韓国労働社会研究所機関誌

「労働社会」11月号

[学びの場]

労働争議に関連した労働組合の

効果的な法律的対応への道案内

カン・ホミン(弁護士、金属労組法律院)

 

労働組合や労働者を相手に法律相談をしていると、「これも不法です」、「そのようにしても判例上は正当性が認められません」、などと答えなければならないケースが多い。そのような話を聞くと、労働者はすぐにこのように話す。「それではできることは何ですか。職場閉鎖になった状態で、組合員たちは会社に入れないのに・・・・、会社の前では会社側が既に集会申告をしているし・・・・、それでは私たちは家にジッとしていなければならないのですか?」

本当にイライラする現実がある。憲法や労働関連の法令は「争議行為を保障する」というが、現実には使用者側の職場閉鎖とスト破り労働、幽霊集会申告、損害賠償請求、労働組合と組合員の財産に対する仮差押え、争議行為禁止・業務妨害禁止の仮処分、刑事告訴などで、労働組合と労働者の労働三権が実質的に無力化されている。こういう状況に対してこれという対抗手段がないのが現実だという点を認めるほかない。そして労働組合に所属している弁護士である筆者は、組合員が困惑するのを承知で、たまにはこういう注文をすることもある。「刑事処罰や損害賠償請求も、ある程度は甘受するほかありません」。

しかし現実がたとえこのようであったとしても、ともかく形式的な民主化によって、労働組合が法的な対応ができるようになったという点は、誰も否定できない事実である。したがってこの文章では「法は強者(資本家)の側だ」、「法を頼りにする考えではなく、今までやったやり方のように、闘争とストライキで解決していく」式の消極的な対応については触れないことにする。むしろ使用者側の日に日に高度化される法的対応に対して、労働組合からのより積極的に法律闘争を行わなければならないという必要性と、その方法を論じることにする。

 

日に日に厳しくなる使用者側の法的攻撃とその背景

使用者が労働組合の争議行為を無力化させるために、各種の法的な対応手段を講じるのは昔からのことである。そして最近はこういった手段が、日常化、定形化されている。その背景の原因としては様々なものが指摘できるだろう。先ず、法的な手段による対応が使用者側に有利にならざるをえない資本主義法制の根本的な特性、そして労働権に対する理解不足によって、裁判所が会社側に有利な判決を出す傾向などを挙げることができるだろう。そしてこのような構造的な原因に加えて、最近では会社側の積極的な対応がより一層目立つようである。すなわち、社内法務チームの拡大によって社内に弁護士を大量に雇用しており、また経営者総連合会が法律諮問活動をするとか、外部の法律家集団ム等による企業の法律諮問が日常化されたという点などが、より大きく影響を及ぼしているということである。

いま使用者が争議行為に対して使う典型的な法的手段を、いくつか見てみよう。

第1に、各種仮処分の乱発である。その種類も本当に多い。

使用者側は労働争議に関して、争議行為自体を禁止してくれという争議行為禁止の仮処分、業務妨害をしないでくれといって各種の行為を禁止する業務妨害禁止の仮処分、各種の表現を禁止して名誉や信用を傷つけないでくれという名誉および信用毀損禁止の仮処分、各種の垂れ幕とテント、コンテナなどを撤去しろという仮処分、職場閉鎖を理由とする立入禁止の仮処分、集会とデモを禁止してくれという仮処分、アンプなど拡声器を使うなという仮処分、などを提起している。もちろん実際には、これらすべてのものを一度に申請する仮処分も珍しくはない。

これに関しては、私が所属する金属労組法律院が最近扱った具体的な事例だけでも、事業場周辺のほとんどで事実上全面的な集会とデモの禁止を認容することによって、労働組合の正当な集会の自由を侵害したロッテホテル労組の事例、建物立入禁止仮処分申請の認容で、労組員の事業場出入りが封鎖された全国建設エンジニアリング労組マニョン支部の事例、雇用継承を主張して売り場の前の空地でテント籠城中だった組合員を相手に、テント撤去の仮処分を出した坡州(パジュ)、漣川(ヨンチョン)畜産業協同組合の事例、会社の営業妨害禁止の仮処分が認容されたイーランド労働組合の事例などがあった。このように争議行為に対する会社側の仮処分申請が乱発されているのが現実である。

 

各種仮処分−損賠・仮差押え−刑事告訴の連鎖作用

第2に、日常化された損害賠償請求と仮差押えが挙げられる。

使用者側の損賠・仮差押えは、非組合員と組合員、一般組合員と積極的な組合員、組合員と労組幹部を分断し、自主的な労組活動を無力化しようとする戦略の一環である。不法争議による損害を実際に補填しようとして、損賠・仮差押えをかける使用者はほとんどいない。最近のイーランドの労働争議でも、会社側は核心幹部ではないが積極的に参加した一般組合員60人余りに、約1億ウォンもの損害賠償を請求した。これもまた、一般組合員に損害賠償請求と仮差押えで圧力をかけて指導部と分断し、労働組合を無力化させるという意図が明白なものであった。

第3に、各種の刑事告訴による労組無力化の試みがある。

私が顧問をしている全国建設エンジニアリング労組の話である。労組が2006年に新設支部を結成し、労組の認定を主要な要求として争議行為に突入した。この過程で、会社側は経営者総連合会との顧問契約と、外部ローファームによる法律諮問によって労働組合の要求に対応した。以後の交渉過程では、極めてささいな揉め事を理由に幹部と組合員に告訴が乱発され、その結果争議の1年余りの間に、主要幹部と組合員は一人当たり20件余りの刑事告訴にあった。組合員は警察署にしばしば出頭することになったあげく、それを争議行為の一環と感じるようになるほどになった。このように使用者が乱発する刑事告訴は、争議行為を無力化する手段になっていることが明らかである。

 

前で述べたこのような手段は、個別的に使われるのではない。使用者はこのような争議行為の無力化手段を総合的に駆使し、その手続きはある程度定形化されている。労働組合の争議行為が始まれば、△先ず『職場閉鎖』によって労働組合員を会社から分離させた後、△各種の『仮処分』によって労働組合の手足を縛り、△これに対して労働組合が交渉を要求して抗議デモでもすれば、ささいなことでもネタにして『刑事告訴』と『損賠・仮差押え』によって圧力を加えるのである。すなわち、前に触れた各種の法的手段を総合的に駆使しながら時間を長引かせ、「無労働・無賃金」によって争議行為を続けにくいように労働組合を圧迫し、最終の妥結過程で損害賠償と仮差押えの取り下げないしは刑事告訴取り下げを前提に、使用者側に有利な合意案を引き出すのである。

 

時には労組が積極的に使うこともあるが・・・・

もちろん労働組合にも法的な対抗手段がある。労働組合が会社側にかけることができる仮処分としては、団体交渉応諾の仮処分、職場閉鎖禁止の仮処分、スト破り労働禁止の仮処分、団結権妨害排除の仮処分、配転命令効力停止の仮処分、従業員の地位保全の仮処分などがある。また会社側の違法な職場閉鎖を理由として職場閉鎖期間中の賃金請求訴訟、不法なスト破り労働を理由として損害賠償請求、会社側の不法行為に対する労働部と捜査機関への告訴、もっと進んで憲法裁判への請求などの手段も活用できる。しかし実際、現実の労働組合の法的対応は使用者の積極的な請求や訴訟に、被告として受動的に参加するのに留まるのが普通である。

しかし効果的な法的な対応の事例がまったくないのではない。筆者が所属する金属労組は産別労組である。この金属労組が新規に事業場に支会や分会を結成すると、当該事業場の会社側は既に企業別労組があったという理由で団体交渉の要求に応じない事例が頻繁にあった。これに対し金属労組法律院は、トンヒ・オート、イジェン・テクなどいくつかの事業場で団体交渉応諾の仮処分を申請し、この仮処分が認容された。その結果イジェン・テクのケースでは、使用側の交渉拒否一人当たり30万ウォンの間接強制金の決定を受け、実際に会社が別の会社に対して持っている債権を差し押さえ、75百万ウォン余りを執行した。

しかしこのような事例は決して容易なことでも、しばしばあることでもない。前にも話したように、労働組合の依頼はほとんど、使用者が労働組合を相手に各種の仮処分申請、損害賠償請求、刑事告訴を提起した以後に、これに対応するために法律的な諮問を求めるのが普通である。したがってほとんど大部分の労組が法的な対応を始める瞬間でも、効果的な対応のための事前の準備が全くできていない。また使用者側の法的対応の大部分は、新生労組や非正規職労組の長期闘争事業場に集中している。争議が進展するなかでこれらは数十件の訴訟に巻き込まれるのが普通である。このため労組は財政的なぜい弱性によって法対費用の準備に困難を経験することになり、また訴訟がほとんど長期間にわたって行われるので、その過程で持ちこたえられない組合員に、告訴の取下げをエサに労組の脱退工作が行われる。このように労働組合の法的な対応は、到底話し尽くせない困難な条件にあるのが現実である。

 

集団的に、しつこく、科学的に、執拗な交渉で

それでもじっと座ったままでいることはできない。またむやみに前に出ることもできない。労働組合が会社側に比べて困難な条件下で効果的に対応するためには、次のような原則に留意しなければならない。

第1に、集団的に対応をしなければならない。

争議行為が使用者に対する労働者の集団的な対応戦略であるように、会社側の法的攻撃にも集団的な対応戦略を駆使しなければならない。仮差押えや損賠を請求された労組幹部と組合員が個別的に対応するように放置した瞬間、自主的な労組活動はとてもできなくなり、会社側の仮差押えと損賠請求を防ぐことができなくなる。したがって争議を決意した時から『共同対応と共同責任の原則』を確認し、これを全組合員が決意し、署名する必要がある。また訴訟には補助参加申請によって共同で参加し、その後の損害賠償判決に対しても共同で責任を負わなければならない。

第2に、長期的な対応を覚悟しなければならない。

損賠の請求を最終的に執行するためには裁判所の確定判決がなければならない。被告側が従わなければ1審、2審、3審まで、確定判決を出すためには長期間が必要とされる。しかし裁判をいい加減にして緻密に対応しなければ、損害賠償請求訴訟はわずか数ヶ月でも確定される。だから油断してはいけない。会社側は最大限に早く訴訟を進めようとするだろう。労組は遅延戦術を駆使して、長期的に対応しなければならない。

第3に、科学的、専門的に対応しなければならない。

争議が長い間の経験によって鍛練された労組幹部と、積極的な組合員の結合によって勝利を収めることができるように、裁判も労組活動と労働事件に経験の深い弁護士と、労組と当事者の緻密な結合があってはじめて所期の成果を収めることができるということは、あまりにも当然な事実である。

第4に、できれば交渉によって解決するようにする。

『不法争議』であれば、その損害賠償請求は責任の範囲が問題になるだけで、裁判所で認容される可能性が高い。このような場合、時間を最大限引き延ばしながら、交渉によって解決するのが賢明である。賃金・団体交渉闘争など、会社側との交渉がある度ごとに、仮差押えと損賠請求の取り下げを執拗に求めて食い下がらなければならない。

 

争議行為の法律対応、その事前準備と教育の実際

経験ではこのような原則がキチンと発揮されるためには、事前の準備と教育が重要である。

これについて先ず第1に強調したいのは、団体協約を締結する時に損賠・仮差押えを制限あるいは禁止する規定を入れることである。

しかし労組のすべての不法争議に対して、一切の損害賠償請求あるいは仮差押えの申請を禁止するといった規定は、今後裁判所でその効力が問題になる可能性が大きい。したがって「暴力および破壊行為のない」争議に対する仮差押えと損賠請求の禁止、「労組以外の個人」に対する仮差押えと損賠請求の禁止、仮差押えと損賠金額の範囲の制限など、会社側の仮差押えと損賠請求を具体的に制限する規定を置かなければならないだろう。

第2に、労働組合財政の分離管理など、財産管理が重要だという点を指摘したい。

不法争議によって仮差押えと損賠の請求が予想される場合、労働組合の財政を、会社側が把握している組合費納付通帳から分離して、別途に管理した方が良い。不法ストライキといういくつかの疎明資料さえあれば、会社側の仮差押えを裁判所が直ぐに受け入れるのが一般的な慣行である。また一旦仮差押えの決定があれば、その仮差押えを解除するためには相当な時間が必要となり、この過程で労組の争議行為が資金問題で力を発揮できないこともある。このような困難にあらかじめ備えなければならない。そして積極的な労組活動家、労組幹部に、会社側の個人的な仮差押えと損賠請求が予想される場合にも、やはり会社側が把握している給与振り替え通帳からあらかじめ預金を回収し、別途に管理しなければならない。

第3に、会社の不当・不法行為の資料など、有利な資料を確保していなければならない。

当然の事であるのにキチンと実践されていない部分でもある。労組は争議の前後に、会社側の不当労働行為、不法なスト破り労働、違法な職場閉鎖、不法な委託ヤクザの投入など、各種不法行為と不誠実な交渉、団体協約の不履行などに関連した資料を最大限確保しなければならない。これは今後、会社側の損害賠償請求訴訟で会社側の責任を反訴として請求したり、過失相殺の根拠資料として活用することができる。さらには会社側に対する損害賠償請求訴訟の資料にも使えるはずである。一方、労組もやはり適切な争議戦術を駆使することによって、会社側が不法争議の資料を確保できないように運用する必要がある。争議の過程で、会社側はあらかじめ計画を立てておいて、資料確保の目的で敢えて挑発するケースが多い。これに巻きこまれて前後の見境なく対応すれば、会社側のワナに嵌ることになる。

また労組は普段から各種の資料を最大限確保し、保存しなければならない。その資料が有利なものと判断されようが不利な資料と判断されようが関係なく、すべて保管していなければ、これからの会社側の請求に対応することはできない。会社に事前に通報しておいた方がいいものは、あらかじめ知らせておく必要もある。会社の不法行為を指摘する公文書の発送、労組の印刷物に争議期間中の生産物と施設保護の指示を掲載すること(これは偶発的な施設破損行為による責任まで労組が負わないようにするため) などは、とても小さな措置によって、後で起こるとんでもない結果をあらかじめ防ぐ効果がある。

第4に、どんなささいな刑事事件にでも、徹底して対応しなければならない。

不法争議に対して会社が労組または組合員を告訴すれば立件され、起訴猶予、略式起訴、不拘束起訴、拘束起訴などで処理される。ここで処罰が軽微だからといって、これと言った考えもなく、検察が略式起訴した事件に関する罰金額を納付してはいけない。この刑事事件の確定判決は、損害賠償請求事件の重要な証拠資料として活用されることがあるためである。したがってささいな刑事事件でも弁護士の助けを借りて、調査段階から裁判まで、緻密に対応しなければならない。

最後に、組合員教育の重要性と、免責に関する合意を強調しよう。

会社側からの仮差押えや損害賠償請求にあえば、組合員は萎縮してしまう。この時に使用側の懐柔に乗る組合員が少しでも生じれば、労組のストライキの勢いは急激に弱まることになる。組合員に対する徹底した教育によって、このような事態が発生しないようにしなければならない。そして労使交渉妥結時には、必ず民・刑事の免責に対する合意を取らなければならない。特に合意書の文言を作成する場合には、必ず弁護士に依頼して検討を受けた後に署名捺印しなければならない。合意当事者すべてが合意書に捺印するようにする。免責の合意は仮差押え、損賠請求の以前でも以後でも関係ない。

 

労組運動がもう少し品格を持って法律闘争をするために

これから少し長期的な視野で、労働組合が法律対応を、もう少し効果的にする構造を準備するための課題を提言しようと思う。

第1に、労働組合法律院の拡大と財政的な支援が必要である。

今までは労働事件と当面する時局事件に対する対応が、主に労働人権弁護士によって個別的になされた。しかし2000年に入ってからは、金属労組の法律院と民主労総の法律院という組織が存在することによって、主にこれを介して労働事件が扱われている。筆者が所属する金属労組法律院は1999年に開院し、現在ソウルに本事務所と昌原(チャンウォン)、蔚山(ウルサン)、水原(スウォン)にそれぞれ地域事務所を置いており、弁護士12人と労務士8人、職員13人の組織に規模が拡張された。現在労組所属の法律院は主に個別的な事件の受任によって運営される状況で、恒常的な財政的困難を経験している。より安定した法律対応のためには、労働組合の積極的な支援と規模の拡大が必要である。

第2に、労働組合の法規担当者の教育と組織化が、より一層積極的になされなければならない。

ほとんどの労働組合には法規部長という職責の労働組合幹部がいる。しかし規模が大きくない労働組合では専従者でないケースがほとんどで、立場は法規部長なのに労働組合の法律的な対応について専門的な知識を持っていないケースがあることも現実である。したがって効果的な法律対応のために法規担当者に対する教育体系作りと、組織化がより一層積極的になされなければならない。

第3に、争議行為に対する刑事、民事免責の法理を勝ち取るための闘いが必要である。

争議行為に対する刑事責任免責問題は、イギリス、フランス、ドイツなど、外国ではすでに100年余り前に議論されたことで、今日ではこれに関する議論を探し出すのすら難しい。すなわち、争議行為自体を刑事処罰する事例がない。争議行為の過程で発生した暴力行為などは、その行為者に対する刑法上の犯罪として処罰しているだけである。わが国のケースのように争議行為の過程で暴力行為などが発生したとして、争議行為自体を刑法上の犯罪として処罰したりしない。国際労働機構(ILO)でも「何人も平和なストライキを組織し、参加したという事実だけで刑事制裁を受けたり、その自由を剥奪されてはならない」と決めている。特に韓国の業務妨害罪については、結社の自由に符合するように改正することを数回勧告した。

 

労働組合運動は、いまだに確保されていない争議に対する刑事免責、民事免責の法理を勝ち取るための闘いを始めるべきである。使用側の仮差押え、損害賠償請求の撤回を要求する闘いだけでは、守勢的な対応を越えて一歩先に進むことはできない。労働運動の権利を守るだけではなく、獲得する闘いがなければならない。争議行為に対する刑事責任、そして民事責任の、真の免責を獲得することこそ緊急な課題である。

 

 

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