サムイ島は遠かった
飛行機は夕方過ぎにバンコクのドンムアン空港に着きました。とりあえず今日はバンコクで1泊する事にし,明日の朝,サムイ島へ向けて出発することとしました。ホテルで地図を広げ,サムイ島はタイ湾にある事が判りました。何せこの段階では予備知識がゼロ(前章を参照)でしたから…。どうやらサムイ島へは国内線の飛行機が飛んでいるという事が判り,空港へ向かいました。国内線のバンコクエアラインのカウンターで 「すんません,今日のサムイ島行きの便は空いてますか?」 と尋ねると 「満席です」 「そんじゃ明日の便は?」 「満席です」 「…もういいです…」 う〜っ,作戦の練り直しです。空港の不味いレストランで飯を食いながらガイドブックを見ると,列車で12時間かけてスラーターニまで南下し,そこから船でサムイ島へ渡れるという事が判りました。もうこの手しかありません。でも帰りに再び列車に長時間揺られるのが苦痛だと云う事は単純な思考回路の我々でも考えるに容易く,帰りの便だけでも飛行機を押さえようとの意見で一致し,再びバンコクエアラインのカウンターへ向かいました。 「すんません,(メモ帳を指しながら)この日のサムイ島からバンコクまでの便は空いてますか?」 「少々お待ち下さい(カタカタカタ)…ハイ,お取りできます」 「そんじゃ,サムイ島からバンコクまで2名ください」 「片道でよろしいのですか?」 「ハイ」 「本当に片道でよろしいのですね?」 (しつこいなぁと思いつつ笑顔で) 「ハイッ!」 …航空券を買ってしまった以上,何としてでもサムイ島へ行かねばなりません。この自虐的行為に我ながらクラクラしてしまいます。空港を後に,我々は颯爽とバンコク中央駅(ホアランポーン駅)を目指すのでありました。 時刻表を見ると夕方にバンコクを出て翌早朝にスラーターニに着く快速列車があるではありませんか。これならば昼前にはサムイ島に着けそうです。寝台車も連結された列車なので,楽してのんびりと行こうと考えました。早速,切符売場に向かいました。まだこの当時のタイ国鉄はコンピュータ発券ではなく,長距離列車は列車ごとの発売窓口でした。昔の馬券売り場に似た窓口で… 「スラーターニまで2等寝台を2枚ください」 「あいにく満席です」 「じゃ2等座席は?」 「こちらも満席です」 しばし後,駅員は座席表をパラパラとめくり,紙に “3Rd class OK!” と書いて私に見せました。タイ国鉄の3等客車はJRで言うならばローカル列車の直角座席のシートクッションを倍ほど硬くしたような座席です。でも,これしかない…私は無表情で 「OK!」 と言いました。“楽してのんびり”は見事に打ち砕かれました。 翌朝,スラーターニに到着しました。ここから港までは結構な距離があります。歩いて行くわけにはゆきませんし,走って行くわけにはなおさらゆきません。単純な思考回路の我々は 「タクシーかトゥクトゥクでもつかまえればエエんでないかい」 と考えていました。しかし,これも見事に打ち砕かれました。早朝のスラーターニの駅前には,普段あれほどうるさいタクシーやトゥクトゥクの姿が全くありません。呆然と立ち尽くしながら,ふと横を見ると看板に何やら書かれています。 「サムイ島へのジョイントチケットを持っている人は北側のバスターミナルへ行け」 そういえば,同じ列車に乗っていたほかの乗客もそちらの方向に歩いています。「ジョイントチケット…??」まぁこの際どうでもいいからとバスターミナルへ向かいました。 確かにそこにはバスが3台止まっています。ほかの乗客はチケットを見せながらバスに乗り込んでいるではありませんか。我々はジョイントチケットなるものを持っていません。バスの係員は 「さぁ乗った乗った」 と言っています。私は 「あの〜ジョイントチケット持ってないんですけど…」 というと, 「OK!OK!ノープロブレム」 本当にいいのかなぁ〜,あとで高額な料金を請求されたりして…なんて不安を抱えながらバスに乗り込み港へ向かいました。 結局,高額な料金を請求される事も無く(タダ乗りで)港に到着しました。サムイ島行きの船を待っている人は,ざっと見回しても100人以上います。(日本人はゼロ)その中で港の窓口で乗船券を購入した人は我々を含めて3人でした。(残りの一人は地元のタイ人)みんなジョイントチケットを持っていたのね…そこで一言「備えなければ愁うこと多し」 これが私の記念すべきタイへの第一歩でした |