おばけなんてこわくない!


ある女の子がね、友達と一緒に幽霊が出るって評判のお屋敷に忍び込んだの。
そして、友達が一人・・・また一人といなくなってく・・・
ついに一人になってしまった女の子が、物音に気付いて振り返るとそこには――――


―――血まみれの女の人が・・・・



「どう? おもしろかった?」

悠都と一哉の母親は笑顔でそう言った。
怪談話をしておいて、その感想を「おもしろかった?」と尋ねるのもどうかと思うが、この場合、聞いてる方――悠都と一哉にも問題があった。
二人とも全く怖がらないのだ。
いや、正確には怖くないフリをしていた。
瑞澤悠都(8) 小学三年生。かっこつけたいお年頃。
弟の一哉(4) 幼稚園さくら組。何だかクールな園児生。
二人とも怖いとは思っていたのだが、生意気盛りだったり表情が顔に出さない質だったりしたため、決して口には出さなかったのだ。
そんな二人に最近ホラーにはまったらしい母親が毎晩のように話して聞かせていた。
寝物語には思いっ切り不向きな怖い話を。

そんなある日の出来事。



日曜日、今日は家族で遊園地に行く約束をしていた。
悠都と一哉は朝早くから起きてわくわくしながら待ちわびていた。
そして手当たり次第にアトラクションを制覇していったのだが・・・
あるアトラクションの前で固まった。
目の前にどんとそびえ立っているのはお化け屋敷。
わざとらしいくらいおどろおどろしい文字で“ホラー屋敷”と書いてある。
何で前半部分だけ英語なんだとか突っ込む余裕もないくらい動揺していたが、それでも表情に出さなかったのは流石と言うべきか。
内心は冷や汗だらだらだったのだが。

そんなこんなで生き生きとしている母親に連れられ、ホラー屋敷に入る事になった。
当然だが、屋敷内は暗い。おまけに静かだ。
耳に入るのはホラー屋敷のそれっぽい効果音とどこからか聞こえてくる悲鳴くらいだった。
たまに母親の笑い声が聞こえてくるのも怖かったが。
悠都は、恐怖心から目をつぶったり、周りを見ないように真下を見て歩いていたのだが、ふと気付いた。
さっきまで傍にいたはずの両親がいない。
慌てて辺りを見渡すと、すぐそこに一哉の姿があった。
一哉も悠都と同じ事を考えていたらしく、さっきまでの悠都とほぼ同じ行動をとっていた。
違うのは一哉は目をつぶるのに加え、耳まで塞いでいた所くらいだろうか。
「一哉。」
悠都は一哉の名前を呼び、手をとった。
一哉はびくっと身をすくませ、おそるおそる顔を上げた。
「お兄ちゃん・・・?」
一哉は悠都の顔を見て、ほっとしたような表情をしたが、すぐに異変に気付いたようだ。
「お父さんとお母さんは・・・?」
「はぐれちゃったみたいなんだ。出口まで行けば会えるよ。行こ。」
悠都はそう言って、一哉の手をひいて出口に向けて歩き出した。

恐々と、若干早足で進んでいくが、子供の足なので速度はそんなに速くない。
走り出したかったのだが、それはそれで角から出会い頭に何か飛び出てきそうで怖かった。
おまけに、こういう時に限って母親に聞かされた怖い話の数々が頭をよぎる。
中でも昨日聞いた話が一番怖かった。
しかも、状況が今の自分たちにちょっとダブって見える。
あの女の子のように、一人にはならなかったけれど。
そんな事を考えつつ歩いていると、
「あ!」
一哉が声を上げた。
一哉が見ている方向に目を向けると、前の方を誰かが歩いていた。
このまま二人で進むよりも、誰かがいた方が怖さも薄れる。
そう思って前を歩いていた女性に駆け寄り、声をかけた。
二人の声に反応して、その女性が振り向く。
その顔を見て二人は絶句した。
運が良いというか悪いというか、二人が声をかけたのはホラー屋敷のスタッフで、仕事用のメイクをしていた。つまり、血のりのついたメイクを―――・・・
昨夜の母親の話がフラッシュバックする。


『物音に気付いて振り返るとそこには血まみれの女の人が―――・・・』


「どうしたの?」
スタッフのお姉さんはそう言って、子供相手だからか反射的に笑みを浮かべたが血糊のメイクで笑みを浮かべられては普通に怖い。
そしてそんなお姉さんの問に二人とも答えられるはずもなく。

「「ふぎゃあああああぁぁっっっ!!!!!」

二人はダッシュでその場から逃げ出し、案外近かった出口まで突っ走った。
ちなみに、この時の二人の叫び声は入り口まで響いて待ってたお客さんをビビらせたとか何とか。

出口には、両親が驚いたような顔をしながらも、すぐに笑顔になって悠都と一哉を迎えてくれたが、二人は両親の顔を見た途端に気が緩んだらしく、

「「うわ――――んっ!!」」

大声で泣き出してしまった。



「・・・全く、悪ふざけがすぎるよ。」
「ごめんなさーい。でも、あなただってのってたじゃない。」
泣きつかれた悠都と一哉をおぶって、二人はそんな会話をしていた。
しかし、言葉とは反対に彼女に全く反省した様子はほとんどない。
「だって、さみしかったんだもん。かずちゃんはもともと感情をあんまり表に出さないし、ゆうちゃんは好きな女の子が出来たでしょ。親の知らないところで成長してるのがつまんないと言うか・・・。おまけに、皆に怖いって絶賛してくれる私の怪談を怖くないとか言うんだもの。」
彼女は拗ねたようにそう言った。
「そんなの嘘だって分かってただろう?」
「まーね。明らかに怖がってるのに何ともないように強がってるのがまた可愛くって・・・っ!!!」
「・・・・程々にね。」
親馬鹿モードに入った彼女の様子を見て、ため息をつきながら一応釘をさしておく。
無駄だろうけど。

案の定、夫の忠告を聞く様子もなく、相も変わらず強がる二人に母の怪談はさらにレベルアップしていき、一つ、また一つと子供達のトラウマが増えていったのだった。




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