ある日曜日の出来ごと


「また鳴ってる・・・」

真衣は、悠都の部屋を見ながら呟いた。
かれこれ数十分、悠都の部屋から携帯の着信音が鳴り続けているのが聞こえていた。
あれだけ鳴ってるのに出ないほうもすごいけど、あれだけ鳴らしてる方もすごいと思う。
ていうか、本当に寝起き悪いんだな・・・
あれでまだ起きないなんて・・・
普通ならどっか悪いんじゃなかろうかと思うところだが、悠都は仕事上、生活の時間が不規則だし睡眠不足に違いない。今日は休みとか言ってたからゆっくり寝かせてあげようと真衣は思っているのだが・・・
さっきから鳴りっぱなしの携帯が気になってしょうがない。
緊急の用事とかだったら困るだろうし、と真衣がどうしようか考えていると―――

ガンッ

悠都の部屋から壁に何かがぶつかる音が聞こえた。

流石に何事かと気になって、真衣は悠都の部屋をノックして声をかけてみたが、返事はない。
それでもとりあえず様子を見てみようと部屋を開けて覗いてみる。

この部屋いつ見ても片付いてるわね。

というか、基本的にものがない。
あるのは必要最小限の家具くらいだ。
真衣は、部屋の床の端に携帯が落っこちているのをみつけた。
そう言えば、いつの間にか携帯の音が止んでいたことに気付く。

・・・・放り投げた?

もしかしなくても、さっきの音は悠都が携帯を投げつけた音なのだろう。
真衣は、前に一哉が目覚まし時計が何個あっても足りないとか言っていたのを思い出した。
あれは多分目覚ましをスイッチを切って止めるんでなく、投げて強制的に止めるという意味だったんだろうなと理解する。

しばらくすると、また携帯が鳴り出した。
あんな音がするほどぶつけたのに壊れてなかったんだなぁ、と妙な感心をしつつも考える。
仕事の電話かもしれないし、出た方がいいよね・・・
かと言って、勝手に人の電話に出るわけにもいかない。

まず悠都を起こさない事には電話も出来ないし、やはり起こした方が良いだろう。
だいたい、もう10時間くらい寝てるしそろそろ起こしても大丈夫な気がする。

いつもなら、悠都を起こすのは一哉がやってくれているが、今日は部活でいない。
頼む人がいないのだから、真衣が起こすしかない。

「悠都さん?」

試しに軽く呼びかけてみたが、反応なし。

「悠都さん、起きてください」
「ん・・・」

今度は肩を揺すりながら声をかける。今度はちょっと反応があった。
さらに呼びかけると、悠都はうっすらと目を開けた。

「電話なってますよ。」

悠都は真衣の顔をぼーっと見ていた。
見てる、と言っても焦点が合っていなかったが。

寝起きだし、まだ頭が働いてないんだろうなぁ・・・

悠都の顔を見ながら呑気にそんな感想を心の中で呟いていると、突然腕をつかまれた。

「へ?」

思いがけない行動に真衣はそのまま簡単に引き寄せられて、悠都の上に倒れこむ形になる。

「ゆ、悠都さん・・・?」

すぐに起き上がろうとしたけど、腕をつかまれたままで上手く動けない。
それでももがいていると、いつの間にかもう片方の手が腰に回され抱きしめられていた。

「うぇっ!? ちょっ・・・ゆっ・・・な・・・」

かなりテンパっていて言葉になっていなかったが、とりあえず離してもらおうとすがるように悠都の顔を見ると、さっきやっと開いたはずの目は再び閉じられ、眠りについていた。
どうやら完全に寝ぼけているらしい。

「・・・えーっと。」

どうしたらいいんだろう、この状況。
もしかして、悠都さんが起きるまでずっとこのまま?

動こうとしてもしっかりと抱き込まれているため無駄な抵抗に終わるだけだった。
暴れるだけ無駄だと悟った真衣はため息をついた。

寝てるんだから、力も抜いといてよ・・・

「起こしに来ただけなのに・・・」

そう呟いて、改めてこの部屋に来た目的を思い出し、そしてふと気付いた。
あれだけうるさかった携帯が今はもう鳴っていない。

電話相手は諦めたんだろうか。
こうなると、ますます自分のした事が無駄に思えてくる。
何でこんなことになってるんだろう。
あたし何かした!?
あれか!? さっき悠都さんの寝顔見て「写真撮って売ったら儲かるかな・・・」って考えたのがいけなかったのか!? しょうがないじゃん!! そういう環境で育ったんだから!!

しばらくすると、心の中でひとしきり騒いだり、抜け出そうともがいてみたりして疲れたのか、だんだん眠くなってきた。
やばい、寝そう・・・
昔から、横になると眠くなってくるのだ。
最近は球技大会の準備や生徒会の手伝いで忙しかったとは言え、こんな状況でも眠くなる自分に呆れを通り越して感心する。自分で言うのもなんだが。
このまま寝たら起きた時にまた心臓にくるんだろうなぁ、とか考えてるうちに本当に眠ってしまった。





「・・・・何で?」

一時間後。
先に目を覚ましたのは悠都だった。
目を開けたら隣に真衣が寝ているのだから、驚かない方がどうかしている。
まったく記憶がないのだから尚更だ。
飛び起きそうなくらい驚いたが、頭のどこかで今自分が動けば真衣を起こすことになると冷静に考えてもいたので、それはしなかった。

真衣の中に“警戒心”というものはないのだろうか。

悠都は自分の寝起きの悪さは周囲の人間から散っ々言われてきたので知っていた。
自覚も記憶もまったくと言っていいほどなかったが。
多分、今の状況も自分が寝ぼけて起こったんだろうなぁとは予想がついた。
だからと言って、この状況で寝るのか!? と突っ込みたくなっても仕方ないと思う。

まあ、最近は生徒会の仕事を手伝ったりとかで忙しそうだったから疲れてるのかもしれないけど・・・

悠都は少々複雑な思いをしながらも、真衣を起こさないように注意しながらそっと起き上がり、床に転がっていた携帯を拾い上げた。

悠都は着信履歴をチェックしながら呟いた。

「・・・嫌がらせか?」

ディスプレイに表示されていた着信件数も嫌がらせかと思うほど多かった。
しかも、本気で用事があったとは何となく思えない。
だいたい、用があるのなら留守電にメッセージくらい残すだろうが、それもないしメールもない。
電話をかけるために部屋を出る。
真衣の様子からしてあと2、30分は起きなさそうだが、流石に横で電話してれば起きるだろうし、相手を怒鳴りつける気満々だったからだ。若干、相手を怒鳴るという考えに八つ当たりが入ってるのは本人は自覚していないだろうが。


真衣が悠都に起こされるのは、結局言い負かされることになる悠都が電話を終えてからちょっと後のこと。




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