つかまえてね
かくれて泣いているぼくを
追いかけ、つかまえてね
そして──思いきり抱きしめて
「……総司?」
低い声が訝しげに呼びかけた。そっと、頬をしなやかな指さきがふれ、包み込んでくる。
総司はそれを大きな瞳で見上げた。
昼下がりのカフェだった。
ガラス越しに射し込んでくる冬の陽だまりの中、土方が僅かに眉を顰め、こちらを見つめていた。
すっきりと整えられた黒髪に、その濡れたような黒い瞳。きっと引き結ばれた形のよい唇に至るまで、本当に綺麗な顔だちの男だった。
すらりとした長身、のびやかな均整のとれた躯つき。彼を見る者は誰もがモデルか俳優だと思うようだが、その実、土方の職業は全くその想像の範疇を越えたものだった。
総司の恋人である土方は、警視庁の現職刑事であり、所謂キャリアなのだ。
(……絶対、そう見えないよね)
総司はそんな事をぼんやり思いながら、土方を見つめた。
今日の土方は仕事帰りに待ち合わせため、スーツ姿だった。
ダークなスーツをすっきり着こなし、ネクタイもタイトに締めている様が、どこから見てもエリートビジネスマン風だ。
傍においたピュアカシミアの黒いコートに腕をとおせば、それがまたよく似合ってモデルばりである事を、総司は知っていた。何しろ、そのコートは、総司が必死にためたバイト代で買ったものなのだから。
うっとり見惚れてしまっている総司に、土方は思わず苦笑した。
「総司」
どこか甘く低い声で呼ぶと、総司の頬をもう一度だけ指さきで撫でた。それでも反応しない恋人に、首筋にまで指さきを滑らせてやる。
「な、何……っ」
さすがに我に返った総司に、くっくっと喉を鳴らし笑った。
「何をぼーっと見惚れてるんだよ? そんな顔してると、ここで食っちまうぞ?」
「た、食べちゃうって何を?」
「おまえに決まってるだろ」
「ひ、土方さん……っ」
慌てて椅子を後ろへずらした総司に、土方は苦笑した。
テーブルに頬杖をつき、悪戯っぽい瞳で総司を見つめた。
「そんな慌てるなって、冗談だよ」
「だって……っ」
「だいたい、おまえが悪いんだぞ。こんな処で、俺をそんな色っぽい顔で見るから」
「い、色……って、そんな事してません!」
総司は頬を紅潮させ、叫んだ。それにくすっと笑い、土方は立ち上がった。
少年のコートを手にとりながら、云った。
「まぁ、いいさ」
「……よくありません」
「とにかく、そろそろ出よう。今夜は鍋パーティするんだろ? 早くデパ地下に行って材料買い込もうぜ」
「うん!」
たちまちご機嫌を直し、総司は立ち上がった。
レジの前で優しくコートを着せてくれると、土方は少し混み合っているレジの様子に、そっと少年の背中を押した。
「会計すませるから、外で待っててくれるか?」
「はい」
こくりと頷き、総司はカフェの外へ出た。
昼間である事もあり、まだそれほど寒くはない。冬の陽光が心地よいぐらいだった。
総司はカフェの隣にある雑貨店のショーウインドゥを覗き込んだ。可愛いキッチン雑貨などがおしゃれに並べられてある。
(あ、このカップ可愛いなぁ。お揃いで、こういうの欲しいんだけど……)
そんなことを思いながら眺めていた総司は、不意に、びくんっと肩を跳ねさせた。
背中に、全身に──鋭い視線を感じたのだ。
「!」
慌てて、総司はふり返った。
周囲を見回してみたが、何という事もない都会の光景だ。
だが、確かに誰かが総司を見ていた。
静かに。
(……まさ…か……)
総司の目が大きく見開かれた。
背中にじっとりと汗をかくのを感じる。そのくせ、指さきがすうっと冷たくなった。
(そんな事って……)
覚えのある感じだった。
気配だった。
どんなに忘れようとしても、逃れようとしても。
いつも心の片隅に存在している。
それは、総司が幼い頃から慣れ親しんだ───
「……総司?」
突然、肩に手をおかれ、総司は思わずびくっと躯を震わせた。飛び上がりそうになってしまう。
慌ててふり返ると、土方が訝しげな表情で覗き込んでいた。
「どうした? 何をそんなに驚いているんだ」
「……あ」
喉がからからに渇いた。
心臓がどくんどくんと激しい鼓動をくり返し、叫び出しそうだった。
だが、総司はふるふるっと首をふり、両手をのばした。驚く彼に抱きつくと、その広い胸もとに顔をうずめた。
「総司……?」
「……何でも、ないの」
「それが何でもないって態度かよ」
土方の声が少し不機嫌そうになった。総司の細い肩を掴んで引き離し、その瞳をじっと覗き込んでくる。
「どうした? 俺に隠し事はなしだぞ」
「違う…の、ちょっと色んな事を思い出してただけ」
「色んなこと?」
「ほら、今頃だったでしょう? あなたと初めて逢ったのも、その……色んな事があったのも」
誤魔化すためだったのだが、そう云ったとたん、総司は後悔した。
土方の黒い瞳に、さっと悔恨と罪悪感が走ったのだ。
「ち、違うの!」
慌てて叫んだ。
「ぼくはあなたに逢えて幸せだから、あの時も……本気で嫌がった訳じゃなくて、あなたを感じられる事が本当は嬉しくて……っ」
云いつのる総司の唇に、そっと男の指が押しあてられた。
驚いて見上げると、土方は優しく微笑んでくれた。
「わかってるさ、全部わかってる。俺もおまえを愛していたからこそ、あんな事をしたんだ。おまえをどうしても離したくなかった。男のエゴだとわかっていてもな」
「土方さん……」
「もうこの話はやめにしよう。久しぶりに早く帰れたんだ、楽しい夜を過ごそうぜ」
「はい……」
こくりと頷き、総司は土方に寄りそった。
柔らかく肩を抱いてくれる彼が愛しく、心の中がふんわりとあたたかくなる。
だが、その優しい恋人の腕の中、総司はふり返らずにはいられなかった。
そっと──後ろを。
それから数日後の事だった。
土方が非番であり、自分も大学が休講である午後、総司は一生懸命ケーキを作っていた。
クリスマスの日の練習なのだ。毎年、何だかんだと家では祝えなかったので、今年こそ自宅でクリスマスイヴを過ごしたかった。
そのため、今年、総司はクリスマスケーキを作る事を決意していた。むろん、あまり甘いものが好きでない土方のため、甘さ控えめのケーキだ。だが、本番で失敗したら何なので、形を変えて練習した。
本番は白桃のケーキにするつもりだが、今日は上に甘酸っぱく煮込んだオレンジの輪切りを乗せた。
それを切り分け運んでゆくと、土方は熱心に何かのニュースを見ていた。
どうやらテロ事件らしい。小規模のものであり怪我人もなかったが、それでも最近こういった事件が頻発していると云われていた。
「土方さん」
そっと声をかけると、土方は驚いたようにふり返った。
トレイを手にして立つ総司に、慌てて手をのばした。
「あぁ、ごめん……全部、運ばせちまったか?」
「ううん。あと、紅茶カップとポットがあるから」
「じゃあ、それは取ってくるよ」
小さなローテーブルの上に、総司はケーキをのせた皿をならべた。土方がポットと紅茶カップをはこんできて、馴れた手つきで注いでくれる。ふわっと甘い香りが部屋の中に広がった。
それを見ながら、総司は訊ねた。
「ね、この頃……お仕事忙しいの?」
「いや、それ程でもねぇよ。何か小さなものが頻発しているが……まぁ、本当は今のうちに突き止めておいた方がいいんだがな」
そう云ったきり、土方は口をつぐんでしまった。
あまり仕事の事は話したくないのだろう。守秘義務の問題もあるし、その上、総司は、あの過激派テロ組織狼火リーダー伊東甲子太郎の弟なのだ。これ以上話すべき事ではなかった。
それを察し、総司はさり気なく話題を変えた。
「あのね、このケーキなんだけど」
フォークでオレンジ部分を突っつきながら、云った。
「なるべく甘さ控えめにしたんです。オレンジの煮込みもあまりお砂糖入れなかったし」
「俺のために?」
土方が僅かに小首をかしげ、訊ねた。
それにこくりと頷くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。総司の肩を抱いて引き寄せ、ちゅっと音をたてて頬にキスしてくれる。
「ありがとう」
「で、でも……もしかしたら、甘いかもしれませんよ。ぼくの味覚の事だし」
「おまえが作ってくれたものなら、何でもうまいよ」
そう云うと、土方はオレンジケーキをフォークで綺麗に切り取った。一口食べてから、心から幸せそうに笑った。
「うん、すげぇうまい」
「え、ほんと?」
「あぁ。俺、ケーキとか苦手だが、おまえが作ったものなら食えるな。オレンジの酸味とあってて素朴で、総司らしい優しい味だ」
「嬉しい!」
総司は大喜びで自分もケーキを食べてみた。彼の云うとおり、自分でもなかなかの味だ。
満足そうに微笑んだ。
それに、土方も優しく微笑み返してくれる。
幸せだなぁと思った。
愛する人とこんなふうに幸せな時を過ごせるなんて、まるで夢のようだった。
(……どうか、神様)
思わず、心の中で祈った。
ずっといつまでも、この幸せがつづきますように……。
そう思った総司の気持ちをまるで察したように、土方が柔らかく手をのばしてきた。頬を両掌で包みこまれ、そっと仰向かされる。
うっとりと見上げた総司の唇に、甘いキスが落とされた。
髪に、額に、瞼に、頬に。
そして、また唇に甘い甘いキス───
「……甘酸っぱいな」
唇を離すと、土方はくすっと笑った。その腕の中、総司は小さく笑う。
「だって……オレンジケーキの味ですよ」
「そうだな」
くすくす笑いながら何度もキスをかわした。当然のことながら、それだけでは済まなくなってくる。
ラグマットへゆっくりと押し倒された総司は、慌てて男の胸に両手を突っぱねた。
「だ、だめ……!」
「何で」
行為を中断されたちまち不機嫌そうな表情になった土方に、総司はふるふるっと首をふった。
「だから、駄目。ここじゃ……」
「ここでなきゃいいのか?」
「……ベッド…なら……」
恥ずかしそうに男の胸もとに顔をうずめた、小さな声で囁いた総司に、土方は思わず喉奥で笑った。
本当に、可愛くて可愛くてたまらない。
食べてしまいたくらい可愛いというのは、こういう事を云うのだろう。
「……お望みのままに」
そう囁きざま、土方はそっと総司の華奢な躯を両腕に抱きあげた。ふわりと柔らかな髪が揺れ、そのまま頭が男の肩口に押しつけられる。
胸に、腕に感じる総司の体温がたまらなく愛しかった。
寝室に入ると、優しくベッドに下ろした。
潤んだ瞳で見上げてくる総司に、ゆっくりとのしかかった。
まずは、甘く濃厚な──キス。
深く唇を重ね、舌を絡めあった。少しずつ少しずつ、互いの体温があがってゆく。
それを感じながら何度も角度をかえて唇を重ね、少年の甘い舌を堪能した。
「ぁ、んっ…ぅ…んんっ……」
やがて、男の唇は首筋に落とされ、そのまま滑らされてゆく。総司が最近お気にいりの淡いピンクのセーターを捲りあげ、白い胸もとに口づけた。
もう苺のように熟れてしまっている乳首にくすりと笑い、舌で舐めあげてやった。とたん、甘い声があがる。
「ぁあんっ…ぁ、んっ」
「可愛いな、おまえのこれは本当に敏感だ」
「やっ…ぁあっ、んっ、あんっ」
「けど、知ってるか? おまえの感じるのはここだけじゃない……」
そう囁きざま、土方は総司のジーンズを下着ごと脱がせた。晒された下肢に手をのばし、腰骨あたりを掌で撫であげる。
びくっと震えるのにも構わず、そのまま腰骨に唇を押しあてた。
「ぁ…やっ、いやっ」
慌てて総司が身を捩り、逃れようとした。
その反応に薄く笑いながら、土方は何度も腰骨をおおう薄い皮膚に口づけた。舌で舐めあげてやると、小さな悲鳴のような声が総司の唇からもれた。
「やぁ、んっ! んんっ、やめ…て…っ」
「どうして? 気持ちいいんだろ?」
「な、なんかこそばくて……変…っ」
「それが快感に変わるのさ」
意地悪く囁き、土方は丹念に舌を這わせた。総司はシーツをぎゅっと握りしめ、ぎゅっと目を閉じている。
だが、やがて、反応が変わってきた。まるで先をねだるように腰を揺らし、艶めかしく喘ぎ始めたのだ。
見れば、総司のものも頭をもたげ、先っぽを濡らしている。指さきで撫であげてやると、とろりと蜜がこぼれた。
「は…あっ、んんっ」
思わず腰を浮かせた総司を宥めるように、優しく握りこんでやった。が、すぐに激しくしごき始める。
蜜で手を濡らし、そのまま上下に動かした。時折、鈴口から先っぽ全体を唇でくわえ込み、舐めまわしてやる。
「ぁあっ、あんっ…ぁあっ、土方…さんぅっ!」
腰骨への愛撫が効いたのか、総司はあっという間に吐精してしまった。男の掌が白い蜜に濡れる。
羞恥に頬を薔薇色に染める少年に、土方はくすっと笑った。優しくキスを落としてやってから、また下肢に手をのばす。
左腕で総司の膝をすくいあげ、大きく押し広げた。
「や…っ!」
思わず閉じようとする総司に、土方は上体を倒し囁いた。
「おまえを傷つけないためだ……」
「あ……土方、さん……」
「いい子だな……総司」
「……っ……」
総司は顔を真っ赤にしながらも、躯の力を抜いた。すらりとした両足が開かれ、男の前に下肢の奥が晒される。
その最奥に、土方は躊躇いなく指さきを滑り込ませた。
「んっ……」
「息をつめるなよ」
そう優しい声で云いながら、土方はまだ固く窄まった蕾へ指を挿し入れた。何か潤滑剤で濡らせてくれたらしく、くちゅっと音が鳴った。
「あ…んっ」
「おまえのココ……もう結構とろけてるぜ?」
「や…そんな、云わないで……っ」
恥ずかしそうに長い睫毛を震わせる総司に、思わず低く笑った。可愛くて可愛くて、たまらない。
瞼に頬に甘いキスを落としながら、ゆっくりと指を動かした。大きく広げるように奥で回してやると、総司が掠れた声をあげて仰け反る。二本目を入れたが、もう何の抵抗もなく簡単に呑み込まれた。
頃合いだろうと見て取り、土方は指を抜くと躯を起こした。己の衣服を脱ぎ捨て、のしかかりながら総司を見下ろす。
昼間の明るい光の中、真っ白なシーツにうもれた少年の肢体は、瑞々しく美しかった。のびやかで華奢で、真っ白なしみ一つない肌が艶めかしい。
それを眺め、土方は目を細めた。
「綺麗だな……」
「え……?」
驚いたように、総司が目を見開いた。それから、すぐに小さく笑う。
「そんな…土方さんの方が、ずっと綺麗」
「そうか?」
「ぼく、いつもあなたの裸を見るたびに思うもの。綺麗な獣みたいだなぁって」
「獰猛な狼が、おまえを食っちまうってか?」
悪戯っぽい瞳でそう云った土方に、総司はくすくす笑いながら両手をのばしてきた。甘えるように誘うように、男の裸の胸に躯をすり寄せる。
「うん……早く食べちゃって」
「あぁ、たっぷりな」
笑いながら答え、土方は総司の躯を不意に反転させた。え?と驚く総司を四つ這いにさせ、下肢を押し広げる。
総司が戸惑いがちに瞳を揺らした。
「後ろ…から?」
「たまにはいいだろ? 本当の獣みたいで」
「うん……」
こくりと頷き、総司は上体を落とした。猫がのびをする時のような体位になる。
しなやかな白い背中にキスを一つだけ落としてから、土方は総司の太腿を後ろから抱え込んだ。
柔らかく解した蕾に己の猛りをあてがい、
「……力を抜けよ」
そう告げざま、ずぶりと一気に貫いた。
「ッ…ぁああッ!」
甲高い悲鳴が部屋に響いた。
強引な交わりに、総司の躯が一瞬突っ張る。
だが、その声に苦痛の色はなかった。
何しろ、先ほども解されてあるし、それに──今朝、二人は交わったばかりなのだ。少年の蕾は驚くほどの柔軟性で、男の猛りを深く咥えこんだ。
「はっ…あっ、っぁあ」
それでも、総司は喘ぎ、ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。両手がぎゅっとシーツを握りしめ、たぐり寄せる。
それを欲望に濡れた瞳で見下ろしながら、土方はゆっくりと腰を引いた。
ずるりと男の太い猛りが抜き出され、だが、次の瞬間、また一気に奥まで穿たれる。
「ひ…ぁああッ!」
また悲鳴があがり、細い腰が跳ねた。が、その悲鳴は途切れる事なく、つづいてゆく。
土方が激しい律動を始めたのだ。総司の太腿を抱え込んだまま、何度も最奥を穿ち、抉ってくる。
そのたびに、総司は甘い悲鳴をあげた。
「はッぁ、ぁあッ」
「……すげぇ締まるっ……おまえもいいんだろ? ほら…っ」
「ひッ、ぁ…ぁ、やぁあッ」
激しい抽挿のたび、淫らな音が鳴った。その音がまた刺激になる。
透明な唾液が、唇の端からシーツに滴り落ちた。
総司のものもシーツに擦れ、濡らしてゆく。思わず自分でふれようとしたが、その手を乱暴に払われ、男の大きな掌に包み込まれた。
「や…も、だ、めぇ…ッ」
「いきたいなら、いっちまえ」
「ッ、んっ、いっちゃ…ぅ…っ」
白い背が仰け反った瞬間、総司のものは二度目の吐精を迎えていた。思わずシーツの波に倒れこんでしまう。
だが、すぐさま腰を高くあげさせれ、男の猛りで最奥を深く抉られた。
「ぁあっ…い、やっ…おかしくな…ッ」
思わず上へ逃れようとしたが、両腿を男の腕に抱え込まれた状態ではどうしようもない。後はもう、激しく揺さぶられるままだった。
部屋に響く男の息使いが荒くなってゆく。
「っ…は、ぁ……っ」
「やっ…ぁあッ、ぁあ、あッ」
総司はシーツに顔を押しつけ、泣きじゃくった。目の前が何度も真っ白にスパークする。
それでも、男の動きはとまらなかった。それどころか、より激しく容赦ないものになってゆく。
蕾の奥まで男の猛りが抉り込み、ぐちゅぐちゅ掻き回し、鋭く突きあげた。強烈な快感美に、腰奥がどろどろに蕩けてしまいそうになる。
総司は声も限りに泣きわめき、許しを乞うた。
「ぁ、も…許しっ…ぁ、ぁあ…ッ」
「…くっ……総司……っ」
「ひ…ィ、ぁああ──ッ!」
総司が激しく仰け反った瞬間、蕾の奥に男の熱が叩きつけられた。甘く淫らに腰奥を痺れさせてゆく。
それを感じながら、総司は目を閉じた。喘ぎながら、シーツの波に倒れ込む。
「……総司……愛してる」
快楽に痺れた少年の躯を、男の力強い腕がきつく抱きすくめた……。
「……すまない」
土方はネクタイを締めながら、本当にすまなそうに云った。
それに総司は小さく笑ってみせた。二人ともシャワーを浴びたところなので、髪がしっとりと濡れている。
セックスの後、そのままベッドで戯れていた二人だったが、緊急の電話がかかってきたのだ。事件が起きたための呼び出しだった。非番中の土方まで呼びだされるぐらいだから、余程大きな事件なのだろう。
総司はその濡れた彼の黒髪を指さきでかきあげ、澄んだ声で云った。
「いいんです。お仕事だもの、仕方ありませんよ」
「本当にすまない。この埋め合わせは必ずするから」
「そんな……気にしないで」
総司は目を伏せ、そっと男の躯に両腕をまわした。もうスーツを着込んでいる彼にぎゅっと抱きつき、その胸もとに頬を寄せた。
「それより、気をつけてね。怪我とかしないで」
「あぁ」
土方は頷き、総司の躯を優しく抱きしめてくれた。顔をあげた少年の額に甘いキスを落とした。
「じゃあ……行ってくるよ」
「うん」
こくりと頷いた総司に微笑みかけてから、土方はコートを取り上げた。袖に腕を通しながら、玄関へと歩いてゆく。
ふわりと黒いコートが広がり、本当に絵になるなぁと思わず見惚れた。
そんな総司に気づかぬまま、土方は玄関口でふり返ると、もう一度だけ甘いキスを落とした。
「……なるべく早く帰ってくるよ」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「あぁ、いってくる」
まだまだ新婚カップルのようなキスをかわし、土方は扉を開けて部屋を出て行った。
総司は小さくため息をついてから、くるりと身をひるがえした。いつものようにリビングの窓に寄ると、下を見下ろす。
やがて、土方が出てくると、こちらを見上げた彼に手をふった。笑顔で手をふり返してくれる優しさが嬉しい。
官舎の門を出て駅へと向かう土方の姿が視界から消えると、総司はまたため息をついた。
あんなふうに彼を送り出しはしたが、やはり淋しいことは淋しいのだ。
「……せっかくのお休みだったのに」
ちょっと唇を尖らせて呟いたが、いつまでもそうしていても仕方がなかった。自分でも彼に云ったとおり、仕事では仕方ないのだ。
今夜は帰ってきてくれないかもしれないが、でも、もしかすると帰ってきてくれるかもしれない。
疲れて帰ってくるだろう彼のためにも、腕によりをかけてご馳走を作ろうと思った。
「何を作ろうかなぁ」
あれこれ考えながらキッチンへ入り、冷蔵庫を開けた。
その時だった。
また電話のベルが鳴った。それに、総司はふり返り、小首をかしげた。
「土方さんかな? 忘れ物?」
ぱたぱたとスリッパの音をたてて走り寄った。
受話器を取り上げ、耳に押しつけた。
「はい……土方です」
未だに気恥ずかしいが、総司は彼に云われそう名乗っていた。
ちょっと小さな声で答えてしまう。
だが、受話器の向こうから返事は返らなかった。沈黙だけが満ちている。
「……?」
総司は眉を顰めた。
悪戯電話なのだろうか。
「……あの?」
おずおずと問いかけた。
「どちらさまですか……?」
その瞬間、だった。
静かな声が呼んだのだ。
受話器の向こうから。
『……総司』
「!」
その瞬間、総司は大きく目を見開いていた。
思わず受話器を落としそうになる。声さえ出なかった。
(……う…そ……)
忘れていない。
忘れられるはずがない声だった。
穏やかで優しい、だが、どこか冷たさと危うさを孕んだ声。
彼独特の、呼び方。
それは───
「……兄…さん……っ」
そう、呻くように呼んだ総司の耳に。
低く嗤う、兄──伊東の声が悪夢のように響いた……。
[あとがき]
このお話は、今後、テロ事件が主体となって進みます。今更申し上げるまでもないですが、完全なフィクションです。それをご了承の上、自己責任において読む読まないの判断をお願い申し上げます。これまた今更ですが、読後の苦情は一切お断りとさせて頂いております。
以上の事は、いつも読んで下さる大人の女性の方々には、当然の事ばかりで本当に申し訳ありません。最近、18才未満の入室が多く見受けられますため、念のため明記させて頂きました。
