「……出発、明後日でしたっけ」
「あぁ」
 土方は僅かに目を伏せた。
「しばらくここを離れたいんだ……携帯電話を解約してしまえば、総司との縁も切れる。俺の事など、あいつもすぐ忘れ去るだろう」
 自嘲するような口調で呟いた彼に、斉藤は何も云わなかった。
 しばらく押し黙っていたが、煙草の火を消し、僅かに小首をかしげる。
「今回の休暇、近藤さん、あっさり了承してくれたんですね」
「まぁ、ここのところ全く休みなしだったからな」
「でも、おそらく……もう一つの方は無理だと思いますよ」
「もう一つ?」
 聞き返した土方を、斉藤は鳶色の瞳でじっと見据えた。
「あなたの異動の件です」
「……なるほど」
 土方は俯き、微かな笑みを口許に刻んだ。それは冷たくもあたたかくもない、投げやりな笑みだった。
「東京以外なら、どこでもいいんだけどな」
「総司の傍から離れられるなら……ですか」
「……」
 斉藤の言葉に、土方はもう何も答えなかった。壁に背を凭せかけたまま、二本目の煙草に火をつけようとしている。
 彼の手もとで閃く炎を、斉藤は見つめた。


 一瞬の焔。


 それはまるで、恋のようだった。
 ゆらりと揺れた焔は、儚くも消えてしまう。ならば、彼らの恋も同じように消えてしまうのだろうか。
 いや、消えてしまうのではない。
 土方自身が己の手で消し去ろうとしているのだ。その身の内に、苦痛も慟哭も絶望も何もかも呑み込んだまま……


「……土方さん」
 思わず呼びかけていた。それに、土方が顔をあげ、切れの長い目がこちらを見る。
 黒い瞳に何の感情も浮かんでいないのを眺めながら、斉藤は云った。
「総司が、大学の助教授と親しくなってるそうですね」
 その言葉に、一瞬、土方の瞳が揺れた。が、すぐさまそれは隠すように、伏せられてしまう。
 僅かに掠れた声が答えた。
「……らしいな」
「この間、総司と逢った時に、聞かされましたよ」
 揶揄するような口調でありながら、斉藤の表情は真剣だ。
「年上のきれいな独身女性みたいで。大学でも少し噂になってるみたいですね」
「……」
「もしも……」
 斉藤はゆっくりと言葉をつづけた。
「総司がその女性と結婚でもしたら、あなたはどうするつもりなのですか」
「……」
 その問いかけに、土方は喉奥でくっと嗤い声をたてた。
「……どうするも何も、俺には関係のねぇ話さ」
「土方さん」
「俺はもう総司とは縁を切るんだ。……いや、もともと切れてた縁だった。だから、俺が総司の事でどうこうするなんざありえねぇよ」
「……」
 押し黙る斉藤の前、土方はしなやかな動作で身を起した。煙草の火を消しながら、斉藤の方をふり向いた。
「そろそろ行くか」
「……」
「これ以上さぼってる訳にもいかねぇだろう」
 そう云うと踵を返し、土方はゆっくりと歩き出した。その男の背を、斉藤はきつく唇を噛んだまま見つめた。


 このままでいいはずがない。
 これが、土方も、総司も、幸せになれる道だとは到底思えないのだ。
 二人の手は繋がれているべきであり、たとえそれがどんな茨の道であっても、決して離れてはいけないのだから。
 離れて生きてゆける、二人であるはずがないのに。


 斉藤は両手をぐっと握りしめると、決意を秘めた表情でまっすぐ青空を見上げた。












 総司は随分と長い間、携帯電話を見つめていた。
 昨日、電話をしてすげなく断られてしまった誘い。
 今まであんなふうに断られる事など、なかったのだ。むろん、誘いを断られる時もあったが、それでも優しく謝り、いつも次の約束をきちんとしてくれた。
 なのに、今回は───
「……土方さん」
 総司は携帯電話を握りしめたまま、ころんとベッドに横たわった。もうお風呂あがりでパジャマ姿だ。
 小さな部屋には微かなオイルヒーターの音が響き、あたたかな柔らかい空気をつくり出していた。机の上には大学のノートや本が積まれ、きちんと掃除された部屋の中には可愛らしい花や絵も飾られてある。
 居心地のよい、総司だけの小さなお城だった。
 だが、時々、思うのだ。
 何かが違う──と。
 ここではない何処かに、自分の居場所がある気がした。
 一年前、あのテロに巻き込まれ入院した時も、帰ってきてからずっと違和感がつきまとったのだ。
 手をのばすとない電灯のスイッチ、玄関の扉の向き。
 寝ぼけまなこで洗面に向ったつもりが、キッチンへ入ってしまった事もあった。


 ぼくは、本当にここで住んでいたの──?


 そんな疑問が頭の中を幾度もよぎった。何よりも体が教えてくれたのだ。
 ここは、おまえがいるべき場所ではないのだよ、と。
 だが、だからといって、どこへ行ける訳でもなかった。ましてや、どこへ行けばいいのかなど、全くわからなかった。
 そして、そんな戸惑いの中で暮らしてゆくうちに、土方と出逢ったのだ。
 初めて逢ったばかりなのに、彼の腕の中はとても懐かしかった。やっと帰る場所に戻ってこれたのだと、そう心から思った。
 そして、その懐かしさは間違いではなかった。
 自分が覚えていない記憶の中で、彼と出逢っていた。きっと、彼は自分にとって大切な存在なのだ。
 だからこそ、総司は平助にもう逢わない方がいいと警告されても尚、逢いたかった。逢って、そして、確かめたかった。自分の感覚を、自分の想いを。
「……もう一度かけてみようかな」
 総司は身を起すと、携帯電話を開いた。
 少し躊躇いがちに指で画面を撫でてから、登録してある彼の電話番号を呼び出す。
 だが。
「……え?」
 総司の目が大きく瞠られた。
 聞こえてきたのは、彼の優しい声ではなかった。
 今の総司にとっては、まるで死刑宣告とも云えるような残酷な音声。


『お客様がおかけになった電話は、ただ今使われておりません───』


「う…そ……っ」
 総司は両手でぎゅっと携帯電話を握りしめた。もしかしてかけ間違えてしまったのかと、慌てて電話番号を入れ直してみる。だが、何度やっても同じことだった。
 彼は二人を繋いでいた細い細い糸を、自らの手で断ちきったのだ。
 もう二度と、自分に逢わないつもりなのだ。


『おまえに逢う事を、おまえと親しくなってゆく事を、土方さんはきっと望んでいない』


 昨日、平助に云われた言葉が耳奥に蘇った。
 あれは真実だった。彼は自分を拒絶し、どこか遠くへ去ってしまったのだ。
 総司の手のとどかない、どこかへ。
「……土方…さん……っ」
 総司はベッドの上に呆然と坐り込んだ。
 彼ともう逢えないと思うだけで、胸奥を錐で貫かれたような鋭い痛みを覚えた。それはいつまでたっても消えず、じくじくと疼き、やがては総司の身も心も浸食していく。
 それを痛いほど感じながら、総司はある事を悟った。


 ずっと、彼に対する自分の気持ちが何なのか、わかっていなかった。
 彼と一緒にいたいと心から願うこと。
 彼に逢えた時は嬉しくてたまらなくて、夢のように幸せで。
 それが意味するのは───


「……そっか」
 総司はぽつりと呟いた。
「ぼく……あの人に恋してたんだ」
 今頃、わかるなんて遅すぎた。そんな自分に、笑いだしたくなる。

(捨てられた今になって、あの人が好きだったとわかるなんて……)

 だが、恋とはそんなものかもしれなかった。失って初めて、人はその存在の大切さに気づかされるのだ。
 どんなに好きだったか、愛していたのかを。
「……」
 総司はのろのろと携帯電話を枕もとに置いた。ベッドにころんと寝転がると、目を閉じる。
 あまりの喪失感と悲しみに、もう何も考えたくなかった。だが、次の瞬間、電子音が鳴り響く。
「えっ」
 総司は慌てて身をおこすと、携帯電話を掴みとった。
 もしかして!
 もしかして……土方さん?
 そんな淡い期待に胸をふくらませながら、総司は画面を見た。とたん、別の意味で目を見開く。
「……斉藤、さん?」
 彼が電話をかけてくるなど、とても珍しい事だった。
 訝しく思いながら、総司は通話ボタンを押した。携帯電話を耳に押しあてると、確かに斉藤の声が聞こえてくる。
 そして、その話は。
「え……」
 総司は携帯電話を握りしめたまま、息を呑んだ……。











 新宿駅は朝の10時を過ぎても混雑していた。
 ちょうど電車が到着した処なのだろう。続々と降りてくる人々を避けるように歩きながら、土方はため息をついた。
 いつものスーツ姿ではない。
 深みのあるブラウンのセーターに、ジーンズ、ウエストシェイプのハーフコートという出で立ちだった。シンプルな格好だが、均整のとれた長身である彼が纏うと、誰もがふり返らずにはいられない華やかさがある。
 今も、時刻表を見上げながら佇む彼を、通り過ぎる女性たちのほとんどがふり返っていった。
 さらりと整えられた艶やかな黒髪と、きれいな黒い瞳が、柔らかなクリーム色のコートによく映えていた。まるで、そこだけ色彩が違うような艶やかさだ。
 一年前と比べれば少し痩せたのだが、その事がかえって彼の端正な顔だちを研ぎ澄ませ、儚げと云ってもよい憂いをあたえていた。女性たちの視線を虜にするのも、当然の立ち姿だ。
 もっとも、土方自身は、周囲からの視線などまったく気にもとめていなかった。時刻表で列車の発車時刻を確かめた彼は、常に人々の視線をあつめてきた者特有のしなやかな動作で、ゆっくりと歩き出そうとした。
 だが、その歩みはすぐさま止まった。その目が大きく見開かれる。
「……っ」
 微かな呻きがその唇からもれたが、それは雑踏のざわめきにかき消された。
 呆然と立ちつくす男の前へ、少年はゆっくりと歩みよってきた。そして、彼の前に立つと、にこりと愛らしく微笑んでみせた。
「こんにちは、土方さん」
 それに、土方は呆然とその名を呟いた。
「……総司……」
「どこかへ行くのですか? もしかして旅行?」
 大きな瞳がちらりと彼がもつ大きな鞄へと向けられた。それに、土方はようやく己を取り戻しつつ、黙然と頷いた。
 総司が「ふうん」とかるく小首をかしげる。
 それを見つめながら、土方は固い声音で訊ねた。
「……どうして、ここに?」
「え?」
「だから、どうしてここにいるんだ」
 男の問いかけに、総司は目を見開いてから、くすくすとおかしそうに笑った。
「だって、ここは駅ですよ。ぼくがいてもおかしくないでしょう?」
「それは…おかしくねぇが……」
「ぼくだって電車ぐらい乗ります。ね、それより、土方さんはどこへ行くのですか?」
「長野だ」
「じゃあ、新幹線?」
「いや……ゆっくり行きたいと思って、特急にした」
 そう云ってから。土方はちらりと腕時計に視線を走らせた。それに、総司が歩み寄った。
 手をのばしたかと思うと、そっと彼の腕にふれてくる。驚いて見下ろした土方に、可愛らしく小首をかしげた。
「もうすぐ電車がでるのでしょう? 見送ってもいいですか?」
「あぁ」
 頷いた土方に、総司は「よかった」と小さく笑ってみせた。それに、土方は探るような視線をむけた。


 まったくいつもの総司だが、本当に何も知らないのか。
 携帯電話を解約した事を、まだ知らないのか。
 俺が総司との繋がりを絶とうとしている事を、まだ……?


 疑惑が頭をよぎったが、まさか総司自身に問いかける訳にはいかない。
 土方は仕方なく総司とともにホームへ向った。傍らを歩きながら、総司はいつものように楽しげに話しかけてくる。
 その笑顔を見ているのが、たまらなく辛かった。
 自ら断ちきろうとした糸を、後悔してしまいそうだった。このままでは、ようやく決心したすべてを壊してしまいそうな気がする。
 土方はともすれば暴れ出す己の激情を堪えるため、きつく奥歯を食いしばった。鞄の柄を握りしめる手にも力がこもる。
「旅行、お仕事のためですか?」
 気がつくと、総司が彼を覗き込んでいた。その深く澄んだ瞳に、どこか別の意味あいを見てしまったような気がして、土方は僅かに眉を顰めた。だが、すっと視線をそらしながら、ホームを歩く。
「いや……プライベートだ」
「そうですか。電話でこの間、お仕事忙しいと云ってたけど……旅行だったからなのですか?」
「え、あぁ……そうだ。悪い」
「謝らなくていいですけど」
 総司は小さく笑うと、明るく澄んだ声で云った。
「土方さんもお疲れでしょうしね。いつも、ぼくにつきあわせちゃって申し訳ないと思っていたんです」
「つきあわせるって……」
「だって、そうでしょう?」
 総司は長い睫毛を伏せると、どこか淋しげな笑みをうかべた。長い睫毛が伏せられ、その横顔は息を呑むほど美しく儚い。
「せっかくのお休みとか、お仕事の後に、九つも年下の……こんな子どものぼくにつきあわされて、土方さん、迷惑だったと思うから。今まで全然そういうのわかってなくて、ぼくの我侭でふりまわして……本当にごめんなさ…」
「ちょっと待ってくれ……!」
 土方は強引に総司の言葉を遮った。思わず手をのばし、少年の細い肩を掴んでしまう。
 かるく身をかがめ、その瞳を覗き込んだ。
「俺はそんな、迷惑だとか思っていない。おまえと逢えて楽しいと思った事はあっても、迷惑だなんて一度も」
「だったら……」
 総司は俯いた。ぎゅっと両手を握りしめ、唇を噛みしめる。
 躊躇うように黙ってから、小さな声で云った。
「だったら……どうして、あなたはぼくから逃げるの?」
「え」
 目を瞠った土方の前で、総司はゆっくりと顔をあげた。
 きれいに澄んだ瞳が、強い意志の光をたたえ、まっすぐ彼を見つめていた。白くなめらかな頬がうっすらと紅潮し、その小さな顔は息を呑むほど美しい。
「ぼくといるのが迷惑じゃないって云うなら」
 総司は静かな声でつづけた。
「どうして、あなたはぼくから逃げようとしているのですか?」
 土方は鋭く息を呑んだ。


 何を云われているのか、どういう状況にあるのか、むろんわかっていた。
 総司は、すべて知っているのだ。
 彼が総司の前から姿を消そうと決意した事も何もかも知った上で、今、ここに立っているのだ。


 無言のまま、土方はゆっくりと顔をそむけた。じっと視線をおとし、押し黙っている。
 そんな彼に、総司は云った。
「あなたがぼくの過去に拘りのある人だからですか?」
「総司……」
「はっきり答えて下さい。嘘はもう嫌なの」
 躊躇いのないまっすぐな言葉に、土方も逃げる訳にはいかなかった。低い声で答える。
「そうだ……拘りがある」
「ぼくのあやふやな記憶にも?」
「あぁ」
「だから、逃げてしまおうと思ったのですか? 姿を消してしまえば、全部終われるからって、ぼくを切り捨てたの?」
「それが一番だと思ったんだ」
 彼の形のよい唇から、掠れた声がもれた。
「おまえにとって、俺は不幸にしかならねぇから。だから、おまえの前から姿を消した方がいいと……」
「土方さんは身勝手だ!」
 不意に、総司が叫んだ。
 驚いて視線を戻した土方の前で、総司は頬を怒りに紅潮させていた。両手を握りしめ、叫ぶ。
「それで、あなたは満足かもしれないけど、じゃあ、ぼくはどうなるのです? あなたと一緒にいたいと願っている、このぼくの気持ちはどこへいってしまうの? いきなり、あなたとの繋がりを絶たれたぼくが、どんなに悲しむか、少しでも考えた事がある!?」
「総司……」
「何とも思わない、平気でいられると思っていたのなら、あなたにとって、ぼくはその程度の存在だったんだ。どうでもいい存在だったんだ」
「違う、そんな事あるはずねぇだろう」
「だったら」
「総司」
 不意に、土方が強い声音で呼んだ。それに、はっとして見上げると、彼は昏い決意をたたえた瞳でこちらを見つめている。
「いくら話をしても……無駄だ」
「そんな」
「初めから、俺たちの出逢いは間違っていた。俺とおまえは……逢わない方が良かったんだ」
 土方が静かな声でそう云った時、列車がホームに滑り込んできた。それをちらりと見てから、彼は踵を返した。ゆっくりと乗り口にあがる。
 その背にむかって、総司は叫んだ。
「土方さん……!」
 もう何がどうなってもよかった。プライドとか、恥ずかしいとか、そんなの全然考えられなかった。
 彼を失ってしまう。
 もう二度と逢えなくなってしまう。
 その事への不安と恐怖を感じた昨夜から、躯中が冷たく凍りついていた。このまま心の臓も凍てつき、息絶えてしまうのかとさえ思った。
 それぐらい、この人を求めているのだ。
 彼だけが欲しいと。
 心が、命が、躯が、泣き叫んでいる。
 だから。


「あなたが……好きなの!」


 その声は、土方の胸を貫いた。
 びくりと肩を震わせ、驚いた表情でふり返る。
 目を見開く土方にむかって、総司は思いきり叫んだ。
 鳴り響き始めた発車のベルの中、彼だけを見つめて。
「あなたが好き、だい好きなの! あなたしか、もういらない」
「……総司……」
「あなたを失ったら、ぼくは生きてゆけないの。あなただけを誰よりも……」
 もう涙で、半ば声にならなかった。
 だが、それでも、総司は泣きじゃくりながらも、自分の気持ちすべてを告げた。
「……愛して…るから……!」
「っ!」
 次の瞬間、総司の腕は荒々しく掴まれていた。あっと思った時には男の力強い腕が腰をさらい、乱暴に抱きあげる。
 ふわりと躯が浮き、倒れこむようにして、総司は男の胸もとへと飛び込んだ。
「! 土方さ……っ」
 とたん、発車のベルが鳴り終わり、二人の後ろでドアが閉じられた。
 ゆっくりと走り出してゆく列車。
 離れてゆくホーム。
 通り過ぎてゆく景色。
「……」
 それらすべてを、総司は、愛しい男の腕の中で呆然と見つめていた。


 記憶のない、自分。
 その記憶に関わっている、男。
 知ってはいけないと、今も警告が囁いているけれど。
 でも、この気持ちを偽る事だけは出来ないから。
 この先に、どんな絶望が待っていたとしても。
 たとえ……これが、二人の終わりへの旅であったとしても。


 どこか不安げな表情で見上げた総司を、土方は深く澄んだ黒い瞳で見つめた。
 何を想っているのか、ただ見つめている。
 やがて、静かに身をかがめると、しなやかな指さきで少年の前髪をそっとかきあげた。柔らかなキスを額におとしてくる。
 額に頬に、瞼へ──花びらを降らすような甘いキス。
「土方さん……」、
 総司は彼の名を呼ぶと、つまさき立ちになった。そっと細い両腕で男の首をかき抱き、目を閉じる。
 この世の誰よりも愛しい男を感じて。





 柔らかく抱きよせてくれる彼のぬくもりだけが、先の見えない旅路への道標だった……。
















[あとがき]
 愛の逃避行しちゃいました。今回は電車にしてみました。
 これから、どんどん展開していきます。ラストまで二人だけの世界です。ハッピーエンドまでいきつくには、まだ色々ありますが、おつきあい下さいませね。