窮鼠猫をかむ



何がどうなってこんなことに。

一哉は部活の友達と遊びに行ってて、いなくて。
早く帰って来た悠都さんがケーキ買ってきてくれたから、それ食べてくつろいでたはずなのに。

なのに、気が付いたら。

何かが背中にあたって、視界に映るのは悠都さん。と、天井。

・・・天井?

そして背中にあたっているのは、ソファだと思い至った。

ちょ、ちょっと待って!!

「ああああああのっ・・・」
「何?」
「ど、どいてください!」
「嫌だ」

そんな平然とっ!
どもりすぎなくらいどもって、動揺しているのに、人をソファに押し倒している張本人はけろっとしている。不公平だーっ
卓袱台を返したいような衝動に駆られる。いや、そんなことよかここから抜け出したい。
でも悲しいかな。力の差は歴然としてて、びくともしない。・・・大ピンチ。で、冒頭に戻る。

「そうだな・・・退いてもいいけど」

もがいてるあたしを見て、悠都さんは一瞬思案するような表情を見せた後、にっこり笑ってとんでもないことを言った。

「キスしてくれたら」
「ぬぁっ・・・何言ってるんですか!」
「じゃあ、このままでいる?」
「うぁっ」

どっちも無理・・・!

「あんまり安心しきられてても困るんだよね。対象外扱いされても困るし」
「そんなこと・・・」
「じゃ、こういうことも想定内?」
「それとこれとは!」
「一緒です」

そんなこと言われても!!
ていうか、どうにか切り抜けようと思っても、こんな状態じゃ頭がまともに働かないぃ!!
慌てふためいてるあたしを見て仕方ないな、とでも言いたげな笑みを漏らし、こめかみにキスをされた。

・・・心臓とまりそう

死んだら化けて出てやる、などとを考えていると、人を窮地に追いやったその人とよく似た声が聞こえてきた。

「何やってんの」

その声はものすごーく不機嫌で。
何ていうか、冷気、多分殺気もこもってる気がする。

その視線を向けられている悠都さんは肩を竦めはしたものの大して気にした素振りはなく、あたしの上から退いた。

「お前だって人のこと言えないだろ? 先に仕掛けたのはそっち」
「何が」

一哉が不機嫌にそう返すと、悠都さんはあたしをちらっと見て、そしてまた一哉に視線を戻して頬を指した。
それを見て一哉がさらに眉を顰める。

「寝込み襲うのもどうかと思うけど?」

何ですと?!

今ものすっごく聞き捨てならないこと言われたような・・・

「警戒心もなくあんなとこで寝てるのが悪いんだよ」
「それは起きてても一緒」

何の話をしてるんですか。
それってもしかしなくても・・・!
あたしのことなのにあたしを無視して、悪びれずになされる会話のやりとり。

人が寝てる間に何してるのさ。ていうか、起きてても、だ。
大体、家でくつろがなきゃどこでくつろぐんだ。
警戒心なくて悪かったな。羞恥心や道義心がないよりマシだ。
しかも人を襲っといて反省心の欠片も見られないなんて・・・!

一瞬でいろいろ思い浮かんだ文句を口に出す代わりに、手元にあったクッションを思いっきり投げつけた。勿論ふたつ投げた。
どっちも命中したけど、クッションじゃ当たったところで大して痛くない。

「馬鹿―――っ!!!」

びっくりしたようにこっちを見た二人をきっと睨んでそう叫んで、二人が何かを言う隙もなく部屋に戻った。
そしてしっかり鍵もかけた。これで安心。

ドアをノックする音と、何か言ってるのが聞こえたけど、無視。




ちょっとは反省してください。






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