2007年12月号通巻127号 |
韓国労働社会研究所機関誌「労働社会」 |
差別是正制度活用と外注化乱用禁止のための法律対応方向 キム・ソンス(弁護士、民主社会のための弁護士会) |
非正規職三法と称する「期間制および短時間勤労者の保護などに関する法律(制定、以下『期間制法』)」、「派遣勤労者の保護などに関する法律(改正、以下『派遣法』)」、「労働委員会法(改正)」が2007年7月1日から施行されている。 非正規職法の施行と同時に非正規職に対する大規模な契約解約、契約職から派遣職への置き換え、広範囲な外注(委託化)の推進、職群分離によるいわゆる『中規職(訳注:正規職と非正規職の中間の意味)』の創設など、非正規職に対する差別は固定化・悪化し、非正規職雇用は極度に不安定な状態に置かれることになった。特に非正規職法の適用を回避する目的での外注化が広く悪用され、非正規職労働者が更に劣悪な状態に転落している。経済団体は非正規職法の正規職看做し条項や直接雇用義務条項、差別禁止条項の適用を回避するために外注化を活用することを推奨し、一部企業は公々然と外注化を推進すると明らかにしているといった状況である。 政府は非正規職法が、差別是正手続きを通じて非正規職問題の解決に重要な役割をするものと宣伝してきた。企業が外注化を推進する大きな理由の中の一つが、非正規職法上の差別是正手続きの適用を回避するためのものだという点を勘案するなら、差別是正手続きがまともに作動すれば実質的な役割ができる余地もうかがえる。責任回避を目的にした企業の違法な外注化を防止しながら、差別是正手続きによって非正規職の差別待遇の改善をするなら、肯定的な効果を期待することもできるだろう。特に『差別的処遇の禁止』はたくさんの事例の蓄積によって法理を発展させなければならないため、積極的に活用される必要がある。 うまく活用すれば薬にもなる『差別是正制度』 期間制法と派遣法は期間制労働者、短時間労働者または派遣労働者であることを理由とする差別的処遇を禁止し、差別的処遇を受けた者は管轄労働委員会に差別是正を申請できる制度を導入した。差別是正申請を受けた労働委員会は調査と尋問を経て、是正命令を発することができ、是正命令に従わない使用者は再審申請および行政訴訟の方法で争うことができる。使用者が確定した是正命令を履行しなければ、過怠金の処分を受けることになる。 期間制法と派遣法は『同一価値労働・同一賃金原則』を規定してはいないが、禁止される『差別的処遇』として「賃金およびその他の勤労条件などにおいて、合理的な理由なく不利に処遇すること」と定義している。この中で『賃金において合理的な理由なき不利な処遇』であるかどうかを判断する重要な基準の中の一つは、まさに比較対象の労働者と非正規職労働者が行う業務が、同一価値労働であるかどうかになるだろう。そして同一価値労働をしているのに非正規職という理由だけで賃金を差別するのは、禁止される差別的処遇に該当するものと評価されるだろう。 差別的処遇の対象は賃金以外にも、勤労時間と休暇、賞与金、特に成果賞与金、家族手当や体力鍛練費、あるいは慶弔費などの福利厚生的な給与、作業服の支給、教育訓練などの諸般の労働条件である。上のような眼に触れる労働条件上の差別は禁止されるので、差別是正手続きによって解決できるだろう。 労働委員会が担当する差別是正手続きは、過怠金を武器にした是正命令をその手段とする。しかし実際に是正命令が確定するまでには地方労働委員会から始まって、中央労働委員会、行政裁判所、高等裁判所、最高裁判所の最大で5審の過程を経なければならず、確定した是正命令を履行しない場合の過怠金もそれほど大きくないため、使用者の法遵守を強制するのが難しく、実効性を発揮しにくい側面がある。そして是正命令が確定しても執行力があるものではなく、これを根拠として強制執行ができないという限界がある。使用者が故意に是正命令を履行しない場合、強制執行をしようとすれば結局また民事訴訟を提起しなければならない。 差別処遇を受けた非正規職労働者としては、労働委員会の是正手続きを利用するのとは別途に、期間制法と派遣法の差別的処遇禁止条項を根拠として、賃金差額などを支給せよという民事訴訟を提起することができる。勤労基準法第5条の均等処遇条項を根拠として、雇用形態を理由とする差別を是正する民事訴訟を提起することが可能であるかについては、解釈上論議があったが、期間制法と派遣法の差別的処遇禁止条項を根拠として民事訴訟を提起できるという点については特別な異見はない。民事訴訟を直ぐに提起することが相応しくないなら、地方労働委員会の是正命令があったのに使用者が従わない場合、地労委の是正命令を根拠として民事上の仮処分あるいは、本案の訴訟を提起する方法も考慮することができるだろう。民事訴訟で判決や決定を受ければ強制執行ができる。 訳注:勤労基準法第5条(均等処遇)使用者は、勤労者に対して男女の差別的待遇をすることができず、国籍、信仰又は社会的身分を理由として勤労条件に対する差別的処遇をすることができない。 差別是正制度が『絵に書いた餅』にならないようにしようとするなら しかし期間制法と派遣法は差別是正申請をすることができる当事者を『差別的処遇を受けた労働者』に限定しているので、本質的に期間制の属性を持った非正規職労働者が、差別是正手続きを活用するのは容易ではないだろう。このような問題を克服するためには、不当労働行為のケースと同じように、その労働者が所属している労働組合にも申請権を認める必要がある。一般に差別的処遇は非正規職労働者集団に対して行われるのが普通であるから、彼らが所属している労働組合に申請権を認めれば、一括して解決することが可能になるだろう。 また差別是正手続きの進行中に勤労契約期間あるいは派遣期間が終了した場合、使用者が契約更新を拒否することによって事実上解雇する可能性もある。ただし期間制法と派遣法は差別是正申請を理由とした解雇など不利益な処遇を禁止しているので、契約更新拒否が是正申請などを理由として行われたものであれば当然無効である。 一方、差別是正申請は差別的処遇があった日(継続する差別的処遇はその終了日)から3月が経過する前にしなければならない。差別的処遇があったかどうかが簡単に判別されないケースが多いために、申請期間の起算点を『差別的処遇があったことを知った日』とすることが妥当である。是正命令の対象が申請前3ヶ月の期間に限定されていないとすれば、それ以前の差別的処遇にまでに拡大されるかどうかも問題になるだろう。これに関しては後者と解釈することが妥当だが、もし労働委員会が前者の立場を採るなら、それ以前の差別的処遇是正のためには別途に民事訴訟を提起しなければならなくなり、労働委員会による差別是正手続きの実効性が更に一層落ちるということになるだろう。 差別是正手続きには一定の限界があって不充分であることは事実だが、非正規職に対する差別問題を解決するための有力な方法になることは確実であって、積極的に利用する必要がある。具体的には立法的な対案を示して法律改正のために努力することと同時に、差別的処遇禁止に関する事例を蓄積して法理を発展させる必要がある。労働現場で差別的処遇禁止が確実に定着すれば、非正規職を使用する利点が消えることになり、これが非正規職の問題解決の出発点になりうるだろう。 非正規職法回避の帰着点、『外注化』 外注化(アウトソーシング)は企業内部で行われてきた事業の一部を引き離して、外部の独立的な事業者に請負、委任、委託などの形態で、その仕事を渡す事業形態をいう。外注化は当該の業務を行う労働者との関係で、直接雇用ではなく第三者を媒介とした間接雇用の形式をとる。直接雇用は雇用と使用が一致するのに反して、間接雇用は雇用と使用が分離し、そのために中間搾取の可能性が内包されている。 中間搾取の可能性のために、間接雇用と外注化は一定程度制限される必要があるが、憲法と労働法からいくつかの規制原理が導き出される。第1に、憲法上の勤労権保障に基づいた『直接雇用原則』である。これは企業の通常的に常時的にある業務のために必要な労働力は、直接雇って使わなければならない原則をいう。第2に、労働法で長い間維持されてきた『使用者責任回避防止の原則』である。労働者の労務提供で利益を得ようとする者は、それにともなう責任も共に負わなければならず、契約形式を別にしたり外形上の事業主を別に置くなどの方法によって、自身の責任を回避してはいけない。第3に、憲法第10条の人間の尊厳と価値および幸福追及権に基づいた『勤労者の自己決定権』である。社会的弱者と少数者の自己決定権を正しく保障するためには、新自由主義者らが主張するように規制を緩和してはならず、むしろ反対に社会的強者と多数者の一方的な決定に、国家が介入して規制しなければならない。まさにここに非正規職および外注化に対する規制の根拠があるのである。 訳注:大韓民国憲法第10条 すべての国民は、人間としての尊厳及び価値を有し、幸福を追求する権利を有する。国は、個人の有する不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を負う。 特に、非正規職法施行以後に非正規職法の適用を回避するために、期間制または派遣労働者を請負や委託などによって外注化することが、『乱用』といっても良い程頻繁に発生している。期間制勤労契約または勤労者派遣契約の期間満了後、更新または再契約をしないことによって労働者を解雇し、外注化するのである。外注化そのものに対して法律的な救済手続きをとることは簡単ではないように見えるが、具体的な状況によって色々な対応方法を講じることができるはずである。 『法回避』対応は『法の通り』! 最初に、団体協約などに社内業務を外注化する場合、労使合意または協議の手順を踏むようにした規定があるのに、そういう手続きに違反して外注化を進めるなら、その規定に基づいて外注化の進行停止を求める仮処分などの形で争って見ることができるだろう。 第2に、期間制勤労契約の更新拒絶に対しては、期間の定めが形式に過ぎないようになっていたり、更新に対する合理的な期待権が形成されている事情などを調べて、契約更新拒否を解雇と見て法律的な救済手続きがとれるはずである。ただし期間制法が2年の期間内で期間制労働を自由に使用できるように規定しており、肯定的な結果を請け負うのは難しい。したがって長期的には労働者一人ひとりを基準として、その労働者が『期間制で働いた期間』が2年になったかを計算しなければならず、期間制勤労の使用期間制限の趣旨に照らして、『業務』を基準として2年を越えるかどうかを判断しなければならない。すなわち2年以上維持された業務の場合、該当企業の常時的な業務と見て、2年目以後は期間制勤労を使用できず、期間の定めのない勤労契約(無期契約)を締結したものと解釈しなければならない。 第3に、外注業者が本当に独立した事業主なのかどうかを調べて、その独立性を認めにくかったり、元請け事業主が労働者の労務提供の過程を実質的に指揮・命令する関係であれば、外注業者の労働者と元請け事業主との間に直接雇用関係、でなければ少なくとも勤労者派遣関係が認められるという前提の上で、法律的救済手続きをとることもできるだろう。元請け事業主が外注業者の労働者の労働条件決定に実質的な影響力を行使しているなら、少なくともその範囲においては、元請け事業主も外注業者と共に重層的に使用者の地位にあり、責任を共同で負担すると見なければならない。 結局『法改正』が必要 しかし現行法の解釈だけで、非正規職よりも劣悪な労働者層を作り出す外注化に対して完全に対処するには不充分である。法律の改正が必要な対案を模索せざるをえない。そのような対案としては、△常時的業務に対する直接雇用および外注化禁止の原則の明文化(勤労基準法第8条の中間搾取の排除条項に新設)、△外注化時に労働者代表との合意または誠実な協議手続きの導入、△元請け事業主の連帯責任の明示(勤労基準法の使用者の定義条項に新設)、△元請け事業主の労働団体法上の責任(特に団体交渉義務および不当労働行為責任)の明示(労働組合および労働関係調整法の改正)、△勤労者供給または勤労者派遣と請負などの区別基準の法令化(職業安定法および派遣法改正)、△外注化時に労働条件の不利益変更の禁止と差別的処遇の禁止および差別是正手続きの導入、△外注化の中でも最も差別が顕著な形態である社内下請け労働者保護のための特別法の制定、などを考えてみることができる。 訳注:勤労基準法第8条(中間搾取の排除)何人も法律によらなくては、営利で他人の就業に介入し、又は中間人として利益を取得することができない。 非正規職法が多くの限界を露呈していても、これを利用して法廷闘争ができる空間は最大限に活用する必要がある。使用者と勤労者の定義規定、差別的処遇禁止、勤労者派遣と請負などの区別など、関連する争点について裁判所に正しい立場に立ってもらうだけでも、現在発生している非正規職問題の相当部分を解消できるだろう。裁判所が正しい立場をとることができるように法理を開発し、また必要な時には世論を形成することも必要である。 解釈論で限界がある部分は、立法によって解決するように努力するほかない。具体的な法律案を提示して国民を説得しなければならない。外注化を正しく規制しないのは、脱法を犯す企業家に不当な恩恵を与えることによって、正道を歩む企業家に相対的な損害を及ぼすことである。強力な法律案を提示すれば、経営界内部で脱法的な外注化を乱用することによってイメージを失墜させる企業に対する、内部的な自省の契機になることもあるであろう。 |