侑城と喧嘩した。

喧嘩っていうのかな、あれ。
何であたしが怒ってるのか、侑城分かってなさそう。・・・説明するつもりもないけど。
だって、悔しいじゃない。
侑城は平然としてて、何であたしが拗ねてるのかなんていつものことで、きっとどうでもいいって思ってるのに。

デートしたかったんだ、なんて言えるわけない。



最近までバレーの大会があった。
だから、練習量もいつもより多くて、朝練もあったし放課後も遅くまで練習してた。

大会が終わった後は、慰労の意味もあって練習はお休みで。
でもうちのバレー部は結構強いし、部員も真面目だから自主トレとかしてるのは知ってる。
侑城がバレー好きなの知ってるし、バレーしてる侑城見るの好きだから、練習に行くなとか言う気もさらさらない。
ないんだけれども。
もうちょっと、何かあってもいいと思わない?

午前中は部活だとして、お昼か遅くとも夕方には家に帰ってくるんだから、そっから出かけたっていいと思うの。
なのに、さり気なく予定を聞いたら疲れたから寝る、とか言うし。

ただでさえ、最近部活忙しそうだったから会いに行かなかったのに。

ちょっと期待してた分、馬鹿みたい。

他の部員は、侑城と同じように練習しててもちゃんと彼女にも構ってるぞ。
デートするんだ、って嬉しそうにしてたもん。
まあ、いそいそとデートの計画たてる侑城なんて想像つかないけどさ。
もうちょっと、構ってくれたって・・・

とか素直に言える性格してたら喧嘩なんてしてないんだけどね。
ていうか、喧嘩なのかな、これ。

いっつも一人で怒ってるだけな気がする。
お付き合いっていうのは、2人いなきゃ出来ないのよ?
なのに、淡白すぎるんだよ。

・・・・・・侑城のばーか。



「素直じゃないわね。デートしたいって一言言えばいいだけじゃない。」
「そういう性格なんですー。」

京ちゃんが遊んでくれたおかげで、一人でふて寝せずに済んだ。
お昼ごはん、奢らされたけど。
でも、一人でいるのも虚しいし、一応欠片くらいは慰めてくれるし。
ご飯食べながらお喋りして、買い物して、ストレス解消。
気持ちがすっきりするのはいいんだけど、お財布もすっきりしちゃうのは痛いなぁ。

「たまには、素直になってみたらいいじゃない。意地っ張りが素直になると得だと思うわよ?」
「何がよ。」
「動揺する侑城君が見れたりとか。」
「侑城が動揺なんてするわけないじゃない。」

人が告白した時ですら、動揺するどころか大爆笑したような奴よ。
あれ、今思い出してもかなり失礼だと思うんだけど。
あたしが素直になれないのは、侑城のせいでもあるんだから。


思い出しながらちょっとむっとしていると、携帯が鳴り出した。

着信画面には、侑城の名前。

「・・・何?」
『お前、まだ怒ってんの?』

呆れたような侑城の声。
・・・怒ってることには気付いてたのか。
気付いてるのに、フォローも何もなしっていうのもどうよ。ていうか、機嫌もまだ直ってないんだから。

「で。何の用よ。」
『今どこ?』
「あたしがどこにいようと関係な―――」

言い終わる前に、京ちゃんに携帯を取り上げられた。

「もしもし、侑城君?」

侑城からだなんて一言も言ってないのに、あたしの態度から誰からの電話だったのかお見通しだったらしく、あたしを無視して侑城と喋り始めた。
そして電話を切って、爆弾発言。

「もうすぐ侑城君ここに来るから。」
「は?」
「てことで、あたしは帰る。」
「はぁ? あたしは?!」
「侑城君が来るんだから、二人でどっか行けば?」
「何で?!」
「何でって何で。いいじゃない、デートしたかったんでしょ? あたしは中てられるのも、馬に蹴られるのも嫌だから、帰る。まあ、正直やってらんないっていうか・・・」
「ちょ、京ちゃんっ?!」
「ここは由佳の奢りよね? じゃ、あとはよろしくね。」

後半はあたしに言われた台詞じゃない。
いつの間にか店に来ていた侑城に向けられていた。
もうすぐ来るって・・・早すぎだよ。

精々頑張りなさい、と微妙な応援を残して、京ちゃんは帰っていった。



「どこ行くの?」

先を歩く侑城に、素っ気無くそう訊ねる。

「映画。観たかったんだろ?」

確かに、観たい映画があるって言った記憶がある。

ちゃんと聞いてたんだ。話半分、ていうか聞き流してると思ってた。
でも聞いてたんなら、その時に反応してほしいんだけど。

「・・・何観るの?」

まだちょっと拗ねつつそう尋ねると、チケットを渡された。
観たかった映画の、前売りチケット。

・・・前売り?

前売りのチケットがあるってことは、昨日今日急に思い立ったんでなく少なくとも上映される前から行こうと思ってたってことで。

・・・・・・。

ずるいよ、こんなの。

だって、侑城興味ないって言ってたじゃん。

京ちゃんも興味ないって言ってたし、他の友達も興味ある子はもう観に行っちゃってて、一人で観に行くのも嫌だから諦めてたのに。

「・・・詐欺だ。」

「何がだよ。」

ぼそりと呟いただけなのに、意外にも地獄耳な侑城には聞こえたらしい。
でもほんとのことだもん。
詐欺だ、卑怯だ、悪徳商法だ。
自分で言っててちょっと意味分かんないけど、でもそんな感じ。とりあえず、ずるい。
不意打ちなんて反則だ。

でも、すっごく嬉しくて。

「・・・ありがとう」

お礼を言ってみれば、返ってきたのは沈黙。
そりゃ、顔見て言うのは照れくさくて目合わせられなかったけど、あたしにしては珍しく素直にそう言ったのに、無反応。
どうなのそれ!

ぱっと顔を上げてみれば、口元押さえて、微妙に眉が寄ってる。
失礼な! 何だその反応!!


文句を言おうと思ったけど、「行くぞ」って言って、手をとって歩き出されたから出来なくなった。

・・・だって、手繋いだりとか、したことないんだもん。

手を繋いでると言うより、引っ張られてると言った方が正しいような気がしないでもないけど。

振り返りもせず、ただ手を引く侑城を見る。

・・・心なしか、僅かに耳が赤いような気がする。

えーと、これは、照れてたりとかするんでしょうか。

・・・・・・侑城が?

―――『意地っ張りが素直になると得だと思うわよ?』

なるほど。

たまには、素直になってみるのもありかもしれない。
実行出来れば、の話だけどね。




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