本気で抱きたいと思った。
たまらない程の衝動と情欲を覚えたのだ。
だが、それは、彼を激しく拒絶する総司を見たとたん、消え去ってしまった。
可愛いと思った。
それは、胸が痛くなるほどの思いで。
守ってやりたい、大切にしたい、傷つけたくない。
そんな思いが込みあげたのと同時に、総司に拒絶される事への絶望に、息を呑んだ。同じことをくり返そうとしているのか。僥倖で手にいれた可愛い総司を、再び己の莫迦な所業で失おうとしている。そんな愚かな事はなかった。
腕の中で自分を拒絶する総司に、不安がこみあげた。この自分がなんてざまかと自嘲するが、それもまた、甘い疼きの中に消える。
この恋人を腕の中に抱きしめるためなら、どんな屈辱でも、辛さでも堪えられるだろう。
ただ一人の愛しい存在。
「……総司」
土方は、己の腕の中にある小柄な躯に、瞼を閉ざした。
俺を狂わせられるのは、おまえだけだ。
あの後、土方とともに、屯所から無事抜け出した総司は、料亭へ連れこまれていた。
実際、連れこむという言葉がとてもよくあっている。
そそくさと家へ帰ろうとする総司を、まるでさらうようにして、土方は料亭へ連れてきたのだ。笑顔だけど、その実、目が笑っていませんと、総司はびくびくしていた。
「さて」
料理をならべた仲居が去ると、食事もそこそこに、土方は切り出した。
切れの長い目が、総司をじっと見据える。
「何で、どうして、あんな処にいたのか、じっくり聞かせて貰おうか」
「じっくりって……」
総司はもごもご口ごもってしまった。
「別に、そんな詳しく話すような事じゃないんですけど」
「いや、俺は詳しく聞きたい。誰の手引きで屯所に入ったんだ」
「誰の手引きって……私一人です」
「そんなはずあるか。誰かの手引きがなきゃ、簡単に入れるはずがねぇんだよ。新撰組の警備を甘く見るな」
総司は困ったなぁと思った。
だが、どう見ても、土方は聞くまで諦めてくれるはずもない。
仕方なく答えた。
「……斉藤さんです」
「なるほど、斉藤か。……はぁ!? いつのまに知り合ったんだ」
いったん頷きかけた土方は、思いがけない名前に、驚いたようだった。ちょっと用心するような表情で、総司を見てくる。
それに、何? と思いつつ、総司は答えた。
「少し前に、知り合ったんです。いきなり町中で抱きつかれました」
「抱きつかれた? 何だ、それ!」
「何だ、それって、抱きつかれたことは抱きつかれたとしか云いようがありません」
そう答えた総司に、土方は不機嫌そうに眉を顰めた。だが、こればかりは不可抗力なのだから、仕方がない。
土方は一つため息をつくと、それから、また低い声で問いかけた。
「それで?」
「それで……って?」
「だから、おまえは斉藤に手引きされて新撰組の屯所に忍びこんだんだ。色々、聞かされたのだろう」
「……」
総司は黙り込んでしまった。
確かに斉藤に色んなことを聞かされたが、それを今ここで全部云うのはまずい気がした。その事で、また、先程のような冷たい彼になられたら、どうしていいかわからない。
「確かに聞きましたけど」
「何を」
「私が新撰組一番隊組長だったとか、剣術がうまいとか、土方さんとは子どもの頃からの知り合いだとか」
「……それだけか」
土方は切れの長い目を細めた。じっと探るような視線をあててくる。
「それだけって、他に何かあるのですか?」
思いきって逆に聞き返した総司に、土方は唇を噛んだ。しばらくの間、総司をじっと見つめている。やがて、目を伏せると「いや、何でもねぇよ」と首をふった。
その仕草に、表情に、総司は息を呑んだ。
やっぱり、斉藤の話は全部本当だったのだ。
総司が新撰組隊士であることはもちろん、土方と対立したことも、冷淡な関係だったことも、すべて事実だったに違いない。でなければ、土方がこんな表情をするはずがなかった。
(じゃあ、何? さっき話していた土方さんの言葉、あれも全部……)
ぽろりと涙がこぼれた。
それに、土方が驚いて目を見開いた。
「な……っ、急にどうした」
「…っ、ふ…ぅ……っ」
「何で泣いているんだ。どうしたんだ」
土方は慌てて卓の反対側からまわってくると、総司の傍に跪いた。肩に手をおき、覗き込んでくる。
それに、総司は両手をのばした。広い胸もとに縋りつき、ぎゅっと抱きつく。
「……本当の、こと?」
「え」
「さっき…云って、いたの、本心……?」
「……」
一瞬、何を云われたのかわからなかった。
いくら鋭敏な土方でも、総司の言葉は唐突すぎたのだ。だが、総司が発した次の言葉ですぐさま理解できた。
「探しても無駄だって……し、死んでいるなら…って……っ」
「総司!」
土方は思わず総司の華奢な躯を両腕に抱きしめた。腕の中の大切な存在を抱きしめ、その髪に頬をすり寄せる。
「あんなの本心のはずがねぇだろう! 俺は、おまえがいなくなってから、寝食も忘れて探し回ったんだ。おまえにもしもの事があったら、俺は生きてゆけないと思っていた。だから、おまえを見つけられた時、どれほど嬉しかったか……!」
身を起し、総司の顔を覗き込んだ。涙をいっぱいにためた瞳で見上げてくる総司が、誰よりも愛おしい。
「おまえはここにいる。その幸せで俺はすべてが満たされるんだ」
「だって……土方さん、私なんか…探しても無駄だって……」
「いや、それは酷い云い方だったが、本当の事でもあるだろう。おまえはここにいるんだから」
土方はくすっと笑い、泣いたことで火照った総司の頬に口づけた。
「もうおまえを見つけたのに、どうして探す必要があるんだ。けど、宝物の大事なおまえを、俺はまだ手の中においておきたい。誰にも見せたくない。だから……その、あんな事を云っちまった訳だ」
「……本当に?」
小さな声が訊ねた。それに、土方は何度も頷いてやる。
ようやく納得したのか、総司は、ほっとしたように微笑んだ。
「よかった……」
そう云いざま、土方に抱きついた。仔猫のように、その肩へ小さな頭を擦りよせてくる。
その仕草は愛らしいのと同時に、幼い艶をふくんでいた。着物ごしに感じる熱い華奢な躯に、花のような匂いに、たまらなくなる。
「……」
土方は、ちっと短く舌打ちした。思わず嘆息する。
「ようやく収まったと思ったら……また煽りやがって、おまえは」
「え?」
「おまえを抱きたくなっちまっただろうが」
「……」
総司は潤んだような瞳で、土方を見上げた。桜色の唇が微かに開かれ、扇情的だ。
その細い両腕で男の首をかき抱いたまま、長い睫毛を瞬かせた。それから、ことりと小首をかしげた。
「屯所で云っていたことの、つづきする……?」
「……総司」
「いいよ、しても」
「……」
土方の喉が鳴った。たまらず、細い躯を抱きしめる。
そんな男の耳もとで、舌ったらずな口調が甘く囁いた。
「お仕置き……して?」
次の瞬間、土方の理性は焼き切れた。
「ふっ、ぁ…ぁあんッ」
甘い濡れた声が部屋に響いた。
それが恥ずかしくて、総司は手の甲を口許に押しつけた。だが、土方はその手首をやんわり掴んで、離させてしまう。
「や、だ……っ」
「おまえの声を聞かせてくれ」
土方はなめらかな低い声で、囁きかけた。
「俺は、おまえのすべてが知りたい」
「……んっ、私…だって……」
総司は必死に手をのばし、彼の着物の襟元を掴んだ。手をすべらせ、帯を解こうとする。
「全部……知りたい、もの……」
「なら、同じだな」
くすっと笑い、土方は身を起した。しゅっと音をたてて帯を抜き取り、着物を脱ぎすててゆく。やがて、露にされた男の逞しい躯を、総司は見上げた。
(なんて綺麗……)
思わず、うっとりと見惚れてしまう。
逞しい両腕、ずっしりとした腰、なめらかな褐色の肌。引き締まった男の躯は、危険なまでの色香を纏っていた。
土方は前髪を片手で煩わしげに払うと、身をかがめた。総司の顔のすぐ傍に手をつき、唇を重ねてくる。
「んっ、ん……」
何度も啄むように口づけられ、やがて、舌を入れられた。熱くとろけるような接吻に、腰の奥がたまらなく疼き始める。
それを察したのか、土方は総司のものを片手で包み込んだ。何度か上下に扱いた後、親指を先っぽに食い込ませる。
「ひッ」
短い悲鳴をあげ、総司は仰け反った。男のしなやかな指さきが、先っぽの部分をくりくりと撫でて可愛がる。やがて、土方は身をずらすと、その半ば勃ちあがったものを唇の中にふくんだ。
「いやあっ」
何度されても込みあげる羞恥に、総司は泣きじゃくった。思わず男の頭を押しのけようとするが、土方はその羞恥心をより煽るように音をたててしゃぶり始めた。
「ぃぁッ、ぁあっ…んっ」
男の舌が総司のものを甘く舐めあげ、熱を高めてゆく。そうしながら、手をのばし、胸の尖りを摘み、指の腹で擦りあわせた。総司がより甘い声をあげて泣きはじめる。
「だ…めっ、だめぇ……っ、ぁっ、ぁああッ」
くっと腰を跳ね上げ、総司がのけぞった。白い蜜が吐き出される。それを満足げに眺めながら、土方は身を起した。だが、休む暇もあたえない。くるりと総司を俯せにさせると、腰を高くあげさせた。
「な、何……っ?」
褥にしがみついたまま、怯えた表情で総司がふり返る。それに、にやりと唇の端をあげてみせた。
「お仕置きしてって、云っただろ?」
「……あ……」
「お望みどおり、たっぷりお仕置きしてやるよ」
そう云いざま、濡れた指を割れ目の奥へすべらせた。両膝を開かせ、腰だけを高くあげさせる。
それこそ、発情期の猫のような体位だが、たまらなく艶めかしかった。くびれのある細い腰からつづく白い背中、華奢な肩で揺れる柔らかな髪。恥ずかしげに長い睫毛を伏せ、ぎゅっと唇を噛みしめている様も愛らしい。
「すげぇ可愛い……」
低い声で囁きながら、その白い背中や腰骨あたりに口づけてやると、総司の躯がびくんと震えた。くっくと喉奥で笑いつつ、小さな蕾に指を挿し入れてゆく。
「ん……っ」
総司が一瞬、息をつめた。だが、おおいかぶさるように背中から抱きしめてやると、力が抜ける。それを見計らい、奥まで貫いた。しなやかな指で蕾の奥を探ってゆく。
やがて、ぷくんとしたしこりを見つけ、それを優しく突っついた。引っ掻き、擦りあげてやる。
「ぁっ、や、ぁ……ぁ」
甘い声をあげ、総司が前に突っ伏した。褥にしがみつき、ふるふると躯を震わせている。三本まで指が入るようになると、総司はもう半ば朦朧としてきているようだった。感じやすい躯は、男の愛撫に溺れこんでゆく。
「……そろそろ頃合いか」
そう呟いた土方は、指を抜き取った。仰向けにしてやると、啜り泣きながら総司がしがみついてくる。
「やっ…も、おかしくなっちゃ……」
「すぐによくしてやる。大丈夫だ」
「土方…さん……早く……っ」
こんなにも甘くねだられ、我慢できるはずがない。
土方は目を細め、総司の唇や頬に口づけを降らせた。そうしながら、細い両脚を抱えあげ、濡れた蕾に己の猛りをあてがう。
華奢な総司が、完成された大人の男である土方を受け入れるのだ。苦痛がないはずがなかった。
だが、それを少しでも緩めてやりたくて、土方は慎重に腰を進める。突き入れられてくる男の熱。
「ッ、ぅ…く……っ」
奥歯を噛みしめて堪える総司が、脱ぎ捨てられた着物を縋るように握りしめた。爪が白くなるほど力がこもっている。
それを眉を顰めて見下ろし、土方は、膝裏に両手をかけて押し開いた。のしかかるように体重をかけ、一気に刺し貫く。
「ひッ…ぁ──…ッ!」
総司は鋭い悲鳴をあげ、仰け反った。思わず反射的に上へ逃れようとするが、肩を掴んで抑えこまれる。
次の瞬間、重量感のある楔に、腰奥がずんっと犯された。
「ぃやあ…ッ!」
見開いた目からぽろぽろ涙がこぼれ落ちた。息さえできぬ、苦痛まじりの快感。
信じられぬほどの熱が怖くて、どうにかして欲しくて、泣きながら首をふった。
「ぁ、ゃ…ぁッ、こわ、ぃ…やッ……」
「総司、俺にしがみつけ。爪をたてもいいから」
そう云いながら、手をとり、己の背にまわさせた。すると、総司はしがみつき、ぎゅっと抱きついてくる。
「……土方…さ…ぁ、ぁ……っ」
「よくしてやる、総司……大丈夫だ」
土方は低い声で囁きかけ、総司の躯にのしかかった。膝を掴み、ゆっくりと抽挿を始める。
たちまち甘い疼きが腰奥を満たし、目を閉じた。苦痛より快楽だけを追おうと、必死に躯を開いてゆく。総司のけなげな様子は、庇護欲とともに、男の燃えるような欲情をより煽った。
「は…ぁ……」
気がつけば、土方は総司の小柄な躯を激しく揺さぶっていた。己の猛りで穿ち、引き抜き、また奥をぐりぐりと抉ってゆく。
そのたびに、総司は泣きじゃくり、艶めかしく身悶えた。
「ん、んッ…ぁあっ、ぁあっ」
「……総司、すげぇ気持ちいい……」
「わ、私も…ッ、ぁあっ、土方さ……そこ……っ」
「ここか? ここがいいんだな」
土方が低い声で問いかけると、総司は頬を染めながら頷いた。望みどおり、気持ちいい箇所だけを突き上げてやれば、甘い悲鳴をあげて仰け反る。
「ふ…ぁっ、ぁあっ、あ……っ」
「総司……」
「ぁっ、ぁあんっ、あんっ」
猫のように爪をたてて快楽を貪る総司が、たまらなく可愛かった。お仕置きと称して始めた情事だが、やはり、いつもの恋人たちの甘い蜜にとけ落ちてゆく。だが、それで良かった。今は身も心もとけあわせ、一つになってしまいたいのだから。
土方は、細い躯を二つ折りにしてのしかかると、激しく腰を打ちつけた。何度も男の楔を奥まで打ち込まれるたび、強烈な快楽が背筋を突き抜ける。
「や、あっ、そんな……激し…っ、だ…めぇ…っ」
「……まだだ、まだ俺は満足してねぇよ」
「ひぃッ、あっ、いやぁ……ぁああッ」
総司が大きく仰け反った瞬間、一際深く男の猛りを突き入れられた。ぐりぐりと奥を抉られ、気が狂いそうになる。淫らな音が鳴った。
「ゆ、ゆるし…て……ぁ、ぁあっ」
限界を超えた快感に、躯中ががくがく震えた。総司のものからとろとろと蜜が零れる。それをぎゅっと握りしめながら、土方は唇の端をあげた。
「仕方ねぇな。まずは一度いってやるよ」
最後の責めだとばかりに、土方は激しく総司の躯を揺さぶった。力強い抽挿で己も総司も高めてゆく。犯すような激しさに、総司は「いやあっ」と泣きじゃくったが、その躯自身は男のものを深く甘く受け入れた。
「ぁあっ……ぃやあっ、ぁあっ」
「……は、ぁっ」
「んっ、ぁあっ、ぁあああッ」
一際甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司の腰奥に男の熱が叩きつけられていた。それを感じた瞬間、総司のものも蜜を吐き出す。
男の燃えるような熱を感じながら、総司はぐったりと褥に倒れ込んだ。はぁっはぁっと喘いでいる。だが、土方は休む暇もあたえなかった。軽々と総司の躯を抱きおこすと、膝上に抱え上げる。
両膝を抱えて開かされ、総司は顔を真っ赤にした。慌ててふり返れば、男が後ろから己のものをあてがってくる処だ。
「な、何……っ? もう終わりじゃ……」
「まずは一度って、云っただろ?」
口角をあげて笑う土方に、目を見開いた。
「そんな! い、いやあっ」
慌てて逃れようとしたが、後ろから抱きすくめられれば、身動き一つできない。
強引に下肢を開かされ、男の剛直の上に無理やり下ろさせられた。
「ぁ───ッ!」
頤をあげて悲鳴をあげる総司を、逞しい両腕がきつく抱きしめた。そのまま何度も躯を上下させられ、男のものを受け入れさせられる。
「ひいっ、ぁあっ…ぁ……っ」
部屋の中が、再び、甘い悲鳴と息づかいに満たされてゆく。
乱暴な行為だった。お仕置きという名にふさわしい、まるで犯すような激しさ。
だが、それでも、彼はこんなにも狂おしく求めてくれるのだ。総司だけを、男の欲望と執着のままに。
(……土方さん……)
愛する男のすべてを感じながら、総司は幸せに目を閉じたのだった。
次で大きく展開します。とうとう、総司が……?