fairy☆days
高校生にもなれば、みんな色気づいてきて、周囲の友達も彼氏や好きな人がどうとか騒ぐようになってきた。
あたしには関係ないけどね。
そりゃ、興味がないわけではない。
いつか王子様が――なんて、非現実的な夢を見ているわけでもない。
むしろ、その王子様のせいで色恋沙汰にとんと縁がない。
うちの学校の王子様とかほざかれている奴。
顔良し、頭良しの優良物件。
でも、どんな人にも一つくらい欠点はあるもので。
学校の王子様と呼ばれているうちのお兄ちゃんの欠点。
超のつくシスコンなのだ。
はっきり言ってうっとうしい。
嫌われているよりはいいかもしれないが、物事には限度というものがある。
頭良いくせに節度って言葉を知らんのか。バカ兄。
お兄ちゃんのシスコンっぷりは不本意な事に有名で(だって本人が隠してないし)あたしはえらい迷惑を被った。
お兄ちゃんをゲットするにはあたしに気に入られればいいとかいう訳の分からん公式が女子達の間で成り立ったせいだ。
兄目的で媚びて来る女子のどの辺りに好感をもてるのか、聞いてみたいものだ。
そのせいでちょっとめんどくさい事態に巻き込まれたことがある。
まあ、それはお兄ちゃんが解決というか、蹴散らしてくれたんだけど。
あの時のお兄ちゃんは怖かったなぁ。
普段大人しい人がキレると怖いっていうし・・・いや、アレは普段から大人しいとは言えないけど。
まあ、そんな感じで今はなんともない。
けど、ここで一つ問題が。
16歳の乙女としては兄に群がる女子よりこっちのが重要。
彼氏が出来ない。
言っとくけど、これはあたしの性格に問題があるとか、そういう以前の問題だ。
あのバカ兄のせいで・・・!!
お兄ちゃんのシスコンっぷりが有名なのは、兄が有名だからこそなわけで。
女子を蹴散らした時の兄の怖さも手伝って、兄の恨みを買ってまであたしと付き合おうとする男子なんていないのだ。
だって、それで断られたことあるもん。
根性なし―――――!!!
こっちから願い下げだ、と思うもののあの兄が相手ならあたしだって嫌だ、と思う。
気持ちが分かっちゃうのがまた嫌だ。
周りがピンクな空気を醸し出しているのに、あたしだけ取り残されるのはちょっと寂しいわけですよ。くそぅ。
気晴らしに、屋上にでも行ってみようかな。
屋上に行くと、先客がいた。
見たことのない男の子。
まあ、高校なんて無駄に人数多いから見覚えのない人なんていっぱいいるんだけどさ。
ここに他に人がいるの、初めて見た。
だって―――
「・・・どうやって入ったんですか?」
鍵、かかってたと思うんだけど。
「ここの鍵って簡単に開くんだね」
にっこりと笑ってそう言った彼の手には、針金が。
・・・特殊技能の持ち主ですか。
深く関わらないほうが良さそうだ、と判断したあたしは「じゃあ、これで」と踵を返そうとしたが、引き止められた。
つーか、抱きすくめられた。
「なっ・・・何すんのよ!!!」
じたばたともがいたけど、身動きが取れない。
「だってあんまり冷たいから」
「何が?! ていうか、何であたしの名前知って・・・」
「薄情だよねー。いくら久しぶりだからって従兄弟の顔忘れる?」
「従兄弟・・・? あ?!」
あたしには従兄弟が二人いる。
でも、男の従兄弟は一人しかいない。
「たっくん!?」
あたしがそう言うと、腕の力が緩んだ。ので、振り向き様に鳩尾にとりあえず一発入れておいた。
流石にそんな行動に出ると思っていなかったのか、まともに喰らった達くんはしゃがみこんでげほげほと咳き込んでいる。
セクハラに対する当然の報いだ。
そして久しぶりに会った従兄弟の顔を見る。
・・・でも、前に会ったの小学生の時だからなぁ。
今いちピンと来ない。逆に、何で達くんは分かるんだ。
あたしが成長してないとでも?
言われていない事に勝手にむかついている間に、ようやく立ち直ったらしい達くんは立ち上がって近寄ってきた。
何となく身の危険を感じて後退ると、屋上の入り口の方から声が聞こえてきた。
「妹に近付くな。節操なし」
「お兄ちゃん?」
いつの間に。
つーか、何でそんなに怒ってんの?
「誰が節操なしなんだよ。こんなに一途な青少年捕まえて」
あんたも何言ってんの。
「何しに来たんだよ。戻ってこなくて良かったのに」
「俺、約束は守る主義だから」
へらっと笑ってそう答える達くんに、ものすごく嫌そうな顔をする兄。
二人の浮かべている表情は対照的なのに、発しているオーラが一緒だ。
・・・類友?
ていうか、何でそんな険悪なの。
ものすごくぴりぴりしている空気が居心地悪くて、逃げ出そうかと考えているとさらに訳の分からない会話が繰り広げられていた。
「日本の法律じゃ、男は18まで結婚できないぞ」
「でも女の子は16になったら出来るでしょ。変な虫がつかないように見張っとかないと」
「お前に言えた台詞じゃないな。つーか、お前が一番の害虫だ」
「実くんは相変わらずシスコンだね。まあ、助かるけど。虫除けご苦労様」
「・・・何の話してるわけ?」
「ん? 俺と君の将来のお話」
何の事だかさっぱり分からない。
きょとんとしたあたしの様子を見て、お兄ちゃんが言った。
「残念だったな。こいつは欠片も覚えてないみたいだぞ」
そう言うお兄ちゃんの顔は、全然残念そうじゃない。
でも、達くんもけろっとしている。
「でも約束は約束だし」
「んなの、もう時効だ」
「約束って何」
「大きくなったら結婚しようねって約束」
「は?」
「16になったら迎えに来るって言ったでしょ?」
まだなってないけどね。
そう言えば、さっきお兄ちゃんと16がどうのこうのって・・・
なるほど。あたし達は昔結婚しようねってありがちな約束をして?(覚えてないけど)
で、あたしが16になるから実際に戻ってきた・・・と。
・・・・・・・・。
「馬っ鹿じゃないの?」
思わず漏れたあたしの言葉にお兄ちゃんは吹き出し、達くんは考えるような表情をした後、笑みを浮かべた。
そして、あたしに素早く身を寄せて来て頬に柔らかい感触が。
・・・頬にキスされたんだと思い当たるまでに数秒。
その間あたしは、ついでにお兄ちゃんも完全にフリーズ状態。
達くんはというと、涼しい顔をして「またね」とさっさと屋上から去っていった。
はっと我に返った時には本人の姿は既になく。
・・・あんにゃろう、人の初チュー(ほっぺだけど)を!!!
そりゃあ、彼氏がほしいとは思ったけど?!
あんなセクハラ男はお断りだ!!!
「達くんの阿呆―――――っ!!!」
行き場のない怒りに、とりあえずあたしはそう叫んだ。
top