注)☆ですが、無理やりなお褥シーンです。苦手な方はスルーしてやって下さいませ。
「私を逃がして」
総司は、懸命に懇願した。
「お願いだから、私を……自由にして」
総司の願いに、土方は冷淡だった。凄みを帯びた瞳が総司を見据える。
低い声が囁いた。
「そんな事……この俺が許すと思っているのか」
「許されないとわかっている。でも、私にだって意思があるもの!」
総司は激しく云いきった。
「私は、土方さんの操り人形なんかじゃない……っ」
そう叫んだ瞬間、総司の顎が掴まれた。仰向かされたと思うと、激しく唇を重ねられる。
それに、目を見開いた。
「んっ…ぅっ、んっ……」
まるで貪るような口づけだった。濃厚で激しく、だが、一方的な接吻だ。
男の舌が歯茎をたどり、舌にからめられた。震える総司の唇を味わい、貪りつくしてゆく。
「っ、ゃ…っ、ぁ……」
総司は懸命に男の肩を押し返そうとしたが、身動き一つ出来なかった。男の腕の中、つま先だちになり、蹂躙するような口づけを受けつづける。
まるで、犯されているようだと思った。
そんな事、一度だって土方との間で思った事はない。だが、今、土方は総司の意思など無視し、口づけていた。時折、首筋や押し広げさせた肩口にまで口づけられる。
「ぁ、ぁ……っ、は…っ」
半ば躰が浮いたまま、男の逞しい両腕に抱かれていた。その様は、まるで艶めかしい絵のようだった。やがて、その華奢な躰は男の腕に抱きあげられた。
あっと思った時には、雑木林の奥へ、総司を抱いたまま土方が歩みいってゆく処だった。枯葉の上に下され、慌てて逃れようとするが、すぐさま男がのしかかってくる。
「い、いやあ!」
悲鳴をあげた総司を、土方は軽々と組み敷いた。小袖の袷を引きおろし、真っ白な肩から胸を晒してしまう。もともと小袖を着流していた総司だ。帯を解かれれば、裸同然だった。
「やめて! 土方さん……やめてっ」
狂ったように暴れ、抵抗する総司に対し、土方は終始無言だった。白い躰に優しく、だが、容赦ない愛撫をくわえてゆく。
心は彼を拒んでいた。いやだと、泣いていた。だが、さんざん男に仕込まれた躰だ。慣れた愛撫に抵抗できるはずもない。男の手の中で総司のものは熱をおび、次第に、息づかいも荒くなっていった。躰が開かれ、男を受け入れる準備をされても、それを難なく受け入れてしまう。
土方は総司の両膝を掴むと、左右に押し広げた。戸外での恥ずかしい恰好に、啜り泣いてしまう。
「ぃ、や……いや、許して……」
「諦めろ、総司」
ようやく言葉を発した土方だったが、その声音は酷く冷たかった。己の前を開き、総司の蕾に猛りをあてがった。
そのまま一気に突き入れてくる。
「……ひぃッ、ぁあッ」
鋭い悲鳴をあげ、総司がのけ反った。いくら馴らされていても、これ程の体格差なのだ。苦痛なしでの交わりなど、ありえなかった。
しかも、その苦痛がいつもより酷い。それは総司自身の心が彼を拒んでいるからに違いなかった。
「や…ッ、いや! い、痛い……っ」
総司は泣きながら必死に上へ逃れようとした。だが、土方がその細い肩を掴んで押さえつけ、奥までしっかりと貫いてくる。蕾の奥を押し広げられる感触に、総司は泣き叫んだ。
「ひぃーッ、ぃ…っ、ぁっ」
「力を……抜けよ」
「ぁ、ぁ……許し、許し…てぇ……っ」
涙がぽろぽろ零れた。
今や、男のものは根元まで突き入れられていた。総司の蕾の奥深くで、熱く脈打っている。
それを痛いほど感じつつ、総司は子どものように泣きじゃくった。縋るように、細い指さきで土方の腕にしがみついている。
土方は一瞬、それを見下ろしたが、すぐさま総司の両膝を抱え込んだ。ゆっくりと引いてから、また突き入れてゆく。
「っ…あーッ……」
総司がのけ反り、泣き声をあげた。だが、それに構わず、土方は揺さぶりをかけ始めた。
むろん、苦痛だけをあたえるつもりはない。華奢な総司であっても、何度も男を受け入れているのだ。優しく愛してやれば、必ず応えるはずだった。
首筋や胸もとや口づけながら、いい処だけを擦りあげる。総司のものも片手で包み込み、柔らかく揉みこんでやった。男の甘い愛撫に、次第に総司の頬が紅潮しはじめる。
「ぁっ、ぁあ…っ、は…ぁ、んっ」
まだ小さく嫌と云っていたが、それでも、総司の蕾の奥は熱くとろけ始めていた。男のものを深く受け入れ、きゅっきゅっと締め付ける。
土方はそれを感じ、目を細めた。黒い瞳が情欲に濡れる。
獣のように舌なめずりすると、華奢な躰にのしかかった。両膝の裏に手をかけて押し広げ、二つ折りにしてしまう。
総司が「いやあっ」と泣き叫んだが、それに構わず一気に貫いた。激しい抽挿をくり返す。
甲高い悲鳴が雑木林に響いた。
「ひぃっ、ぁあっ、ぁ…ぁあっ」
「すげぇ熱いな……」
「んっ、ん…ゃッ、ぁあっ…こんな、の…嫌ぁっ」
快楽に押し上げられてゆくのが嫌なのか。それとも、彼に抱かれることが嫌なのか。
どちらにせよ、総司の拒絶は、土方をより刺激しただけだった。容赦なく犯した。身も心も、彼のものであることを思い知らせるように。
抱くことで、己だけが愛してきた総司に戻ってくれるように。
「ぁあっ、ぁ…ぁあっ、土方…さ……っ」
枯葉の上に這わせると、総司は暴れ、上へ逃れようとした。あくまで拒みつづけるのだ。
それに、土方は激しい怒りを覚えた。
総司の心がもはや己にない証に思えた。否、確かにそうなのだ。
今、この恋人は彼から逃れようとしていた。彼の愛からも、束縛からも、逃れていこうとしている。
そこに待つのが穢れであっても、苦痛であっても、土方に愛されるよりはいいと、自ら選びとったのだ。
そんな事――許せるはずがなかった。
汚れた自分の、たった一つの拠り所。
清らかな総司が傍にいてくれるから、己は地獄さえ恐れずに歩むことが出来たのだ。
なのに、今更。
おまえは、俺を見捨てるのか?
こんなにも愛している、俺を……!
胸が張り裂けそうだった。
怒りと屈辱と苦しさに、気が狂いそうになる。
「……総司……っ」
土方は後ろから総司の躰を抱きすくめた。柔らかな髪に頬を擦りつけ、目を閉じる。
(……愛している……)
抱きしめる彼の腕の中で、鋭い牙をたてられた小鹿のように、総司が小さく泣いた。
江戸の頃とは、状況が違いすぎた。
今や、土方は新選組の副長であり、立場も地位もある。彼の一挙一動は注目され、隊内に大きな影響をあたえた。
なのに、ここで総司が逃げるからと、監禁したり、殺してしまったりすれば、いったいどうなるのか。何よりも、総司は新選組一番隊組長だ。己の私事だけで処罰することなど、できるはずもなかった。
いずれ、伊東は排除するつもりではいる。だが、今がその時期でない事も、よくわかっていた。
そのため、土方は、気が狂いそうなほどの怒りと屈辱を覚えながらも、総司が手元から離れてゆくのを、黙って見ている他なかったのだ。
本当は欲しくて欲しくてたまらなかった。
傍に置いておきたい、一時も手放したくない。他の男のものになるぐらいなら、いっそ殺してしまいたい。
だが、矜持の高い土方に、そんな捨てられた男そのままの無様な真似など、できるはずもなかった。意識から排除するぐらいしか、己を保つ術はなかったのだ。
幸い、広い屯所の中で顔をあわす事は少なかった。
当時、新選組は西本願寺へ屯所を移していた。山南の死直後の移転に、陰で非難する者も多かったが、土方はそれを断行した。屯所は西本願寺へ移され、幹部にも各々部屋があたえられた。
当然、総司は一人部屋だったが、それは土方の副長室からは遠く離れた場所だった。総司自身が希望した事もあるが、そこはまるで離れのような場所だったのだ。
尚のこと、二人が逢う機会は減った。
そして、それは、総司にとっても助かることだったのだ。
総司は、土方と逢うのが辛くてたまらなかった。嫌いになって、離れたのではない。彼を愛していた。今も尚、一途で幼い恋をしつづけていたのだ。
あんな酷い手込めなような事をされても尚、総司にとって、土方は最愛の男だった。
だが、だからこそ、逢うのが辛かった。
自分から離れると告げたのに、逢えば恋しくなる。話しかけ、見つめてほしくなる。そんな自分の身勝手さが情けなく、己の弱さを見せつけられる気がして、泣きそうになった。
大人になろうと、自分の考えをもとうと、土方の傍を離れたはずなのに、気が付けば、何度も後ろをふり返っている。
「私は……本当にだめ」
はぁっとため息をつき、総司は樹木に凭れかかった。
ふわふわと、目の前を紋白蝶が飛んでゆく。それを目で追いながら、もう一度、吐息をもらした。
自分から離れたはずなのに、どうして、こんなにも土方が恋しいのか。
あの腕に抱きしめられ、守られ、微睡んでいられた頃に戻りたいと、思ってしまう弱さが、自分でも情けなかった。
もともと聡明な若者である総司は、剣や仕事の上では決断力があり、行動力もあった。荒れくれ者の男たちに稽古をつけ、彼らを率いて戦いの場に躊躇いなく身を投じる強さがある。
可憐な容姿や気立ての良さとは裏腹の、その凛とした強さが配下の隊士たちを心酔させる理由だったが、総司自身の内面的なものになると、徹底的に世間知らずであり、また幼く揺れやすかった。
土方にあまりにも守られつづけてきた為だろう。総司の心は、この激動の世をわたってゆくにはあまりにも柔らかく、白い花のように純真だった。
「総司」
後ろからかけられた声に、総司はふり返った。
斉藤が笑顔で、菓子を手に歩みよってくるところだった。二人で祭りに来ていたのだ。
京の町も五月頃になると、あちこちで賑やかな祭りが開かれる。それが総司はだい好きで、今年も訪れていた。もっとも、去年訪れた時とは、連れだっている人が違っていたが。
「菓子を買ってきた。食べるか?」
「はい」
頷いた総司を、斉藤は神社脇の石段へ導いた。ここなら新緑に囲まれていながら、喧騒は遠くなり静かだ。
しばらくの間、二人は黙ったまま、菓子を口にした。さわさわと渡ってゆく春の風が髪を揺らし、心地よい。
総司は、隣に座った友人の顔をそっと窺った。
心から感謝していた。
ずっと傍にいてくれた友人なのだ。そして、今、迷いつづけている総司に、何も云わずただ寄り添ってくれている。総司が土方のもとを離れ、伊東により近づくようになっても、それは変わらなかった。
恋愛感情とは違う。だが、家族のような慕わしさを、斉藤に感じていた。
「いつも……ありがとう」
小さな声で云った総司に、斉藤は不思議そうに小首をかしげた。
「ありがとうって、何が」
「だから、色んなことです。斉藤さんも……考えることがあると思うのに、何も云わないで傍にいてくれるから。本当に有り難いと思っています」
「傍にいる事ぐらいしか、できないしな」
斉藤は僅かに苦笑した。
「おれはこれぐらいしか出来ない。けど、それで総司がちょっとでも気持ちが安定するなら、おれはとても嬉しいよ」
「本当にありがとう、斉藤さん」
総司は長い睫毛を伏せ、きゅっと唇を噛んだ。だが、すぐに顔をあげると、大きな瞳で真っ直ぐ斉藤を見つめた。
「少し、話を聞いてもらえますか」
「あぁ」
「私は……伊東先生を選びました」
静かな声に、斉藤は微かに頬を強張らせた。わかった事であっても尚、総司の口から聞かされるのはまた別だったのだ。
「土方さんから離れ、生きてゆくためです。もちろん、伊東先生の念弟になった訳じゃない。伊東先生は私に好意を抱いて下さっているけれど、私にとって、あの人は大切な年上の友人なのです。もっとも……今後はわからないけれど」
「今後は、わからない?」
「私の躰だけでなく、心も土方さんから離れたら……という事です」
総司は言葉をつづけた。
「私は自由になった事で、自分で考え、自分で行動することになりました。それに慣れようと思っています。でも、そうして新しい世界を知った時、誰を愛する自由も手にいれた時も、私が土方さんを愛しつづけているのか……自信がないのです」
「なら、今は愛しているのか」
斉藤は鳶色の瞳でじっと総司を見つめながら、問いかけた。
「今も、おまえは土方さんを愛しているのか」
「……愛して、います」
掠れた声で、総司は答えた。瞼を閉じ、そっと囁くように云った。
「ずっと、子供の頃から憧れ、愛してきたのです。確かに、束縛されたし、いろんな事もありました。でも、私の気持ちは……変わらないのです。私は愛していないから、土方さんから離れたんじゃない。大人になるために、離れたのです」
「そうか……」
斉藤は遠くの方を眺めやりながら、小さく呟いた。抱え込んだ膝上で頬杖をつき、考え込んでいる。
それを、総司は不思議そうに眺めやった。
「何か……気になる事があるのですか?」
「いや」
首をふり、斉藤は目を伏せた。少し躊躇ったが、やはり伝えた方がいいかと言葉にする。
「おまえの想い、土方んには全く伝わっていないぞ」
「え?」
「土方さんは、おまえが離れていったのは、あの人の事を嫌ったからだと思っている。心も離れてしまったのだと」
「……」
総司の瞳が暗く翳った。俯き、きゅっと唇を噛みしめる。
あの時の土方を思い出したのだ。
雑木林で、自分を獰猛な獣のように犯した彼。
痛くて怖くて、つらくて。だが、あの時、もっとも強く感じたのは悲しみだったのだ。それも、自分ではない。
自分を犯している彼から、痛いほど伝わってきた悲しみ。
深い慟哭と怒り、苦痛、悲しみ。それらが混ざり合い、総司の躰と心を犯した。彼の熱となって総司を征服し、激しく荒れ狂ったのだ。
それは、当然の事だったのかもしれない。
あんなにも愛してくれた彼を、自分は裏切ったのだから……。
「同じ、ことです」
掠れた声で云った。
「私の気持ちが伝わっていても、そうでなくても、結果としては同じ事だから。私が土方さんから離れたこと、それ自体は何も変わらないのだから」
「なら、土方さんに告げるつもりはないのか。今も愛しているという事を」
「はい……」
こくりと頷いた総司は、斉藤に手をさしのべた。細い指さきがとても綺麗だ。
「ありがとう、斉藤さん。いつも傍にいてくれて」
「総司……」
「斉藤さんは、私にとって大切な友です」
そう云った総司の微笑みは、まるで花のように儚げで、透き通るように美しかった。
土方と別れたことで、一気に、総司は大人へと変わりつつあるようだった。その事を思えば、彼から離れた事は正しいだろう。
だが、本当にこれで良かったのか。
前々から望んでいた事とはいえ、斉藤は、即座に頷くことができぬ己をよくわかっていた……。
総司による土方からの離反は、隊内に様々な憶測と噂をよんでいた。
何しろ、総司は一番隊組長であり、剣術指南役筆頭なのだ。大幹部だった。動向が注目されて当然なのだ。
そして、その総司は、伊東の傍にいる事が増えはじめていた。今までと違い、隠すこともない。屯所でも、二人が仲睦まじく談笑している姿が、幾度も目撃された。
伊東が何か楽しい話でもしたのだろう、それを聞いた総司が鈴のような笑い声をたてる。
まさに、花のような笑顔だった。傍から見ていれば、念兄弟にしか見えない二人だった。総司の中に、土方のことなど全くないように思えた。幸せそうに自由を満喫しているように見えたのだ。
総司が土方のものであった事は、隊内では有名な話だった。そして、総司を溺愛し、束縛しつづけていた事も。
誰もが、このままでは済まないと予測した。あの矜持の高い土方が、念弟を奪われて何もせぬはずがないのだ。最も強くそう思ったのは、長年の友である近藤だった。
「……大丈夫なのか」
低い声で問いかけられ、土方は目をあげた。
局長室だった。報告を終えて出ていこうとする土方を、近藤が呼びとめたのだ。
「何が」
前のように訊ねた土方に、近藤は、はっきりとした口調で云った。
「総司のことだ。おまえは、この先、総司をどうするつもりなのだ」
「どうするとは?」
聞き返しながら、土方は煩わしげに片手で髪をかきあげた。僅かに眉を顰めている。
苛立っている証だった。いくら友であれ、心の中を探られるのは不快なのだろう。
もともと、土方は自分の胸の内を明かさぬ男だ。むろん、近藤はそれをよくわかっていたが、問いたださずにはいられなかった。総司のことも、土方のことも、心配でならなかったのだ。
「総司を取り戻すつもりなのか、このまま手放すのか、それとも……」
「手を下すのか、か?」
形のよい唇を歪め、土方が微かに嗤った。それに、近藤は息を呑んだ。
何も云えない近藤の前で、土方はゆっくりと頬杖をついた。黒い瞳が冷たい光を帯びる。
「そうだなぁ。やっちまうのも、いいよな」
「歳!」
思わず叫んだ。
次は、ほとんど土方さんサイドです。総司への執着と独占欲がでます。