「何やってんの?」

授業の終わりのチャイムと同時に教室を飛び出し、授業の始まりのチャイムが鳴るとほぼ同時に戻ってくるという不毛なことを続けている親友に、そう声をかけた。

「隠れたところで高宮先輩から逃げ切れるわけないんだから、無駄なことしてないでさっさと諦めたら?」

まあ、見てるほうはおもしろいけど。
あたしの言葉に、小都は何かを訴えかけるようにじっと見つめてくる。

「奈緒ちゃん、こういう時は普通、呆れたように何やってんのって言うんじゃなくて、もうちょっと親身に何があったの、とか聞かない?」
「聞くまでもないじゃない」

何があったかなんて、顔と言わず、全身に書いてあるようなものだ。
詳しく聞くまでもなく、先輩に迫られたんだろう。

「だって、先輩が悪いんだもん! いっつもからかってばっかりで!!」

小都は、からかってばっかりって言うけど。でも本気で迫られたらもっと困るだろうと思うんだけど。

・・・小都は素直っていうか、単純っていうか、思考と表情が直結してるから一緒にいて飽きないし、可愛いと思う。
その素直さはあたしにはないもので、小都のそういうところが好きなんだけど。

けど、最近は何かにつけて先輩先輩で、ちょっとおもしろくない。

だから、今回は小都にちょっと加担してみることにした。

「じゃあ小都、うちに来る?」
「え?」
「今週ずっと先輩のこと避けてるでしょ。今日金曜日だし、帰ったらきっと小都の家にいるわよ、先輩」
「う・・・」
「どうせ会ったら上手くまるめこまれちゃうでしょ?」
「どうせとか言うな!」

けど、本人もそう思ってるらしく「行く」と返事をした。小都、負けず嫌いだからこう言えば来ると思ったのよね。ちょろいなぁ。



その日は久しぶりに夜遅くまで話して、次の日は買い物にいった。
おばさんにいくら言われようと、これまで割と服装とかに無頓着だった小都は、先輩と付き合いだしてからちょっと気にするようになった。
まあ、良いことだと思うんだけど、やっぱりちょっとおもしろくない。昨夜の会話にも、何度小都の口から高宮先輩の名前が出てきたことか。本人、無自覚なんだろうけど。

それでも、小都に似合う服を選んで、ついでに服に合わせて髪をいじって軽く化粧もしてみた。
うん。なかなかの出来だ。

そう思ってるのはあたしだけじゃないらしく、街中をうろうろとしているうちにナンパ男二人組みに声をかけられた。
曰く、奢るから一緒に遊びに行かないか、と。
何で折角の休日をこんな見た目も中身も軽そうな男に邪魔されないといけないのか。お金もらったってごめんだ。
普段なら、冷たく一瞥して無視している。

けど。

「どうしようかな」

そう言って考えるような素振りを見せてみると、当然いつもの如く断るだろうと思っていた小都がぎょっとしたようにあたしを見る。

「ちょっと、奈緒ちゃん?!」
「いいんじゃない? これで練習してみれば? 先輩に一矢報えるかもよ?」
「何言って・・・」
「二人で何話してんの?」

ナンパ男が馴れ馴れしくあたし達の肩に手をまわそうとしてきた。
その時。

「先輩じゃなきゃ、やだもん!」
「人のものに手出しちゃだめだよ?」

涙目でそう言った小都と、小都に触れようとしてきた男の腕をとって捻る高宮先輩の声がほぼ同時に聞こえた。
思ったより来るの遅かったわね。あたしは、肩に手をまわそうとしてきたもう一人のナンパ男に肘鉄を食らわせながら思った。
まあ、小都の本音も聞けたことだし、高宮先輩的にはいいタイミングだったのかしら。

ちなみに、ナンパ男は高宮先輩に笑顔で凄まれて、見る見るうちに散っていった。

「せ、先輩・・・な、何で」
「携帯、何で切ってるの」
「あれ? いつの間に・・・? え、連絡くれてたんですか?」

小都が驚くのも無理はない。高宮先輩の基本は予告なし、連絡なしらしいから。ついでに言うと、小都の携帯の電源切ったの、あたし。

「そう。なのに、小都は無視するし」
「ご・・・ごめんなさい」
「しかも、人のこと避けるし。傷つくなぁ」
「で・・・でもあれは先輩が・・・!」
「俺が、何?」
「うぅ」

まあ、小都の性格からして、先輩を意識しまくってたせいで避けてたなんて言えないだろうなぁ。
しかし、あたしのこと忘れてるわね、こいつら。
小都は天然、高宮先輩はわざと。どっちにしろ人の存在を無視してる。

これ以上バカップルの繰り広げる世界に付き合うのはちょっとおもしろいかもしれないけどバカバカしいし、帰るけど、このまま黙って帰るっていうのもおもしろくない。ていうか、帰ったことすら気付かなさそうだ。
それに今回の件は、小都がというより、あたしが一矢報いるための計画でもあるんだから。
この辺りはあたしと小都のデートスポットだ。高宮先輩がこの辺りを探しに来たとなると、小都からそのことを聞いているんだろう。それを分かってて、あえて言う。

「場所、よく分かりましたね?」

あら。睨まれちゃった。
これくらいの美形が睨むと様になるわね。まあ、別に怖くないけど。
多少の底知れなさがあるけど、結局高宮先輩は小都のことが好きなんだし。親友のあたしは嫉妬されこそすれ、恨まれたりはしないだろう。嫌がられてはいるかもしれないけど、別にどうでもいいし。
それに、握られて困るような弱みもない。敢えて挙げるとしたら、高宮先輩と同じ、だしね。
まあ、敵にはまわしたくないってことは確かだけど。

「随分楽しんでたみたいだね」
「おかげ様で」

結構ちょろちょろと移動してたからなぁ。
だって、すぐに見つかっちゃったらつまんないし。
高宮先輩はそれにも気付いてるみたいだ。
まあ、可愛く仕上げた小都の写メを送った時点で、あたしの魂胆なんて分かってただろう。隠そうともしなかったし。

小都をとられたんだから、これくらいの嫌がらせ許されるでしょ。最終的には、仲直りのきっかけを作ってあげたわけだし。あたしっていい奴。
まあ、小都はこの後高宮先輩に苛められるんだろうけどね。
変なとこ鋭いくせに天然な小都は、理由も分かってないまま苛められて、明日になったらまた泣きついてくるのよ。その光景が目に浮かぶようだわ。

小都はいつも振り回されてばっかり!って言ってるけど、自分も振り回してるのには気付いてないんだから、笑える。



ほんと、一緒にいて飽きないわ。





index 

top