devious
「馬っ鹿ねー。」
「うぅ・・・」
京ちゃんにしみじみとそう呟かれた。
言われなくても分かってるもん。
「そんなしょっちゅう喧嘩してて飽きないの? まあ、見てる方は飽きないけど。」
「・・・したくてしてるんじゃないもん。」
ていうか、あれって喧嘩なのかなぁ。
あたしが一方的に怒ってるだけのような気がする。
いつもの事だけど。でも、今回はちょっとタイミングが悪い。
侑城と付き合いだして数ヶ月。
奴はもてるので、友達とかにいいなー、とか言われるけど。
でも、不満もいっぱいある。
恋人っぽいことだってしたいわけですよ。
手繋いでデートとか。
そもそも、デートっぽいデートってしてるのかなぁ・・・。
家にいることが多いし、土曜日とかは部活に行ってるし、日曜日は昼まで寝てるし。
映画だって付き合ってくれることはあるけど、アクションじゃないと寝ちゃうから恋愛映画とか絶対見れないし。
ていうか、映画観ると何か喧嘩になっちゃうんだよね。好み違うから。
感想とかも絶対違うし。侑城ってば人の夢壊すような発言ばっかりするんだもん。
フィクションなんだからそこまで言わなくたっていいじゃん。
しかも、侑城人ごみ嫌いだから街をぶらぶらする、とかもほとんどしないし。
何だろう。
カレシが出来たらやりたい、と憧れるようなことをひとっつもしてないんじゃないだろうか。
・・・恋愛なんて所詮好きになった方が負けなんだよ。
惚れた弱みってやつ?
ふんだ。
そりゃ、侑城だって頼めば買い物とか付き合ってくれるのかもしれないけど。
明らかに不機嫌になりそうだし。
どうせ一緒にいるなら楽しい方がいいもん。
しぶしぶ付き合ってもらったって・・・ちょっとは嬉しいけど、良くはない。
今回だってそうだ。
結局、喧嘩して誘えなくなったけど。
地元のお祭りがある。
花火とかも上がるし、結構大きなお祭りで毎年好評だった。
ほんとは、侑城と一緒に行きたいなぁってちょっと思ったんだけど。
一緒に行きたいって言えばいいのかもしれないけど、侑城、人ごみ嫌いだし。
断られたらちょっとどころじゃなくてかなりへこみそうだし。
しかも、かなりの確率で断られそうな気がする。
そんなこんなで結局言い出せないまま、喧嘩までしてしまった。
理由なんて些細なことだし、もう怒ってない。でも、素直に謝ることも出来なくて。
後悔先に立たず、という言葉が頭に浮かんだ。
***
「お前何やってんの?」
侑城があたしを見てそう言っても、まあ特に不思議はない。
だって、ここ侑城の家だし。
喧嘩してる時は、侑城の家には行かないから余計に。
あたしだって来る気なかったけどさ、でも。
「おばさんが着付けしたげるからおいでって・・・」
おばさんには逆らえないんだもん。
うちの親はそんな事言い出さないけど、侑城のおばさんは嬉々としてあたしに浴衣とか着せようとする。
昔から女の子が欲しかった、と言っていたからそのせいだろう。
「何で?」
「・・・お祭り。」
もしかして、知らなかったとか?
あんなに学校で騒いでたのに。そこら中にポスター貼ってあるのに。
「誰と?」
「京ちゃんと。」
家に一人でいるのはかなり嫌だったので、京ちゃんとか、助っ人期間に仲良くなったバレー部の子と一緒に行くことになったのだ。
「ふーん」
何さその返事。自分から聞いたくせに。
そう思っていると、携帯が鳴った。京ちゃんからだ。
「もしもし?」
『由佳? あのね、侑城くん帰ってる?』
「・・・何であたしに聞くの?」
『だって携帯出ないんだもん。由佳、お隣さんでしょ?』
隣どころか目の前にいるけど。
多分、携帯はマナーモードのまま鞄に入れっぱなしにしてるんだろう。
『お祭り、バレー部皆で行こうかって話になったから侑城くん行かないかなと思って』
「あたしに聞けと?」
喧嘩してるの知ってるくせに。
『だって、誘う前にさっさと帰っちゃったんだもん。それに、由佳だって侑城くんがいた方がいいでしょ?』
それはそうなんだけど・・・
「侑城、お祭り行く? バレー部の女子と男子とで行くんだって。」
「行かない。」
「・・・だよねぇ」
・・・ちょっと期待したんだけどな。
京ちゃんに返事をしようと思ったら、携帯をひょいととりあげられた。
「外村? 悪いけどパス。俺も、由佳も行かない。」
そう言うと、ぷつっと電話を切った。
って、ちょっと待て。
今、あたしもって言った?!
「何すんの――っ!!」
「うるさい。」
「誰のせいよ、誰のっ!!」
「俺が付き合ってやるから。」
・・・・・・。
一瞬、侑城の言葉の意味が分からなかった。
えーと。一緒にお祭りに行ってくれるってこと?
「だ、だって侑城人ごみ嫌がるじゃない。」
「行く。」
・・・何か変なもんでも食べたんだろうか。
もしかして、熱があるとか?
窺うような目でじっと見ても、何の感情も読めない。
どころか、あっさりと言ってきた。
「嫌ならいいけど。外村に連絡して一緒に行けば?」
「い、いく!!」
「どっちと。」
「・・・侑・・・城と、行きたい・・・」
あたしがそう言うと、侑城は破顔してくしゃっと頭を撫でられた。
・・・・・・侑城の笑みって心臓に悪い。ずるい。質が悪い。
子供扱いすんな! とか、勝手に人の電話切った事とか、文句はいろいろあるはずなのに、結局何も言えなくて。
「着付けしてもらってくる!!」
あたしはそう言って逃げ出した。
だって、何か恥ずかしいんだもん!!
逃げるが勝ちっていうしね!!
何だか軽くパニックになりながら、でも一緒に行けるのが嬉しくて、勝手に頬が緩む。
かなり単純だと自分でも思ったけど、まあいいや。
ちなみに、誰かのせいでちっとも花火が見れなかったこととか、次の日に京ちゃんに満面の笑みでさんざんからかわれて「所詮友達より恋人よね」と淡々と、ねちねちと言われ、放課後ケーキセットを奢らさせられたのはまた別の話。

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