つかまえてね
かくれて泣いているぼくを
追いかけ、つかまえてね
そして──思いきり抱きしめて
好きだと言って
愛してるって囁いてね
その時、きっと
あなたの腕に抱きしめられたぼくは
世界中の誰よりも
幸せそうに微笑んで
あなたを愛してるって告げられるから
だから、お願い
つかまえてね
そして、もう二度と放さないで
何があっても永遠に
あなただけを愛してるから……
それはとても綺麗な朝だった。
昨夜からの雨もすっかり上がり、辺りの緑は露を含んで朝陽にきらきら輝いている。空気は澄みわたり、見上げた空は抜けるように青かった。
「……あぁ、気持ちいいなぁ」
総司は目を閉じ、深呼吸した。だが、すぐクイッと紐を引っ張られ、慌てて目を開ける。
彼の足元でくりくりした目の仔犬が尻尾をふっていた。
「ごめん、おまえの散歩中だったね」
にこっと笑い、総司は公園の中を歩き出した。
ここの公園は広く管理もゆき届いているので、最近の総司のお気に入りだ。何より、総司が住み込みで勤めさせて貰っているカフェから近いというのが一番いい。マスターの飼いだした仔犬──タロウの散歩にも好都合の場所だった。
早朝の公園はまだ人もまばらだ。大きな池の向こうでジョギングをしている人を見かけたが、それもすぐ消えてしまった。だが、総司もぐずぐずしていられない。モーニングの用意があるのだ。
総司はまだ18才だったが、高校は中退し働いていた。親もなく、ほどんど行き倒れ状態だった総司を拾ってくれたのは、マスターの原田だ。豪快な性格のわりに結構きめ細やかな部分をもっている原田も、その妻であるまさも、突然転がり込んできた総司に、事情を問いただす事さえしなかった。何も聞かず、部屋と仕事をあたえてくれたのだ。そんな彼らに総司は心から感謝していた。
「わぁ、綺麗な花」
総司は思わず声をあげた。昨日の昼にでも植え替えられたのか、花壇に可愛いピンク色の花が咲きあふれていた。もう秋口なのだが、花はまだ沢山咲いている。それを総司はうっとり眺めた。
その時、だった。
「あっ!」
するりと紐が総司の手から抜け、落ちた。勢いよく仔犬が走り出してしまう。
「ちょっ……タロウ!」
慌てて総司は追いかけた。だが、仔犬はなかなかすばしっこい。必死に追う総司の手をすり抜けて、とうとう小道を外れ、茂みの中へと飛び込んでしまった。向こうヘ抜けたのか、ガサガサ音がする。
「待ってってば、タロウ! タロウ?」
茂みをかきわけ、雑木林の中へ入った。あちこちに樹木が茂り、心地よい木陰をつくり出している。だが、そのどこにも仔犬の姿はなかった。
(どうしよう……)
困り果てて立ち尽くした時だった。
不意に後ろから声をかけられた。
「これ……きみの犬か?」
「!」
慌ててふり返った総司は、そこに仔犬を抱えて立つ男をみとめ、目を見開いた。その腕の中でクウクウ鳴いてるのは紛れもなくタロウだ。
「あ、そうです! ぼくとこの犬です」
男の手から仔犬を受け取り、総司はほっと安堵の吐息をもらした。
そして、お礼を言おうと、前に立つ男を見上げた。
「ありがとうございました。おかげで助かり……」
言葉が途切れた。
……びっくりした。
男の人で、こんなに綺麗な顔をした人がいるんだと、総司は驚きに目を見はってしまった。
「………」
かなりの長身だ。総司が168ぐらいだから、こうして見上げる位置から考えると、この男はどう見ても180はあるだろう。しなやかに引き締まったその体は服の下に隠れていたが、どういう仕事をしているのか、かなり鍛えられているようだった。
ざっくり編まれた白いセーターとブラックジーンズを纏っているのだが、そのシンプルな格好がまたよく似合っている。ちょっと小首をかしげるようにして総司を見下ろしている彼は、背後の紅葉した楓とあいまって、まるで絵のようだった。
男らしくすっきり整えられた黒髪に、濡れたような黒い瞳。形のよい眉も、切れの長い目、すうっと通った鼻筋、引き締まった唇も──何もかも驚くほど整っていた。精悍なその顔は、一見すれば整いすぎて冷たいほどだ。だが、どこか感じさせる大人の男特有の艶が、この男を何とも魅力的に際立たせていた。
華がある──とでもいうのだろうか。
「……えっと」
総司は小さく息を吸った。
「おかげで助かりました……本当にありがとうございました」
何とかお礼を言い終わった総司に、彼は微笑んだ。
「そんな礼を言われるような事をしてないさ、でも、まぁ、もう逃がさないよう気をつけて」
「はい」
そう答えた時、近くのベンチで誰かが立ち上がった。振り向くと、総司より少し年上の若者だった。ちょっとつり上がった目がきつそうな印象をあたえる。歩き出した彼に、男の方が「おい、はじめ」と呼びかけた。
「話は終わりだろ。これ以上はまずいし、消えるよ」
若者はそう答えると、ひらひら手をふり、雑木林の奥へ消えていってしまった。
総司は慌ててしまった。
「あの……お邪魔しちゃったんですね。すみません」
「いや」
彼は小さく苦笑した。
「もう話は終わってたんだ。構わないよ……それより」
彼は総司の方に向き直ると、かるく小首をかしげた。
「随分早い散歩なんだな。まだ夜明け状態なのに」
「あ、ぼく、カフェに勤めてるんです。モーニングの用意があるから、いつも早くて」
「へぇ、きみ、いくつ?」
「18です」
「じゃあ、登校前のバイトって奴?」
「違います……ぼく、学校行ってないから」
「あぁ、ごめん。悪い事聞いたかな」
彼はゆっくりと歩き出しながら、肩をすくめた。それに総司は首をふった。
「いいえ、自分の都合でやめたので別に構いません」
「そう」
彼は頷き、ポケットから煙草を取り出した。火をつけようとして、気が付く。
「あ、悪い。その……吸っていいか」
「えぇ、どうぞ」
丁寧な人だなと思った。ふつう行きずりの、それも男の子相手に煙草を吸う許可を求めたりしないだろう。
彼は紫煙をくゆらせながら、目を細めた。
何か考えるように黙り込んでいる。それを総司は去りがたい気持ちのまま見上げた。
こんな人懐こい気持ちになったのは初めてだった。
どうしてだか、この人とこのまま離れたくなかった。もっと傍にいたいとさえ思った。
初めて逢った人なのに、ずっと昔から知っている気さえしたのだ。
「……あの」
小さな声を出した総司に、彼は黒い瞳をむけた。それに思い切って言う。
「あの、今から、うちのカフェ来ませんか。お礼にモーニングご馳走します」
「お礼って……たいした事してないよ」
「でも、あの……来てほしいんです」
そう口ごもってから、総司ははっと気が付いた。いつのまにか、右手で彼のセーターの裾を縋るように掴んでしまっていたのだ。慌てて放し、俯いてしまった総司に、彼は苦笑した。
「じゃあ、お言葉に甘えようか」
男の言葉に、総司はぱっと顔をあげた。
嬉しそうに微笑う。まるで綺麗な花が咲いたようだった。
それを眩しそうに見つめる男に気づかぬまま、総司は弾んだ口調で言った。
「うちのマスターの入れる珈琲おいしいんですよ。奥さんの作るご飯もすごくおいしいし」
「そうか、それは楽しみだな」
彼は優しく笑い、総司とともに小道へ歩み出た。総司に連れられるままカフェに向かおうとして、ふと見下ろした。
「そう言えば、名前、言ってなかったな」
「え」
「俺は土方。土方歳三だ」
「あ、ぼくは沖田です。沖田総司といいます」
よろしくと頭を下げた総司に、土方も頭を下げた。
それから、ふたり顔を見合わせ、笑いあう。
ずっと前からの知り合いのように、ふたりは様々なことを話しながら歩き出した。そんな二人を、柔らかな朝陽が包みこむ。
そして。
それが土方と総司の出逢いだった。
二人の交際とも言える微妙な関係は、次の日から始まった。
しばらくはあの公園で朝の散歩の時に逢っていたのだが、そのうち、カフェが休みの日には様々な場所で待ち合わせて逢うようになった。
総司はこんな九つも年下の男の子と一緒にいて楽しいのかと不安だったが、それも、一度おずおずと聞いた時に、土方は一言で片付けてしまった。
楽しくなかったら、逢うはずないだろ?──と。
土方の隣には綺麗な女の人が似合うとわかっていたが、総司はどうしても彼から離れられなかった。いつのまにか、総司にとって、土方はかけがえのない存在になっていたのだ。どんどん惹かれてゆく自分が少し怖いくらいだった。
彼は何でも受け止めてくれた。まだ幼くどこか頑なな総司の心をときほぐし、明るい世界へと目をむけさせてくれた。原田の所へ逃げ出すまで籠の中にいるような生活をしてきた総司にとって、土方と一緒に見て感じるすべてが新鮮だった。
こんなに世界は綺麗だったのだろうか。
こんなにも世界は輝いていたのだろうか。
そう感じられる理由はわかっている。今、こうして隣で優しく見守ってくれている男がいるからだ。彼がいるから、こんなにも夢のように幸せなのだ。
「土方さん、ねぇ、あれ!」
彼の腕をひっぱり、総司は叫んだ。
大きな歓声が上がる中、イルカが見事なジャンプを決めたところだった。それに手を叩いて大喜びする様はまるで子供のようだ。
「すごい、すごいですね」
「あぁ」
土方は小さく笑った。実際、イルカを見ているより、総司を見ている方が楽しい。
くるくる変わる表情が可愛くてたまらなかった。
目を細め、総司だけを眺める。だが、ふと──その眉がひそめられた。
拍手している総司の手もとに、とんでもないものを見つけてしまったのだ。
「……総司」
イルカショーが終わった後、立ち上がろうとした総司に、土方は呼びかけた。
え?と振り返る総司の手を引いて坐らせ、シャツをめくりあげる。
「あ……いや!」
慌てて隠そうとする総司の腕を掴んだ。その顔を覗きこむ。
「これは何だ」
「………」
「いや、答えなくてもわかるが……これはリストカットの痕だな。俺と会ってからもしてるのか」
総司はふるふると首をふった。それに安堵の息をつきながら、土方は静かな声で問いかけた。
「何か悩んでることがあるなら、話してくれないか。逢ってまもないが、俺はおまえの力になりたいんだ」
「……今は……話せません」
大きな瞳で彼を見上げ、答えた。
「まだ、ぼくも心の準備ができてないから。でも、そのうち、絶対に話します。土方さんには聞いてほしいから」
「わかった。だが……」
ぐっと総司の腕を掴む手に力がこもった。
「これだけは言っておく」
「………」
「総司、逃げたら駄目だ」
ゆっくりとした口調で、土方は言った。
「どんな辛いことがあったか知らないが、それでも、自分の人生から逃げたら駄目だ。おまえがいなくなったら、悲しむ人がいるはずだ。生きてほしいと願う人がな」
一つ息をついてから、つづけた。
「少なくとも、俺はおまえがいなくなったら泣くぞ。いや、泣くだけじゃ収まらないと思う」
総司の綺麗な目が見開かれた。それを土方はまっすぐ見つめた。
「俺はおまえに逢えてよかったと思っている。ちゃんと生きててくれて本当によかったと、心から思うよ。だから、総司、逃げたりしたら駄目だ。俺がいてやるから。これからはずっと、辛い時、苦しい時、俺がおまえの傍にいてやるから」
「土方…さん……」
ゆっくりと総司の目に涙があふれた。それはぽろぽろと、なめらかな頬を零れ落ちてゆく。
黙ったまま泣き出した総司を、土方は腕の中に引き寄せた。ぎゅっと抱きしめてやる。
その腕の中、総司は夢みたいだと思った。
今まで、こんなことを言ってくれる人はいなかった。こんなふうに抱きしめてくれる人はいなかった。
でも、これからは一人じゃないんだ。もう、一人で泣かなくてもいいんだ。
この人がいてくれるから……。
総司はこみ上げるような幸せを感じながら、そっと目を閉じた。
その日も、総司は昼過ぎに土方と待ち合わせをしていた。
逢ったら今日は二人で映画を見に行く約束をしていた。だが、それまで時間はまだある。
総司は先に用事を済ませようと、銀行に入った。受付カウンターで通帳を出して、ソファでぼんやりと待つ。客の数はまばらだった。総司の他には、三人の男がいるだけだ。
次の瞬間──だった。
「!」
いきなり、銃声が鳴り響いた。悲鳴があがる。
驚いて見ると、男たちがマシンガンを天井にむけてぶっ放していた。あちこちでガラスの割れる音が鳴り、照明が消えてしまう。
「金を出せ! そこにある金、全部だっ!」
慌てて差し出された金を奪い取り、だが、男はその銀行員にむかって撃った。胸から鮮血を吹き上げ、倒れる。また凄まじい悲鳴と怒号が辺りに響き渡った。
「もたもたしてると、警察が来ちまうぞ!」
「わかってるよ……おい、やべぇっ」
遠くからパトカーの音が近づいてきていた。行員が通報ボタンを押したのだろう。
「逃げるぞ、早くしろ!」
「けど、どうするんだ、もうパトカーが目の前に……」
「人質をとれっ! どれでもいいから連れて来いっ」
それまで、総司は茫然と見ているだけだった。あまりの驚きと恐怖で身動き一つできなかったのだ。男たちのぎらついた目が自分を見た時も、いったい何が起ころうとしているのか、わかっていなかった。
突然、総司の細い腕が掴まれ、引きずりあげられた。無理やり外へと連れ出されていく。その時になって、ようやく総司はすべてを理解した。自分は今、人質にとられようとしているのだ。
「放せっ! いやだ、放せっ!」
暴れる総司を二人の男が押さえ込んだ。後ろ手に縛られる。そのまま外へと突き飛ばされた。
「……あ……」
目の前には大勢の警官や人々、パトカーが停まっていた。頭に銃口を押し付けられた。
「ついてきたり妙な真似しやがったら、こいつの頭ぶっ飛ばすぞっ!」
総司は無理やり車の中へ押し込まれた。後部座席に座らされ両側を男たちが固める。もう一人の男が運転席に乗り込むと、凄い勢いでアクセルを踏み込んだ。
キキキキキと鋭い音をたてて車はカーブした。そのままパトカーも検問も突破して走り出す。
激しく揺れる車の中で、総司はもう駄目だと思った。絶対、殺される。
男たちが喋っている話から、彼らがただの強盗でないことを知ったのだ。
彼らはテロリストだった。
今、この日本で暗躍している悪名高い黒手団の男たちなのだ。テロを主とする巨大な秘密結社で、彼らによる惨たらしい事件はここのところ頻繁に起こっていた。こんな強盗も何度かやっており、その時に人質にとられた者は必ず殺害されていた。全く血の涙もない惨忍な集団なのだ。
(もう……終わりだ。ぼくは死ぬんだ)
そう思った瞬間、総司の脳裏をよぎったのは土方の端正な顔だった。
今頃、どうしているだろう。
総司がこんなことになった事も知らず、あの待ち合わせ場所に急いでいるのだろうか。
(ぼくが死んだら、泣くって言ってくれたっけ……)
そのことが今、ひどく嬉しかった。ほんの短い間だったけど、彼と逢えて幸せな時を過ごせて本当によかった。
彼といられた一瞬、一瞬、夢のように幸せだったのだ。
(でも、もう夢は終わり。みんな、終わりなんだ……)
そう思った時だった。
総司のコートのポケットで電子音が鳴り始めた。時計を見ると待ち合わせ時間はもう過ぎている。絶対に土方だと思った。
男が総司のポケットに手を突っ込み、携帯を取り出した。メールだったのか、画面を見て笑う。
「残念だな、彼女、デートに来られないってさ」
そう言いながら見せられた画面には、
──急用ができたので今日は行けない。また連絡する。
とあった。
それをぼんやり見ていると、男は総司の携帯の電源を切った。床へ投げ捨てる。
「あんたには、もう無用のものさ」
そう嘲るように言われ、総司はきつく唇を噛みしめた。
着いた先は、意外な事に閑静な住宅街だった。
屋敷の敷地内に車を乗り入れると、後ろで大きな鉄製の門扉が閉じられた。
「降りろ」
乱暴にひきたてられ、総司は車から降り立った。
広大な屋敷だった。正直な話、上品さはないが、とにかく壮大だ。総司は玄関を入ってすぐの小部屋に連れてゆかれた。絨毯ばりの床の上に突き飛ばされる。
「なぁ」
男の一人──平間という名だと先ほど知った──が、にやにやしながら言った。
「こいつ、どうする」
「すぐバラしちまうのはちょっと惜しい上玉だな」
何を言ってるのかわからなかった。
見上げる総司を、男たちは舐めるような目つきで眺めた。
「オレたちで姦して、さんざんこの体楽しんでからバラしちまうか」
それを聞いて、総司の顔から血の気がひいた。
この男たちは自分を犯すと言っているのだ。そんなことをされるくらいなら、さっさと殺された方がましだった。
「けど、とにかく先に了解とった方がいいだろ」
「あの人にか? そうだな」
急に怯えたような表情になった男たちは頷きあった。
その時、玄関の方で何か声がし、荒々しい足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。男たちの顔にさっと緊張が走る。
次の瞬間、総司からすれば右手奥にある扉がバンッと乱暴に開かれた。
入ってきた男は全身、黒ずくめだった。黒いシャツにブラックジーンズを纏っている。
男は入ってくるなり、いきなり平間の顔面を殴り飛ばした。
「何考えてやがるっ!」
這いつくばった平間を尚も殴りながら、男は凄味のある声で怒鳴りつけた。
「あれほど軽率なことはするんじゃねぇ、つっただろうが! 人質なんか連れて帰りやがって、いったい何考えてんだ」
「す、すみません」
「謝ってすむことか! この始末、どうつけるつもりだよっ、えぇ?」
「………」
総司の方からは、男の後ろ姿しか見えなかった。
かなりの長身で引き締まった体をしている。黒手団の中でも、平間たちよりかなり上の立場にある男なのか、這いつくばった謝る彼らを見下ろす態度は威圧感に満ちていた。凄まじいまでの迫力と存在感だ。
だが、総司はふと眉をひそめた。
あの後ろ姿に見覚えがあったのだ。ある人の姿がオーバーラップする。
だが、そんなことあるはずがなかった。
あんな優しい人が、残忍なテロリストなんかであるはずが……
「……人質はどうした」
男の問いかけに、平山が答えた。
「あっちにいます、あいつです。姦してバラしちまおうって話してたんですが……」
平山がこちらを指さした。
それに、ゆっくりと男が振り返る。
「───」
その瞬間、総司は大きく目を見開いていた。
驚きのあまり、ひゅうっと喉が鳴るのを感じた。
「ぁ……あ、ぁ……っ」
喘ぎ、呆然と男を見上げる。
男もまた、愕然とした顔で総司を見下ろしていた。
目を見開いたまま、そこに立ち尽くしている。
それは───確かに彼、だった。
まったく雰囲気も格好も違ったけれど、見間違いようがなかった。
総司が初めて心を開いた、優しい人。
もしかしたら。
この世界中の誰よりも好きになりかけていた人が、そこに立ち、自分を見下ろしていた。
冷酷なテロリストとして。
(……土方、さん……!)
総司は悪夢を信じない子供のように固く目を閉じた。
そして───
すべてを拒絶したのだった。
[あとがき]
初めての現代ものパロです。しかし……サスペンスかぁ。嘘ばっかりですね。こういうの何て言うんだろ。
かくれんぼの恋2からの土方さんと際立たせるため、1では徹底的に優しく甘く書きました。つまり、今後の展開は全然甘くないという訳です。あぁ、こんなの読んで下さる方、おられるのかなぁ。すごく不安。つづき読んでやってもいいよという心優しい方は、どうか、ちょこっとメッセージででも送ってやって下さい。それで続き書くか考えたいなぁなんて……。不安で早くも挫折しそうな葉月雛でした。