青天の霹靂っていうのかな、こういうの。


小都が勢いよく抱きついて、というか飛びついてきて、そのままソファに押し倒された。
その逆はともかくとして、小都に押し倒されるなんて初めてのことだ。
でも、ただ押し倒してきただけで、どうするつもりもないらしい。分かってないというべきか。
何事かと思ったけど、その理由は割とすぐに分かった。

「・・・小都?」
「なんですか?」

微妙に呂律が回ってないというか、舌足らずな喋り方。
どう考えても酔ってるように見える。
酔ってる小都がこんな行動に出たのは普段の俺の真似だろうか。

家に来た時は勿論酔ってなかったし、さっきまで俺が部屋にいた少しの時間、小都が一人でリビングにいる時にアルコールを摂取したと考えるのが普通なんだろうけど。
けど、家には酒なんて・・・置いてあるけど、缶酎ハイなんてないからジュースと間違って飲んだなんてことは有り得ないし、小都がお酒と分かってて飲むっていうのも考えにくい。第一、飲み物なら紅茶出しといたし。

原因を考えていると、ふと小都が持ってきたケーキの箱が目に入った。傍には、小都の食べかけのケーキが。

「小都、ケーキ以外に何か食べた?」

そう訊ねると、首を振って否定した。
ということは、だ。
原因はあれか。
小都の食べてたケーキはサバラン。これくらいで酔っ払ったりするものだろうかと思うけど、他に考えられない。でも、まだ少ししか食べてないのに。・・・弱すぎ。

「先輩?」

呆れとも感心ともつかない気持ちでケーキを見ていた俺を訝しく思ったのか、小都が顔を覗き込んでくる。
酔ってるせいで、目潤んでるし、頬も赤い。
煽られる要素としては充分なんだけど・・・でもなぁ。

酔った女に手を出さないなんて紳士的な考えを持ってるわけじゃないけど、小都がこうなったのが俺でなく、酒のせいでっていうのは気に入らない。

とは言え。
それとこれとは別というか。
好きな女の子に迫られて何も感じない男なんていない。
さて、どうしようかな。

とりあえず、離そうとすると小都が腕に力をこめて抱きついてくる。

「や。だめ」
「小都?」
「いっつも先輩にくらくらさせられてばっかりだから、今日は私が誘惑するんです!」
「・・・どうせなら素面の時に言ってよ、それ」
「だって、先輩ずるいです!!」

小都は人の話は聞いてないらしく、何でか怒り出した。

「いーっつも余裕だし、意地悪だし!! でも、ちょっとだけ優しかったりとか・・・一緒にいるほど好きになっちゃうなんてずるいです」

・・・・・・あー。
もう、いいかな。酒のせいでも何でも。
これだけ言われたら、ね。


「ね、小都。キスして?」

突然の要求にきょとんとしてる小都に更に言葉を付け足す。

「誘惑、したいんでしょ?」

いつもならこんなこと言うと、真っ赤になって逃げようとする。
けど、今は違うらしく、俺をじっと見たあと、唇を寄せてきた。

酔っていても、小都は小都というか、ためらいがちな拙いキス。
けど、それに却って煽られる。

主導権を奪い返して、そのままキスを深める。




「・・・小都?」

やけに大人しい、というか反応がないと思ったら。
唇を離して、小都の顔を覗き込むと眠っていた。

・・・・・・。

煽るだけ煽っといて、これ。
まあ、酔っ払いに何言っても無駄か。
外では飲ませないようにしよう。

ここまで安心しきったような顔されると、流石に手を出せない。

人の心境など知らずに呑気に眠る小都を見てため息をつく。



―――そのうち、このお返しはするからね?








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