「? どうした?」
 土方が不思議そうに小首をかしげた。
 その黒い瞳が総司を見つめ、僅かに眉を顰めている。
 それに、総司は今まで随分長い間ぼーっと彼を見ていた事に気づき、慌ててふるふるっと首をふった。
「う、ううん。何でもない」
「何でもないって顔じゃねぇけどな。云いたい事があるなら、云えよ」
「だから、何でもありませんってば」
「なら、いいけどな」
 土方は肩をすくめ、マグカップを取りあげた。男にしては長い睫毛を伏せ、珈琲を飲む。
 朝食をつづけながら、時折、ちらりと左手首に嵌めた腕時計を確かめて。そんなさりげない仕草一つにさえ、男の艶があふれていた。
 出勤前なので、まっ白な糊のきいたカッターシャツに、タイトに締めたネクタイ、スーツのボトム姿だ。よくあるビジネスマンの格好なのだが、彼が纏うと、まるでグラビア雑誌の1ページのようになるから不思議だった。

(当然だよね。だって、この人、もとモデルなんだもの。それも超人気のあった……)

 総司は、オレンジマーマレードをトーストにぺたぺた塗りながら、思った。
 先日の事を思いだしてしまい、無意識のうちにバターナイフを握る手にぎゅうぅっと力がこもってしまう。
 だが、それに土方は気づかなかったようだ。珈琲を飲み終わると立ちあがり、椅子に掛けていたスーツの上着に腕を通した。
「じゃあ、行ってくるな」
「いってらっしゃい」
 総司はいつもどおり玄関まで送ると、新妻よろしく抱っこしていた鞄をさし出した。それを受け取りながら、土方がちゅっと甘いキスを落としてくる。
「少しでも早く帰ってくるから、おまえも今日はゆっくりしてろよ」
「え……?」
「やっぱり、何か変だぞ。熱でもあるかもしれねぇし、休んでろ」
「え、あ……はい」
 素直にこくりと頷いた総司に、土方は微笑んだ。優しく頬を手のひらで包みこまれ、思わず猫のようにすりすりっと甘えてしまう。
 土方の切れの長い目が愛おしげに細められた。
「……いい子だ」
 甘く低い声が囁き、総司の細い腰を抱き寄せた。深く唇を重ねてくる。
 濃厚で甘ったるいキスに思わず本気になりかけたとたん、そっと引き離された。見上げた総司を、悪戯っぽい瞳が覗き込んだ。
「おあずけだ」
「え……?」
「つづきは、帰ってからな」
「! もう……っ」
 耳朶まで真っ赤にして「早く行って下さい!」と叫んだ総司に、土方は笑い声をあげた。楽しそうにくっくっと喉を鳴らしながら、出かけてゆく。
 ぱたんと閉じられた扉を見つめ、総司はため息をついた。

(……人の気も知らないで……)

 そう、土方は何も気づいてないのだ。
 彼の過去を、総司が知ってしまったことも。
 それによって、総司がどう感じたかという事も何もかも。
「……」
 総司はもう一度、はぁっとため息をつくと、踵を返した。
 そして、先日の信子との会話を思い出しながら、リビングへと戻っていったのだった……。








 土方のグラビア写真に呆然となっている総司に、信子は楽しそうにコロコロ笑った。
 こういう悪戯好きなところは、この姉弟よく似ている。
「びっくりした?」
 満面の笑みをうかべ、総司の顔を覗き込んできた。
「……だって、これ……」
「そ。まだ二十才だった頃の歳。大学二年ぐらいかしら?」
「あ……」
 そう云われ、総司はあらためて写真を見直した。
 確かに今の彼とくらべると、どこか線が細い。今の総司ともあまり年齢差がない頃だろう。
 もっとも、土方と総司の場合、その体格に歴然たる差があったのだが。
「モデルのバイトをしていたのよ。もともと、うちの関連会社のキャンペーンで目をつけられたのが始まりで、歳も面白半分にやり始めたんだけど、それがあれよあれよと云う間に人気が出ちゃって、あっという間に人気モデルよ」
「土方さんが二十歳ってことは、ぼく……小学生ですよね。あの頃、テレビとかも全然見なかったから……」
「それじゃ知らないの当然よ。でも、すごい人気だったのよ。もう大学でも女の子たちに追い回されてね。結局、その騒ぎにうんざりしちゃって、モデルやめたんだけど。あのままいってたら、刑事とかじゃなくモデルを本職にしてたかも」
「そうだったんですか……」
 総司は、また別の雑誌を取り上げ、ぱらりとめくった。
 すると、土方を撮った写真が幾つか現れる。
 一番、印象的だったのは、モノクロで、こちらをまっすぐ射抜くような視線で見つめている写真だった。
 挑戦的で鋭い瞳に、どきりと心臓が跳ねてしまう。
 額に乱れた黒髪が男の色気を感じさせ、黒いシャツから覗く鎖骨や逞しい胸もとに、それ以上のことを知ってる総司でさえ、どきどきした。
「やめる時もさんざんもめたのよ」
 信子は雑誌をぱらぱら捲りながら、云った。
「もうバイトじゃなく、プロにって云われたからね。でも、結局、うちの人が出て、義弟に一生モデルさせるつもりはないって、鶴の一声。もともとバイトの時、歳が佐藤彦五郎の義弟だなんて、周囲は全然知らなかったからね。そりゃ無理でしょうって、あっという間に静まった訳。で、これが……」
 あるページを開くと、信子はそれを総司にさし出した。
「総ちゃんの云ってた透音さんでしょう?」
「あ」
 総司は思わず声をあげた。
 確かに、そこには透音の写真があった。数年前のためか、ちょっとボーイッシュで、華奢な感じが強い体つきをしている彼女の写真が。
 だが、それは───
「……」
 雑誌を掴む手に、ぐぐっと力がこもってしまった。
 それはよりにもよって、土方が、透音を後ろから抱きしめている写真だったのだ。
 男の腕の中、ほっそりした躯が少し仰け反り、視線をからめあわせている。
 小さな笑みをうかべた唇。
 それに、キスでもしようとしているのか、土方が微笑みながら顔をかたむけている処だった。
 見事なほど似合いの、美しいと云ってもよい、恋人同士の一枚だ。
「……総ちゃん?」
 あまりに長いこと凝視している総司に、信子もさすがに気がついた。
 総司の表情と写真を見比べると、小さく苦笑する。
「ちょっと、総ちゃん、もしかして妬いてるの?」
「……え、あ…その……」
「これは商売用のポーズ。二人のプライベート写真じゃないんだから、全然気にする事なんかないのよ」
「……」
 わかってる。
 商業雑誌に載っている写真なのだ。ドラマで俳優がキスシーンを演じるようなものなのだろう。
 だが、それでも嫌だった。不安だった。
 この写真の裏で、どんな事があったのだろう?
 二人は、本当に仕事上でだけのつきあいだったのだろうか。
 そんな事を様々に考えてしまい、そのくせ、色々憶測してしまう自分が本当に嫌で。
 総司は複雑な想いを抱えたまま、きゅっと唇を噛みしめた。
 そして、ちょっと躊躇いつつも云った。
「信子さん、教えてもらえませんか?」
「え?」
 突然、めちゃくちゃ真剣な様子で訊ねてきた総司に、信子は目を見開いた。
「何を……?」
「土方さんと、この透音という人のことです。二人は、その……恋人同士だったのですか?」
 正直な話、土方に恋人がたくさんいた事は知っていた。彼自身も隠すことなく、話してくれたのだ。
 だが、なのに、土方は透音と会った時、総司に紹介さえしようとしなかった。それはモデルをやっていた事を知られたくなかったからかもしれないが、それ以外にも理由がある気がしたのだ。
「うちの歳と、透音さんが?」
 信子は小首をかしげた。ぱらぱらと雑誌をめくりながら、呟く。
「そんな話、聞いた事なかったわねぇ。家にも連れてきたことないし、それにあれよ。業界じゃ、逆にすごく噂だったらしいから」
「噂……?」
「犬猿の仲だって」
「嘘でしょう!?」
 総司は思わず叫んでしまった。
 先ほどの写真以外にも、二人のツーショット写真が沢山あったのだ。そのどれもが、二人身を寄せあったり、抱きあったりしているものばかりだった。
 まるで本当の恋人同士のように、朝の光の中、苺を食べさせあっている写真まであった。
「こんな仲良さそうなのに? だって、どれ見ても……っ」
「だから、総ちゃん、それはお仕事の話だって。あの二人すっごく仲が悪くて、顔をあわせば喧嘩ばっかりだったらしいわよ」
 それに、しばらくの間、総司はじーっと押し黙っていた。
 だが、突然、顔をあげると、信子をその大きな瞳でまっすぐ見つめた。
「信子さん」
 妙に気迫のこもった声音で、総司は云った。
 それに、信子も思わず顔をひきつらせてしまう。
「な、なぁに?」
「こんな言葉があるの、ご存知ですよね?」
「え……?」
「……喧嘩する程、仲がいい」
 その声が、不気味なほど部屋に大きく響いた。
 重苦しい沈黙が落ちる。
 だが、それを破ったのは総司だった。絶句している信子の前で、もの凄い勢いで立ち上がる。
 ぺこりと頭を下げた。
「どうも、ご馳走さまでした!」
「え、あ……総ちゃん」
「今日はこれで失礼させて頂きます」
 そう云った総司は、信子が呼びとめる間もなく、さっさと部屋を出ていってしまった。
 信子は慌てて内線電話をとりあげると、執事に総司を車で送るよう云いつけた。
「……うーん、見せたのまずかったかしら」
 電話を置いた信子は、小さくため息をついた。
 ちょっと肩をすくめた。
「総ちゃんと喧嘩になったら、歳に怒られちゃうかも」
 そう呟いてから、不意に、ぽんっと両手を打ちあわせた。
「あ、でも、総ちゃんも云ってたものね。喧嘩するほど仲がいいって♪ おっけーおっけー」
 あっさりと一人納得すると、信子は雑誌をさっさと片付けはじめた。
 結局のところ。
 こういうGoing My Way!なとこは、どこまでも似たもの姉弟なのであった……。





 さて、総司は数日間悩んだ挙げ句、ようやく結論を出した。

(……あれこれ悩むのはやめよう)

 つまり、何もかも忘却の彼方へ追いやる事にしたのだ。
 テレビをつければ、透音がいやおうなく映るが、それでも土方の前では知らぬ顔で振る舞おうと決心した。
 今さら、過去のことをあれこれ云っても仕方がないのだ。
 そこまで考えた総司は、ちょっとだけ唇を尖らせた。

(そりゃ、ぼくだって過去の事だけなら、何も云わないよ。気にしない。でも、土方さんの態度が変だから、気になっちゃうんじゃない)
(何でもないなら、過去の事なら、どうして隠したりするの? 知らない顔をするの?)

 忘れると云いつつも、やっぱり、めちゃくちゃ気にしまくってる総司だった。
 それでも、彼の前で透音の話をしないでおこうと思った。口にはもう二度と出さないでおこうと。
 だが、だからなのか。
 総司は妙に無口になってしまった。胸の奥に聞きたいことが山ほどあり、尚かつそれを抑えているため、ついつい言葉少なくなってしまうのだ。
 土方はそれを、総司がレポートや何やらで疲れているせいだと思ったようだった。



「あんまり勉強しすぎるなよ」
 心配そうに額に手をあてて熱をはかりながら、土方は云った。僅かに眉を顰めている。
「おまえ、そんなに体丈夫な方じゃねぇんだからさ」
「はい……」
「元気ねぇな。さすがに疲れたんだろ? 勉強疲れって奴か?」
 くすっと笑った土方は身をかがめると、総司の頬に優しくキスしてくれた。柔らかな唇の感触が、とても心地よい。
 思わず総司は両手をのばすと、土方の首をかき抱いた。甘えたな仔猫のように身をすり寄せる。
「何だ、今度は甘えたくなったのか?」
 からかうような口調で云いながら、ひどく嬉しそうだ。
 そんな彼の首筋に、ちょっと唇を押しあてて───
「……いたっ」
 慌てて土方が総司を引き離した。それに、総司の方が驚いてしまう。
「あ……ごめんなさい、ぼく……」
「ったく、噛みつくことねぇだろうが」
 土方はちょっと顔をしかめ、首筋を掌でさすった。
 だが、まったく無意識の行為だったのだ。もしかすると、黙っている事がストレスになっているのかもしれなかった。
 何だか自分の未熟さを見せつけられた気がして、総司は俯いてしまった。小さな小さな声で云う。
「本当に……ごめんなさい」
「そんな何度も謝るなって。ちょっと痛かっただけだ」
 土方は喉を鳴らして笑い、総司を再び抱きよせてくれた。
 珍しく早く帰ることができた金曜日の夜。
 もう夜の12時をまわっているのだが、先ほどから、二人はソファの上で抱きあったりキスをしたりとくり返している。
 風呂から上がった後、暖房をきかせまくった上で、じゃれついているのだ。
 この後、ベッドへ行き色々と致すのはもちろんの事だが、こうして抱擁とキスをくり返す一時も、同じぐらい二人は好んでいた。
「あのさ、総司」
 土方はかるく小首をかしげるようにして、総司の顔を覗き込んだ。そんな恋人の仕草一つにも、どきどきしてしまう。
 男の端正な顔をぼーっと見上げながら、しみじみ思った。

(ぼくって……いつまでたっても、この人に見惚れちゃうんだ。でも、仕方ないよね。こんなに格好よくて、すっごく魅力的な人なんだから。街を歩いても女の人が皆ふり返るぐらいの……)

 そこまで考えた瞬間、むっとしてしまった。
 またもや、胸奥に仕舞い込んだ色々がむくむくっと起き上がってきたのだ。
 思わず総司は土方の腕を抱えこむと、小さく口を開けた。まるで吸血鬼のごとく、かっぷり噛みつきそうになる。
「…………」
 だが、寸前のところで、はっと我に返った。
 慌てて顔をあげると、土方は眉を顰めつつ思いっきり不審そうに見下ろしている。
「え、えーと……」
「おまえ、今また噛みつこうとしただろ」
「あ、え? そうだった…ですか」
 もごもごと口の中で呟いた総司に、土方ははぁっとため息をついた。総司の細い躯を抱き寄せ、ぽんぽんっと背を掌で叩いてくれる。
「かなり疲れてるんだな。けど、それならちょうどいい気分転換になるかもしれねぇが……」
「え?」
「いや、あのさ……旅行するんだ、総司」
「旅行?」
 思いがけない言葉に、総司は目を丸くした。それに、土方は苦笑いをうかべる。
「実はさ、来週から、俺、出張なのさ。斉藤と一緒に」
「出張って……どこにですか?」
「ロンドン」
「え」
「イギリスのロンドンだ。出張というか研修というか……十日ぐらい行く予定なんだが」
 総司は思わず俯き、きゅっと唇を噛んでしまった。
 十日も、それもイギリスに。
 この間もずーっと長いこと本部詰めになってて、ようやく帰ってきてくれたのに。なのに、また?
 ううん、わかってる。
 こんなこと思うのは、我が儘だって。ここは、にっこり笑って「いってらっしゃい、頑張ってね」って云わきゃいけないんだって。
 土方さんを困らせるのだけは、絶対にいやだから───
「……土方さん」
 ぱっと顔をあげると、総司は両手を握りしめた。それから、元気よく云った。
「わかりました。その、いってらっしゃい、がんば……」
「おまえも一緒に行くんだよ」
「……は?」
 一瞬、総司は彼の言葉の意味が掴めなかった。
 所謂、「今、なんておっしゃいました?」ってな感じだ。
「??? その……いったい……あの……」
「だから、おまえも一緒にロンドンへ行こうって云ってるんだ。十日といっても、研修は正味……五日ぐらいかな。ま、さっさと切り上げてやるさ」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!……それって、今問題の公費で遊興って……」
「まさか。俺はホテルも飛行機もぜーんぶ自分で手配して支払うさ。警察が用意するホテルとか、最悪なんだぞ〜。幽霊が出るって噂も当然ってぐらい、すげぇオンボロだし。あんな処に泊まれるかってなぁ。公費は現地の研修費用だけだ。」
「でも、ぼくなんか連れていって問題に……」
「ならない。ちゃんと近藤さんにも了解とったからな。総司を十日も一人にしておくのが、防犯上心配だと云ってやったら、結構即答だったぞ。あの人、おまえが警視庁の官舎に住んでるの、全く忘れてるみたいだったし。防犯上心配って、警察の官舎に入る泥棒なんざいる訳ねぇのになぁ」
 そう云いながら楽しそうに笑う土方に、総司は思った。
 この人、けっこう策士だ……と。
 だが、すぐ我に返り、不安そうな表情で訊ねた。
「でも……本当にいいのですか? あとで土方さんが怒られない?」
「俺を? 誰が?」
「そ、それはいないと思いますけど……そうだ。斉藤さんは何て云って」
「あぁ、斉藤か。あいつも一緒になって近藤さんに云ってくれたぜ。総司が心配で、研修にも身が入らないって」
「……そうですか」
 この人たちは、ぼくの事をいったい幾つだと思っているの?
 ぼくはもう大学生なのに!
 小学生じゃないんだから、一人でお留守番ぐらいできるのに!
 と、思いはしたが、総司は口に出しても仕方ないと諦めた。
 斉藤はともかく、土方の総司への甘やかし、過保護ぶりは初めて逢った頃からなのだ。今さら直るはずもない。
「おまえ、もちろん、パスポートもってるだろ?」
「はい」
 こくりと頷いた総司に、土方は微笑んだ。手をのばし、くしゃくしゃっと髪をかき回してくる。
「ロンドンへ行ったら、あちこち回ろうな。まぁ、この季節じゃ今一つだが、それでも見れる処はあるだろう」
「そうですね」
「ホテルはちゃんと幽霊が出ないところにしてやるから。おまえ、恐がりだからな」
「恐がりで悪かったですね」
 つんっと唇を尖らせた総司に、土方はくすくす笑った。悪戯っぽい瞳で覗き込みながら、甘いバードキッスをしてくる。
「そんな怒るなよ」
「だって」
「悪かった。な? 機嫌直せよ」
 そう囁きながら、土方はゆっくりと総司の背中に手をまわした。
 それがある合図だと知っている総司は、まだちょっと拗ねていたが、大きな瞳で彼を見上げた。僅かに躊躇いつつも手をのばし、そっと彼の首をかき抱く。
「……総司、愛してるよ」
 甘いキスを落としてから、土方は柔らかく総司の華奢な躯を抱きあげた。
 それに身を寄せながら、総司は想った。
 こうやって軽々と抱きあげられるたび、すごいなぁと思ってしまうのだ。自分が細い事もあるだろうが、いつも軽々と両腕に総司を抱いてベッドへはこんでしまう土方に、感心する。
 そっとベッドに下ろされると、また甘いキスが落とされた。唇を重ねられ、深く濃厚なキスで酔わされる。
「ん、ぁ……んっ」
 総司は男の首をかき抱いたまま、キスに応えた。もっと……とばかりに躯をくねらせ、色っぽく腰を擦りつける。
 いつもより積極的な総司の様子に、土方は嬉しそうに微笑んだ。気が変らぬうちにとばかり、さっさと総司のパジャマを脱がせてゆく。
 やがて、焦茶色のシーツの上に、白い裸身が横たえられた。
 こっくりとした濃いブラウンと、まっ白な肌のコントラストが、何とも美しく艶めかしい。のびやかな手足、しみ一つない美しい雪肌、確かに少年のものであるのに何処か中性的なイメージを与える綺麗な躯───
「……綺麗だ」
 思わず、うっとりと呟いた土方に、総司は恥ずかしそうに身を捩った。潤みはじめた瞳で彼を見上げる。
「ぼくばっかり見てずるい……土方さんも、早く……」
「あぁ」
 土方はくすっと笑い、己のパジャマの釦に手をかけた。とたん、総司が身を起こし、手をのばしてきた。細い指さきで彼の釦を外してくる。
 露にされてゆく褐色の肌、男の逞しい胸に、総司は頬を紅潮させた。
 思わず唇を寄せ、吸いあげる。
「……総司」
 驚いたように、土方が恋人の名を呼んだ。それに一瞬だけ見上げ、総司は愛撫をつづけた。
 もっと積極的になりたいと思ったのだ。
 どうしても、頭の片隅には、あの透音の姿がある。いくらあがいても、自分が男である限り叶うはずもない、美しい女性。
 なら、ほんの少しでも、彼に尽くしたかった。
 彼が喜んでくれる事、彼が嬉しいと思ってくれる事。それを全部してあげたかった。
 とてもずるい考え方だが、その事で、土方が自分をもっと愛してくれたなら───

(……もっと?)

 総司はふと思った。
 もっと、愛して欲しいと?
 これ以上、彼の愛を求めたいと?
 そう、願っている。求めている。
 でも、その資格が自分にはあるのだろうか。少年である自分に。
 本当は、この人の傍にいるべきなのは、透音のような……。
「……っ」
 思わず総司は両手をのばすと、土方の躯にきつく抱きついた。ぎゅっとしがみつき、その胸もとに顔をうずめる。
 あたたかな素肌がふれあい、それがたまらなく心地よかった。
 確かに、ここにいてくれる彼。
 傍に自分をおいてくれる彼。
 それは、いつまでの事か、わからないけれど───

(……土方さん……)

 総司は彼の胸もとに頬をすり寄せると、固く瞼を閉ざしたのだった……。







 




つづく 











[あとがき]
 今回はあまり進展なしですが、伏線だけはまぁ色々と。次回は、のっけからお褥シーンになります。苦手な方はその辺りだけスルーしてやって下さいね。


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