Over The Trial



その7


 30分後。開けられたゲートをまるで競走馬のように飛び出していったのはルーアンだ。遅れて追いかける一行。

「さあ、思いっ切り遊ぶわよ〜!」

「ル、ルーアン、そんなに急がなくても遊園地は逃げないってば」

「わかってないわね、たー様。一番乗りに入ったんだから、乗り物に乗るのも一番じゃないと」

「どういう理屈だよ…ってあれ、キリュウはどこ行った?」

 そのころゲートの前では…

「あれ、主殿たちは?」

 パンフレットに夢中でみんなが移動したことに気づかなかったキリュウが辺りを見回していた。



「まったく、ルーアンが先に飛び出していくからだぞ」

「だから謝ってるでしょう。でもキリュウもキリュウよ、ちっとも気づかなかったの?」

「気づいたときには誰もいなかったんだ。すまない、主殿」

「もう、皆さん、けんかはやめてください! せっかく遊びに来てるんですから、楽しい気分でいきましょう、ね?」

 シャオのこの一言で事は丸く収まったのだった。

「ところで何から乗るんだ?」

「それはもちろんあれよ!」

 ルーアンが指差した先にあるのは東京ラッキーランド1の人気を誇るジェットコースターだった。

「別にいいけど、前みたいなことはなしにしてくれよ」

「はぁい、たー様」

 実は以前ルーアンは別の遊園地でジェットコースターに何度も乗り続け、しばらく動けなくなるという事態に陥ったことがあったのだ。

「太助様、フェイちゃんはどうします?」

「あ、そうか、あれは身長制限があるんだった」

「私は別にいいよ。4人で乗ってきたら?」

 フェイはそういって笑ったが、シャオは、

「でもやっぱりフェイちゃんだけ仲間はずれというのは…」

 そんなシャオにフェイは小声で、

「太助と遊園地に来る機会なんてあまりないんだから、精一杯楽しんだほうがいいよ」

 そういわれるとシャオは真っ赤な顔をしてうつむいていた。

 結局フェイを除いた4人でジェットコースターに乗ったのだが…

「き、気持ち悪い…」

「大丈夫ですか、キリュウさん!?」

 やはりというか、キリュウが酔ってしまっていた。

 その後少し休憩を取った一行は、フェイも乗れるようなさまざまな乗り物に乗って楽しんだ。お昼はシャオの持ってきた特製弁当で済ませた。そして…

「あ〜、おなかいっぱい。さあ、またあのジェットコースターに乗るわよ!」

「おいおい、もう勘弁してくれよ。食ったばっかりでそれはちょっと…」

「何よ、たー様、だらしがないわね。いいわよ。じゃあ一人で乗ってくるから」

「あ、ちょっと待って。じゃあこうしよう。3時に中央の案内板の前に集合。それまでは各自自由行動」

「わかったわ。じゃああたしは一人で行くわね」

 そういってルーアンは一目散に駆け出していった。

「太助様、少し見てみたいところがあるのですがよろしいでしょうか?」

「え!? 別にかまわないけど」

「じゃあ一緒に行きましょう」

 そう言って太助の手をとるシャオ。実はこれ、フェイの入れ知恵なのだが、そのことを太助は知る由もない。

「じゃあ、キリュウにフェイ、ちょっと行ってくる」

 太助は照れたようにそう言ってシャオと手をつなぎながら去っていった。

「太助も相変わらずだね」

 そういったフェイだが、その表情はどことなく満足そうだった。



 そして3時になり、中央の案内板の前にはシャオと太助、ルーアンの姿があった。

「キリュウとフェイはどうしたんだろう…」

「まさか、どっかでおいしいもの食べてるんじゃないんでしょうね」

「ルーアンじゃあるまいし、それはないだろう」

 そのとき、フェイが走ってくるのが見えた。

「あ、フェイちゃ〜ん、ここですよ」

「キリュウはどうしたんだろう」

 フェイはすごい勢いで走ってきたため、息切れでまともにしゃべれないようだった。

「フェイちゃん、キリュウさんはどうしたんですか?」

「それが、キリュウがいなくなったんだ!」

「え〜っ!?」 



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