§09 行軍篇
行軍篇では、
「敵への接近方法」などが説かれている。  

09-01
「客、水を絶(こ)えて来たらば之を水内に迎うる勿かれ。
 半ば済(わた)らしめて之を撃てば利あり」 
敵が河を渡って攻めてきた時は、水中で
迎え撃ってはならない。敵の半数が渡り切った時に
攻撃するのが効果的だ。

09-02
「凡そ軍は高きを好みて下(ひく)きを悪(にく)み、
 陽を貴びて陰を賤しみ、生を養いて実に処(お)れば
 軍に百疾無し」 
軍の布陣は高所が良く、低地は良くない。
日当りの良い場所を選び、日当りの悪い場所は
避けるべきだ。その上で健康管理に気をつければ、
兵士は健康で気力も充実する。

09-03
「上(かみ)に雨ふりて水沫(すいまつ)至らば、
 渉(わた)らんと欲する者は其の定まるを待て」 
上流で雨が降って川面が波立ってきたら、
それがおさまるまで川を渡るのは待て。
(何らかの兆候を見出したら、その意味する事が
判明するまでは軽々しく動いてはならない)

09-04
「遠くして戦いを挑むは、人の進まんことを欲するなり」 
敵が近づこうとせずに挑発するのは、
我を誘い出そうとしているのだ。

09-05
「其の居る所の易(い)なるは利とするなり」 
守るに不利な地形に陣取る敵は、囮部隊の可能性がある。

09-06
「衆樹(しゅうじゅ)の動くは来たるなり、
 衆草(しゅうそう)の障(さわ)り多きは疑(ぎ)なり、
 鳥の起(た)つは伏(ふく)なり、獣(けもの)の
 駭(おどろ)くは覆(ふく)なり」 
木々が動くのは敵が近づく兆し、
草むらに仕掛けをしているのはワザと疑わせるためで、
鳥が不意に飛び立つのは伏兵がいる証拠、
獣が驚いて走り出すのは敵奇襲の兆候。
(大事の前の兆候を読み取らねばならない)

09-07
「辞(じ)の卑(ひく)くして備えを益(ま)すは進むなり。
 辞の強くして進駆(しんく)するは退(しりぞ)くなり」 
敵の軍使がへりくだった言葉使いなのに、
一方で戦備を整えているのは攻撃するつもりだ。
逆に高飛車な態度をとって進撃する気配を見せているのは、
退却の兆候である。

09-08
「半(なか)ば進み、半ば退(しりぞ)くは誘うなり」 
敵が進んでは退き、退いては進むのは
我を誘い出そうとしているのだ。

09-09
「軍擾(みだ)るるは、将、重からざるなり」 
陣営内が騒がしく秩序を失っているのは、
指揮官の威令が行われていないからだ。

09-10
「諄諄(じゅんじゅん)翕翕(きゅうきゅう)として、
 徐(おもむろ)に人に言うは衆(しゅう)を失えるなり」 
部下に向ってクドクドと話したり、
媚びるような話し方をするのは、
部下からの人望を失っている証拠である。

09-11
「数(しば)しば賞するは窘(くる)しむなり、
 数しば罰するは困(こん)せるなり」 
やたらと恩賞を乱発するのは士気が衰えている証拠だ、
逆に罰が多過ぎるのは軍令が守られていないからだ。

09-12
「兵、怒りて相迎(あいむか)え久しうして合わせず、
 又、相(あい)去(さ)らざるは、必ず謹(つつし)みて
 之を察せよ」 
敵が今にも決戦するような勢いを見せながら、
攻撃してくるでもなく備えを解いて
撤退するでもないのは、何か企んでいるのだろうから、
詳しく敵情判断する必要がある。

09-13
「兵は多きを益(えき)とするに非(あら)ざるなり、
 惟(た)だ武進(ぶしん)すること無く、力を併(あわ)せ
 敵を料(はか)りて、人を取るを以て足(た)るのみ」 
兵力が多ければ良いものでは無い。ただガムシャラに
突進するのでは無く、味方の兵力を集中して、
敵情を良く判断して勝つことに努めなければならない。

09-14
「惟(た)だ慮(おもんばか)り無くして敵を
 易(かろ)んずる者は、必ず人に擒(とりこ)にせらる」 
敵情判断もせずに無謀な戦いをすれば、
勝てないばかりか大敗して、将自身が
敵の捕虜にされるであろう。

09-15
「卒(そつ)、未(いま)だ親附(しんぷ)せざるに
 之を罰すれば服(ふく)せず、服せざれば則(すなわ)ち
 用い難きなり」 
まだ馴染んでいないのに、規律だけ厳しくしたのでは
部下は心服しない。

09-16
「卒(そつ)、己(すで)に親附(しんぷ)せるに
 罰行(おこな)わざれば、則(すなわ)ち
 用う可(べ)からざるなり」 
すでに馴染んでいるのに規律を厳しくしなければ、部下は
ワガママになって使いものにならなくなってしまう。

09-17
「之に令するに文(ぶん)を以てし、之を斉(ととの)うるに
 武(ぶ)を以てす」 
まず法令や物の道理をよく教えてから、威力をもって
これを守らせることが大切だ。

09-18
「令、素(もと)より行われて、以て其の民(たみ)を
 教(おし)うれば則(すなわ)ち民服す」
平素から法令が公平適正に実施されていれば、
命令が出されれば民衆は良く服従する。


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