名曲座・マイナー篇

VOL.1 「EXPLORER SUITE」/NEW ENGLAND (from “EXPLORER SUITE”/1980)

果てしなき冒険
 アメリカ、ボストン出身のメロディアス・ハード・ロックバンド、NEW ENGLANDが1980年に発表した2ndアルバム『EXPLORER SUITE(果てしなき冒険)』のタイトル・トラック。かつて伊藤政則氏はこのバンドを“叙情派ロックの帝王”と呼んだが、特に2ndアルバムはなぜ彼らがそう呼ばれたかが良くわかるアルバムだと、私は思う。しかし、彼らの作品は長く「幻の名盤」となっていた……。

 まず、NEW ENGLANDとはどんなバンドだったかを簡単に説明すると、1976年に、以前FATBACKというバンドで活動していたハーシュ・ガードナー(ds,vo)、ジョン・ファノン(g,vo)、ジミー・ウォルドー(key,vo)、ゲイリー・シェア(b)が再集結してできたバンドで、新たにNEW ENGLANDと名乗ったのである。1978年、フィラデルフィアでデモ・テープを3本製作。(これが、1998年にマーキー・インコーポレイテッドから『1978』のタイトルで世に出る)RCAが配給していたMCA傘下の新興レーベル、〈Infinity〉と契約し、また、KISSが所属していた〈Aucoin Management〉と契約して、KISSのポール・スタンレー、QUEENのエンジニアだったマイク・ストーンのプロデュースで、1979年、デビュー・アルバム『NEW ENGLAND』を発表する。このアルバムから、「Don't Ever Wanna Lose Ya」、「Hello,Hello,Hello」がヒットし、幸先のいいスタートを切る。
 その後、KISS,STYX,AC/DC,JOURNYのツアーに同行、1980年にはCHEAP TRICKともアリーナ・ツアーを敢行し、自身のヘッドライナー・ショウも行うなど精力的に活動、そして2ndアルバム『EXPLORER SUITE(果てしなき冒険)』のレコーディングを開始する。途中、〈Infinity〉の消滅により、〈Elektra〉に移籍する出来事があったが、ソングライティング、アレンジ、プロデュースとジョン・ファノンが大いに力を注ぎ込んだ事により、NEW ENGLANDでしか成し得ない傑作を完成させたのである。
 さてアルバムはと言うと、美しくさわやかなコーラス・ハーモニーに彩られたフックの強いメロディにはBEATLESやBADFINGER,そして当時ならELO(ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA)の影響が見て取れるし、QUEENを思わせる大胆なオーケストレーションもこのアルバムをさらに強力なものにしている。全般的には「CONVERSATION」、「NO PLACE TO GO」、「YOU'LL BE BORN AGAIN」のような心温まるメロディがあしらわれた曲が多いのだが、「HONEY,MONEY」、「SEAL IT WITH A KISS」のようなアップ・テンポ・チューンも心地良く、こういったところにアメリカン・バンドの息吹が感じられる。

 さて、今回のお題「EXPLORER SUITE」だが、この曲は別格である。よく「HR/HM史上に燦然と輝く永遠の名曲」などというフレーズを安易に使いまくる人間を雑誌などでよく見かけるし、身近にもいるのだが(爆)、この曲は正真正銘の「歴史的名曲」である。泣いて泣いて泣きまくる美旋律、壮麗かつ劇的な曲展開が圧倒的なダイナミズムでもって聴き手の心を大いに揺さぶるのである。キーボードを大々的にフィーチュアしていてギターは一切入っていないが、凡百のギター・オリエンテッド・ロック・チューンを聴くより非常にカッコいいし、大いに感動できる。全体的に哀しいメロディ(いわゆる哀メロ)で統一されているものの、ブリッジの部分を明るいメロディで彩り、ラストを明るさや希望を想起させる歌詞とメロディで締めることで起伏をしっかりつけたことにより、余計に聴く者の感涙を呼び起こしている。よく哀しい曲を作るのに哀しいコード、マイナー・コードしか使わないバンド、アーティストが多いが、哀しい展開から一転して、ほんの少し、一瞬明るくなるから哀しさが増すのであって、哀しいだけじゃウンザリするだけである。その点、NEW ENGLANDは明暗の対比、コントラストを見事に表現しきっており、これは10曲目(B面5曲目)に収録されている、「EXPLORER SUITE」と双璧をなす6分強の大曲、「HOPE」でもそれが伺える。「HOPE」は「EXPLORER SUITE」とは違いスロー・テンポなナンバーだが、ドラマティカルで泣きのメロディも満載だが、こちらはタイトルどおり、聴き終えた後、希望がわきそうな心温まる曲である。こちらもお勧めです。
 この「EXPLORER SUITE」を語るとき、ジャケットのアートワークについて語ることも忘れてはいけないだろう。部屋の中から夜空を見上げる子供の絵だが、これについてヴォーカル&ギターのジョン・ファノンはこう語っている。
「アートワークに映し出されている子供は自分が何を探しているのかを理解出来る年齢には達していないが、それでも見てみようというだけの好奇心はあるんだ。色々な意味で若者たちだけが残された唯一の探求者(EXPLORER)なのかもしれない」さらに、「歌詞の大部分は寓意の物語になっている。例えば、タイトル曲はバロックンロール版のSF物語になっていて、聴き手の一人ひとりが異なった解釈を得る事ができる。曲の多くは何らかの形で積極的な姿勢とリスクの要素を吸収し、未知の世界に入り込み、次の何かを探し求めている」と付け加えている。
 よくプログレッシヴ・ロック・バンドが難解かつ奇妙(といっては失礼だが……)なアートワークを使ったアルバム・ジャケットをあしらったが、それは聴き手にアートワークに籠められた意味意図を、音楽を聴くことによって読み取ってもらう為のひとつの手段だった。さまざまな解釈が生まれるのは当然だが、それを楽しむ傾向すらあった。つまり、視覚と聴覚を介して聴き手にさまざまな事柄を考えさせたのである。もっとも、これはプログレッシヴ・ロック・バンドに限らず、60年代〜70年代のアーティストには良く見られた現象だった。今ではそういうアーティストは極めて少なくなったし、また作品に籠められた意味意図を読み取ろうとする聴き手もずいぶんと少なくなっている。それこそ、物事を深く追求しようとする“EXPLORER”が無くなってきているような気がするのである。

 さて、これだけ優れたアルバムを産み出したNEW ENGLANDだったが、シングル・ヒットは生まれず、アルバムも1stほど売れなかった。これが3rdアルバムに微妙な影を落としたのだろうか、トッド・ラングレンがプロデュースした『WALKING WILD』は、前作のようなプログレッシヴな要素は薄まり、ストレートになった分、NEW ENGLANDの持ち味までが無くなってしまい、決して悪くはないものの、平凡な作品になってしまった為、新しいファンを獲得するどころか、デビュー当初からのファンも失ってしまい、〈Elektra〉をドロップ。1983年、バンドは正式に解散するのである。日本にもファンは少なからずいたのだが、あくまでマニアレヴェルでしかなかった。NEW ENGLANDが商業的に成功しなかったのは、ロックが育ちにくいアメリカの土壌も一つにあった。

 さて、解散後はどうなったのか?ジミー・ウォルドーとゲイリー・シェアはグラハム・ボネットが始動したALCATRAZZに加入、解散まで行動をともにし、4枚のアルバムに参加した。ALCATRAZZ解散後はセッション・プレイヤーとして活動していた。
 ハーシュ・ガードナーとジョン・ファノンはプロデューサーとして地元ボストンの未契約バンドのサポート・ワークを行ってきたが、ジョン・ファノンは一時、広告業界に転身していた。
 では現在は?1998年にNEW ENGLANDの3作品が世界初CD化され、『1978』というでも作品集も発表。2002年にはハーシュ・ガードナー初のソロ・アルバム、『WASTELAND FOR BROKEN HEARTS』が発表された。(「MORE THAN YOU'LL EVER KNOW」でなんと20年ぶりにNEW ENGLANDのメンバーが共演)翌2003年には,1982年のライヴ音源を収録した『GREATEST HITS LIVE』も発売されたが、ファンだった人たちにとっては再結成の思いが強いのではないだろうか。今は大きな進展は見られないが、可能性が全くないわけではない(RAINBOWと違って・爆)
 なお、NEW ENGLANDについての詳しい情報を知りたい方は、マーキー・インコーポレイテッドのこちらのページをご参照してくださるとありがたく思います
http://www.marquee.co.jp/avalon/newengland.html

 わずか4年だが、まさに「至宝」とも言うべき数々の名曲を生み出したNEW ENGLAND。私にとっては「人生の糧」である。葬式の時はぜひとも「EXPLORER SUITE」をかけてもらいたいものである……。

(ガブリエーレ)


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