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パソコン作業時のBGM再生用にと、机の上に小さいスピーカを置いて小音量で鳴らすためのミニアンプを製作しました。 パソコンのヘッドホン出力につないでパソコンの音を鳴らすこともできます。 |
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専用のICとかを使えば、簡単に製作できますが、それではあまり面白くないし、とは云え、簡単、手軽に、コンパクトに仕上げたいので、トランジスタで組み上げることにしました。 |
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●スペック |
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何はともあれ、まずどういうものを作るかですが、基本的な希望を出すと、 ・電源電圧:DC6V(乾電池4本で動作する) ・最大出力:100〜300mW前後(8Ωのスピーカを駆動する。大きな音は出さないので、大きな出力はいらない、でもまあこの位はほしいかな?) とりあえず、こんなもの。 |
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●おおまかな構想 |
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8Ωのスピーカで、100〜300mW出すとすると、P=V^2/Rから、およそ、0.9V〜1.6V(RMS)(実効値)つまり1.26Vp-p〜2.19 Vp-pの電圧をスピーカに出力しなければなりません。CDプレーヤーなどのライン出力からだいたい200mV出ているとすると、5.5倍〜8倍しなければなりません。さらに、けっこう負荷の大きいスピーカを駆動するには、電流もそれなりに流さなければなりません。 とはいえ、あまり大げさにはしたくないので、2段構成のアンプとし、初段は電圧増幅、次段で電流増幅とします。 |
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初段は、図のような電流帰還バイアスのエミッタ接地増幅回路にしました。電子回路の教科書には必ず載っている、基本回路です。エミッタとGNDの間の抵抗Reの御利益で、トランジスタの熱暴走を防止し、安定動作をする、カッコイイ回路です。 |
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で、設計手順(あくまで一例)は次のとおりです。 中学校くらいで習う、基本中の基本、“オームの法則”のみで、ほとんど求まります。
☆前提として、電源電圧は6V、使用するトランジスタは小信号用としてはかなりポピュラーな“2SC1815”の、hfeランクGRを使用。(手許にいっぱいあるので) 増幅度は、5.5倍から8倍必要ということで、7.5倍を目指します。
☆大きな出力振幅を得るには、トランジスタのコレクタ電位を、電源電圧のだいたい半分になるように設定します。 ・・・まあ、欲しい振幅が得られれば、あまりこだわることはないので、ホントにだいたい半分です。(適当な私の性格・・・)
@ コレクタ電流IC及び、負荷抵抗Rcを決める。 コレクタ電流ICは、トランジスタの電流容量に余裕をもたせ、2mAとしました。 コレクタ電位は電源電圧6Vの半分の3Vにしますから、負荷抵抗Rcにかかる電圧はあと半分、残りの3Vです。 これらから、Rcの値を求めると、R=V/Iから、3V/2mA=1.5kΩと求まります。
A エミッタ抵抗Reを決める。 詳しい話は割愛させていただきますが、(^^ゞ 電圧増幅度AvはRcとReの値の比で決まります。つまり、電圧増幅度Av=Rc/Reになります。 電圧増幅度は7.5倍にしますので、Re=Rc/Av=1.5kΩ/7.5=200Ωと求まります。 (IBを無視すると、Reにも2mA流れているので、Reでの電圧降下は 200Ω・2mA=0.4Vです。) (実際の値はE24系列から220Ωとしました。) |
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←ここまでを回路図中にまとめると、こうなります。 |
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B ベース電流IBを求める。 ベース電流IBは、使用するトランジスタのhfeから見当をつけます。トランジスタの特性として、IBのhfe倍の電流がコレクタに流れますから、IC=hfe・IBの関係があります。この関係から、IB=IC/hfeになります。 ここで使用している2SC1815のGRランクのhfeは200〜400なので、hfeを中間の300とすると、IB=IC/hfe= 2mA/300=6μAと求まります。
C Ra及びRbを決める。 先ず、Rbを決めます。Rbは、ベース電圧の安定化のためのブリーダ抵抗です。トランジスタを安定に動作させるには、Rbにはベース電流よりも十分大きな電流を流す必要があります。ベース電流6μAの10倍流すとして、ここに流れる電流は60μAです。さらに、この抵抗にかかる電圧は、(エミッタ抵抗Reにかかる電圧)+(ベース‐エミッタ間電圧VBE)・・・つまりベース電位と同じです。エミッタ抵抗Reにかかる電圧は、先に求めたように0.4Vです。また、ベース‐エミッタ間電圧VBEは、シリコントランジスタの場合だいたい0.7V程度です。 つまり、Rbにかかる電圧(=ベース電位)は0.4V+0.7V=1.1Vです。 これらから、Rb=1.1V/60μA=18.3kΩと求まります。 (実際の値は、E24系列から18kΩになりますが切らしていた ^_^; ので、手許にある一番近い値で、少し小さいですが16kΩとしました。)
次に、Raを決めます。Raには、トランジスタのベースに流れ込むベース電流6μAと、ブリーダ抵抗Rbに流れる60μAを足し合わせた電流が流れていますので、6μA+60μA=66μA流れます。さらに、Raにかかる電圧は、電源電圧からRbにかかる電圧を差し引いた値なので、6V-1.1V=4.9Vです。 これらから、Ra=4.9V/66μA=74.2kΩと求まります。 (実際の値はE24系列から75kΩとしました。) |
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←以上のように求めた値を回路図中にまとめると、こうなります。 (コンデンサの値は後で決めます。) |
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☆コレクタ損失 トランジスタで消費する電力をコレクタ損失といいます。ここで消費した電力は、全て熱になるため、使用するトランジスタに定められている最大定格に対し余裕を持った使い方をしないと、昇天します。 今回の場合、コレクタ抵抗Rcに3V、エミッタ抵抗Reに0.4V掛かるので、トランジスタには、Vcc6V-3V-0.4V =2.6V掛かり、電流は2mA流れるので、コレクタ損失はP=V・I=2.6V・2mA=5.2mWです。 使用している2SC1815のコレクタ損失の最大定格は400mWなので、十分余裕があり、問題ないです。 |
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出力段は、図のような回路です。これは、コレクタ接地、またはエミッタホロア(フォロワ)と云う回路です。初段で使ったエミッタ接地回路との大きな違いは、出力を取り出す場所で、エミッタ接地回路ではコレクタから出力を出してましたが、エミッタホロアはエミッタから出力を取り出します。このようにすると、電圧増幅度は1・・・つまり増幅しません・・・が、電流を多く取り出すことが出来ます。つまり、電流増幅回路です。 なお、エミッタホロア回路は、その回路構成で既に電流帰還が掛かっていて、このような簡易バイアスでもけっこう安定した動作をします。ので、今回の製作もこの特長を利用して簡易バイアスにしました。
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設計手順(あくまで一例)は次のとおりです。 これも、“オームの法則”のみで、ほとんど求まります。
☆前提として、電源電圧は6V、使用するトランジスタは“2SD2012”と云う、廉価な汎用パワートランジスタ(手許にたまたまあったので)にします。
@ エミッタ電流IE及び、エミッタ抵抗Reを決める。 エミッタ電流IEの値は、ある程度大きくしなければなりません。出力にスピーカをつないだ時、交流的な負荷はエミッタ抵抗Reとスピーカのインピーダンスの並列合成になります。このため、Reの値が下がってしまい、オームの法則でエミッタ電位も下がってしまいます。エミッタ電位は出力波形の中心になるので、エミッタ電位が下がると出力波形の中心も下がってしまい、波形の下側がクリップしてしまいます。 V=IRですから、IEを大きくしておけば、エミッタ電圧VEの電位も下がりにくいワケです。 負荷のスピーカは、8Ωという重たい負荷ですので、エミッタ電流IEは100mA流すとします。また、エミッタ電位は電源電圧の半分にしますが、今回はエミッタ電位が多少下がってもいいように、半分より気持ち上げ目にしました。と云うワケで、エミッタ抵抗Reの値は、36Ωとしました。エミッタ電流が100mAだった場合、エミッタ電位は3.6Vになる構想です。なお、エミッタ抵抗Reで消費される損失(電力)は、P=V^2/Rから、3.6V^2/36Ω=0.36Wになります。一般的に多用する1/4W(0.25W)では完全にオーバーします。ここは余裕をみて、1W品を使っています。
A ベース電流IBを求める。 今回使用する2SD2012は、データシートによるとhfeは100〜320の間でバラつきます。だいたい中間あたりでhfe=200で考えると、IC≒IEとすると、IC=hfe・IBから、IE≒hfe・IB、これから、IB≒IE/hfe=100mA/200=0.5mAと求まります。
B Raの値を決める。 今回の回路にはブリーダ抵抗がないので、ベースに流れる電流IBがそのままRaにも流れます。なので、Raに流れる電流は0.5mAです。さらに、先に求めたように、エミッタ電位は3.6Vです。ベース‐エミッタ間電圧VBEはだいたい0.7V程度なので、ベース電位は3.6V+0.7V=4.3Vです。Raにかかる電圧は電源電圧からベース電圧を差し引いた残りの電圧なので、6V-4.3V=1.7Vです。 これらから、Ra=1.7V/0.5mA=3.4kΩと求まります。 (実際の値はE24系列から3.3kΩとしました。) |
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←以上のように求めた値を回路図中にまとめると、こうなります。 (コンデンサの値は後で決めます。) |
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☆コレクタ損失 使用している2SD2012のコレクタ損失は、放熱器なしの場合、2W(周囲温度25℃)です。実際に消費している損失は、エミッタ抵抗Reに3.6V掛かるので、トランジスタに掛かる電圧は2.4V、流れる電流は100mAとすると、0.24Wと、十分余裕があります。 |
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設計した2個の回路をそのままつなげてみると、左の図のようになります。 これでも動作しますが、もう少し簡素化しましょう。 中央に、カップリング用途のコンデンサが2個直列になっています。これを1個にまとめます。 あと、Vcc(電源)が別々になっているので、これもひとつにまとめます。すると、右のようになります。 コンデンサはそれぞれ、C1、C2、C3と名付けておきます。 |
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コンデンサC1〜C3は、接続する装置、または段間で、直流分はカットし、交流分のみ伝えるためのもので、結合コンデンサ、カップリングコンデンサと云うものです。これは回路的に、ハイパスフィルターを成しているので、これらのコンデンサは値をあまり小さくすると、低音域がカットされてしまい、低音が出ないアンプになってしまいます。これらの値は、次の式で求めます。 C=1/2π・f・Zi (C:コンデンサの静電容量(F)、f:低域の遮断周波数(Hz)、Zi:入力インピーダンス(Ω))
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・C1の値 ここでネックなのは、初段の入力インピーダンスです。入力インピーダンスさえ分かれば、あとは希望する遮断周波数を決めれば求まります。 初段の入力インピーダンスを決めているのは、まずブリーダ抵抗Rbの16kΩが関係しているのはなんとなく分かります。あと、バイアス抵抗Raの75kΩ、それとhie(トランジスタ自体の、入力インピーダンス)に関係します。 ブリーダ抵抗Rbと、hieは、何れもベース端子とGND間で、直感的に並列関係になっているとわかりますが、実はVcc(電源)は、交流的には接地されていると考えます。つまり、(あくまで交流的に考える場合)電源はGNDと考えます。こうなると、バイアス抵抗Raも、ベース端子とGND間に入っていると考えられます。 つまり、初段の入力インピーダンスはRa、Rb、hieの並列合成です。hie の値は、2SC1815(GR)をエミッタ接地でコレクタ電流2mA(今回の初段の使い方)にすると、ある資料によると4kΩ位です。 これらから、初段のZiは、Zi=Ra//Rb//hie =75kΩ//16kΩ//4kΩ≒3.1kΩです。 (記号 // は、並列合成計算の記号です。) あと、低域の遮断周波数(Hz)はあくまで一般的に言われている、人の可聴周波数帯の20Hz〜20kHzから、20Hzとすると、C1の値は次のように求まります。 C=1/2π・f・Zi=1/2π・20Hz・3.1kΩ≒2.57μF となります。C1の値は、これよりも十分大きい、10μFとしました。
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・C2の値 C2の値は、出力段の入力インピーダンスが分かれば、C1の時と同じように求まります。 エミッタホロアの入力インピーダンスは、バイアス回路を別にすれば次式に近似できます。 Zi≒hie+hfe・(Re//RL) ・hfe:電流増幅率 ・Re :エミッタ抵抗 ・RL :負荷抵抗(スピーカ)
hie の値は参考にする資料がないため、hie=VBE/IBの式と、使用しているトランジスタ(2SD2012)のデータシートに載っている特性グラフから見当を付け、だいたい80Ωとしました。 この式から入力インピーダンスを求めると、hfeが200として、 Zi≒80Ω+200・(36Ω//8Ω)=1.39kΩ です。 出力段全体の入力インピーダンスは、これにさらにバイアス抵抗の3.3kΩが並列に入りますので、(初段のバイアス抵抗と同じ考え方)だいたい978Ωとなります。 これから、C2の値を求めると、 C=1/2π・f・Zi=1/2π・20Hz・978Ω≒8.14μF となり、C2の値は、これよりも十分余裕をみて、47μFとしました。
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・C3の値 C3の値は、スピーカのインピーダンスとのかね合いで決めます。
C=1/2π・f・Zi=1/2π・20Hz・8Ω≒995μF
となり、1000μFとしました。
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実際に初段と出力段をつないでみると、初段の出力振幅がつなぐ前より小さくなってしまいました。 (↓はだいたい1kHzの正弦波を入れた時の入出力波形です。) |
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ところが・・・ 出力段をつなぐと ⇒ |
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(0.5V/div 0.5ms/div) ↑初段単体の入出力波形です。 (上:出力 下:入力) 計算上の電圧増幅度は、Av=Rc/Re =1.5kΩ/220Ω≒6.8倍 に対し、波形ではだいたい200mV入力の時、1.3V出力です。 1.3V/200mV=6.5倍 だいたい計算どおりです。 |
(0.2V/div 0.2ms/div) ↑出力段をつないだ時の、初段の入出力波形です。(上:出力 下:入力) 出力段をつなぐと、出力の振幅が小さくなってしまいました。出力段の入力インピーダンスがけっこう低いので、影響を受けているようです。 |
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そこで・・・ 初段のエミッタ抵抗Reに並列に、コンデンサを入れました。(エミッタバイパスコンデンサ)。こうすると、交流的にみるとReはコンデンサでバイパスされ、トランジスタ2SC1815のエミッタは、直に接地されているのと同じことです。 この時の電圧増幅度は、Av=Rc・hfe となり、コンデンサ無しの時と比べるとかなり増幅度はupします。 ただし、コンデンサだけでは増幅度が大きくなりすぎなので、コンデンサと直列に抵抗を入れ、増幅度を加減しました。 コンデンサの値については、あまり小さくすると、低域ではエミッタが接地されないことになり、低域の増幅度が落ちます。次式で決めます。 Ce=1/2π・f・Re=1/2π・20Hz・220Ω≒36.2μF この値より大きければいいので、100μFにしました。 また、直列に入れる抵抗は、カット&トライで150Ωにしました。 ここまでを回路図に書くと右のようになります。 |
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ところで、こう云う小出力のアンプは、スピーカが鳴らせるとはいえ、パワー不足のため、低音域の量に限界があり、高音域が少し目立ちすぎる印象です。そこで、高音域を、少しカットしました。(好みの問題ではありますが。)具体的には、出力段のバイアス抵抗と並列に、コンデンサを入れました。交流的に電源はGNDとみなせるので、入力−電源間に並列に入れたコンデンサは、入力−GND間に並列に入れたことと同じになり、つまりローパスフィルターを成します。 コンデンサの値は、カット&トライで0.01μFにしました。 この時の遮断周波数は、C=1/2π・f・Ziを変形させ、f=1/2π・C・Zi になり、 Ziは先に求めたようにだいたい978Ωなので、 f=1/2π・0.01μF・978Ω≒16.3kHzです。
なお、この部品は音質の好みで、付けるか付けないか、あるいは値を変えるかを決めます。 |
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これで、アンプ部の全ての部品の選定ができました。入力に音量調整のためのVR(50kΩ/Aカーブ)を付け、右の回路図のようになります。 図中の電圧値は、実測定した、対GNDの電圧、電流値は計算で出した値です。 なお、最大出力は1.3Vp-pつまり、だいたい100mW位です。 |
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