「付き合ってください」
何ともシンプルな告白。
さぶい台詞やまわりくどい言葉をえんえんと語るよりは好感がもてるというものだ。
そしてそんな単純明快な告白を受けた友人・真衣の答えはというと。
「いつですか?」
告白に対して妙な返答だなと思ったら、付き合うの意味を一緒にどっか行くという意味ととったらしい。
ある意味ベタな反応だ。実際に言う奴は初めてみたが。
相手も真衣の言葉の意味をとらえかねているらしい。
確かに、真衣が恋愛面においては救いようのないボケだということを理解していないと、真衣の思考回路は理解出来ないかもしれない。どうせならどこにですかと言えばまだ分かりやすいのに。
彼氏がいない頃だったならともかくとして、偽装だろうがなんだろうが、彼氏がいる今そんなとんちんかんな回答かましても信じてもらえないと思う。
笑いを通り越してそんなのに惚れてしまった彼に同情を覚える。
ついでに隣にいる彼・瑞澤一哉にも同情する。
本来彼女が告白されているシーンになんて鉢合わせたら、嫉妬するとか何かありそうなもんだけど、相手の気持ちが真衣に伝わっていないことにはどうしようもない。
複雑そうな表情をしているけど、告白されているせいというよりは真衣の奇怪な思考について考えているせいだろう。
明日はわが身と言ったところだろうか。
普通、年頃の女の子ならちょっと自意識過剰なんじゃなかろうかというくらい色恋沙汰に敏感になっていてもいいだろうに、真衣にはまったくその兆候がない。
鈍い。いっそ、わざとなんじゃなかろうかと思ってしまうほど鈍い。
あれだけ一緒にいて、学校では付き合ってるということにまでなっているのだから友達以上恋人未満くらいの関係になっていてもおかしくはないのに。もちろん、大事には思っているんだろうけど、男女のそれというよりは、家族への愛情に近いんじゃなかろうか。・・・小学生か、あいつは。
普通、何とも思っていない相手の恋人役におさまったりなんかしない。
自分の出会いが遠ざかることにもなりかねないんだから、いくら相手に困らなさそうだからって、そんな青春の無駄遣いになりそうなこと、普通何の打算もなしにするだろうか。
まあ、放っとけないっていうのも分かるんだけど。
でも、この表情を見る限り、それだけっていう感じもしないんだけどなぁ。
こっちは友達以上恋人未満って感じなんだろうか。青春してるなぁ。
まあ、そんなのあたしがいくら考えたところで分からないし。
「邪魔しに行かないの?」
「何で俺が」
「一応彼氏だし。真衣はこの前行ってたじゃない」
クラスの女子に追い出されただけだけど。
「その方がこじれるんじゃねーか?」
まあ、普通なら喧嘩になる可能性もなきにしもあらずだけど。
「真衣の場合――今は特に――まず相手の気持ちが伝わってないみたいだから、噛み合ってないまま話が進んで、うっかりお付き合いすることになったりするかもよ? 相手も、真衣の恋愛音痴な思考にまで考え及ばないだろうし、自分の都合のいい方向に解釈しちゃっても仕方ないって言うか、どさくさに紛れて若さという勢いに任せて思い余っちゃったり、そんなことしてる間に真衣も気付いた頃には断りにくくなってたりほだされちゃったり。そもそも他に彼氏が出来ればフリなんてしなくて・・・て、あら」
あたしが話している間に耐えられなくなったらしい。
もともとそんなに距離はなかったけど、あっという間に真衣のそばに行っていた。残念ながら何喋ってるかまでは聞こえないけど。
煽りすぎたか?
・・・いいや。他人事だし適当で。
まあ、頑張って。
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