平成14年1月25日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成12年(ワ)第2231号 懲戒処分無効確認等請求事件

平成13年10月4日口頭弁論終結

判         決

  原告                                   古川 雅昇、近藤 則明 

  被告                                   本四海峡バス株式会社
                                           代表者代表取締役 川真田 常男

主         文

  1. 被告の原告らに対する以下の各懲戒処分が無効であることを確認する。
(1) 原告古川雅昇に対する、平成12年5月12日付同月15日から21日までの7日間の出勤停止処分及び同月22日付同月24日から26日までの3日間の出勤停止処分

(2) 原告近藤則明に対する、平成12年5月12日付同月15日から18日までの4日間の出勤停止処分及び同月22日付同月24日から26日までの3日間の出勤停止処分
  1. 被告は,原告古川雅昇に対し、金24万9523円並びに内金4万9523円に対する平成12年6月26日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金20万円に対する平成12年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  1. 被告は、原告近藤則明に対し、金22万0473円並びに内金2万0473円に対する平成12年6月26日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金20万円に対する平成12年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  1. 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
  1. 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
  1. この判決の2、3項は仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

  1. 主文1 項と同旨。
  2. 被告は,原告古川雅昇に対し,金54万9523円並びに内金4万9523円に対する平成12年6月26日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金50万円に対する同年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 被告は,原告近藤則明に対し、金52万0473円並びに内金2万0473円に対する平成12年6月26日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金50万円に対する同年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

  1. 本件は,被告の従業員である原告らが、被告に対し、以下の請求をする事案である。
    (1) 被告の原告らに対する主文1項掲記の各懲戒処分の無効確認請求

    (2) 被告に対する,上記各懲戒処分によって減少した平成12年6月分(同月25日支給分)の各賃金(原告古川・4万9523円,原告近藤・2万0473円)及びこれらに対する弁済期の翌日(平成12年6月26日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による各遅延損害金の支払請求

    (3) 被告に対する、不法行為に基づく慰謝料各50万円及びこれらに対する訴状送達日の翌日(平成12年10月27日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の支払請求
  2. 争いのない事実等(末尾に証拠の標目の記載のない事実は当事者間に争いがない)

 (1) 当事者

 被告は、一般乗合旅客自動車運送事業等を業とする株式会社であり、本四連絡橋(明石海峡大橋)開通による一般旅客定期航路事業者の事業縮小に伴う対策として、新事業の展開,船員等の雇用確保を目的として、平成7年4月14日に設立された。
 被告は、明石海峡大橋の開通に伴い、平成10年4月6日から大阪・神戸一淡路一徳島間のバス路線を西日本ジェイアールバス及びJR四国と共同運行している。
 被告の営業開始時の従業員は83名(うち64名は船員等の本四連絡橋関係離職者)で、そのうち運転士、整備管理者は49名であった。
 原告古川は平成10年4月1日付で、原告近藤は同年12月21日付で、それぞれ被告徳島営業所所属の運転士として採用された被告の従業員である。

 (2) 前提事実ないし背景事情

 上記のとおり、被告の従業員の大部分は元船員であったため、被告の運転士及び整備管理者は全員が労働組合・全日本海員組合(以下「全日海」という。)に所属していた。被告と全日海との間には、ユニオンショップ協定が締結されている。原告らは,平成11年7月30日,当時在職していた運転士、整備管理者56名とともに、全日海に対して脱会届を提出するとともに、全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)に対する加入届を提出した(甲3の1ないし3)。全日海は、平成11年8月6日、全港湾において中心的活動を担っていた組合員中田良治,同日野隆文及び同板谷節雄の3名(以下「中田・日野・板谷」という。)を除名処分とし、被告に対し、ユニオンショップ協定に基づいて中田・日野・板谷の解雇を要請した。上記要請を受け、被告は、平成11年8月9日,中田・日野・板谷に対し解雇の意思表示をした。
 原告ら及び中田・日野・板谷を含む全港湾組合委員らは、平成11年8月9日,被告に対し、全港湾関西地方神戸支部本四海峡バス分会の結成を通知するとともに、団体交渉に応じるよう求める書面、緊急要求を記した書面及び中田・日野・板谷の解雇撤回を求める書面を被告に送付し、これらの書面は翌10日被告に到達した(甲6の1ないし4,甲7)。
 しかしながら、被告は、全日海が原告らを含む全港湾組合員らの脱退を認めない以上、全港湾との労使関係を持たず、団体交渉に応じる意思もないという姿勢をとり続けた。

 (3) 原告らに対する各懲戒処分

ア 原告古川に対する第1次懲戒処分
 被告は、原告古川に対し、平成12年5月12日,同月15日から21日まで7日間の出勤停止処分(以下、「原告古川に対する第1次懲戒処分」という。)をした。
 被告の賞罰委員会懲戒決定通知書によれば、処分の理由は、原告古川が、職務上規律違反により、就業規則96条1ないし3号及び12号に該当する行為を行ったこととされている。
イ 原告近藤に対する第1次懲戒処分
 被告は,原告近藤に対し、平成12年5月12日、同月15日から18日まで4日間の出勤停止処分(以下、「原告近藤に対する第1次懲戒処分」という。)をした。被告の賞罰委員会懲戒決定通知書によれば、処分の理由は、原告近藤が,安全注意義務違反により、就業規則96条1号及び4号に該当する行為を行ったこととされている。
ウ 原告らに対する各第2次懲戒処分
 被告は,原告らに対し、平成12年5月22日、同月24日から26日まで3日間の出勤停止処分(以下、「原告らに対する各第2次懲戒処分」という。)をした。被告の賞罰委員会懲戒決定通知書によれば、処分の理由は、原告らが、就業規則21条及び22条に違反し、同96条1ないし3号及び12号に該当する行為を行ったこととされている。

 (4)上記各懲戒処分に関連する被告就業規則の規定内容は以下のとおりである。

21条 (会社施設内等における集会,政治活動等)
1項 運転士等は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしてはならない。
2項 運転士等は、勤務時間中に又は会社施設内で、選挙運動その他の政治活動を行ってはならない。
22条 (勤務時間中等の組合活動)
運転士等は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。
96条 (懲戒の基準)
1号 法令、会社の諸規定等に違反した場合

2号 上長の業務命令に服従しなかった場合

3号 職務上の規律を乱した場合

4号 注意を怠り又は必要な助言、諌止又は援助を欠き、よって事故を発生させ、あるいは損害を拡大させた場合

12号 その他著しく不都合な行為を行った場合
97条 (懲戒の種類)
1項  1号 懲戒解雇 予告の期間を設けず,即時解雇する。

    2号 諭旨解雇 予告の期間を設けず,即時解雇する。

    3号 出勤停止 30日以内の期間を定めて出勤を停止し,将来を戒める。

    4号 減  給 貸金の一部を減じ,将来を戒める。

    5号 戒  告 厳重に注意し,将来を戒める。

2項 懲戒を行う程度に至らないものは訓告する。

 3 争点

 本件の争点は,@本件各懲成処分は有効な懲戒処分であるかどうか,A本件各懲戒処分の不当労働行為性と原告らに対する不法行為の成否,B原告らの未払貸金請求の当否である。

 (1) 原告古川に対する第1次懲戒処分の有効性

  ア 被告の主張

(ア) 処分対象事由
 原告古川は,平成12年2月ころ,被告役員と面談した際,原告古川を含む被告徳島営業所勤務の従業員全員が全目海の組合員であると発言した。しかし,その後,被告は,原告古川が上記発言と矛盾する態度を取っていること,全日海から高速代金等を受け取っていること,これに関連した同原告の名誉にかかわる金銭問題も生じているようであることなどの情報を得て,被告と原告古川との間の信頼関係を維持するためには同原告から直接これらの事情について確認する必要があると判断した。
 そこで,被告は,原告古川に対し,平成12年4月14日,同原告に対する上記事情の聴取及び事実確認等のため被告本社に出頭命令を発した。
 ところが,原告古川は,同日,全港湾組合員らと徒党を組んで出頭し,同組合員らが被告の役員を取り囲んで暴言を吐く等脅迫的な行動に出る等して騒乱状態を作り出した結果,上記事情聴取等の業務遂行が不可能になった。
 原告古川の上記行為は,被告の業務遂行を阻害したものであり,就業規則96条1ないし3号及び12号に該当する。そこで,被告は,原告古川に対し,同97条1項3号に基づき7日間の出勤停止処分をしたものである。
(イ) 処分の相当性
上記処分は給与の減額を伴わないものであり,かつ,事実上の自宅謹慎処分に過ぎないから,原告古川に不利益は生じていない。また,同処分は,原告古川と長時間面談し,その結果を踏まえて賞罰委員会を開催し,慎重な審議を経たうえで決定されたものであるから,手続的にも何ら違法はない。しかも,原告古川は同処分に納得していた。
(ウ) したがって,原告古川に対する第1次懲戒処分は有効である。

  イ 原告古川の認否及び反論

(ア) 原告古川に処分対象となるような事由は存在しない。
 被告の主張によれば,原告古川に対する第1次懲戒処分の対象事由は,被告が,同原告に対する事情聴取のために出頭を命令したのに,結果的にその事情聴取ができなかったことと解される。
 しかし,被告のいう事情聴取とは,後記原告古川に対する第1次懲戒処分の不当労働行為性において記載のとおり,原告古川の所属労働組合に関する真意の確認のためのものであったことが明らかであるところ,そのような趣旨・目的で出頭命令を発すること自体,明白な不当労働行為である。のみならず,被告の真の目的が事情聴取にとどまらず,原告古川を全港湾から脱退させることにあったことも明白である。以上のとおりで,被告のいう事情聴取のための出頭命令は,それ自体が明白な不当労働行為であって,正当な業務命令とは認められないから,被告において事情聴取できなかったとしても,それをもって原告古川に対する懲戒処分事由とすることはできない。
 しかも,被告は,原告古川に対する事情聴取を現に行っており,これができなかったり,あるいは妨害されたような事実も存在しない。
(イ) 手続違反
 原告古川のいかなる行為が就業規則96条1ないし3号及び12号に該当するかについては,平成12年5月12日付賞罰委員会決定通知書に「職務上規律違反」と記されているだけであって,懲戒処分であるにもかかわらず,処分対象事由が全く特定されていない。かかる処分辞令は,被処分者が弁明することのできないものであるから,原告古川に対する第1次懲戒処分は手続上も失当である。

 (2) 原告近藤に対する第1次懲戒処分の有効性

  ア 被告の主張

(ア) 処分対象事由
 原告近藤は,平成12年4月18日,新神戸発13時35分のバスに乗務した際,シートベルトの着用を怠ったまま運転した。これは法令違反行為である。しかも,被告は,乗客から訴えを受けた徳島陸運支局から呼び出され,厳重注意を受けるとともに,早期かつ厳正な対処とその報告を求められた。このことは,安全運行を最大の使命としている被告の信用を著しく傷つけるものであった。
 以上の事実に照らすと,原告近藤のシートベルト不着用運転は,被告就業規則96条1号及び4号に該当する。
 そこで,被告は,原告近藤に対し,同97条1項3号に基づき,4日間の出勤停止処分をしたものである。
(イ) 処分の相当性
 上記処分は給与の減額を伴わないものであり,かつ,事実上の自宅謹慎処分に過ぎないから,原告近藤に不利益は生じていない。
 同処分は,原告近藤と長時間面談し,その結果を踏まえて賞罰委員会を 開催し,慎重な審議を経たうえで決定されたものであるから,手続的にも何ら違法はない。しかも,原告近藤は,反省の上「今後はこのような行動はいたしません」と被告役員に誓約し,同処分に納得していた。
 原告近藤は,上記処分が不当に重い処分であると主張する。
 たしかに,原告近藤は,上記処分を受ける前には一度も懲戒を受けていなかった。しかしながら,被告は,営業開始当初,経営基盤の安定や営業業務の正常化等に重点を置いてきたこと,従業員の懲戒の手続が明確でなかったことから従業員の懲戒を一切行っていなかったけれども,設立以来2年を経過したため,社内規律の強化を図り,プロドライバーとしての自覚を強く持たせることが必要であると判断し,過去にさかのぼらず,平成12年4月以降だけを対象に懲戒処分を行うことを決め,社内にも公表し,従業員への周知徹底を図っていたのである。
 したがって,原告近藤に対する第1次懲戒処分は,被告創立以来初めての懲戒処分であるから(なお,原告古川に対する第1次懲戒処分もこの点では同様である。),原告近藤がこれまでに懲戒処分を受けていないことを理由に,同処分が不当に重い処分であるとはいうことはできない。

  イ 原告近藤の認否反論

(ア) 原告近藤が,平成12年4月18日,シートベルトを着用せずにバスを運行したという処分対象事由は認める。
(イ) 就業規則の適用の誤り
 被告の平成12年5月12日付賞罰委員会決定通知書によると,原告近藤に対する懲戒処分事由は,安全注意義務違反により就業規則96条1号及び4号に該当する行為を行ったこととされている。
 被告就業規則96条1号には「法令,会社の諸規定等に違反した場合」と規定されているところ,たしかに,原告近藤のシートベルト不着用は「安全注意義務違反」に該当する。しかしながら,同条4号には「注意を怠り,又は必要な助言,諌止又は援助を欠き,よって事故を発生させ,あるいは損害を拡大させた場合」と規定されており,従業員の不注意等によって事故及び損害が発生した場合を想定していることが文理上明らかであるから,原告近藤のシートベルト不着用はこれには該当しない。
 また,被告は,原告近藤のシートベルト不着用が徳島陸運支局に通報されることとなり,被告が同局から注意を受けたことをもって上記4号に該当すると主張し,これをもって出勤停止4日間という重い懲戒処分の正当化を試みるようであるが,被告は同原告のシートベルト不着用によって生じた被告の具体的損害について一切主張していない。
(ウ) 処分の不相当性
 たしかに,シートベルトの着用は,運転業務に当たる従業員の義務である。しかしながら,被告のみならず,多くのバス会社においては,現実にはバスの運転士のほとんどはシートベルトを着用せずにバスを運行している実態がある。また,被告の他の従業員の中には,無断欠勤した従業員,高速道路の料金所で正規の料金を支払わないとして問題とされた従業員,物損事故を度々起こした従業員,乗客の荷物を誤って降ろし,そのまま放置して発車してしまった従業員らがいるにもかかわらず,原告近藤のシートベルト不着用という形式上の違反だけが殊更に取り上げられ,懲戒処分が行われたのである。
 そして,被告就業規則97条によれば,出勤停止処分は解雇処分に次ぐ重い処分として位置づけられていること,同処分の前に原告近藤に対し注意や指示がなされていた等の事実も全くないこと,シートベルト不着用は道路交通法においては刑事罰が科せられない軽い処分であることに鑑みれ ば,シートベルト不着用という形式的な違反に比し4日間の出勤停止という処分を科する原告近藤に対する第1次懲戒処分は不当に重いから,懲戒権の濫用に当たる。
 なお,被告は,乗客からの通報があり,監督庁から指摘を受けたことを重く受け止めたというが,秩序罰たる懲戒処分において,被懲戒者の行った行為以外の事情を含めて処分することは許されない。
(エ) 平等取扱原則違反
 同じ規定に同じ程度に違反した場合,これに対する懲戒は,同一種類,同程度であるべきであるし,従来黙認してきた行為に対して処分を行うには事前に十分な警告が必要である。ところが,被告は,前記のとおり,原告近藤に対する第1次懲戒処分以前には,シートベルト不着用の運転手が多く存在したにもかかわらずこれを黙認し処分をしたことがないし,今後,シートベルト不着用の場合は出勤停止処分にするとの警告も全く発していない。
 また,原告近藤のシートベルト不着用が表面化して以降,他の運転士においても不着用の実態が相当あったにもかかわらず,被告は,処分はもとより,他の運転士に対するシートベルト着用状況の調査及び指導すら行っていない。原告近藤に対する処分を公表して他に注意を喚起するなどの措置も行っていない。
 さらに,被告は,全日海所属の運転士らが起こした不注意,ミス,事故などについては,懲戒処分などの措置をとっていない。
 以上の次第で,原告近藤に対する第1次懲戒処分は平等取扱原則に違反する。

(オ) 結論
 以上により,原告近藤に対する第1次懲戒処分は,就業規則上の根拠がない上に,相当性を欠き,平等原則にも反する不当に重い処分であり,懲戒権の濫用にあたるから無効である。しかも,後記のとおり,同処分の本質は,原告近藤が全港湾組合員であるが故になされた不当労働行為の意図の下になされたことが明らかである。

 (3) 原告らに対する各第2次懲戒処分の有効性

  ア 被告の主張

(ア) 処分対象事由
 原告らは,原告らに対する各第1次懲戒処分による出勤停止処分期間中の平成12年5月15日午後1時ころ,本来の職場である被告徳島営業所を被告に無断で離れ,被告本社前において,全港湾組合員らとともに宣伝カーを用いて被告に抗議行動を起こし,中傷ビラを配ったり,被告を誹謗・中傷する等の行為を行った。
 原告らに対する各第1次懲戒処分は,有給の懲戒処分であり,同処分中の勤務時間は日勤と同じであるから,平成12年5月15日午後1時ころの時間帯は,原告らに職務専念義務があることは明らかである。
 したがって,上記原告らの行為は,勤務時間中に無断で職場を離れ,組合活動を行ったものであり,原告らに対する各第1次懲戒処分の有無を問わず,職務専念義務違反であることは明らかである。したがって,原告らの上記の行動は,職務専念義務違反,被告就業規則21条(会社施設内等における集会),22条(勤務時間中等の組合活動)違反に当たる。
 そこで,被告は,同96条1ないし3号及び12号に基づき,原告らに対する各第2次懲戒処分を行ったものである。
(イ) 処分の相当性
 上記各処分は給与の減額を伴わないものであり,かつ,事実上の自宅謹慎処分に過ぎないから,原告らに不利益は生じていない。
 また,上記処分についても,原告らに対する各第1次懲戒処分と同様に,原告ら本人からの事情聴取,賞罰委員会の審理という適正な手続に則って行われたものであり,しかも,同処分について原告らは納得していた。

  イ 原告らの認否

 原告らに対する各第2次懲戒処分は,原告らが,原告らに対する不当な各第1次懲戒処分に抗議すために,所属する全港湾の示に従って抗議行動に参加したことをもって二重に懲戒処分としたものであり,処分の理由と相当性を欠く無効な処分である。

  (ア) 処分対象事由の不存在

a 就業規則21条(会社施設内等における集会)違反について
 被告は,上記各処分の理由として就業規則21条違反を主張するが,平成12年5月15日の被告本社前集会には,原告ら以外の被告従業員も多数存在し,被告の役員らはこれを現認していたにもかかわらず,被告は,原告ら以外の被告従業員については,同日が乗務日か,休日か,公休かを調査しようともしなかった。このような被告の対応に鑑みれば,同日の集会参加が懲戒処分理由ではないことは明らかである。
 そもそも,原告らは,就業規則21条のビラ配布等の行為は一切行っていない。すなわち,上記集会では,参加者のうち何名かが,被告がテナントとして入っている建物の玄関口外部の階段を上がろうとしたものの,ガートマンに入館を阻まれた。そして,原告らは,この玄関口外部の階段部分にすらおらず,終始,公道上にいたのである。原告らは,同集会を指揮していたものではないから,参加者の一部が被告が一部使用しているビルの共用部分に足を踏み入れたからといって,原告らが責任を問われる理由はない。
 また,本件のように,玄関口外部の階段に参加者の一部が申し入れを求めて入ったというだけでは,会社業務が阻害されていないのであるから,懲戒処分の対象とされるべき実質的な違法性は存在しない。
 したがって,原告らには,就業規則21条違反の事実が存在しない。
b 就業規則第22条(勤務時間中等の組合活動)違反について
(a) 被告は,原告らが,自宅待機・自宅謹慎をなすべき各第1次懲戒処分の期間中に,自宅を離れ,集会に参加したことが就業規則22条に違反すると主張するが,各第1次懲戒処分が前記のとおり無効なものである以上,自宅待機・自宅謹慎義務自体が無効である。
 仮にこれが有効であるとしても,原告らは出勤停止中であったのであるから,就業規則22条所定の「勤務時間中」の要件を充たさない。被告の就業規則上,出勤停止処分の内容については全く記載がないところ,通常,「出勤停止」は,雇用者において労働の提供を拒絶し,停止期間中の賃金カットを行うことがその懲戒内容とされている。そして,被告の就業規則97条によれば,「出勤停止」は,「諭旨解雇」より軽く,「減給」より重い懲戒処分として位置づけられていることからも,「出勤停止」とは,労働させないことをもって「減給」より重い貸金カットを行うことを懲戒の内容としていると見るのが合理的である。
 原告らは,各第1次懲戒処分の「出勤停止」が自宅待機・自宅謹慎 義務を伴うものであることについて,懲戒処分通知書においても処分告知時にも全く説明を受けていない。むしろ,原告近藤は,被告の徳島営業所長YG(以下「YG所長」という。)から無給である旨の説明を受けていた。

(b) また,原告らを含む運転手は,担当するダイヤによって勤務時間が決定されて個別の勤務時間に就労している者であるから,被処分者からすれば,特に指示がなければ就労義務時間は不明であって,「自宅待機だから勤務時間は日勤と同じ」というのは論理の飛躍である。

(c) 以上により,原告らに対する各第1次懲戒処分が自宅待機・自宅謹慎義務を伴うとも,日勤の時間帯は勤務時間中であるとも解することはできないから,平成12年5月15日の原告らの集会参加は勤務時間中ではなく,就業規則22条に違反しない。
 出勤停止が自宅待機・自宅謹慎義務を伴う有給の懲戒処分であるというのは,被告が本件各第2次懲戒処分を行うために後からこじつけた理屈であり,この理屈と整合性を持たせるために突如,出勤停止は有給であるとして基本給の貸金カットを行わなかったものである。

  (イ) 処分の不相当性

 前記のとおり,原告らは,平成12年5月15日の被告本社前の抗議集会に多数の従業員と共に参加したに過ぎず,これを指揮したものでも,演説したものでも,先頭に立って申し入れのために被告本社が中にあるビル内に立ち入ろうとしたものでもない。したがって,仮に,参加者の一部が被告本社の入っているビルの共用部分である玄関口外部階段を上がろうとしたことを集会参加者全員の行為とみなすとしても,原告らの行為を会社施設内の組合活動であるとして出勤停止という重い懲戒処分の対象とすることは明らかに相当性を欠く。
 また,多数の集会参加者のうち,原告らのみを処分の対象とすることは不公平,不平等であって,この点でも同処分は相当性を欠く。

 (4) 本件各懲戒処分の不当労働行為性

  ア 原告らの主張

(ア) 本件各懲戒処分の不当労働行為性
 原告らが本件各懲戒処分当時所属していた徳島営業所においては,平成11年7月30日,運転手12名全員が全日海を脱退して全港湾に加盟したが,その直後から,被告と全日海が一体となって全日海への復帰工作が図られ,同年8月15日以降は,全港湾の組合員は原告らを含めて4名になった。原告古川は,徳島営業所の全港湾組合員を代表して,全港湾神戸支部本四海峡バス分会副分会長となった。
 その後も上記4名に対する被告及び全日海からの工作は煉烈を極め,同年10月初めころ,原告古川は,全日海の統制委員に呼び出され,「全港湾は必ず排除する。」,「被告が全港湾を認めることは200パーセントない。」等と言われた上,「全日海脱退届の撤回届を書くように。もし書かなければ全日海から除名され,除名されれば既に解雇されている3名と同じく,ユニオンショップによってあなたを解雇することになる。」と迫られた。その結果,原告古川は,全港湾が被告から排除されるまで公表しないことを条件に,全日海脱退届の撤回届に署名した。原告近藤ら残り3名の全港湾組合員も同年11月には同撤回届に署名した。
 被告は,平成12年1月,徳島一関西国際空港間に新路線が開設されるのに伴い,同便には全港湾の組合員を乗務させない,全港湾の組合員は徳島営業所から配置転換するとの方針を打ち出して,原告らに対し,全港湾から脱退し全日海に復帰したことを公然と表明するよう迫ったが,全港湾の抗議により,上記方針を撤回せざるを得なくなった。
 平成12年3月31日,全日海が被告の筆頭株主となった。
 全日海は,平成12年4月6日,YG所長を通じて原告らを呼び出し,当時全日海関西地方支部支部長代行であったTN(以下「TN」という。なお,同人は,その後の同月27日被告の専務取締役に就任した。)らが,原告らに対し,「被告は完全なる全日海の支配下におかれた。」と通告し,さらに原告らに対し,同月17日までに全港湾に脱退届を提出するように迫ったため,原告古川は仕方なく「はい。」と返事をした。
 しかしながら,全港湾を裏切ることはやはりできないと考えた原告古川は,平成12年4月14日昼過ぎころ,関西空港において待機中,TNに電話し,「4月6日の返事は撤回します。私はやっぱり全港湾で行きます。」と伝え,その際,原告近藤も同じ気持ちであると伝えた。TNはこれに対し「認めない。」と答えた。
 TNは,原告古川からの上記電話を受けた後,直ちに被告会社のIUに電話をし,同原告との電話の内容を伝え,同原告の被告への出頭命令を要請した。原告古川は,平成12年4月14日午後7時30分ころ,被告本社へ出頭する旨の業務命令を受けた。
 このように,本件各懲戒処分が,原告らが「やはり全港湾で行く。」との態度表明をした直後になされたものであることからすると,本件各懲戒処分は,本来の懲戒権の行使ではなく,原告らが全港湾を脱退して全日海に復帰しないことを嫌忌して,又はそのような対応をとる原告らに対して攻撃を加えるために行われた被告の不当労働行為であることが明らかであり,違法無効である。

(イ) 原告古川に対する第1次懲戒処分について
 前記の事実経過に鑑みると,平成12年4月14日の被告の原告古川に対する出頭命令の趣旨・目的は,同原告が全港湾からの脱退しない意思を表明したことに対し,被告及び全日海が更にこれを翻意させようとして同原告を急遽呼び出したと解せざるを得ない。原告古川が全港湾からの脱退はできないという意思を明確に示しているにもかかわらず,被告及び全日海がなおも執拗に,同原告の所属労働組合についての意思を確認し,ひいては翻意を迫る目的で被告本社への出頭命令を発することは,それ自体が明白な不当労働行為である。
 なお,被告は,原告古川の名誉に関わる金銭問題についても事情聴取する必要があったと主張する。原告古川は、全港湾に加入した後も全日海のチェックオフが停止されなかった結果,3か月間,組合費が両組合に納付されてしまった。そこで,全日海は,原告古川に対し,全港湾の組合費合計1万8000円を補償することを,全日海への復帰を強要する過程でオルグの材料に使ったものである。したがって,原告の名誉にかかわる問題などではない。
 以上のとおり,被告の主張する,原告古川の所属労働組合に関する真意確認のための事情聴取を目的とした出頭命令は,明らかな不当労働行為であり,原告古川に対する第1次懲戒処分はその前提において根拠を欠く。
(ウ) 原告近藤に対する第1次懲戒処分について
 原告近藤に対する第1次懲戒処分は,原告近藤に打撃を与えることを目的とした明白な不当労働行為であり,この点からも同処分は無効である。
(エ) 原告らに対する各第2次懲戒処分について
 原告らに対する各第2次懲戒処分も,原告らに対する各第1次懲戒処分と同様に,不当労働行為であることが明らかである。

  イ 被告の反論

 原告らの主張を否認する。
 本件各懲戒処分は,前記の被告の主張のとおり,原告らの就業規則違反を理由に,就業規則に基づいて行われたものである。

 (5) 原告らに対する不法行為の成否

  ア 原告らの主張

 原告らは,平成11年7月30日に全日海を脱退し,全港湾に加入したが,被告はその後,連日のように原告らに対し,全港湾からの脱退を強要し続けた。そして,前記のとおり,違法な懲戒処分を繰り返し,原告らを精神的にも追いつめた。
 これら被告の行為は,明白な不当労働行為であると同時に,原告らに対して精神的打撃を加えることを目的とした明らかな不法行為である。被告の不法行為によって原告らが被った精神的損害に対する慰謝料としては各50万円を下らない。

  イ 被告の認否

 否認する。

 (6) 原告らに対する不払い貸金の有無

  ア 原告らの主張

 原告らは,本件各懲戒処分により,平成12年6月25日支給の賃金から,以下の金額を減額された。
           原告 古川 4万9523円     原告 近藤 2万0473円

  イ 被告の反論

 本件各処分はいずれも有給の出勤停止処分であり,出勤停止期間中も給与は支払われており,懲戒に伴って不利益は生じていない。

第3 争点に対する判断

 1 原告古川に対する第1次懲戒処分の有効性

 (1)平成12年4月14日の出頭命令に至るまでの経緯及び同日の状況

 前記争いのない事実等,証拠(甲31の1,32の1・2,34,36,乙57,59ないし62,証人IU〔ただし,以下の認定に反する部分を除く〕,同TN,原告古川)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 平成12年4月14日までの経緯
 原告古川及び同近藤を含む被告徳島営業所の運転士12名全員は,平成11年7月30日,全日海に脱退届を提出するとともに全港湾に加入届を提出した。
 それ以降,全日海組合員らは,原告らに対し,被告の徳島営業所において,連日のように,全港湾に所属するのであれば被告から解雇されたり転勤を命ぜられる等と述べて全日海への復帰を促した。その結果,平成11年8月15日には,徳島営業所の全港湾組合員は原告らを含む4名に減った。
 原告古川は,平成11年10月初めころ,全日海の統制委員3名に呼び出されて,全日海脱退の撤回届に署名するよう求められ,その際,これを拒めば全日海を除名処分となり,被告を解雇されてもやむを得ない等と説得されたことから,同撤回届に署名捺印した。なお,この際,原告古川と全日海統制委員は,原告古川が全日海からの脱退を撤回したことは全港湾が被告から完全に排除されるまで公表しない旨を合意した。
 原告古川は,全日海に対する脱退届の提出後も,給料から同組合の組合費を天引き(チェックオフ)され,一方で,全港湾の組合費(月額6000円)も支払っていた。全日海は,原告古川に対し,全日海へ復帰するのなら,平成11年8月から10月までの3か月分の全港湾の組合費合計1万8000円を補償する旨申し出たため,同原告はこれに応じて同額を受け取った。
 被告は,平成12年1月,原告らに対し,徳島一関西国際空港便の就航に際し,徳島営業所の全港湾組合員は乗務させない旨を通知したが,原告らや全港湾からの抗議を受けて,同年2月9日,全港湾に対して陳謝するとともに同方針を撤回した。
 被告の常務取締役や支配人は,平成12年2月4日,原告ら全港湾組合員に対し,全港湾に属するのであれば転勤もやむを得ない旨を表明した。
 原告古川は,全日海組合費のチェックオフに対する全港湾の抗議文書に署名したところ,平成12年2月初めころ,TNら当時の全日海役員から,全日海組合員であることを誓約するという内容の念書の作成を迫られてこれに応じ,署名捺印した。
 被告及び全日海は,平成12年3月31日,全日海が被告の過半数以上の筆頭株主になったことを公表した。徳島営業所の全港湾組合員4名のうち原告らを含む3名は,平成12年4月6日,全日海のSK関西地方支部長,当時全日海関西地方支部長代行であったTN及び被告のYG所長と会合した。その席で,TNは,原告古川が提出した上記念書に全日海側で日付を入れること,平成12年4月17日までに全港湾神戸支部宛に原告ら全港湾組合員が脱退を表明する手紙を送付すること,後の処理はTNに一任することの承諾を求め,原告らはこれに応じた。
イ 平成12年4月14日の状況
 原告古川は,上記のとおり,全日海との間で,全港湾を脱退し全日海に復帰する旨約したものの,その後,全港湾と全日海のどちらに所属すべきかについて再考した結果,やはり全港湾を裏切ることはできないと考えて,全港湾に所属することを決意し,平成12年4月14日昼過ぎころ,TNに電話して,4月6日の会合の際の合意を撤回し,今後も全港湾に所属する旨表明した。原告古川の同発言は,TNから全日海経由で被告に伝えられた。そこで,被告は,同日午後7時過ぎころ,原告古川が全港湾と全日海のいずれの労働組合に所属する意思であるのかその真意の確認を行うとともに,全日海への復帰を促すべく,原告古川に対し,その日のうちに被告本社へ出頭するよう命令を発した(以下,これを「本件出頭命令」という。なお,証人IUの証言中には,本件出頭命令の目的につき,原告古川の全港湾組合費を全日海が立て替えたとすれば,同原告の名誉に関わる問題であるため,この点について事実確認をすることが本件出頭命令の目的であったとの部分があるが,同証人は,他方で,この点に関する事実確認は本件出頭命令の主たる目的ではなかったとも証言していることからして,上記証言部分はたやすく措信できず,他に前記認定を左右するに足る証拠はない。)。
 原告古川は,同日午後7時30分ころ,徳島営業所において,本件出頭命令を伝えられた。原告古川は,全港湾本四海峡バス分会の日野副分会長に電話してこのことを伝え,応援を要請した。原告古川からの連絡を受けた全港湾神戸支部組合員数名は,本件出頭命令が全港湾からの脱退強要を目的とするものであると考え,被告本社ビルに赴いた。
 原告古川は,YG所長とともに,バスで神戸の被告本社へ向かったが,途中,同原告らが乗車したバスの後方に,全港湾組合員らが同行してきたため,YG所長が被告に連絡を取った結果,被告本社から離れた場所にある,終点の学園都市駅で被告役員らと落ち合うことになった。原告古川らが学園都市駅に着くと,全港湾組合員ら数名と,被告役員及び従業員らとの間で言い合いになり,騒然とした状態になった。
 原告古川,全港湾組合員,被告役員及び従業員らはいずれも被告本社まで移動し,被告本社のあるビルの玄関において,IU常務,ID取締役らが同原告に対し,約10分間事情聴取を行った。原告古川は,仲間を裏切ることはできないので,やはり全港湾に帰属することに決めたという趣旨の説明をした。被告は,原告古川に対しこれ以上事情聴取する必要はないと判断して,本件出頭命令に伴い生じた同原告の時間外勤務手当の処理,宿泊先,翌日の勤務等につき説明し,事情聴取を終えた。

 (2) 処分事由の有無

 以上認定の事実を前提に,原告古川に対する第1次懲戒処分の処分事由の有無を検討する。
 本件出頭命令は,上記認定のとおり,原告古川が全港湾からの脱退を翻意した旨を伝え聞いた被告が全港湾と全日海のいずれの労働組合に所属する意思であるのかその真意の確認を行うとともに,全日海への復帰を促すために発したものであるところ,使用者が,上記のような組合活動に対する不当な支配介入を行う目的で,労働者に対し出頭命令を発することが許されないことは明らかであり,したがって,その目的が達せられなかったからといって,これを,懲戒事由とすることができないこともまた明らかである。
 のみならず,上記認定事実によれば,その過程で一部混乱はあったとはいえ,原告古川は,本件出頭命令に応じて出頭し,その事情聴取にも応じているのであり,被告の原告古川に対する事情聴取等が不可能になったとの事実があったとも認められない。

 (3) 結論

 以上の次第で,被告の原告古川に対する第1次懲戒処分は,処分事由の存在を認めることができず,無効である。

 2 原告近藤に対する第1次懲戒処分の有効性

 (1)  処分事由

ア 被告は,原告近藤が,平成12年4月18日,新神戸発13時35分のバスに乗務した際にシートベルトの着用を怠ったこと(以下「本件シートベルト不着用運転」という)が,向原告に対する第1次懲戒処分の対象事由と主張するところ,同事実があったことは当事者間に争いがない。また,証拠(乙54,証人TN)によれば,本件シートベルト不着用運転の事実が,乗客から徳島陸運局へ伝えられ,同陸運局から被告への指導が行われたことが認められる。
イ 本件シートベルト不着用運転は道路交通法に違反する行為であり,これが被告就業規則96条1号(法令,会社の諸規定等に違反した場合)に該当する行為であることは明らかである。
 しかし,被告は,本件シートベルト不着用運転行為をもって,被告就業規 則同条4号(注意を怠り,又は必要な助言,諌止又は援助を欠き,よって事故を発生させ,あるいは損害を拡大させた場合)にも該当すると主張するが,同号は,不注意等により事故を発生させ,あるいはその損害を拡大させた場合を規定するものであるから,同条4号に該当するものとは認められない。

 (2) 懲戒権の濫用の有無

 原告近藤は,原告近藤の前記行為が被告就業規則96条1号に該当するとしても,同原告に対する第1次懲戒処分は懲戒権の濫用に当たると主張するので,以下,検討する。

  ア 前提事実

 前記争いのない事実等,証拠(甲33の1・2,35,37,乙54,5 5,57,70,71,証人IU,同TN,原告近藤)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告は,平成12年4月6白から15日までの春の全国交通安全運動期間中,被告徳島営業所に同交通安全運動の実施についてのポスターを掲示したが,同ポスターには,重点実施項目として「シートベルト着用の徹底」が挙げられていた。
(イ) 原告近藤は,平成12年4月18日乗務の際,シートベルトを着用せずに乗車していたところ,乗客から徳島陸運支局に電話で通報があり,そのため,被告の徳島営業所副所長WDが同陸運支局に呼び出され,強い注意を受けた。
 原告近藤は,上記シートベルト不着用運転につき,上記WDから事実をただされ,これを認めると共に,謝罪し,かつ,平成12年4月19日付で,「私は平成12年4月18日,新神戸13時35分発に乗務致しました。いつも乗車していただいている御客様にシートベルト装着をお願い致しております以上かならず私自身もシートベルトを装着していますがこの時はうっかりシートベルトを装着せず発進してしまいました。今後は,安全運転に勤め,お客様に不安及び不快感をあたえない様乗務致します。この度の事は私の不注意にておこった事をお詫び申し上げます。」と記載した始末書を被告に提出した。
(ウ) 被告は,平成12年5月11日に賞罰委員会を開催したが,同日までに,原告近藤による本件シートベルト不着用運転以外に,被告従業員2名が同年4月3日及び30日にそれぞれ物損事故を起こしていたにもかかわらず,同委員会で審議されたのは,本件シートベルト不着用運転による原告近藤に対する第1次懲戒処分の件と原告古川に対する第1次懲戒処分に関する件のみであった。
(エ) 被告は,上記2件の物損事故を含む平成12年4月3日から同年9月5日までの間に発生した被告所属運転士による人身,物損事故事例14件につき,平成12年9月14日,そのうち13件については懲戒に至らない訓告処分とし,残り1件は無責とした。
(オ) 原告近藤に対する第1次懲戒処分後は被告所属の運転士のほぼ全員がシートベルトを着用するようになったが,それ以前には,原告近藤のみならず,被告所属の運転士のうち7,8割の運転士がシートベルトを着用せずに乗務していた。
(カ) 原告近藤は,本件第1次懲戒処分以前には,被告から懲戒処分を受けたことがなかった。

  イ 検討

(ア) 以上の事実を前提に,懲戒権濫用の有無を検討する。
 確かに,本件シートベルト不着用運転は法令違反行為であること,重点実施項目として「シートベルト着用の徹底」を挙げた春の全国交通安全運動の終了後3日日に同行為が行われていることに照らせば,本件シートベルト不着用運転は悪質というべきであるし,本件シートベルト不着用運転について被告が徳島陸運支局から強い注意を受けたことに鑑みると,これが招いた結果も軽くはない。
 しかしながら他方で,@原告近藤は,本件シートベルト不着用運転について被告側から尋ねられた際には隠し立てすることなくこれを認め,始末書を作成,提出しており,反省の情も明らかであること,A当時は,同原告のみならず,被告所属運転士の7,8割がシートベルトの着用をしていなかったこと,B同原告は第1次懲戒処分に至るまで,一度も被告から懲戒処分を受けたことがないこと,C被告の就業規則によれば,懲戒処分としては,重い順に,懲戒解雇,諭旨解雇,出勤停止,減給,戒告があり,懲戒に至らない処分として訓告が定められているところ,このような懲戒 処分全体の体系の中における出勤停止処分の位置づけに照らすと,1回のシートベルト不着用運転のみを理由に諭旨解雇の次に重い処分である出勤停止に処すること自体,重すぎると考えられること,D自動車事故を起こした被告所属の他の運転士ですら,懲戒に至らない訓告処分で済まされていることと比較すると,1回のシートベルト不着用運転を理由とする出勤停止処分は均衡を欠くことなどの事実が認められる。
 以上の事実を総合すると,原告近藤に対する第1次懲戒処分は,重きに失し,懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱した,社会観念上著しく妥当性を欠くものとして,懲戒権の濫用にあたると認めるのが相当である。
(イ) 被告の反論について
 もっとも,被告は,原告近藤に対する第1次懲戒処分が不当に重い処分には当たらないことの理由として,被告の営業開始当初は,経営基盤の安定や営業業務の正常化等に重点を置いてきたことや,従業員の懲戒の手続が明確でなかったことから,被告は従業員の懲戒を一切行っていなかったところが,設立以来2年を経過したため,被告の社内規律の強化を図るとともに,運転士にプロドライバーとしての自覚を強く持たせるために,過去にさかのぼらず,平成12年4月以降だけを対象に懲戒処分を行うことを決め,社内にも公表し,従業員に対しても周知徹底を図ったところ,原告近藤が本件シートベルト不着用運転を行ったのであって,その意味で,原告近藤に対する第1次懲戒処分は被告創立以来初めての懲戒処分であるから,同原告がこれまでに懲戒処分を受けていないのは当然であると主張し,これに沿う証拠(証人IU,同TN)もある。
 しかしながら,前記認定のとおり,平成12年5月11日に開催された賞罰委員会では,同日までに,原告近藤以外の被告従業員2名が事故を起こしていたにもかかわらず,この2件の事故事例については審議されず,原告らに対する各第1次懲戒処分についてのみ審議されたこと,前記のとおり,自動車事故を起こした従業員ですら懲戒に至らない訓告処分で済まされていることが認められ,これらの事実に照らせば,被告の主張する上記事情を考慮に入れてもなお,原告近藤に対する第1次懲戒処分はやはり不当に重い処分といわざるを得ない。
 また,被告は,本件処分に至った理由として,外部からの告発によって発覚し,監督庁より早期かつ厳正な対処とその報告を求められたことにより,被告の信用が著しく傷つけられた旨を主張する。
 しかしながら,他の従業員が犯した,運転操作ミスによる相手方のある事故事例ついても,被告の対外的信用が失墜する可能性が十分にあるにもかかわらず,上記のとおり,被告が,これらの事故事例については懲戒に至らない訓告処分で済ませていることに照らすと,被告の主張する事情を考慮に入れてもなお,原告近藤に対する第1次懲戒処分はやはり不当に重い処分というべきである。
 したがって,被告の主張を採用することはできない。

 (3)結論

以上の次第で,原告近藤に対する第1次懲戒処分は懲戒権の濫用であって無効である。

 3 原告らに対する各第2次懲戒処分の有効性

 被告は,原告らに対する第2次懲戒処分の対象事由として,原告らが,第1次懲戒処分による出勤停止期間中であった平成12年5月15日の午後1時ころ,本来の職場である被告徳島営業所を被告に無断で離れ,被告本社前において,全港湾組合員らとともに宣伝カーを用いて被告に抗議行動を起こし,中傷ビラを配ったり,被告を誹謗・中傷する等の行為を行ったと主張し,これらの行為は,出勤停止処分に含まれる自宅待機ないし自宅謹慎義務に違反するとともに,職務専念義務,被告就業規則21条(会社施設内等における集会),22条(勤務時間中等の組合活動)にも違反する行為であるから,同96条1ないし3号及び12号の懲戒事由に該当すると主張する。

 (1) 自宅待機又は自宅謹慎義務違反について

 しかしながら,原告らに対する各第1次懲戒処分に,仮に,被告の主張するような自宅待機ないし自宅謹慎義務が含まれるとしても,上記認定のとおり,原告らに対する各第1次懲戒処分はいずれも違法無効であるから,これを理由とする懲戒処分は理由がない。

 (2) 職務専念義務違反及び勤務時間中の組合活動について

 次に,職務専念義務違反及び勤務時間中の組合活動という処分事由については,当時,原告らが出勤停止処分を科されていた以上、原告らが被告徳島営業所に出勤して労働を提供しようとしても,被告からこれを拒まれたであろうことは明らかであるから,原告らに職務専念義務を課することはできないし,原告らが当時,勤務時間中であったと認めることもできない。

 (3) 会社内等における集会活動について

 さらに,会社施設内等における集会を行ったという事実が認められるかを検討する。
 証拠(甲31の1,32の1,34,35,乙59,60,証人TN,原告古川,同近藤)及び弁論の全趣旨によれば,全港湾神戸支部は,原告らに対する第1次懲戒処分はいずれも,原告らが全港湾に属していることを理由になされた不当処分であると認識し,被告に対して異議申立の意思表示をするとともに処分理由を質すため,平成12年5月15日に抗議行動を実施することを決め,原告らに対しても参加を指示したこと,当日,原告らを含む全港湾神戸支部の組合員は,被告本社ビルまで赴き,原告らに対する懲戒処分についての抗議と団体交渉の申入れを内容とする書面を持参したこと,被告の側は,被告本社のあるビルの共用部分であるロビーにおいて,全港湾の幹部数名から同書面を受け取ったが,全港湾との団体交渉については,原告らに対する各第1次懲戒処分はいずれも人事の問題であるということを理由にこれを拒んだこと,そこで,全港湾組合員は,被告本社のあるビル前の歩道に移動し,道路に停車させていた宣伝カーを利用して,安田副委員長(当時)や佐野書記長らがマイクで演説をしたこと,これらの全港湾の抗議行動の際,原告らはいずれも,ガードマンに入館を拒否されたため,被告本社のあるビルには入ることはなく,また,マイクを使った演説もしていないこと,以上の事実が認められる。
 そうすると,組合活動が行われたのは専ら被告本社のあるビル前の歩道,道路であるし,抗議文書を被告に交付する際に組合幹部らが立ち入ったのも,被告本社のあるビルの共用部分であるロビーまでに過ぎず,これについては被告は了解していたと認められる上に,原告らは,被告本社のあるビルの共用部分にすら立ち入っていないのであるから,原告らが,会社施設内等において集会を行ったという事実を認めることはできない。

 (4)

 なお,被告は,原告らが,当日,被告に対する中傷ビラを配ったり,被告を誹謗・中傷する等の行為を行ったと主張するけれども,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
 むしろ,前記の各証拠によれば,同日の組合活動は,ことさらに被告を誹謗・中傷することなどを目的とするものではなどではなく,専ら原告らに対する違法な各第1次懲戒処分に対する抗議を目的とする正当なものであったと認めることができる。

 (5) 結論

 以上の次第で,被告の主張する,原告らに対する第2次懲戒処分の処分事由はいずれも認めることができないから,同処分はいずれも理由がない。

 4 本件各懲戒処分の不当労働行為性と原告らに対する不法行為の成否

 (1) 不当労働行為性

 前記争いのない事実等及び原告らに対する本件各懲戒処分の有効性を検討する中で認定した事実を総合すると,被告と全日海との間には,ユニオンショップ協定が締結されているほか,全日海の執行部員が被告の役員に就任したり,全日海が被告の筆頭株主になる等の密接な関係があること,被告は,全日海と一体となって,全港湾の中心的活動家を解雇するとともに,全港湾に加入した原告らその他の従業員に対して,全港湾にとどまった場合の不利益を予告するなどの脱退工作を行ったこと,被告は,全港湾を組合として認めず,団体交渉に応じない姿勢を取り続けていたことが認められるのであって,これらの事実に鑑みると,被告は,原告らが平成11年7月30日に全日海を脱退し全港湾に加入して以降,職場から全港湾の影響力を排除しようとしてきたことが明らかである。
 そして,前記認定のとおり,原告古川が平成12年4月14日に全港湾への帰属の姿勢を明確にするや,5月12日付で第1次懲戒処分がなされたが,その前提とされた本件出頭命令自体不当労働行為であって,正当な業務命令とは認められないものであること,原告近藤に対する第1次懲戒処分は,シートベルト不着用運転という処分事由に照らすと不当に重い処分であって,懲戒権の濫用に当たること,全日海所属の被告運転士は,相手方のある自動車事故を起こしても訓告処分で済んでいること,原告らに対する各第2次懲戒処分は,全港湾主催の組合活動に原告らが参加したことを理由とするものであり,かつ,同処分も前記のとおり理由がないことなどの事実を併せ考えると,本件各懲戒処分は,全港湾に所属し,全日海への復帰を拒んできた原告らに対し,懲戒処分に名を借りて,全港湾組合員であることを理由に不利益に扱うとともに,全港湾の弱体化を図ったものと推認することができる。
 したがって,本件各懲戒処分は,いずれも,労働組合法第7条1号,3号所定の不当労働行為に該当するから,その意味でも,違法無効である。

 (2) 不法行為の成否

 原告らは,上記認定のとおり,平成11年7月30日の全港湾加入以来約10か月にもわたって,被告から全港湾脱退工作を受け続け,ひいては本件各懲戒処分まで科せられたものであり,一連の被告の不当労働行為の態様は全日海と一体となってかなり執拗になさ、れてきたものであることなどの事情を総合すると,それら被告の行為は,原告らに対する不法行為をも構成するものと認められる。
 したがって,被告にはこれら一連の行為により原告らが被った精神的苦痛を慰謝する責任があるところ,その慰謝料は,原告らについてそれぞれ20万円が相当であると認める。

 5 未払賃金請求権について

 前記のとおり,被告が原告らに対して行った本件各懲戒処分はいずれも違法,無効というべであるから,同処分に基づく賃金減額もその根拠を欠くこととなる。そこで,賃金減額の有無及び額について検討する。

 (1) 被告の貸金体系

 証拠(甲29の1ないし5,30の1ないし5,乙71,原告古川,同近藤)によれば,被告の運転士の賃金体系は以下のとおりであると認められる。

  ア 被告雇用の高速バス運転士の賃金には,以下のものがある。

(ア)基準内賃金
基本給(本給及び勤続給),勤務地手当,扶養手当,技能手当,事務兼務手当
(イ)基準外貸金
 宿泊手当(被告の指示により指定された施設で宿泊した場合,1泊につき900円),通勤手当,乗務員手当(−般道回送運行の場合1キロにつき4円[乗務員手当A]。営業運行の場合及び高速線回送運行の場合1キロにつき8円[乗務員手当B]),日当(出勤日1日につき505円),職務手当,割増賃金(超過勤務手当,夜勤手当,祝日等勤務手当)
(ウ)その他
年間臨時手当

  イ 基準外賃金のうち割増賃金の計算方法

(ア) 1時間当たりの貸金額(以下,これを「A単価」という。)を,次の算式により計算する。
(基本給+勤務地手当+技能手当+事務兼務手当)×12/1962
(イ) A単価を基本に,以下の各単価を定める。
B単価 A単価に125/100を乗じたもの。
C単価 A単価に30/100を乗じたもの。
D単価 A単価に35/100を乗じたもの。
E単価 A単価に135/100を乗じたもの。
(ウ) 以下のとおり,各割増貸金毎に,BないしE単価を区別して適用する。
a 超過勤務手当
正規の勤務時間外、(公休日,特別休日,調整休日,非番及び代休を含む)に勤務した場合に支給する。
支給額
公休日,特別休日,調整休日及びこれらの代休に臨時に勤務した場合
 1時間につきE単価
上記以外に臨時に勤務した場合
 1時間につきB単価
b 夜勤手当
深夜時間帯に勤務した場合に支給する。
支給額 実働時間1時間につきC単価
c 祝日等勤務手当
勤務割により祝日等に勤務した場合に支給する。
支給額 正規の勤務時間内において現に勤務した時間1時間につきD単価

  ウ 支払日

基準内貸金は毎月25日にその月の分を支給し,基準外賃金はその月の分を翌月25日に支給する。

 (2) 原告古川について

 上記のとおりの賃金体系に鑑みると,基準外賃金のうち,宿泊手当,乗務員手当,日当,割増貸金(BないしE単価貸金)は,宿泊日数や勤務日数及び就労時間の多寡によって増減する性質のものであるから,出勤停止処分によって減少する可能性があると認められる。
 そこで,原告古川に対する平成12年3月から5月までの間に支払われたこれら貸金の平均額と,同年6月(本件各出勤停止処分が科されたのは同年5月であるので,同年6月がそれら賃金の支払月となる。)に支払われたこれら貸金の額とを比較してみるに,証拠(甲29の1ないし5,)によれば,割増賃金のうちD単価賃金に関しては減少はみられないものの,その余の宿泊手当,乗務員手当,日当,割増貸金のうちのB単価賃金,C単価貸金,E単価貸金については,別表1のとおり,平成12年3月から5月までの3か月の支払い分の平均額に比し,同年6月の支払い分が減少しており,その減少額合計は,4万9523円となることが認められる。
 ところで,例年5月は多客期であるため,6月の上記賃金額は増加して当然であってよいはずであること (原告古川,弁論の全趣旨)からすると,それら貸金の原告古川に対する平成12年6月支払分が,その前3か月の平均額より減少したのは,本件各懲戒処分により,それら賃金額が減少するに至ったものと推認できる。
 以上によれば,原告古川に対する平成12年6月支払分の賃金額は,本件各懲戒処分によって,4万9523円減額されたものと認められる。

 (3) 原告近藤について

 原告近藤についても,原告古川と同様に考えることができるところ,証拠(甲30の1ないし5)によれば,原告近藤についても,宿泊手当,乗務員手当,日当,割増貸金のうちのB単価貸金,C単価貸金,E単価賃金の平成12年6月の支払分が,平成12年3月から5月までの3か月の支払い分の平均額より減少となり,その減少額合計が,別表2のとおり2万0473円となることが認められる。
 したがって,原告近藤に対する平成12年6月支払分の貸金額は,本件各懲戒処分によって,2万0473円減額されたものと認められる。

 (4) 被告の主張について

 これに対し,被告は,本件各処分はいずれも有給の出勤停止処分であり,出勤停止期間中も給与は支払われており,懲戒に伴って不利益は生じていないと主張し,被告の主張する計算を記した書面(乙63〜68)を提出する。
 しかしながら,これらの書面のうち,乙63及び65ないし67号証については,本件との関連性が明らかでないから,これを採用することができない。
 また,乙64号証については,これと被告就業規則第61条(公休日及び特別休日)の規定を併せ読むと,被告は,本件各懲戒処分がなかったものと仮定した場合の仮定勤務実績を想定し,原告古川については,平成12年5月の勤務指定割に,月間10日間の休日を通例に従って付すと,同月15,16,20,21,24日が休日指定となるから,結局,出勤停止期間中に生じ得た賃金は1万5934円に過ぎないこと,原告近藤については,同月15,18,24ないし26日が休日指定となるから,出勤停止期間中に生じ得た賃金は6186円に過ぎないことを立証しようとする趣旨と思われる。
 しかしながら,証拠(乙68,原告古川)によれば,例年5月は多客期であるため,他の月に比べて臨時便への乗務などの休日出勤が増えること,現に,原告古川に対する第1次懲戒処分の期間である平成12年5月15日から21日の間にも,徳島営業所の他の運転士は休日指定されていた日に臨時出勤していること等が認められ,この事実に照らすと,被告による乙64の試算は採用することができない。

 (5)

 よって,被告は・原告古川に対し・未払賃金4万9523円,原告近藤に対し,未払賃金2万0473円と同各金員に対する弁済期後である平成12年6月26日から各支払済みに至るまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

 6 結論

 よって,原告らの本訴請求のうち,本件各懲戒処分の無効確認請求及び未払賃金請求についてはいずれも認容し,不法行為に基づく損害賠償請求については,原告らに対して各20万円及びこれらに対する平成12年10月27日から各支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の支払いを求める限度でいずれも一部認容し,その余の請求はいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。



    神戸地方裁判所第4民事部   



判決・命令一覧

トップページ