まもって守護月天! R.A
〜シャオ親衛隊 vs ルーアン連合軍〜
第2話
太助が部屋から出て行ったあと、翔子はそっとため息をついた。
(キツいこと言っちゃったかな。でもあれぐらい言わないと七梨は決断しないから…)
と、そこに来客を示すベルが鳴った。客の顔を見た翔子は、すぐに通すように言った。
「中将、ごくろうさまです!」
「あらあら、そんなかしこまらなくていいのよ。私は中将といっても名前だけだし」
そう言ってころころと笑ったのはルナ防衛軍中将であり、太助の母親である七梨さゆり中将である。
「ところで、あのことは言ってくれた?」
「一応言いましたが」
「あの子はなんて言ってた?」
「考えておくと」
「そう…」
「しかし、なぜこのようなことを? そこまで決断を急がせずともよかったのではないのですか?」
「そうかもしれないわね。でも、あの子には早く幸せになってほしいのよ」
「幸せ…ですか」
「私たちは、はっきり言ってあの子の親失格なの。あの子が小さい頃から私たちは王家と親交があって、前女王を支える任についていたの。そのせいで、あの子とはあまり触れ合う機会がなかったの。口には出さないけど、あの子、寂しかったと思うわ」
「そうだったんですか」
「だから、あの子のことを本気で愛してくれる人があの子には必要なの。それにこれは女王も望んでいたことだわ」
「それでこのことをシャオには…」
「すでに伝えてるわ」
「でもあの二人がすんなり承諾するでしょうか?」
「すんなりとは行かないかもしれないけど、必ず承諾してくれるわ。あの子達はそういう子よ」
☆
30分ほど待った後、やっと本部長へのお目通りが許された。
「失礼します」
「おお、どうした息子よ」
「その言い方はやめてください、大将」
「せめて我々だけのときはそんな堅苦しい言い方はなしにしたほうがいいと思うのだが…」
「わかりました」
「わかってくれたか。聞いたとは思うが、お前の昇任と、それにともなうMEGA−DALL一個小隊の進呈が決まった」
「それは聞いたけど、いったいなんでこんな急に…」
「事態は思ったより困窮している。何事も先手先手で行動しないと、連合軍に負けてしまうからな。それに渡したMEGA−DALLはお前専用に少し強化してある」
「強化?」
「そう、名付けて太助専用TS(ティス)だ」
「はあ…」
「今はこれくらいが限界なんだ。新しいMEGA−DOLLも開発中だが、とりあえずそれで我慢してくれ」
「ところでシャオ…」
「すまないが時間がないんだ。じゃあ、がんばってくれ」
そう言って太郎助は出て行ってしまった。太助はしばらくその場にとどまっていたが、仕方ないとばかりに自分の部屋へ戻った。
☆
ルーアン連合軍の戦艦の一つ、ノヴァリス。その中で連合軍大佐、慶幸日天ルーアンは一人、ほくそえんでいた。
(計画は着々と進行してるわ。あとは前進あるのみよ)
「ずいぶん嬉しそうね」
そう言ったのは連合軍少将であり、ルーアンの姉に当たるシャロンだった。
「シャロン姉さん! 入るときは声をかけてよ」
「いいじゃない、知らない仲じゃないんだから。それに、声をかけるまで気づかないあなたもあなただわ。ところで、その様子だと計画は上手く行ってるようね」
「今のところはね。あとは防衛軍のあの二人しだいね」
「大丈夫なの? その二人は。まさかスパイなんてことは…」
「それはないわね。たとえそうだとしても、裏切り者に、そこまで深く関わらせはしないわ」
「まあ、自分の計画に足元をすくわれることだけはないようにしなさいよ」
そう言ってシャロンは部屋を出る。ドアが閉まったあと、ルーアンは、
「せいぜいがんばって、姉さん。でも新しい時代を作るのはこの私よ」
と、つぶやいたのだった。
その後、ルーアンは開発室に向かった。
「あ、ルーアン大佐。ご苦労様です」
そう言ったのはMEGA−DOLL開発主任である、連合軍少尉の遠藤乎一郎である。
「どう、進んでる?」
「はい、第一号機、ラーの増産は進んでいますし、地上戦用の水陸両用MEGA−DOLL、ゴッドや火炎放射機能のついたジャックなどの開発も進んでいます」
「そう、がんばってね」
「はい!」
辺りを見回すと、もう一つ、見知った顔があった。連合軍大尉、三田まりあである。
「あなたはここで何をやっているの?」
「MEGA−DOLLの改造です」
「あなたに与えたドルマンでは不満だったかしら?」
「いえ、これはただの趣味です」
まりあは特に問題があるというわけではないのだが、技術者上がりからか、時折こうやって開発室に姿を見せる。理由を聞いても、
「いつか役に立ちますから」
としか言わないのだ。
(あまり心を許しては危なそうね)
そう思ってルーアンは部屋を後にした。
☆
防衛軍大佐、そして前女王唯一の遺児である守護月天シャオリンは、悩んでいた。先ほどさゆりに言われたのだ。太助と結婚しろと。
「どうしよう…」
確かに太助と結婚できることは嬉しい。しかし、太助は迷惑に思っていないだろうか。心配だった。5年前に母親がなくなったときから、いつかこのようなときがくるとはわかっていたつもりだった。しかし、いざそのときを迎えると、不安が大きかった。
「太助様はこのこと知っているのかしら」
シャオは机の上にある写真立てを手にとった。小さなシャオと太助に翔子、そしてシャオの母が写っている。
「この頃はまだ…」
そう、この頃は権限も責任も身分もなかった。何も考えずに笑っていられた。でも今はそういうわけに行かない。シャオは写真立てを抱きしめた。
「お母様…私はやはり軍人には向いていません」
しかし写真の中の母は、柔らかな笑顔を投げかけてくるだけだった。