山紫水明 

2011年5月26日 記

 
 昨年に続いて今年も白馬へ行くことになりました。今回はふつうのツアーで鬼無里(きなさ)、戸隠、上高地を回るという2泊3の行程です。スケッチツアーにくらべて絵を描く苦労がないのでラクチンと思ったのですが、天候が気になりました。近頃の天気予報はよく当たりますから、雨の準備を十分にして出発することになりました。

 一日目は「雷鳥」で金沢へ、そこから「はくたか」で糸魚川へ、そして大糸線で南小谷まで。駅には白馬樅の木ホテルのバスが出迎えてくれました。6時間以上の長旅です。
しかし、このホテルはもう3度目。白馬三山をはじめ、まわりの景色は見慣れたもので、なつかしいような気がしました。スケッチをする時は山の稜線など克明に見るので、よくおぼえているのです。松川の河原に座って描いていた時、残雪の白馬の山々が神々しいような姿をあらわして喜んだものの、すぐに見えなくなってしまったこともありました。

 


水彩  「白馬樅の木ホテル」  2011.5.22 toshi

 

 この白馬三山は娘と一緒に見たいと思っていたので誘ったら同行してくれました。が、私のように山を見たいだけの旅行では頼りないでしょう。彼女は「山は登らないと」といっているので、白馬はあらためて登ると思います。8月には北アルプスの薬師岳に行くそうです。
明日は鬼無里、戸隠です。信州も北の端、新潟県に近いところの山奥です。

 雨はしっかり降っていました。バスは新緑に覆われた渓谷を奥へ奥へと進みます。溢れるばかりの木々の呼吸を浴びて、この色はどうしたら表現できるだろうと思った時、山紫水明の言葉が浮かびました。ミドリといわないで、ムラサキという言葉、先人の智慧と豊な感性に驚きました。たしか遠くの山が紫に烟って見えることがありますものね。
 
 鬼無里の奥裾花自然園という所は、ブナの大木に囲まれた湿原に水芭蕉が80万株も群生していて、モリアオガエル、サンショウウオなどがいるのです。私は雨の中、足元に注意しながら太いブナの木と水芭蕉の美しさを味わいました。山奥のシーンと鎮まったこの広大な湿原は幽玄な所でありました。樹々の緑と、みどりに染まった雨の雫を浴びながら、夢の世界に溶け込んでおりました。幸せなことには、雨が降っていても戸隠連峰と最高峰の西岳が姿を見せてくれました。

 戸隠は、修験者の山で古い歴史があるのです。西岳で2053mですから高さはそれほどでもないのにゴツゴツとした険しい山です。以前バスの中からその容姿を見て、なんと奇怪な形だろうと思ったことがあります。比叡山、高野山、戸隠といわれるぐらい宗教者の修練の場であったようです。
奥社、中社と五つもの社があって山全体が信仰の対象のようで、ここでもたくさんの水芭蕉を見ることができました。

 3日目は連泊の樅の木ホテルを発って上高地です。雨も止んでさわやかな朝をバスに乗り込みました。このツアーは総勢24人で、大きなバスですから後ろはゆったり座れます。
姿を現して見送ってくれる白馬三山をカメラの収め、唐松岳、五竜岳、鹿島槍を右手に見て安曇野を走りました。このあたりの田んぼは、田植えをすませたすぐ後らしく5cmほどの苗が可愛らしく並んでいました。その水田に北アルプスの雪を頂いた山々が映って絵のような光景を見せてくれました。

 上高地では、2時間ほどの自由時間ですから娘は大正池から歩くことに、私は梓川の畔でスケッチをすることにしました。上高地は1500mほどの標高ですが今年は木々の緑が遅かったようで、ケショウヤナギも白樺も芽吹きが未だしでした。
梓川は水量が多く、鮮やかなブルーの色はさすがです。穂高連峰も、雪を残してすっくと聳えていました。毎年のようにここ上高地には来るのですが、山の色、川の流れ、植物の生育のようすはひとつとして同じことはありません。

 


水彩  「白樺の芽吹き」  2011.5.23 toshi

 

 雨の日もよしです。行く時は少し億劫に思えた天候も、雨にむせぶ新緑の美しさは味わったものにしか解からないことです。それに晴れの日でも、もやって山が見えない時もあるし、旅も、人生もいろいろです。どう受けとるかにかかっているように思います。 上高地も最後になるかもしれないと考えていたのですが、いえ、いえ、頑張ってまたまた来たいものだと欲が出てきました。

 帰りはJR高山から列車に乗って飛騨の山々の谷間を走りました。日本の国ってほんとうに山国で、至るところ清流があふれている緑の島です。その美しい国土を中国人が買い占めているという。国土を外国人に売ることが出来ない法律を早く作って欲しいものです。後手にまわる政治が心配です。
このかけがえのない国土をしっかり守りたいものです。