翌日も天気がよかった。
 初夏特有の晴れわたった青空だ。
 縁側からそれを見上げた土方は部屋へ戻ると、仕事に取りかかった。
 昔ながらの旧家だが、現代の方がその仕事は多岐にわたり始めている。様々な分野へ手を出していった為、その力は財界に網の目のようにはりめぐらされていた。
 土方は先代を上回る手腕でより富と力を確立させ、巨大化させたのだ。当主となる前はその前途を危ぶまれていたが、今や一族の中に彼の力量を疑ったり逆らったりするものは誰一人いなかった。
 昔の遊び仲間であり、今や大切な右腕となった従弟の斉藤とともに仕事に没頭するうち、いつのまにか昼をまわっていたらしい。
 山崎が遠慮がち襖を開き、声をかけてきた。
「そろそろ、お昼の用意をさせて頂いて宜しいでしょうか」
「……あぁ」
 土方は気づき、顔をあげた。愛用の万年筆を置き、ふり返った。
「もうそんな時間か。すまない、用意してくれ」
「畏まりました」
 立ち上がり、土方はかるくのびをした。傍らの斉藤も少し疲れたような表情をしている。
「悪い。こんを詰めすぎたようだ」
「いえ、構いませんが……おれもちょっと腹がすきました」
「そうだな」
 二人は先日近藤と共に食事をとった部屋へ移ると、運ばれてきた膳を前に食事を始めた。
 斉藤が冷麦の汁に生姜や葱を入れながら、云った。
「……土方さん」
「あぁ」
「あの少年の事ですが……」
 黙って目をあげた土方に、斉藤は言葉をつづけた。
「救出するのはいいのですが、あの少年がこの花雪の里の言い伝えの者だと……本気で信じてるのですか?」
「……」
 土方は何も答えぬまま、視線を落とした。
 箸をすすめながら、じっと何かを考えるように黙り込んでいる。
 それを斉藤は気遣わしげに見つめた。
 幼い頃からのつきあいだが、当主となってからの彼はよくわからないのだ。
 陽気で明るく遊び好きで、旧家の当主になるなど真っ平御免だと放言して憚らない男だった。あまりの放蕩息子ぶりに、先代も頭を悩ませていたのだ。だが、それは先代の死により当主となってから、一変した。
 女遊びなども全くなくなり、仕事に打ち込むようになった。あれほど嫌っていた当主という立場を、皆が驚くほどうまくやってのけたのだ。
 まるで人が変わってしまったようだった。
 その黒い瞳は思慮深い色をうかべ、いつもどこか物憂げな雰囲気を漂わせるようになった。時折、瞬間的に、昔の少年めいた悪戯っぽさを覗かせることもあるが、そんな事は稀だ。
 あまりの変化を理解できず、土方に一番近しい存在である姉の信子に訊ねてみたのだが、返ってきた答えはより斉藤を混乱させるものだった。
『……あの子はね、待ってるのよ』
『待ってるって、いったい何をです』
『定めを待ってるの。だから、そのために今までの自分を捨てたのよ。定めを迎えるためには、変わらなければならなかったから……』
 そう云って、信子はゆったりと微笑んでみせた。
 外へ出ていたとは云っても、やはり、信子も花雪の里の女だ。しかも土方家の長女であり、彼を庇護する立場でもあった。本家や当主の事になると口が重くなり、今のようにはぐらかしてしまう。従弟と云っても分家の斉藤には理解できぬことばかりだった。
 だが、それでも、斉藤は土方の傍にありつづけようと思った。彼が待つ定めが何であれ、これほど切望しているのだ。昔からの友人であり従兄である男の、少しでも助けになればと心から望んでいた。
「……斉藤」
 ようやく土方が重い口を開いたのは、食事後のことだった。
「いいものを見せてやる」
 そう云うと立ち上がり、別室から何かをもってきた。雪色の布に包まれている。
 取り出されたそれを一目見て、斉藤はそれが何かを理解した。鋭く息を呑むと同時に、思わず身を引いてしまった。
「それは……あの言い伝えの刀じゃないですか!」
「そうだ」
 土方は静かに頷いた。
 彼の手の中に、その刀はあった。
 太刀ではない。脇差しだ。
 黒の漆塗りのそれは何処か華奢な印象で、実用一点ばりのものには見えなかった。
「土方家に代々伝わる刀だ。三百年前、男から贈られたこの刀で娘は己を害し、男も娘の命と引き換えにこの刀で自分の首筋を掻き切った……」
「……」
「当主になった時、俺はこの刀を初めて手にとったんだ。その時……」
 云いかけ、不意に口をつぐんだ。
 しばらくの間、その深く澄んだ黒い瞳で刀を見つめていたが、やがて、ふっと苦笑した。
「土方さん?」
「いや……何でもねぇ。とにかく、俺はあの言い伝えが事実あった事なのだと理解した。そして、この土方家を花雪の里を守ってゆこうと思ったんだ」
「……」
「あの少年は恐らく、言い伝えに関係があるのだろう。だが、それでも本人に逢って聞かなければ、何もわからねぇ。だからこそ、おまえにも手助けしてもらい、救出してやろうと思うんだ」
 土方は馴れた手つきですらりと刀を抜いた。
 三百年前、男と娘の血を吸った銀色の刃がぎらりと光る。それを、どこかうっとりしたような瞳で見つめる土方に、斉藤は息を呑んだ。いったい、その感覚がどこから来たのかわからないが、突然、鋭いまでの危機感を覚えたのだ。
 いけないと思った。
 何かが──どこかで歯車が狂い始めたような気がした。
「土方さん」
 思わずそう呼びかけた斉藤に、土方は視線を向けた。じっと見つめ返してから、ふと唇の端をつりあげた。
「何て顔をしている。おまえ……真っ青だぞ」
「……いえ……」
「この刀の気にあてられたか。おまえも里の者だからな」
 くすっと笑い、土方は刀を鞘におさめた。雪色の布で包み込み、ぐるぐると紐で結わえる。
 それを眺めながら、斉藤はとりあえずほっと息をついた。何故だか、あの刀をこれ以上見ていたくなかったのだ。
「それとも、仕事で疲れたか。昼から少し休むといい」
「大丈夫です」
「無理をするな。おまえはまだ大学を出たばかりだ、馴れない仕事なのに日頃よくやってくれている。今日はもういいから、戻って休むといい」
「……わかりました。少し休ませて貰います」
 斉藤は自分の部屋へ向かうため、立ち上がった。
 彼はこの屋敷で起居しているのだ。家族がないため、母方の土方家で育てられた経緯もあって、ここが斉藤の家同然だった。奥の広い一室をあたえられている。
 部屋を横切り、見事な絵が描かれた襖に手をかけた。
 ふと気づき、ふり返る。
 土方はこちらを見ていなかった。
 じっと手元の刀に視線を落としている。
 何かを決意したような、男の表情だった。
 男にしては長い睫毛が頬に翳りをおとし、その形のよい唇は固く引き結ばれていた。
 夏の緑の光景を背景に、息を呑むほど端正な横顔だ。
 美しく、だが──どこか不吉なものを感じさせるその姿に、思わず身震いした。
「……」
 斉藤は目を伏せ、静かに襖を開いた。そして、部屋の外に出ると、小さくため息をもらした……。







 小さな窓から月が覗いていた。
 それを見上げ、総司はそっと息を吐き出した。
 もっとも意識をしなければ、凍ったりはしない。だが、それでも夏だと云うのに、総司の周囲だけはひんやりしていた。
 ……コトン。
 小さな音に、総司は目をあげた。
 こんな真夜中に誰だろう? また、あの芹沢がやって来たのだろうか。
 そう思った瞬間だった。
 ふわりと、目の前に誰かが降り立った。
「!」
 驚き、総司は慌てて立ち上がった。思わず壁に背をつけてしまう。
 まるで突然わいて出たように思えたが、むろん、そうではない。天井板を外して降りたのだ。
「だ、誰……っ」
 声をあげかけた総司に、相手はしっと指を唇にあてた。
「静かに。敵じゃない、むしろ味方だ」
 そう云ってから、若者はちょっと微笑んでみせた。
 すらりとした細身の躯に、黒いTシャツと黒のジーンズを纏っていた。少しつりあがり気味の目がきつい印象をあたえるが、笑うとどこか子供っぽくなる。
 総司はまだ警戒心を解いてなかったが、おずおずと問いかけた。
「……味方? 本当に?」
「あぁ、助けに来たんだ。ここから必ず連れ出してやるよ」
「でも……無理です。そんなの……」
「無理じゃないって」
 斉藤は一つの小さな箱を取り出すと、それを総司の手に握らせた。
「これを隠しもっていてくれ。それ程の威力はないが、爆弾だ」
「え……っ」
「明日、助けに来るから夜12時きっかりにこれを部屋の格子越しに、投げてくれ。きっと騒ぎになるから、その機に乗じて助け出す」
「本当に逃げれますか?」
「あぁ、約束する。あのいやらしい芹沢に一泡ふかせてやろう。この爆弾で大騒ぎする様を考えるだけで、楽しいだろう?」
 そう云った斉藤に、総司は思わず笑った。
 瞳の色が和らぎ、つやつやした桜色の唇が可愛らしい笑みをうかべる。誰もが惹きつけられる可憐さだった。
 その花のような笑顔を見つめ、斉藤はちょっと苦笑した。
「まいった。写真よりずっと綺麗で可愛いんだな……雪の精とはとても思えない」
「そんな……」
 総司はぽっと頬を赤らめたが、すぐに大きな瞳を斉藤にむけた。
「あの……名前を聞いてもいいですか?」
「おれは斉藤。斉藤一だ」
「斉藤さん……それで、あの、もう一つ聞きたいんですけど」
 頷いた斉藤に、総司は訊ねた。
「どうして、私を助けてくれるのです? 見も知らぬあなたが」
「近藤さんに頼まれたんだ」
「あぁ……あの優しそうな人……」
「それに」
 斉藤は戻る用意をしながら云った。今夜は下見と総司への繋ぎで来たのだ、長居は無用だろう。
「おれたちの当主である土方さんに頼まれた」
「!」
 それを聞いた瞬間、総司の目が大きく見開かれた。
 びくんっと躯が震える。
「土方…さん……?」
「あぁ、やっぱりその名に反応するってことは、あんた、花雪の里の言い伝えどおりなんだな。三百年前の出来事の……」
「……」
「あの里はあんたが守ってくれたおかげで、今も美しい姿を保っているよ。で、そこの当主は相変わらず土方家だ。今じゃ莫大な富と力で、財界でも知らぬ者はない程の名家だけどね」
「土方さん……当主……」
 思わず呟いた総司に、斉藤は淡々とした口調で答えた。
 ひらりと天井へ上がりながらの言葉だった。
「現当主は歳三さんだ。土方歳三、それがおれたちの当主だ」
「──」
「じゃあ、明日の夜に」
 すうっと天井板が閉じられ、気配が遠ざかった。
 それを総司はしばらくの間、呆然と見上げていた。
 頭の中がまっ白だった。何も考えられなかった。
 ただ、斉藤が残した言葉だけが、その名前だけが頭の中を激しく巡った。
「歳三…さん……?」
 懐かしい名だった。
 三百年前に失った愛しい男の。誰よりも大切な恋人の。
 そして、雪の契約で定められた己の───
「歳三さん……本当に……?」
 総司は震える声で呟いた。
 どきどきする胸を両手でおさえ、目を閉じた。が、次の瞬間、その喜びに翳りがさした。それはまるで、輝く陽光を重い雲がさっとおおい隠したようだった。
 総司は息を呑み、目を見開いた。
(三百年前、私のせいで、あの人は死んだんだ……)
 もの凄い勢いで記憶と感情が、己の中にあふれ出してきた。それを止める術はなかった。
 三百年前。
 己の弱さ故に、愛しい男を死へ追いやってしまったのだ。
 あの時、いっそ一思いに死ねていたら良かったのに。
 歳三さん、あなたとともに───







 ──三百年前。
 婚儀を前に、歳三は所用のため仕方なく里を離れた。その間、一ヶ月。
 事は起こってしまった。
 以前から総司に心を寄せていた近隣の男が訪ねてきたのだ。総司自身も嫌いでなく、むしろ好意をもっている相手だけに、事はこじれた。
 里の者たちには不義密通しているように見えたらしい。それはむろん誤解だったが、弁明さえ許されなかった。そして、皆が眉を顰める中、総司は不安に揺れる心を抱きながら、歳三の帰りを必死に待ちつづけたのだ。
 しかし、そんなある日の事だった。
 総司は自宅の土間でその男と口論となった。もう自分を諦めて欲しいと告げたのだ。それに男は静かに頷いたが、刀を取り出した。そして、それを自分の腹に突きたてようとしたのだ。
 驚いてとめようとする総司と男はもみあいになり、気がついた時、男の胸から鮮血が迸っていた。呆然とする総司の前で、男は息絶えてしまった。
 絶望した。もう駄目だと思った。
 総司の手は男の鮮血で真っ赤だった。誰がどう見ても、総司の罪とされてしまうだろう。逃れることなど出来なかった。
 あとはもう……無我夢中だった。
 以前歳三から贈られた脇差しを抜き放ち、それで胸を突いた。が、死ねなかった。血だまりの中で、幾時、苦悶しつづけたのか。
 意識が朦朧とし始めた時、帰ってきたのは歳三だった。
「総司!」
 あまりの衝撃に、一瞬、彼は立ち竦んだ。が、すぐに駆け寄ると、総司の躯を狂おしいほどの勢いで抱きあげた。
 驚愕の表情がやがて絶望へ変わる様に、総司は涙をぽろぽろ零した。
「ごめん…なさい……」
 抱きしめる男の腕の中、総司は必死に告げた。
「でも……信じて……私はあなたを、あなただけを愛して……」
「わかった。わかったから、もう話すな!」
 歳三は懸命に手当てをしてくれたが、血はとまらなかった。真っ赤な血とともに総司の命は削り取られていった。
「総司……死なせるものか……っ」
 低く呻いた歳三が、不意に総司の躯を抱きあげた。
 引き止める里の者たちをふり切り、そのまま神社への階段をのぼった。
 己の命を捧げるかわりに、総司を助けてくれと雪の神に祈り、懇願したのだ。
 そして。
 総司が覚醒した瞬間に見た光景は、鮮血にまみれ地に倒れ伏した愛しい男の姿だった───……







「……っ」
 ぎゅっと目を閉じ、総司は身震いした。
 あの時の、あの瞬間の衝撃と絶望、慟哭は今も忘れない。自分があげた切り裂くような悲鳴は、山奥にいつまでも響いていた。
 三百年たった今でも、鮮やかに想い出せる程に。
 歳三の命をかけた願いにより雪の精として蘇ってからも、総司は里を離れなかった。決して里に降りることはなかったが、山奥からじっと里を見守ってきたのだ。
 だが───
「本当にあなたなの……?」
 総司は震える声で呟き、そっと両手で己の躯を抱きしめた。
「歳三さん……あなたなの?」
 ただ同じ名であるだけかもしれなかった。だが、約束された定めではあるのだ。
 もう一度逢えるならと願った。
 あの愛しい男に。
 遠い昔、まだ子供だった自分を抱いて社への階段をのぼった人。
 社の前で愛を想いを告げてくれた永遠の恋人。
 幼い頃、初めて逢った時からだい好きで、恋しくて恋しくてたまらなかった。だから、いつか自分が彼の妻になる定めだと知らされた時、どれほど嬉しかったことか。
 この世の誰よりも愛しい人。
 彼に逢えるなら、他にはもう何も望まない……。
「歳三さん……」
 総司はその名を口にすると、そっと目を閉じた。







 時計の鐘が十二時を打った。
 仰々しい金ぴかの時計が屋敷のどこかで鐘を鳴らす。
 それを確かめ、総司はゆっくりと立ち上がった。懐に仕舞い込んでいた箱を取り出すと、それをじっと見つめた。
 もし斉藤の言葉が間違っていたら、自分ごと吹っ飛んでしまうだろう。だが、他に方法はなかった。
「……」
 総司は格子から手を出すと、それを思いっきり遠くへ投げた。
 とたん、目の前で閃光がひらめいた。もの凄い爆発音がする。だが、音と煙ほどに威力が大きいものではないようだ。格子もゆるぎ一つしなかった。
「何事だ!」
 たちまち屋敷中、大騒ぎになった。
 いくら威力が小さくとも爆発物だ。めらめら燃え上がる焔とそれ以上の煙に、皆、おおわらわになった。煙の向こうで大勢の男たちが走り回り、水だ消火器だと叫んでいる。その煙の中、一人の影がすべるように歩み寄ってきた。
 カチャッと音が鳴り、格子の扉が開けられる。
 戸惑っていると、斉藤の声が低く云った。
「早く。時間がない」
「あ……」
 ぐいっと腕を掴まれ、その部屋から連れ出された。まっ白な煙がたちこめる中を二人して走りぬけたが、誰も総司が逃げ出したのに気づいてないようだった。それどころではないのだろう。
 斉藤は総司をつれて走りながら、云った。
「この廊下の突き当たりに大きな窓がある。そこから飛び降りるんだ」
「え……っ」
 総司は思わず絶句した。ここは二階なのだ。そんな事をすれば、下手すると死んでしまう。
 そう思った総司に、斉藤は笑った。
「大丈夫だ、土方さんが下で車を待機させている。ちゃんと受けとめてくれるさ」
「土方さん…が、来てるのですか?」
「もちろん。さぁ、行って。おれはまだ他に用事があるから」
 そう云うと、斉藤はその窓の方へ総司を押し出した。そのまま背をむけると、また煙の中へと戻っていってしまう。
 思わず躊躇ったが、一刻の猶予もなかった。
 総司はその大きな窓に走り寄ると、両手で押し上げた。ガチャンッと音が鳴り、大きく開いた形で窓がロックされる。
 身をのりだし、下を伺った。
 高い。もし下の石畳にこの身が叩き付けられれば、いくら精霊でも傷は負ってしまうだろう。
 だが、そんな事もう考えていなかった。
 総司の目はただ一つのものだけをとらえていたのだ。
「……」
 下の路上に、車が停まっていた。
 夜目にも美しい光沢のクーペカブリオレだ。エンジンをかけたままなので、低い振動音を闇に響かせている。ハードトップは全開にされてあった。
 その琥珀色のスポーツカーの運転シートには、一人の男が坐っていた。すらりと引き締まった躯に、黒いシャツとブラックジーンズを纏っている。
 ふと頭上の音に気づいたのか、顔をあげた。
「──」
 一瞬、男は大きく目を見開いた。
 が、すぐに綺麗な顔で微笑むと、静かに両手をさしのべた。
 そして、云ったのだ。
 あのよく透る声で。
「……おいで、総司」
「!」
 総司は思わず息をつめた。
 躯中が震え出し、窓枠をつかむ手も細かく震えた。
 あの人だ……!
 間違いない、あの人だ、あの人なんだ……!
 この世の誰よりも愛しい──
「歳三…さん……?」
 掠れた声で子供のように訊ねた総司に、土方は頷いてみせた。
 その黒髪も、黒い瞳も、声も微笑みも。
 みんな、あの時のままで……。
「……」
 総司は窓枠に手をかけたまま、躯をのり出した。
 もう我慢できなかった。
 一刻も早く、彼を傍で感じたかった。
 ようやく再会できた恋人の存在を確かめたかった。
 そして。
 次の瞬間、総司は身を投げたのだった。 
 愛する男の腕の中へ。
 遠い昔から定められた、その運命の真っ只中へ───……













[あとがき]
 ようやく再会できました♪ 救出成功って奴です。いや、アクションものは本当に苦手なので、大目に見てやって下さいませ。また、つづき読んでやって下さいね♪


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