韓国労働社会研究所 機関誌
「労働社会」2008年2月号
[争点と現場]
デパート労働者に椅子を!労組で安全な職場を!
キム・シンボム(労働環境健康研究所・労働安全保健教育センター教育室長)
 2006年、民主労総は労働安全保健委員会を発足させた。組合員の安全と健康を守るために、より責任ある決定をし、執行する構造を作ったのである。そして同じ年の8月、労働安全保健委員会の下にぜい弱分科を置くように決議したのである。非正規労働者、零細事業場の労働者、女性労働者、移住労働者など、韓国社会の構造的問題によって安全と健康上の脅威を深刻に体験していながら、問題がキチンと見えてこない労働者の問題を、民主労総が直接掘り起こして対策を準備するためだった。究極的にはこのような活動を通じて、これらの内部に安全保健活動の主体を養成し、持続的に組合員の健康と安全に対する活動が自主的にできるようにするのが目標であった。

民主労総・労働安全保健委員会ぜい弱分科の初めての活動!
 ぜい弱分科の最初の活動対象は、流通サービス分野の女性労働者と決められた。流通サービス分野の安全保健問題が深刻だという予測もあったが、サービス連盟が今回の活動を通じて、安全保健活動ができるようにならなければならないというのが民主労総の判断だった。活動準備を何ヶ月間か行い、2007年6に月ぜい弱分科を発足し、流通サービス分野に対する本格的な調査・研究活動を始めた。『流通サービス女性労働者の安全保健議題開発研究』は、外国のサービス労働組合の安全保健活動と議題を分析した後、韓国の流通サービス分野の労働者の安全保健問題を診断して、どのような安全保健活動が必要であるかを提案することを目的に行われた。6ヶ月程度の1次研究を経て、2007年12月に中間報告書で、民主労総の労働安全保健委員会とサービス連盟が、流通サービス分野の女性労働者の健康権を守るためにすべき仕事が何かを提案した。
 2008年1月、民主労総とサービス連盟はこの提案を受け容れて、流通サービス女性労働者の健康権の活動のための事業推進団を構成した。労働組合と一緒に女性の健康問題を研究して支援する女性学者、社会学者、法律専門家をはじめとして、産業医学専門医、精神科専門医、人間工学の専門家まで力を合わせた。デパートの化粧品売り場で働く女性労働者が、自分たちの健康問題で教育を受け始めた。2008年2月から4月までは、立って仕事をする問題を深層調査し、社会的に知らせていく内容を準備する。5月から本格的な活動が行われる予定である。そしてその中心スローガンはまだ決めてはいないが、「デパート労働者に椅子を!」といったものになると予想される。

「建設労働者は落ちて死に、サービス労働者は狂って死にます」
 最も深刻な問題はあまりな感情消耗に伴う精神の健康破壊であった。インタビューで会った労働者の中にはうつ病が疑われる労働者が相当数いた。次のような話を大変多く聞かなければならなかった。

「憂うつです。退社する時ハンドルを握りながら『あー憂うつ』という言葉が独りでに出てきます。なにか・・・・なぜ明日またここに出てこなければならないのかを考えるだけでも憂うつになるのです。」

 デパートの労働者に要求される感情労働は、一般的な20〜30代の女性が耐えるにはきわめてきついレベルのものだった。サービス労働に対する社会的なさげすみと、1人1人に対する企業の監視の中でする「作り笑い」は、彼らの感情の泉をすべて干上がらせてしまい、何の罪もない家族に暴力的に噴き出す怒りは、再び彼らをみじめにさせる仕組みになっていた。サービス労働者は冗談でこのように話す。

「建設労働者は落ちて死に、サービス労働者は狂って死にます。」

 一日10時間程ずっと立って仕事をし、下肢静脈瘤ができたり、膝と足首の痛みがとてもひどくなったりもします。狭いところにずっと立っているのは肉体的に大きな疲労をたまらせ、精神的にも疲労を蓄積する原因になります。職員用のトイレに行かなければならないのに、一階に一つあるかないかです。その上にとても遠くて、お客が多い時は席を外すのが難しくて、トイレにも行けない。可愛い声でたくさん話しをすると声帯結節になったりもする。空気が悪くて耳鼻咽喉科の病気を付けて買うと言う話しをする。『労働災害』という話は聞いたこともない。

なぜ『椅子』が中心スローガンになったのか
 2007年の研究で外国の事例を検討した。アメリカやイギリスのサービス労働者の現実も韓国と大きな差はなかった。しかし彼らの労働組合はトイレに自由に行くために闘い、産業安全保健法に労働者の人数によってトイレをいくつ設置しなければならないかを決めるという成果をあげた。彼らは顧客に「サービス労働者を尊重しよう」というキャンペーンをして、『非難されない現場』を作るために努力していた。そしてあちこちに椅子を置いて座れるように闘っていた。驚くべきなのはすでに彼らは椅子とトイレと暴力の問題を、同じ一つ問題と認識していたということである。

「医者は患者を座って迎えてもかまわないのに、サービス労働者はなぜ立って顧客を迎えなければならないのか? 顧客がいない時でも立っていろと要求する理由は何でしょうか? それは韓国社会に、職業の貴賎があるということに他ならないということだそうです。サービス労働者を大事にして下さい。それが正義です。」

 サービス労働者にとって椅子やトイレは、人間の尊厳に対する尊重のレベルを意味する。彼らがトイレに自由に行くことができないレベルなら、椅子がなくて一日中立っていなければならないレベルなら、彼らは非難をされても耐えなければならない。しかしトイレに自由に行って、顧客がいない時に少しの間座れる椅子を持った労働者は、顧客と会社から不当な待遇を受けた時、無視するなと抵抗するだろう。
 そして驚くべきことに韓国の産業安全保健法の『産業保健基準に関する規則』に、すでに椅子を提供することが明示されていた。「事業主は継続して立って仕事をする勤労者が、作業中時々座る機会がある場合には、当該勤労者が利用できるように椅子を配置しなければならない」というのである。この条項によれば、現在デパートに椅子を置かないようにしている方針は、すべて不法ということになる。

 民主労総とサービス連盟は現在の法に明示された椅子の権利を利用して、トイレと暴力、その他の感情労働の問題にまでじわじわ拡大していくのが現実的だと考えた。事業場別の団体交渉で椅子を置くようにさせたり、労働部の勤労監督を要請して、現場に椅子を置かせたり、でなければある一日を決めて、椅子を置いて座る日の行事を行うなど、多様な戦術が可能だろう。これが、うつ病、感情労働問題、暴力の問題などが最も深刻だが、『椅子』を最初のスローガンに採用した理由である。デパートの労働者はこのような戦術を理解し、積極的に歓迎してくれた。

労組が労働の質を変えると言ったことを具体的に見せなければ
 重要なのはこのような経験によって、サービス労働者の中に安全と健康の問題がやさしくて身近な日常的な問題として位置付けられることになるのである。そしてこのような闘いの経験が蓄積されて、サービス連盟の自主的な安全保健活動が持続的に行われるようになるのである。民主労総は、サービス連盟ではこのような活動が可能だったということを傘下組織に教えるだろう。各自が置かれた状況によって、健康権の議題を開発することを提案することになるだろう。業種と雇用形態、事業場の規模、国籍、性、年齢などによって自らの健康権の議題を見つけ出して活動するモデルを作って広めるだろう。
 ところで、果たしてこのような健康権運動の拡大が民主労組運動全体に役に立つのだろうか? サービス労働者に椅子を置く運動を拡げる主体は、漠然と原則的なレベルでの正しさでなく、具体的に現実の運動にどのような支援になるのかに悩んできた。そして信じている。私たちより先に、イギリスの労働組合は現場に飲料水を設置しながら、トイレを改善しながら、椅子を置きながら、温度を低くして快適にさせながら、立証してきたものがある。まさに「労働組合があれば、労働の質が変わる」ということである。外国のサービス労働組合は「一日の労働のために身体がめちゃくちゃになるほど仕事をしなくても良く、家に帰って子供たちと夫と妻と話す力程度は残すことになる」ということを組合員と非組合員たちに示していた。

民主労総とサービス連盟で、椅子を置く運動を準備する仲間たちはこのような夢を見る。
 「私たちの現場にあるとても小さな問題を労働組合によって解決し、権利を勝ち取ることを見せることによって、私たちは労働組合の正当性と必要性を社会的に立証することになるだろう。民主労総に加入してこそ、それが可能だということを見せてやることになるだろう。」
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