風薫る季節

2008年5月14日 記


 新緑も日ましに濃くなってきました。風薫るこのシーズンを胸いっぱいに吸い込んで深呼吸をしています。
5月は、私の2人の子供のバースデイなのです。いい季節に産んだものですね。でも、娘は「はやいき(1.2.3月生まれで前年生まれの人と同じ学年になる人)の方が良かった」と、のたまう。

 M女子大のオープンカレッジに通って、もう何年にもなりますが、この新学期から「パステル画を楽しむ」という講座を受けています。新入生は2人だけ、ベテランの先輩の中で1年生としての学びをしています。

  昔々、私が女学校へ入った時、美術を担当されたのは若くて飛び切り美しい女の先生でした。その先生は東京女子美術専門学校を出られたのです。いつも授業のつど学校生活の楽しさを語られるのです。寄宿舎でのことも懐かしげに話してくださいました。私は完全に洗脳されましたから、「よーし、その学校へ行こう」ときめました。

日を追って太平洋戦争は深刻な状況になってきました。学業はストップして勤労学徒動員として、軍需工場で働くようになりました。が、残念にも戦争終焉の日が来ました。私たちは、焼け跡から日本国再建のため、社会復興のため力を振り絞って立ち上がりました。みんなよく働きました。私はもう、東京の女子美に行くことなど念頭から離れていました。戦後の混乱期にあって、自分の夢を実現しようなどとは思わなかったのです。

その程度の夢だったのです。それから60年以上も経ってのことですが、数年前からスケッチ教室や旅行に行って絵を描くようになりました。でもおかしい。ぜんぜん描けないのです。それは稚拙きわまりないもので自分でも良くわかっているのです。先生は「今から画伯になるわけではないから、自分が見たように、感じたように、楽しく描きなさい」と、おっしゃいます。「画伯になるには、若い時から何年もデッサンに励まなければなりません」とのこと。なるほど私は基礎の勉強が出来ていないから砂上楼閣なのだと解かりました。

 


 「パステル画を楽しむ」講座
第一作 武庫川女子大(甲子園会館)2008.5.14

 

 オープンカレッジでデッサンを学びたいと思ったのですが、空席がなくて同じ先生の「パステル」の方に運よく入ることが出来ました。先生の指導を受けながら、恵まれた環境の中で無心に描いている自分を感じることが時々あります。先日も、薫風のかおる美しい庭園の片隅にイーゼルを立てて、「今」この時に、夢の一端をそれは微かなものですが実現して描いていることを感じてとても幸せに思いました。

 私は、永いあいだ書を学んできました。師はその道の最高峰と言われるI先生です。筑波大学の名誉教授ですし、中国でも高く評価されている学者であり芸術家です。毎月のお稽古日は勿論のこと、錬成会、展覧会ときびしい指導を受けてきました。だからその道一筋を貫けばいいのですが、小さい時の夢がどこか心の隅にあるのです。残り少なくなったこの人生の余白に少しでも絵を習ってみたいのです。もうひとつ思い当たるのは、私は色に心を奪われるのです。美しい色を使って描いてみたいのです。

書でも、絵でもその作品が「生きているか!どうか」が大切といわれています。それには、正直に描くことだと思っています。絵の一年生として、自分の心をサラにして、先生の教えを受けたいと思っています。