我が心の平井和正

No.1   魅かれたきっかけ
  私が最初に目に留まった平井和正の作品は、トクマノベルズ版の『黄金の少女』1だった。確か1991年ごろだったと思う。書店をただただ、ぶらぶらと歩き回っていた私の、何もかもに絶望し、諦め、そして醒めきっていた目に、あのカヴァー・イラストが入った。
“黄金の少女”キム・アラーヤにこの瞬間惚れたのだろう。でも、このときは「きれいな女の子が描かれているなぁ・・・。」と言う感覚でしかなかった。しかし、この時からこの少女のことが心に引っ掛かるようになった。思えば、この出会いが、十数年にも及ぶ私の暗黒時代に終焉を告げる、一条の黄金の光だったのかもしれない。
 翌1992年、浪人生活に入った私。皮肉にもこの年が私の第1次黄金時代だった。早い話が何もかもが楽しかった時代である。散々馬鹿なことをやったが、それが自分自身にどれだけ充実感をもたらしたことか・・・。
 時間的・金銭的余裕がある程度出てきた私。といっても、真っ先に『黄金の少女』1を買ったわけではなかった。最初に読み始めたのは、角川文庫版『狼の紋章』だった。いわばウルフガイシリーズの開幕を告げた書から、きちっと読み始めたのである。このときは地元の図書館から借りて読んだ。ページを開いた瞬間、私は貪るように読みふけった。こんなに面白いのか。なぜこんなおもしろい物語に今まで出会わなかったのだろうか。この時から、主人公・犬神 明は私の心どころか、全身に入った。そんな気がした。寝ても醒めても思うは彼のことばかり。

 その後、図書館で『狼の怨歌』、『虎の里(後に虎精の里と改題)』、『ブーステッドマン』と、次々と借りては読みふけった。全身の細胞が活性化されたかのような感覚が常にあった。何よりも心臓が鷲づかみにされ、思いっきり揺さぶられる衝撃が私のそれまでを破壊したような気がした。
 これは私の手元に置くべき本だ。私のお守りにすべき本なのだ。そんな思いに駆られた私は、おそらく取り憑かれたのだろう。ウルフガイシリーズを買い始めた。それが今も思うに半端じゃなかった。
 当時、親から昼食代として、月1万円はもらっていたが、それを昼食ではなく、ウルフガイシリーズを買い集めるのに回した。昼は予備校の冷水機で済ませていた。これは、大学1回生の時まで、たまにだが、やっていた。『黄金の少女』3(パットン将軍)、『黄金の少女』4(タイガーウーマン)がこのときだったからなのだが。(ちなみにこの時期に出た、『犬神』1,2も切り詰めて買った。)
 
 ・・・まあ、読み始めは『狼の紋章』だったわけだが、今でも時々思う。『狼の紋章』のカヴァー・イラストもすばらしいのだが、そんなに魅かれるものだったか?あのときは、トクマノベルズに限らず、ノン・ノヴェル版もあった。先に述べた角川文庫版もあった。しかし、それでもファースト・インプレッションはあの『黄金の少女』1だったのだ。大切なのは物語だと思っても、きっかけとしてのイラストの大切さもあるのだということを。
 
 先日行われた「平井和正 作家生活四十周年記念講演会」と同時に行われた、イラストレーターの泉谷あゆみ嬢(と私が一人、心の中で呼んでいる)のサイン会で、私がサインしてもらったのは、私が一番最初に魅かれた、トクマノベルズ版『黄金の少女』1だった。この時よりこの本は、私の中ではもっとも特別な本になったのである。


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