すぐに行く」
僅かに苦笑し、土方は携帯を切った。総司の桜色の唇にもう一度だけキスした。
「はじめの奴が待っている。俺は出かけてくるから、おとなしくしていろよ」
「……はい」
素直に頷いた総司に、土方は微笑んだ。そのままコートに腕をとおすと、鞄を片手に部屋から出ていった。遠く玄関の扉が閉まる音が響く。
総司はソファに坐りこむと、指さきで自分の唇にそっとふれた……。
事態が急変したのは、その日の午後だった。
ここの電話は受信専用に設定されたあり、相手は大抵土方か山口だった。
おそらくそうなのだろうと、総司は何の疑いもなく鳴った電話を取った。
「……あんた、なーんにも知らないんだろ?」
突然、下卑た声が耳を打った。
総司は意味がわからず、小首をかしげた。悪戯電話かと思ったのだ。
「あの……どなたですか?」
「平間だよ。昨日、会っただろ」
「……あ」
思わず受話器を置きたくなったが、すぐまた掛けて来るだろう。
総司は出来るだけ毅然と応対する事にした。
「どういった御用件でしょうか」
「そんなつれない言い方すんなよ。隼人さんのことでいい事、教えてやるからさ」
「いい事って何です」
「玄関の鍵の暗証番号。昨日の今日だから変更になってないはずだぜ」
早口に告げられた番号が、脳裏に刻みこまれた。
番号や記号をを正確に記憶するのは総司の特技なのだ。確かに複雑で長いものだったが、覚えられない事もなかった。
ずっと、これを求めてきたのだ。
あの憎い男の元から、ようやく逃げ出せる。なのに、総司は全然嬉しくなかった。むしろ、知ってしまった事に不安を覚えた程だった。
(……どうして?)
戸惑いつつ、総司は口を開いた。
「どういうつもりなのですか。そんなこと教えてくれるなんて……」
「なんだよ、その言い方。へぇ……逃げたくない訳? つまりは隼人さんの愛人って立場が気に入ったんだ。あの人、めちゃくちゃあんたのこと可愛がってたものなぁ」
平間はいやらしく笑った。
「けど、あんたさ、知らないからそんな事が言えるんだよ」
「………」
「隼人さんの本性、知ってる? 死神って言われてるんだぜ、それだけ残忍な人なんだ。なぁ、あんた、自分が何人目の愛人か知ってる訳?」
「……何人目って……」
「3人目だよ。前のは女だったけど、それもすげぇ美人の。男じゃ、あんたが初めてだ。で、さぁ、前の二人の愛人、どうなったと思う?」
「………」
心臓がどくんっと鳴った。
これ以上、聞いたらいけない。聞いちゃ駄目だ。
そう思った総司に、平間は味わうようにゆっくりと言った。
「十日で飽きられ捨てられたんだよ。それも、隼人さん自身の手で殺された挙句、海へ捨てられたのさ」
「───」
総司は大きく目を見開いた。
(……な…に? 今、なんて言ったの……?)
頭の中で、平間の言葉が何度もリフレインした。
十日で飽きて捨てられた?
隼人さんの自身の手で殺された?
海へ捨てられたって……そん…な……!
さぁっと血の気が引き、目眩さえ覚えた。
受話器を握る手に汗が滲み、体中が細かく震え出した。壁に背中を押し付け、必死に声を絞り出した。
「……う…そ……っ」
「嘘なもんか。さすが死神だよ、あれだけ可愛がった愛人をあっさり殺るんだものな。しかも死体は海へ捨てて魚の餌だぜ」
「……そん、な……そんなのっ……」
「あんたもさぁ、そろそろ二週間じゃないの? やばいんじゃない? あの人、あんたにもう飽きかかってるだろうし」
思わず、きつく目を閉じた。
飽きかかってるどころか、とうの昔に飽きられてる。でも……なら、もうすぐ殺されるのだろうか。
あの人に──殺される……?
総司がショックを受けている事を感じ取り、平間の口調がねちっこくなった。
「だから、さっきの番号。さっさと逃げ出した方がいいってて、殺られる前に……なぁ? あんたなんか、あの人にとったら、ちょっと物珍しい玩具に過ぎないんだし……」
総司はもう何も聞いてなかった。
手から受話器が落ち、その衝撃で通話が切れた。壁に背中をつけたまま、ずるずると床に坐りこんでしまう。
呆然と目を見開いた。
……わかっていた。
残酷な人だと。あの男は大勢の人を殺したテロリストなのだと。
よくわかっていたのだ。
だが、それでも──ここに連れて来られて二週間、心のどこかで信じていた。
確かに感じたはずの、彼の優しさを。
あの頃、自分に向けられた彼の笑顔を。
すべて偽りだったと知りながら、激しく憎んで殺意さえ覚えて、それでも──心のどこかで彼を信じたかったのだ。
信じていたかったのだ。
(なのに……っ)
総司は固く目を閉じた。
彼は自分がさんざん抱いて弄んだ愛人さえ平気で殺し、亡骸も捨ててしまえるような残酷な男なのだ。
そんな事ができるのは、もう人間ではなかった。まさに死神の所業だった。
血も涙もない残酷な男───
(初めから、あの人の中には優しさなんかなかったんだ。ぼくだって、いつか殺される……そう、あの人の手で何の躊躇いもなく……)
「……っ」
大粒の涙があふれ、なめらかな頬をつたい落ちた。ぽろぽろとこぼれ、ジーンズを濡らしてゆく。
不思議と怖いとは思わなかった。彼の手で殺される事に恐怖は全くなかった。
それよりも、総司の胸を抉ったのは別の事だった。
自分は、土方にとって簡単に殺せる程度の存在でしかないのだ。その時がくれば、彼は本当に何の躊躇いもなく自分を殺すだろう。
嘲るような笑みをうかべ、飽きた玩具を壊すように。
そして──また新しい愛人を手に入れるのか。
まるで初めから総司など存在していなかったように。
いや、そうだ……存在していなかったのだ。少なくとも土方の中には、初めから無かったのだ。あると信じていた彼の優しさのように。
(……もう…ここにはいたくない……っ)
総司はのろのろと立ち上がった。子供のようにしゃくり上げながら、廊下を歩いてゆく。
涙でぼやけた視界に玄関の扉が映った。
何度も開けようとして失敗した重い鉄製の扉。間違った番号を入れてセキュリティが発動し、土方が帰ってきてしまった事もあった。
その扉を今、開けられるのだ。
もう苦しむことはない、もう彼のことで傷つかなくていい。少なくとも、この胸を抉るような痛みを味あわなくてすむのだ。
この扉さえ開ければ───
「………」
総司は泣きながらボタンを押した。覚えている番号を次々と入力してゆく。
やがて、カチッという音が鳴った。
「あ……」
開錠されたのだ。平間の言葉は嘘ではなかった。
思わずノブを回すと、扉が押し開かれた。靴はないので、そのまま外へ歩み出る。
豪奢な装飾が施された廊下が目の前に広がった。このフロアには彼の部屋だけなのか他に扉はなく、すぐ近くにエレベーターホールがあった。
総司はのろのろとそちらへ向かった。
二つエレベーターがあったが、どちらも地上に降りていた。ボタンを押して呼ぶ。
次々と点滅してゆく階数表示を、総司はぼんやりと眺めた。
もう何も考えられなかった。
もう……何も考えたくなかった。
彼のことも、彼と過ごした日々も何もかも忘れてしまいたかった。
あんなに好きだったのに。初めて恋した人だったのに。
なのに、あの人の中に、自分はこれっぽちも存在していなかっただなんて。
飽きた玩具が壊されるように、自分も殺される運命にあったなんて──
(ううん、あの人になら殺されてもよかった。あの人の中に、ぼくの存在がほんの少しでもあったら良かったのに……そうだったら、喜んで死んでゆけたのに……っ)
総司は固く目を閉じた。
これ以上、彼の事は考えたくなかった。彼を想うと、切なくて苦しくて、気が狂ってしまいそうだった。
涙がとまらない。まるで涙腺が壊れたように、総司は泣きじゃくっていた。
ここを離れる事、土方ともう逢えない事が辛いのか、何もわからなかったが……。
エレベーターの到着の音が軽やかに響く。総司は涙を拭い、一台のエレベーターの前に立った。
やがて、ゆっくりと扉が開いた。
「───」
総司はぼんやりと前を見た。
エレベーターの中には一人の男が乗っていた。コートのポケットを探り、少し目線を落としている。
すらりと均整のとれた長身に黒いロングコートが似合っていた。片手に鞄を下げている。目的の物を見つけたのか、顔をあげ、歩み出ようとした。
視界に総司の姿をとらえた瞬間、男の目が大きく見開かれた。
「総司! おまえ……どうして……っ」
掠れた声で呻いた。
この場にいるはずのない総司の姿に、男は呆然としていたが、やがて、その表情が驚愕から激しい怒気へと一気に変わってゆく。
それを総司は喘ぎながら見つめた。
誰よりも逢いたくない男が目の前に立っていた。
残酷で冷たい男。
総司の心も命も、その手で奪おうとしている男。
憎くて憎くて、そして、この世の誰よりも──愛しい男が。
「……ぁ、あ……っ!」
突然、総司は我に返った。
逃げないと。残酷で恐ろしい彼だ。逃げだそうとした自分にどんな仕打ちを与えるか、考えただけでゾッと身震いした。
後ずさり、すぐさま身をひるがえす。ちょうどやって来た隣のエレベーターへ飛び込もうとしたが、それを土方が許すはずもなかった。
「……総司っ!」
彼の手がのばされ、乱暴に総司の腕を掴んだ。そのまま荒々しく引き戻される。
総司は必死にエレベーターの扉口にしがみついた。何とか彼を振り払い、エレベーターの中へ逃げ込もうとする。ベルが何度も鳴った。
「いや! いや! いやあ!」
首をふり、泣きながら扉口にしがみつく総司に、土方は忌々しげに舌打ちした。突然、その頬に平手打ちをくらわすと、驚きに力の緩んだ総司の体を乱暴に担ぎ上げた。
「なっ……放して! いやだっ!」
暴れる総司を肩に担いだまま、土方は足早に自分の部屋へむかった。扉を開けると、靴を脱ぎ捨てそのまま寝室へ向かう。
「あっ!」
寝室に入った土方は、荒々しくベッドの上へ総司の体を放り投げた。総司が仰向けに倒れ込むと、すぐさまおおいかぶさってくる。総司は気が狂ったように両手で男の肩や胸を叩き、暴れた。
「ここから出してっ……も、いやだぁ! ぼくを逃がしてよっ!」
「……逃がすものか」
土方は総司を組み伏せたまま、ゆっくりと唇の端をつりあげた。
歪んだ昏い笑みがうかべる。
「絶対におまえは逃がさねぇよ。一生、俺の腕の中に閉じ込めてやる……」
男の言葉に総司は鋭く息を呑んだ。
震えながら、涙に濡れた目で見上げた。そのなめらかな頬を、土方はゆっくりと指さきで愛しそうに撫でた。
「可愛い総司……俺はおまえをこれ以上傷つけたくなかった。二度と手を出さないでおこうと思っていた。だが、そんな俺をおまえは裏切った、ものの見事に欺いてくれたんだ……っ」
男の目が危険な光をうかべた。
ぎりっと歯軋りし、総司の細い肩を強く掴んでくる。総司が痛みに顔を歪めるのにも構わず、言葉をつづけた。
「今朝の態度で俺も完全に欺かれたよ。甘えまくって男を有頂天にした挙句、さっさと逃げ出すとはな。まんまと騙された俺を、馬鹿な男だと嘲るつもりだったのか?」
「……ぁ……っ」
「総司、おまえは死ぬまで俺のものだ。その事を今からたっぷり教えてやる……っ」
そう囁いた男の黒い瞳が、凶暴な獣じみた光をうかべる。ゾッとした総司に冷たく笑いかけ、土方は身を起こした。
鬱陶しそうに黒いコートを脱ぎ捨てると、すぐさま総司の体を組み伏せてくる。噛みつくように口づけられた。
「ん……っ!」
思わず両腕を男の胸に突っぱねたが、びくともしない。逆に手首を掴まれ、ベッドに縫いとめられた。
唇に舌がさしこまれ、歯ぐきや舌をねっとりと舐め上げる。濃厚なキスだった。唾液が重ねられた唇からつたい落ちる。
「ん……ぅ、うぅ……っ」
土方は総司の唇を堪能すると、そのままジーンズを下着ごと下ろそうとしてきた。必死に身を捩って抗ったが、男の力に叶うはずもなかった。
「いやあ!」
うつ伏せにされた総司は、広いベッドの上を這って逃げようとした。が、すぐさま男の手が足首を掴んで、乱暴に引きずり戻される。下肢が開かれ、何か冷たいものが注がれた。びくりと総司の体が震える。
「な…に? 何……っ?」
「ローションさ。丁寧にクリームなんざ塗ってる暇ねぇからな」
冷たい液体が割れ目に注がれ、蕾を濡らしてゆく。男の指が差し込まれ、中を押し広げるようにした。液体は中にも注がれる。
「ぃ…やだ、いやだ……っ」
「おまえの為じゃねぇか、痛いのはいやだろ」
「……じゃなく……するの、いやだ……っ!」
交わり自体を拒んだ総司を見下ろし、土方は冷ややかに唇を歪めた。
ローションの瓶を放り投げながら、吐き捨てるような口調で言い放った。
「おまえは俺の愛人だ。おまえの意志なんざ関係ねぇよ」
「……っ」
「それにな」
土方は後ろから総司の黒髪を掴み、ぐいっと頭をあげさせた。
「おまえがそんなこと言える立場だと、思ってんのか。えぇ?」
「……ぅ……っ」
「おまえは俺から逃げ出そうとしたんだ。当然、仕置きが必要だろ? おまえが誰のものか、自分の立場って奴を、いやってほど思い知らせてやるよ」
「……や、いやだあ……っ!」
必死に逃げようとする総司を引き戻し、その細い腰を抱え上げた。獣の格好で大きく両腿を開かせ、たっぷり濡らせたそこに己のものを押しあてる。
そのまま一気に、猛った猛りで蕾を刺し貫いた。
「いやあぁぁ──ッ!」
総司のしなやかな背中が仰け反った。大きく見開かれた目から涙がぽろぽろ零れ落ちる。
濡らされたそこは難なく男のものを受け入れていた。土方が腰を入れると、ぐぬりと根元まで太い猛りが呑みこまれる。
「……っぅ、ひ…っ……いぁ……っ」
それでも苦痛は僅かにあるらしく、総司の細い体は強張っている。土方は総司の背中から腰をゆっくりと手の平で撫でてやった。
二週間ぶりに抱いた愛しい少年の体は熱い。熱くて柔らかくて、我を忘れて貪ってしまいそうだった。
仕置きというならそれも有り得るだろうが、やはり、酷い事をしたくなかった。ただでさえ無理やり男を教え込んでいるのだ、できる限り甘い快楽の中で蕩かせてやりたかった。
「総司……息をつめるな、余計に辛くなるぞ」
固く結ばれた唇を指先で撫でた。僅かに開いた唇の中へ指をさしいれ、うごめかす。
不意に、総司が彼の指に歯をたてた。思わず土方は顔をしかめた。
「つ……っ」
が、咎めなかった。痛みを堪え、そのままゆっくりと腰を動かし始める。ますます総司が歯をたてたが、構わなかった。
「ぅ…うぅッ……くっ…ぅ……ふっ、ふ…く……っ!」
「そうだ……息を吐くんだ、総司」
「ぁ…ぁあ……ぅっ……ぁあっ! あぁ……っ!」
総司が一際甲高い声で啼いた。
もうそれに苦痛の色はない。その唇から指を抜いた土方は、総司の太腿を両腕に抱えこんだ。
腰を前後に動かし、何度も柔らかな最奥に己の楔を鋭く打ち込んでやる。そのたびに総司は掠れた悲鳴をあげた。
「ああっ! ああ……ぁ…っ、やあぁ……っ、はぁっ……!」
「総司……」
「う…んぅっ……あっ、ああっ……や、あああん……っ!」
土方は深く繋がったまま総司の体を膝上に抱き上げた。少年特有の細い体を背中から抱きすくめ、首筋や項に唇をおしあててやる。白い肌に艶やかな花が咲いた。
「……やぁ…土方…さんぅっ……あ……っ」
動かない彼に焦れて、総司が腰をゆらめかす。
少年の体は快楽に従順だった。ほんの数回、男に抱かれただけでこんなにも感じやすくなっている。
二週間前、土方が徹底的に仕込んでやった総司の体は、男が与える快感に対して驚くほど素直になっていた。
それに苦笑しつつも、土方は総司の前にふれてやった。ぎゅっと手のひらに握りこんでやる。だが、総司は彼に動いて貰いたいようだった。
「お願…い……っ、あ……お願い……っ」
「……お願いって何が?」
意地悪く土方は訊ねた。それも感じやすい耳もとで、とびきり甘い声で囁いてやる。案の定、総司の体がぴくんっと震えた。
「ぁ……っ、お願い……欲しいの……」
「だから、何が?」
「や、も……苛めないで……っ」
泣きながら懇願する総司が可愛い。その目は夢見るように霞み、桜色の唇が震えていた。 快感で意識が朦朧としてきてるのだろう。
だが、もっともっと総司を自分に溺れ込ませたかった。
二度と逃げ出せぬように。
濃厚な蜜のような快楽に狂い、虜にされて、自分という男なしでは生きられない。
いっそ、そんな淫らな体になってしまえばいいのだ。
総司を繋ぎとめる甘美な鎖が、この体でも快楽でもかまわなかった。
それで総司が逃げないのなら。
この腕の中から失わないですむのなら。
もう何も求めない。
(そうだ、俺はもう……)
愛も、あの綺麗な笑顔も、望まない。
ただ、おまえが傍にいてくれるなら。おまえさえ失わないですむのなら……!
「……総司」
うっとりと微笑み、土方は優しくその頬や首筋に口づけた。それに総司がまた焦れたようにすすり泣く。
土方はくっくっと喉を鳴らして笑った。
「そんなに俺が欲しいのか?」
「う、ん……欲しい……っ」
「なら、もう二度と逃げ出すなよ。約束するなら、好きなだけ抱いてやるぜ」
彼の腕の中、総司はこくりと頷いた。
「逃げ出さない……」
泣きながら総司は答えた。
「約束…する……だから……ぁっ」
「……あぁ、欲しいものをやるよ。たっぷり味わいな」
満足そうに声をたてて笑うと、土方は総司の腰をかるく浮かせた。そのまま細い腰を鷲掴みにし、ゆっくりと引き下ろしてゆく。
「あ……あ! あっ……あっ……ッ」
男の猛った凶器の上に腰を下ろされる。蕾が押し開かれ、裂けそうなほど広げられた。凄まじい圧迫感と重量感に、総司は思わず息を呑んだ。
「ひ…あっ、ああ……っ、はあー……ッ!」
「……いい子だ。もう最後まで呑みこめただろ? ほら、いいか……?」
「う…ん、熱い……おなかが熱くて気持ちいい……っ」
「なら、もっと気持ちよくしてやるよ」
土方は総司の腰を掴んで固定すると、ゆっくりと己の腰を回し始めた。最も感じるポイントに己の物の括れ部分を押し当て、執拗に擦りあげてやる。
たちまち総司の体が激しく悶え、甘い嬌声をあげ始めた。
「ひ…いっ! ぃっ……いいっ…あぁ、ぁあ……っ!」
「いいか、気持ちいいか」
「い…いいっ……ああっ、土方…さん…っ……そ、そこ……ああッ!」
総司の唇から顎を唾液が滴り落ちた。土方は薄く笑いながら、何度も何度もソコだけを、グリグリと音が聞こえそうなくらい擦りあげてやった。
男の腕の中、少年の細い体が激しく仰け反る。その手がさまよい、彼の膝を強く掴んだ。
「ああっ! ああ……っ! ひ、土方…さんぅ……っ!」
快楽に濡れきった声が、うわごとのように何度も彼の名を呼んだ。
それを聞きながら、土方は固く目を閉じた。
もう何も望まない。
何も求めない。
許されえぬ罪故に、この身は地獄へ落ちればいい。
だが、それでも。
この激しく燃え上がるような想いだけは……
「総司……っ」
──愛してる。愛してる。愛してる。
憎まれていても、殺したいほど憎まれているとわかっていても。
おまえだけが俺のすべてだから───
「ぁ…ああっ……土方…さん……っ」
激しくかき抱いた彼に応えるように、総司がふり向きざま口づけを求めてくる。
その後ろ髪を掴んで引き寄せ、噛みつくように口づけた。
激しく交わり求めあった。体が溶けあいそうなほど、何度も何度も何度も。
愛と憎しみの狭間に、己が身をおきながら。
その瞬間。
世界中の誰よりも。
ふたりは互いだけを深く感じあっていた……。
[あとがき]
相変わらず二人すれ違ってます。早く土方さんに総司に優しくさせたいです。あちこちで、その願望が出てるけど。しかし、ほんとどこがサスペンスもの? 看板に偽りありですね。もう3まで来ましたが、この「かくれんぼの恋」のどのあたりがいいか駄目か、皆様のご感想をお聞かせ頂けると嬉しいです。どうもよくわからないまま、書いてますので。次は急展開しますので、よければまた読んでやって下さいませ。
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