その日も帝都は変わらなかった。 人も車も品物も、雑多に、それぞれ好き勝手に行きかい続ける。贅沢や奢侈はこの上なくもてはやされ、そのための消費は惜しげなく続けられ、己の嗜好と快楽をかなえるためならばどのような手段でも尊重されるべきと信じて、人々はガラスに囲われた世界でざわめき続ける。夜になればなおのこと派手派手しさが際立っていっそめまいがするほどだ。 その人々の蠢く街の真ん中にこれ見よがしの高層の建物がある。硬質な人工宝石のように張り巡らされたガラスが輝いているそこは、ある種の富裕層のための住居だ。各フロアをいくつか区切った四角い空間が住まいとして切り売りされていたが、ある程度の贅に慣れた帝都の人間すら目をむくような金額でやりとりされている場所でもあった。 その広大なフロアをまるごと住まいの敷地とし、ささやかながらあずまやのある中庭までをも設けられた場所――この帝都を支配する政府高官のひとりが住むその場所に、『彼ら』はいた。 手元からかすかな振動音が響いた。 連絡用の端末機だ。緊急事態以外は連絡を控えろと厳命しておいた。 (――それでも、ということか) 柳連二はめずらしく一瞬ためらって、ちらりと傍らの車椅子の老人を見やった。老人も気づいたのだろう。気を悪くした風もなく言った。 「どうぞ、取りたまえ」 自分も一瞬どうしようかと思ったのだが、目前の老人は寛容そうにうなずいている。「失礼」と呟いて端末機を手に取り、老人から数歩離れて応答した。 「――柳だ」 端末機の向こうから所員の声がする。簡潔に、そして冷静になろうと努めているようだったが、上ずった息遣いが耳についた。 「――そのまま好きにさせておけ。・・・・・・ああ、殺しそうになったら止めろ、だが他は好きなように、気が済むように、なんでもおもちゃにさせておくがいい。それほど無茶はせんはずだが、あまり近寄らないことだ――おまえたちの身の安全のためにもな。ああ、あとは帰還してから処理する。真田にも余計な手出し無用と伝えろ」 それだけを一息に告げると、柳はさっさと通話を終わらせる。 「いいのかね」 「ええ」 柳はうなずいて老人の車椅子のそぱへもどった。 中庭は全面ガラス張りで、そこから足下に街を一望できる。はるか見渡せば白銀のオーディンズタワーが輝いている。見下ろす街は綺羅綺羅しく飾り立てた女のようであった。この時刻、このような夜になってからもなお、いやそれだからこそいっそう仇に光り輝く紛い物の宝石だ。 「そろそろ約束の時間です」 「そうだの」 老人は特に興味なさげに言った。 「会長はまだお見えになりませんね」 「まあ、彼もいろいろと雑事がたてこんでおるのだろうて」 「私はともかく御老をあまりお待たせするのはよろしくありません。この後も、ご予定がおありでしょう」 「そのように無理無理、わしを気遣うことなんぞないぞ」 老人は乾いた笑い声を立てた。 「無駄な時間を費やされて、いらいらしとるのは君のほうだろう、柳君。本当ならこんなところで、下らぬ政治屋と夕食などともにしている暇はないのだろう――いいのかね、タワーのほうは」 「ええ」 「今しがたの連絡は、何か重大なことではなかったのかな。どうしてもせくようならばこちらに気兼ねせずとも良いぞ」 「お気になさらず。本当に必要であるならば何をおいても戻りますが」 そこで柳は少し間をおいて言った。 「“シグルド”が少々はめをはずしたようです。しかしたいした影響はないものと推察します」 「そうか」 老人は、梢をみあげて言った。 「機嫌よう、おるのか。“死の英雄”は」 「ええ」 「外に出たいとは言わんか」 「覚醒前に心理的なブロックを691通り張り巡らせてあります。あのタワーの中にいることに疑問は持ちません――それなりのおもちゃも与えてあります。ご懸念なく」 言いながら、柳は中庭を眺めた。 中庭、と言っても巨大なガラスの箱のようなもののなかに人工的に土を積みあげ、木や花を植えたものだ。中庭、と言うより巨大な温室ボックスのようなものかもしれない。しかし空調設備がよくないな、と柳は心中でひとりごちた。 ドームに覆われた帝都の中の空気は、人間にこそ無害だが植物はなかなかうまく育たない。何が違うのかいまだはっきりとは判明しないが、帝都のドームの中ではよほど気をつけてやらないと木や花は自然のままに成長しないのだ。 オーディンズタワーの中にしつらえてある空中庭園などは、それこそドールを成長させるのと同じくらいの慎重さで育成されている。さよう、タワーの空中庭園は単にドールたちの憩いの場のためだけでなく、帝都内でどのようにすれば植物が順調に育つかを検分する実験場でもあるのだ。 今はそこそこ整えてはあるけれども、いずれこの中庭の木々も枯れるだろう。そうしたらまた、帝都の外から見栄えのする木々などを運び込ませてくるに違いない。つぎはぎだらけの庭園はそれでも見た目だけは体裁よく、立派に整えられている。 その中庭への通用口であるガラスの扉がかすかな音を立てて開いた。 「失礼をいたします」 入ってきたのは、年の頃十七、八の少女である。 非常に美しい金髪の、また彼女自身もなかなか美しい娘であった。 仕立てのいい服を着せられていたが、その青い目には力も光もなく、言われたことを淡々と繰り返す人形のような口調でこう告げた。 「先客でおいでになった方とのお話が長引いてしまいました。まもなく『父』はこちらに参ります。大変お待たせし、お詫びの言葉もないとのことです。どうか今しばらく、お腹立ちでございましょうがおとどまりくださいませ」 「いや、なに、かまわんよ」 老人は寛容に言った。 「君の『父上』もいろいろと帝都の為にご尽力くだされているのだから、なにも数分のことで目くじらをたてることもあるまいて。のう柳君」 「ええ」 少女は、優雅ではあったが機械的に頭を下げた。 「ささやかながら、夕食を御用意いたしました。すぐに父がお席にご案内に伺います。どうぞ今しばし」 それだけを言うと少女は入ってきたときと同じ、ゆっくりとした足取りで出て行った。その後姿を眺めながら、老人がぼそりと言った。 「彼の“娘”だそうだ」 「それはそれは」 柳はたいして感慨もなく応じる。 「私は初めてお見かけする“娘”さんです」 「そうか。わしは二度目だ」 老人は面白くもなさそうに言った。 「なかなかお綺麗なお嬢さんではないですか」 「そう思うか」 「一般的な見地から言えば、整ったお顔だちのご令嬢です。――しかし、いつ来てもちがう『ご息女』がおられる」 「――」 「それほどたくさんのご養女がおありでしたか、あの方には」 「おお、ひとりにきまっているじゃないか」 老人は笑った。 「いろいろ最近は役所のほうもうるさいらしくての。帝都の外から養子に迎えられるのはひとりだけと決まっている。――もっとも彼は不幸なたちでなあ。その迎え入れた『ひとり』が、ここ最近は早々と先立ってしまう」 「ほう」 「決まって今の娘と同じ年頃の、美しい少年少女たちばかりだという。せっかく帝都の外から連れてきて手元で教育を受けさせようと言うのに、次々に不幸ばかり起きて、彼も胸が痛むというておったわ。無論、ひとりがいなくなれば次の子供たちを迎え入れてやっているそうだ。それもとても手際よくなあ」 「なるほど」 柳は鼻で笑った。かと言って、その不幸な子供たちに同情するわけでもなさそうであった。 「醜悪だの」 「そうお思いですか」 「君は? どう思うのかな」 「私には興味はありませんので、お答えは出来かねます」 柳の言葉は簡潔だった。彼はまさに心底そう思っているのだ。 「私には、オーディンズタワーの中が世界のすべてです。あれ以外のものはどうなろうと、高官の方々のご趣味がどうであろうと、あまり興味をひく対象にはなりません」 「君らしい答えだ。しかし君はそうでなくてはな。――いっそ君のような人間のほうが、わしなどにはよほど高潔な人種に思えるが」 「それは多少、買いかぶりすぎておられる。私など研究一辺倒で、なんの面白みもない学者にすぎません」 老人はよいよい、と言う風に手を振った。柳のその言葉が、彼には非常に気に入ったらしい。 「まあ君は、君の好きにしたまえ。わしがそう許しておるのだから。――と言うても、今日のようなときには君の大事な時間を奪ってしまうことに、わしは本当に、非常に申し訳なく感じておるのだよ。心底な」 「もったいないお言葉です。しかし私のことをそれほどお気にかけていただくことはありませんよ――ただ」 柳はそこでいったん言葉を切った。 「ひとつ、お言葉に甘えてお願いが」 「なにかね」 「政治家の先生の中におひとり、うちのドールに執着なさって仕方のないお方がいらっしゃるのをご存知ですか」 老人はすぐにはその当人に思い当たらなかったらしい。しばしの間、目を瞬かせていたが、口をしょぼしょぼさせながらうなずいた。 「ああ、ああ。あの男かね、ああ、よく知っておるよ。それがどうしたね」 「先刻の報告の中では、突然アポイントもなしにご訪問になり、タワーの禁止区域に侵入なさったようです」 「あの男も元気だのお」 老人はしゃがれた笑い声をたてた。 「何かな、やっぱりあの綺麗なお人形と添い寝したくてたまらんとな?」 「そのようですね」 「まあ確かにの。綺麗な、夢みたいなお人形さんだったの」 しゃがれた声で笑う老人であったが、柳は追従の笑みすら作らなかった。けれども、それなりの礼儀のとれた言葉で話しかける。 「しかしオーディンズタワーだけは別格です。御老もご存知の、言ってみれば治外法権中の治外法権――いかに御恩ある先生といえど、これ以上の傍若無人は私どもも看過しえません」 「わかっておる、わかっておるよ」 老人は手を振った。 「君の好きに処理をしたまえ。後始末はわしにまかせておくがいい」 「感謝いたします」 「“ラグナロク”を、さっさと過去の悪夢にしてしまう逃避も、ある意味現実的な手段かもしれんがな」 「――」 「悪夢の源を抱え込んでいるリスクをもまた夢物語にしおるようなら、それは無能なだけではない、もはや害悪だ」 「――」 「わしらは――わしはまだまだ死ねんのだ」 老人は、車椅子の背に改めてもたれなおし、ふかぶかとため息をついた。 「まだ死ねない。この国を一日も早く元通りにし、軍備を強化して、諸外国の脅威に備えねば。――そのためにはドールの治癒能力、不老の遺伝子が必要なのだ」 「――」 「ドールの戦闘能力も必要だ。今の倍・・・・・・いや、三倍も、四倍も、新たなドールを作らせよう。そのためなら国庫などからになってもかまわん。次の議会で防衛予算を倍増する。なに、帝都や地方からの税のどれかを倍額にすれば済む話だ」 「国民から反発は出ませんでしょうか」 「それだけの気概のある人間が、何人この帝都に残っておるやら」 老人は笑おうとして失敗し、かすかに咳き込んで、また続けた。 「それだけで見るなら、あのおろかな反政府組織どものほうがよほど見込みはあるかのう。なにせこの国にはもう、日々目新しい贅沢な消費活動に追われて、ちびちび小金を稼いでは使うのに必死な人間ばかりじゃ。そういう下々は、わしらが導いてやらねぱならん。暗愚な民人など、先のことは見えておらぬ」 「・・・・・・」 「あれほどのドールを開発できたのはわが国だけだ。このまま“ラグナロク”の余波でぐずぐずになるような国では・・・・・・そうだ、そんなことで滅びるようなわしらではないのだからな」 命少ない老人であったとしても、その言葉には驚くべき執着と力強さがこもっている。鬼火のように、払っても払っても消えうせぬ、不気味でおぞましい生命の残り火だ。 柳などから言わせれば、はからずも老人が先ほど口にした言葉通りそれこそ“醜悪”で、まさしくこの都市に救う“害悪”であるかのようだ。 しかし。 (――俺はそんなものに興味はないんだ) 彼の目的は定まっている。 彼の望みも定まっている。 そして、それをかなえるべく、彼の求めたピースは二つながら彼の手中にあるのだ。 ほどなく、ガラス扉の向こうから恰幅のいい初老の男があたふたと足早にやってくる。この住居の主のようだ。先ほどの美しい娘を傲岸に従えながら歩いてくるのを冷めた目で見ながら柳はもはや己のうちの世界と誓言に、その熱い奔流に心地よく意識を任せる。 (見ているがいい) 視界の端に捕らえた、遠景のタワーを横目に見ながら。 柳は、胸のうちで呟くだけのその言葉ですら誰にも届かぬように注意深く――けれども、老人以上の熱をこめた。 (見ているがいい。――最後の勝者は俺なのだ) 一方。 そのころ――。 柳が奇妙な熱のこもった視線を向けていた白銀のオーディンズタワーでは、柳の想像とは多少異なった光景が繰り広げられていた。 「大石」 めまいがする。 いつか見た光景と重なる。 あの炎の夜。 自分は後ろ手に縛められ身動きもとれず、サイレンは声高に鳴り続け。 明滅する闇、濃い鉄錆のにおい、暗転する世界。 あの始まりの――呪婚の夜と。 「――なんて、ことを」 英二は震えながら言った。 大石が片膝を乗り上げるようにして、へたりこむ英二を見下ろしてくるその――足下。 人間の――残骸、とでも言いたくなるような肉塊は、潰された首の動脈から勢いよく血を噴出すのをようやくおさめたところであった。首から下がまともな、たいそうなスーツなど着込んだ男の身体であるから、よけいにその潰れた肉のおぞましさから目を離せない。 この世界で生き抜くにあたり、英二でも何度かは酸鼻を極める光景を目の当たりにしたし、それなりの修羅場も潜り抜けたりもしていたが、それでもこんなものを見慣れるはずはないのだ。 「どうして。殺すようなことじゃ」 血の匂いで倒れそうになりながら英二はかすれた声で抗議したが、大石は英二のその不快感にはとりあわない。むしろ自分の身に起こっていることに、非常に怒りを覚え、そのことを糾弾したいらしい。 「この男の声は不快だ」 「不快、って。大石」 「その上に、お前の声が聞こえてくる」 彼は本当に『不快』そうに言った。 「離れていてもお前の声が届いてくる。さっきは俺を呼んだな」 「――・・・・・・」 今はただの肉塊と成り果てている男に、あわや蹂躙されようかと言うところで――確かに自分は、彼の名を呼んだ。 「おまえの声を聞くと心拍が不安定になる。集中力も低下する。だから確認しにきた――おまえは何者だ。何故俺にお前の声を無理やり聞かせている」 「大石」 英二はたまらず身を起こした。 「本当に俺のことがわからないの、大石」 「――実験体の子供だろう」 「俺だよ。英二だよ。――ずっと一緒にいただろ、あの」 あの閉ざされた鋼鉄の城で。 世界から追われ身をひそめ。 ただふたりきりで。 「俺と一緒にいただろ、ずっと一緒に暮らしてた。ほんとに忘れちゃったの」 「――」 「あの黒いお城みたいなところにずっといたことも? 白い樹のあるところのことも、小さな花の咲いてた場所のことも」 「――」 「俺と約束したことも」 英二は自分で言いながら、やや呆然として言った。 「ほんとうに、忘れたの・・・・・・ねえ、大石」 「黙れ」 大石は低く言い放つと、英二を乱暴に押さえ込んだ。 「おまえなど」 そうして彼は――大石はわずかながら動揺していた。 先刻から彼が悩まされている『不快』な現象がますます顕著になっている。その原因がなぜか見当たらないのだ。 「お前の声など聞きたくない」 ベッドにねじ伏せた英二の耳元で彼はささやいた。まるで、かつてあの鋼鉄の城で、あの濃緑の褥で吐息に絡んだ彼の声のように。 「息が詰まる。正常に思考が出来なくなる」 大石の切れ長の美しい眦が、小さな水滴をひと粒浮かべた。だがそれはあっと言う間に零れ落ち、英二が目にすることもないまま、荒れ放題の布のあいまに消えうせる。 英二をうつ伏せにして押さえ込んだのも、悲しげに揺れる大きな瞳を見ていると、比喩でなく胸が潰れるかと思うほどの痛みが大石を襲っていたからだった。 痛みには慣れているはずなのに、何故この苦痛に限ってはこれほど耐えがたいと思わせるものがあるのか、彼にはわからなかったのだ。 「お前のような存在を俺は知らない。ドールではない、D2だと柳は言った。Dコードの融合体だとも。どうしてお前がそんな、取るに足らぬ、意味のわからぬ言葉でしゃべっている間、俺はこれほど身体機能の低下を招かなければならない。いったいどんなプログラムで俺を滅ぼそうというんだ。お前の中に何がある」 「――」 「おまえは何者だ」 「――大石」 英二が肩越しに振り返ろうとしたが、大石はそこで何かに気づいたようだった。英二の腕につけられた銀色のプレート――彼はそれを目ざとく見つけて触れた。それが何なのか、何の役目を果たしているものか大石にはわかっているようであった。 ドールの能力と精神状態、感情を制御し、また時に際立たせる役目をも持つプレート。 「――これがお前の能力を邪魔しているものか。これのせいで」 「・・・・・・」 「お前の正体が掴めないのか?」 そういうと、大石は英二の皮膚にぴたりと薄く張り付くプレートの端に、美しい指先を無理やりねじ込もうとする。気づいて英二は思わず悲鳴をあげた。 いつか大石が彼自身の皮膚からそれをはがしたように、いま再び彼は英二の腕からそれを取り除こうとしているのだ。 あのときと同じく――なんの頓着もなく。英二がそれで受けるいたみなど、意識の隅にもおかぬまま。 英二はまだしっかりと後ろに両手を拘束されている状態で、その姿勢のままうつぶせに押さえつけられ、腕を固定されたらもう動けない。 「やめて、大石っ」 息をするのも忘れて叫んだが、大石はまったく躊躇しなかった。それどころか英二の叫び声も『不快』であったのだろう、英二の頭を押さえつけて声を出せないようにしてしまう。 英二が絶望的な気分になると同時に、頭の中でいやな音がする。 肉がはがれる音、めりめりと筋繊維が裂ける音。腕や背中に引き攣れるような激痛が走る。痛みは凄まじい白い光となって、英二は思わず絶叫した。 そのとき。 なんということのない作業のように、英二の腕からプレートをはがし始めていた大石が、ふと背後を振り返る。 「あんまりいじめないであげて」 「・・・・・・」 「かわいそうでしょう」 いつのまにそこに居たのか。 どぎつい真紅に飾り立てられたけばけばしい室内に、まるでそぐわぬ白い花が出現したかのようであった。 それは“彼”の着ている、異国風の古代めいた白い裾長の衣装のせいであったかもしれないし、“彼”自身の月のような美貌のせいで、そう思わせるのかもしれなかった。 「実際に会うのははじめて――こんばんは、“シグルド”。俺の名前は」 “彼”は首をかしげ、柔らかい黒髪で縁取られた白い面輪を、まさしく月光のように清々と輝かせながら微笑んだ。 「―― “Friggjar”」 |
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