Over The Trial


その1


「万象大乱!」

「うわ〜〜っ」

 鶴ヶ丘の街に今日も太助の悲痛な叫び声がこだまする…

「主殿、まだまだ修行が足りぬようだな」

 そこには巨大化したバスケットボールにつぶされかかっている太助の姿があった。

「そんなこと言ったって…いきなりでっかいバスケットボールの大群が襲ってきたら、よけきれないよ」

「そんなことではシャオ殿を宿命から救い出すことなどできないぞ」

「…っ。そ、それは…」

 虚をつかれた太助が口ごもっていると…

「ちょっとキリュウ! あんたまた、たー様を痛めつけてるわね」

 ホウキに乗ったルーアンがこちらに向かってきた。

「七梨先輩、大丈夫ですかあ?」

 少し遅れて花織も駆けつけてきた。

「ルーアン殿、私は別に主殿を痛めつけているわけではない。これは試練だ。主殿のためを思ってやっているのだ」

「たー様のためだかなんだか知らないけどね、あんたホントにたー様に試練を与える資格あるの?」

「…どういうことだ?」

「つまり、あんたはそれだけ完璧なのかってこと」

「おい、ルーアン、何を言い出すんだ。キリュウは俺のためを思って…」

「たー様は黙ってて。一度キリュウには言っておこうと思ってたのよ」

「完璧?」

 キリュウは何を言いたいのかわからない、といった顔をしている。

「要するにキリュウ。あんた、自分自身に苦手なものがたくさんあるくせして、人に試練を与えるとか言っていいのかってこと」

「そうですよ! キリュウさん、七梨先輩に試練を与えるなら、まず自分の苦手なことを直してくださいよ」

 ルーアンと花織は、言いたいことを言ったのかそのまま帰っていった。

「苦手なこと…か」

「キリュウ、気にするなよ。ルーアンや愛原も悪気があって言ったんじゃないと思うからさ。さ、次の試練といこうぜ」

「主殿、今日の試練はここまでだ。私は先に帰るから」

 そう言ってキリュウは、短天扇に乗って行ってしまった。

「ちょっと、キリュウ! このバスケットボール、戻していかないとまた騒ぎになるぞ…って、行っちゃった」

 やっとのことで巨大バスケットボールから抜け出した太助は、慌ててキリュウの後を追うのだった。



「ただいま〜」

「お帰りなさい、太助様」

「シャオ、キリュウは?」

「帰ってくるなり、ご自分の部屋へ行かれましたが。太助様、キリュウさんがどうかしたのですか?」

「いや、別に。ちょっと聞いてみただけ」

 そう言って太助はリビングに入った。そこにはルーアンがくつろいでいた。

「たー様、お帰りなさい」

「お帰りじゃないよ。何であんなこと言ったんだ。キリュウ、部屋にこもっちゃってるじゃないか」

「だって、つい口が先に出ちゃったんだもん。それに愛原さんも言ってたじゃない」

「とにかく、キリュウが降りてきたら、ちゃんと謝るんだぞ」

「は〜い」

 しかし、夕食の時間になっても、キリュウは部屋から出てこようとしなかった。

「あれ、キリュウは?」

 そう聞いたのは那奈だ。

「キリュウさん、夕食は食べたくないそうです。具合が悪いのかもしれませんね。あとでお薬を持っていってみます」

「その必要はないよ」

 そう言ったのはフェイである。フェイは最近、突然空から現れて、今は七梨家の居候4人目となっている。

「ルーアン、また何かやったね」

 そう言われてルーアンは食べているものを吹き出しそうになった。

「な、何でそんなこと…」

「そうなんですか、ルーアンさん?」

「そうなのか、ルーアン?」

 シャオと那奈の二人に詰め寄られたルーアンは、

「まあ、確かに言いすぎたとは思うけど…」

 と、しぶしぶ認めた。

「とりあえず、今はそっとしておいた方がいい」

 そう言ったのはフェイだ。周りの皆も、この言葉に従った。こうしてこの日はふけていった…




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