どうして、こんな事になっているのだろう。
総司は、目の前で食事をする男を見ながら、思った。
初め、土方は総司を外へ連れだそうとしたのだ。だが、総司自身、非番ではなく、昼から巡察の予定だった。そのため、総司は土方の部屋に連れてこられ、こうして向かい合って食事をとるはめになっている。
混乱した気持ちのまま食事をしていると、土方がぽつりと云った。
「……すまなかった」
「え?」
「強引に誘った挙句、屯所で食事するはめになってしまったな。埋め合わせはいずれする」
「そ、そんな。私の都合ですから……副長が謝られるような事ではありません」
ぺこりと頭をさげた総司だったが、刺すような視線を感じ、慌てて顔をあげた。とたん、どきりとする。土方は、どこか苦痛を覚えるような表情で眉を顰め、じっと総司を見つめていたのだ。
思わず息をつめていると、土方はゆっくりと視線をそらした。無言のまま食事をつづける。
また重い沈黙が落ちた。
だが、そのままずっと黙っている訳にはいかないのだ。土方がどんな思惑で誘ったのか、知らなければ不安でたまらない。
まさか、ばれたとは思わないのだが。
「……あの」
小さな声で呼びかけた。だが、すぐに彼は気づいたらしく、顔をあげた。
「何だ」
「あの……何か、お話があるのでしょうか」
「……」
「一番隊の事でしょうか。それとも、師範代としての私が何か……」
「誰かつきあっている奴がいるのか」
男の問いかけに、言葉がとぎれた。え? と目を瞬く。
「それは、あの……」
「先日、局長室で話していただろう。縁談を断ったのは、斉藤と念兄弟だからなどと」
「……」
思わず沈黙してしまった。
まさか、そんな話だとは思わなかったのだ。
総司になど全く興味もない土方が、あの場で細かく聞いているはずもいないと思っていた。なのに。
だが、これも副長としての言葉なのだろう。
個人の恋愛ごとに、副長が口をはさむ理由もない。
だが、一番隊組長と三番隊組長が念兄弟となれば、色々と煩い事を云う者も出てくるのかもしれない。
それを不快に思っているのかもしれなかった。
総司はゆるく首をふった。
「違います。斉藤さんと私は……ただの友人です」
「ただの友人か」
「はい」
こくりと頷いてみせた総司だったが、土方はまるで信じていないようだった。
「なら、何故縁談を断った」
「それは」
「いい縁談だったと聞いている。相手に不服でもあったのか」
「ありません。まだよく存じあげていませんでしたし……」
「ならば」
「副長はどうして縁談を受けられないのですか?」
不意に切り返した総司に、土方は驚いたようだった。目を見開いてから、僅かに眉を顰める。
その表情に、総司は、しまったと慌てて口をつぐんだ。余計なさし出ぐちをと、不愉快に思われたに違いない。
「申し訳…ありません」
「……」
無言のままの土方に、総司はますます身を縮めた。彼を怒らせたという事が、辛くてたまらなくなる。
箸を置き、膳を持ち上げた。
「あのっ、食事も終わりましたので……失礼させて頂いてよろしいでしょうか」
そう訊ねると、土方は一瞬口元を引き結んだが、すぐに、ぶっきらぼうな調子で「あぁ」と低く答えた。目を伏せ、湯呑みを口元にはこんでいる。
それに、もう一度だけ「申し訳ありませんでした」と頭を下げてから、総司は慌ただしく部屋を出た。手が震え、膳がカタカタ鳴ったが、気にしていられない。
(……怖かった……)
まるで別人だった。
はるとして振る舞う自分に対し、柔らかな声音で話しかけ、優しく笑いかけてくれる彼とは、まるで別人だったのだ。
結局は、土方が総司自身に何の関心も持っていない事に、起因しているのだろう。興味も関心もないから、冷たく無感情な声音で話しかけてくる。
別人のようだと感じても、当然だった。総司自身だって別人として振る舞っているのだから。
(……でも)
ほんの少しだけ、期待してしまったのだ。
食事を共にしないかと誘われたことで、ほんの少しでも関心を持ってくれたのかと。だが、それは間違いだった。土方はあくまで副長として、総司に、醜聞沙汰を起こさぬよう釘を刺してきたのだ。
それがたまらく心に痛かった。もう慣れたはずなのに、諦めたはずなのに、やっぱり期待してしまった自分が切ない。
総司は自室に戻ると、坐りこんだ。桜色の唇から、ため息がもれる。
「どうして……もっと違う私じゃなかったの」
もっと明るく無邪気な自分になりたかった。
云いたい事もぽんぽん云って、自由気ままに振る舞う勝気な若者でありたかったのだ。そうであれば、土方も少しは関心をもってくれただろう。
今のように、まるで道端の石ころでも見るようなまなざしを向けられることもないに違いない。
だが、一方で、はるとして振る舞うのも限界が来ていた。彼を騙しているのだ。いくら優しくしてくれると云っても、このまま彼を騙しつづけるなんて、胸が痛くてたまらない。罪悪感が日々、総司を苛んでいた。
(もう……全部終わりにしなきゃ)
総司は目を伏せると、きつく唇を噛みしめた。
「どうした」
訝しげに問いかけられ、総司はびくりと肩を跳ねさせた。
慌ててふり返ってみれば、土方が訝しげな表情でこちらを眺めている。
綺麗な宿の離れだった。
昼過ぎに落ちあい、あちこち散策をした後、今日は晩飯を奢ってやるとここに連れてこられたのだ。宿屋である事に戸惑ったが、料理がおいしいと評判の店だと聞けば、否と拒めない。
隣室への襖を見ないようにして、総司は食事をした。庭に、ぼうっと灯された灯篭の明かりが優しい。
むろん、この宿屋へ夜、誘われた意味を考えない訳ではなかった。躰を求められそうな気がした。だが、それに応じるべきでない事は、よくよくわかっている。
終わりにすべきだと思ったこと。
彼を裏切っていること。
隊での二人の関係。
どれをとっても、今ここで彼をきっぱり拒むべきだった。どんどん泥沼にはまっていくのは目に見えているのだ。ぬきさしならぬ関係になってからでは、遅い。
土方が本気で自分を好きになってくれているのかどうかは、よくわからない。
だが、それでも、どのみち、彼が惚れているのは、はるという若者だった。総司とはまったく別人なのだ。
そんな事を考えている総司に、土方は柔らかく手をのばした。肩を抱きよせられる。
「ぼうっとして……この宿が気にいらなかったか?」
「違います、ただ……」
そう云って口ごもってしまった総司に、土方は何も云わなかった。いつものように頬や首筋に口づけの雨を降らしてくる。
やがて、唇を重ねられ、甘く濃厚な口づけをあたえられた。躰の芯に火がともる。
「……ぁ…は、ぁ…んっ……」
「すげぇ可愛いな」
そう囁きかけた土方を、総司は潤んだ瞳で見上げた。細い指さきが男の着物の端を縋るように掴む。
「本当…に?」
「あぁ、嘘なんざつくはずねぇだろう」
「だって……私、信じられなくて」
総司は長い睫毛を伏せた。
「あなたが私をどうして傍に置いてくれるのか、逢ってくれるのか。わからないのです」
「俺がおまえを好いているからに決まっている。それとも、信じられねぇのか?」
「……」
黙り込んでしまった総司に、土方はため息をついた。自然な仕草で黒髪をかきあげながら、呟く。
「今更だろうが。どれだけ好きだとくり返してきたと思うんだ」
「……でも」
「それに、俺の方も限界だ」
「え」
どきりとして顔をあげた総司を、土方は切れの長い目で見下ろした。
「もういいだろう? 答えをくれねぇか」
「答えって?」
「忘れたなんざ云わせねぇ」
そう云うと、土方は総司の耳もとに唇をよせた。なめらかな低い声で囁きかける。
「……俺のものになっちまわねぇか?」
「……っ」
息を呑んだ。
何も云えないまま、大きく瞠った目で土方を見上げる。その頬に口づけを落としてから、土方は小柄な躰を柔らかく抱きしめた。
「好きだ……おまえしか考えられない」
「……土方、さ……」
「初めて逢った時から、好きだった」
男の熱っぽい声に躰が震えた。だめだと思うのに、抗うことさえ出来ない。
気がつくと、土方の腕が総司の腰と膝裏にまわされていた。あっと思った時には抱きあげられる。
隣室へと歩いてゆく男の行動に、総司はこの先にあるものを知った。だが、どうしても抗うことが出来ない。できるはずがないのだ。愛する男にこんなにも求められて、それを拒絶できる者がいるだろうか。
やがて、土方は総司の躰を褥の上に降ろした。そっと抱きおろし、優しく髪を撫でてくる。
「綺麗だ……」
「土方さん」
「おまえを……俺のものにする」
その言葉に、目を見開いた。だが、怖いとは思わない。むろん、嫌だとも。
間違った行為だということはわかっていた。契りまで交わしてしまえば、もう後戻りは出来なくなる。はるのまま抱かれるなど、彼への裏切りに他ならないだろう。だが、それでも。
(私は……あなたに愛されたい……)
総司はきつく目を閉じた。
そして、両手をのばすと、男の肩に縋りついたのだった。
甘い声が部屋の中に満ちた。
褥の上、総司はもう半ば着物を脱がされていた。下肢を大きく開かされ、奥にある蕾を愛撫されている。
「ん…ふ…っ、く…ぅッ」
総司は手の甲を唇に押しあて、必死に声を堪えた。だが、それでも、男があたえる快感に、声がこぼれてしまう。
土方は総司の腿の内側や膝裏に口づけながら、蕾に指を挿しいれていった。指には、ふのりが絡められてあり、滑らかに挿しこまれてくる。
「は…ぁ、ぁ…っ」
男のしなやかな指が蕾を丁寧にほぐした。広げられていくのが、自分でもわかり、たまらなく恥ずかしくなる。
だが、そんな羞恥も、男の指がある一か所をふれたとたん、消えた。
「ひ…ぁあんっ」
猫のような声をあげた総司に、土方が喉奥で笑った。
「ここが、おまえのいい処か?」
「やっ、ん…っ、ぁ…やぁっ」
ふるふると首をふる総司に口づけてから、土方はゆっくりと指を動かし始めた。挿しこんだ二本の指で何度も何度も、その感じる個所をぐりぐりと押しあげられる。その度に腰奥を走る甘い疼きに、総司は泣き声をあげた。
「ぃ、やぁっ、ぁぁ…っ、ぁ」
「ほら、もっと……感じろよ」
「ん、んぅっ、ぁっ、ぁんっ」
土方の腕に縋りつき、総司は泣きじゃくった。自然と腰がゆらゆらと揺れてしまう。
それに、男が吐息をもらしたのを感じ、はっとして見上げると、土方が獣のように目を細めていた。低く喉を鳴らす。
「……たまらねぇな」
「ぁ、ぁ……土方、さん……っ」
「そんな顔で誘うなって」
ちゅっと音をたてて頬に口づけてから、土方は指を抜いた。総司の細い両足を抱え上げると、濡れそぼった蕾に己の猛りをあてがう。
とたん、総司がいやいやと首をふった。
「怖い……こわ、い……」
怯えた表情にさえ、そそられる。
土方は舌打ちしたい程の衝動を堪えつつ、低い声で云った。
「俺はおまえが好きだ……欲しくてたまらねぇ」
「土方…さん……」
「早くこうしねぇと、他の誰かに奪られちまいそうで、怖いんだよ」
「そん…なの……」
総司は目を見開いた後、微かに泣き笑いした。
「私なんて……欲しがる人、いない……」
「いるだろうが、ここに」
土方は低く笑った。
「おまえがすげぇ欲しいよ……だから、な? 俺のものになっちまえ」
耳もとで囁かれた声に、躰中が震えた。怖さではなく、熱さと嬉しさに。
今だけでいい。
この瞬間だけでいいから、この人に求められたい。この人が欲してくれているのが、自分だけだと信じていたい。
小さく頷いた総司に、土方は嬉しそうに笑った。髪をかきあげて額に口づけた。
「いいか? 躰の力を抜いていろよ」
「はい……」
「いい子だ」
土方は総司の膝裏に手をかけ、押し広げた。あらためて蕾に己の猛りを押しあてると、ゆっくりと突き入れてくる。
「ひぃ…く…ぅ…っ」
総司はのけ反った。指とは比べものにならなかった。もの凄く熱いものが狭隘な蕾を押しひろげ、突き入れられてくる。
「や…っ、ぃ…た…ぁッ、苦し……っ」
無意識のうちに上へ上へと躰がずりあがった。だが、土方が荒い息を吐きながら、総司の肩を掴んで引き戻す。
そのまま、一気に最奥まで貫かれた。
「ぃ、やあぁーッ」
悲鳴をあげた総司の躰が、男の逞しい両腕に抱きしめられた。
目の前が真っ赤になり、涙がぽろぽろとこぼれてゆく。まるで熱い杭でも打ち込まれたようだった。あまりの苦痛に、指さきまで冷たくなる。
「ぃ、たいっ、痛いッ…やめ、て……っ」
「力を抜け」
「でき…ない…ひぃ、ぁっ、ぁ…やだぁッ」
泣きじゃくる総司に、土方は眉を顰めた。怪我をさせてしまったかと指さきでふれてみたが、傷はなく安堵する。
すっかり萎えてしまった総司のものを手のひらで包みこみ、柔らかく愛撫した。男の手の中で、少しずつだが、総司のものが熱を帯びてくる。それに従い、なめらかな頬にも赤みが戻ってきた。
「もういいか……?」
問いかけられても、総司は意味がわからなかった。涙でいっぱいの瞳で、彼を見上げる。
土方は微かに苦笑すると、その頬に口づけた。
「いいから、おまえは俺にしがみついてろ。引っ掻いても噛んでも構わねぇから」
そう云うと、土方は総司の膝裏に手をかけた。押し広げ、いったん腰を引くと、また深く突き入れていく。とたん、総司が「あーッ!」と悲鳴をあげてのけ反った。
「ひっ、や…ぁ、動いちゃ…ぃやぁあっ」
「少しは気持ちいいんだろ? ほら……ここなんか」
「ぁっ、ぁあっ、だ、だめぇ……っ」
先ほど感じた部分を突き上げられ、総司は思わず甘い泣き声をたててしまった。初めての快感が腰奥を痺れさせてゆく。
土方は低く笑うと、総司の躰を二つ折りにした。そのままのしかかるようにして、腰を激しく打ちつけてくる。たちまち、総司の泣き声が部屋にまき散らされた。
「ぃぁあっ、ぁあっ……や、ぃやぁっ」
「すげぇ可愛いな……」
「ひぃ…ん、んっ…ぁあっ、ぁあっ」
仔猫のような声をあげて泣く総司に、土方はすっかり煽られてしまったようだった。快感に顔を歪ませ、犯すような激しさで貪ってくる。
蕾の奥に男の太い楔を打ちこまれるたび、総司は泣き叫んだ。熱くて赤い快感が躰の芯を突き抜け、飛び散ってゆく。
「ぁあっ、ぁ…ぁっ、ひぃ…ぁあっ」
無我夢中で、男の肩に縋りついた。爪もたててしまったかもしれない。それでも何かに縋っていなければ、気を失いそうだった。
土方は総司の細い腰を鷲掴みにすると、激しく腰を打ちつけた。濡れた蕾に男の猛りが抜き挿しされる。感じる部分を男の猛りが擦りあげるたび、総司の目の裏で火花のようなものが散った。二人の躰の間で擦れる総司のものは、今にも弾ける果物のようにふるふると濡れて震えている。
「土方…さ…っ、ぁあっ…ぁああんっ」
「……くっ……」
「ぃぁあっ、ぁあっ、ぁあああッ」
一際甲高い悲鳴をあげ、総司がのけ反った。白い蜜がほとばしり、それと同時に蕾の奥に男の熱が叩きつけられる。どろりと熱いものを何度も注ぎ込まれ、総司は怯えたように目を見開いた。
「やっ、あつ…ぃっ、ぁ、ぁ……感じ、るぅっ……」
男に熱を注がれることさえ、快感になってしまい、総司は躰中を震わせた。どうしていいのかわからず、男の胸もとに泣きながら縋りつく。
そんな総司の細い躰を、土方は優しく熱く抱きすくめてくれた……。
次で、どーんと展開します。昼メロ展開です。