名曲座・メジャー篇

VOL.8 「WHEN DEATH CALLS」/BLACK SABBATH  (from “HEADLESS CROSS”)

Headless Cross
 1989年、BLACK SABBATHが発表した16枚目のアルバム、“HEADLESS CROSS”に収録されていた超名曲。荘厳、という言葉はこの曲のためにあるのだと思うほどの素晴らしい曲である。
 前回、‘HEAVEN AND HELL’(1980)を紹介したが、そこから9年先の曲に話が飛ぶので、軽く経緯を説明しようと思う。

 “HEAVEN AND HELL”アルバムでBLACK SABBATHは復活を果たしたが、ツアー開始前にドラマーのビル・ワードが脱退。カーマイン・アピスの弟、ヴィニー・アピスが加入してツアーを遂行した彼らは(このツアーには、初の日本公演が含まれていた)1981年、“MOB RULES”を発表。82年にはライヴ・アルバム“LIVE EVIL”を発表したが、“LIVE EVIL”のミキシング中にトニー・アイオミとロニー・ジェイムズ・ディオが揉めて、ロニーがヴィニーを連れて脱退。83年、イアン・ギラン(ex.DEEP PURPLE etc)が加入して製作された“BORN AGAIN”、『LIVE AID』による、一時的なオリジナル・ラインナップの再結成の後(QUEENは息を吹き返したが、SABBATHはダメだったという、あのLIVE AIDですわ)、85年に、『BLACK SABBATH featuring TONY IOMMI』と言う、訳のわからん名義で(苦笑)“SEVENTH STAR”を発表したが(Voはグレン・ヒューズ)、正直、83年から86年ぐらいまではBLACK SABBATHが迷走した時期であろう。87年、いろいろあって、トニー・マーティンがヴォーカルとして加入し製作された“THE ETERNAL IDOL”でトニー・マーティンを気に入ったトニー・アイオミは、89年、ゲイリー・ムーアとの仕事をやめたコージー・パウエル(ex.RAINBOW,MSG,WHITESNAKE etc)をドラムスに迎えて、“HEADLESS CROSS”を発表するに至ったのである。ちなみに、ベーシストはローレンス・コットルという、セッション・プレイヤー。

 “HEADLESS CROSS”アルバムは、“HEAVEN AND HELL”と同じく、様式美路線なのだが、トニー・マーティンならではの気高さ、美しさが醸し出されている。それがはっきりと出ているのが、今回の‘WHEN DEATH CALLS’である。この曲も‘HEAVEN AND HELL’同様、前半ゆっくり展開して、後半ガンガンに盛り上がる、HR/HMの名曲の黄金パターンを踏んでいるのだが、ディープにソウルフルと、まるでデイヴィッド・カヴァデールのように歌い始め、そしてロニーのように力強く歌いながらも、独特の澄んだ感覚を表現するさまは、なにかしらEUROPEなどの北欧ヘヴィ・メタルを彷彿させるものがある。実際、北欧ではトニー・マーティンのファンが多い。おそらくトニー・マーティンの方が共感しやすいのだろう。
 そして、コージー・パウエルのドラムスが本当に素晴らしい。この曲の破壊力の基礎はコージーが生み出している。唯一無二の強烈なドラミングをここでも如何なく発揮し、それでいて、楽曲の力をどこまでも高めることができるのは、コージーだからこそであろう。自己主張していながら、楽曲を引き立たせることができるのはコージー以外にいないのではないかとさえ、考えてしまう。
 だが、何と言っても真に素晴らしいのはトニー・アイオミである。この人こそが天才なのであろう。暗く、哀しく、そして切なくメロディが流れ、やがて破壊を呼び起こす。破壊はとどまることを知らず、ついには破滅をもたらす。だが、そこに美しさ、そして冒頭で述べた荘厳さがあるのだ。破滅美をこれほどまでに究極に表現することができるのは、おそらくトニー・アイオミだけではないだろうか?ロニー時代は美と破壊を表現していたが、ここでは美と破滅を描ききった。それはある種、倒錯的で耽美的と言えるのかもしれない。
 なお、この曲でギター・ソロを弾いているのが、当時QUEENのギタリストだったブライアン・メイである。トニー・アイオミの大親友である彼はこの曲のみ参加。そして、あのブライアン・メイ独特のギター・サウンドでこの曲が持つ破滅美に更なる彩りを添えている。

 と、ここまで書いてきてなんなのだが、実はこの曲、確かに哀切で気高く美しい曲なんだけど、ひとつミスがある。素人が聴いてもわかるミスである。それは何か?実はブライアン・メイのギター・ソロの演奏のときにあるのだ。いや、ブライアン・メイのソロは素晴らしい。何のミスもない。問題はそのギター・ソロが終わる少し手前の部分で、トニー・マーティンが「Do…」とフライングしているのだ。せっかくの感動的なギター・ソロがここで少し、言っては悪いが、キズが付いた感じなのだ。気にすることはないのかもしれないが、ムチャクチャ盛り上がっているところでこんなフライングされると、少し拍子抜けするんだよなぁ。どうしてこれを消去するのを忘れたんだろう?それとも気づかなかったのか?未だに謎である。

 とはいえ、超名曲であることには違いなく、ヘヴィ・メタル・ファンにはぜひとも聴いてもらいたいと思っている。ただ、現在、国内盤は廃盤のため(悔しい……)輸入盤を入手するしかないだろう。アマゾンなどで入手するのもひとつの方法だと思いますので、興味を持った方は、この破滅美を描ききった見事な名曲に浸ってみて下さい。(ヴァレーリエ)


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