round0.5 ことの始まり
目の前にいる少女は、実に居心地の悪そうな表情を浮かべていた。
今だかつてこんなやる気のない態度とられたことない。
昨日は昨日で、驚いてはいたけれど私の知ったことではないと言わんばかりにさっさと出て行った。
荷物はしっかり置いていったのも見ていた。
興味が沸いた。
その時一緒にいた子よりも、よっぽど。
「昨日のことは誰にも喋ってませんよ? する気もありません」
言われるまでもなく分かってる。
彼女が誰かに話していれば、俺の耳に入らないはずがない。
けど、用事はそんなことじゃない。
そもそも、用事なんてない。
「そうみたいだね」
「じゃあ、戻っていいですか?」
さっさと逃げ出したいと言わんばかりにそう訊ねる。
一歩近付くと、彼女が後退さった。
そんな行動をとったくせに、何で自分がそうしたのか不思議に思っているらしく、それがそのまま表情に出ている。
・・・分かり易いなぁ。
そう思って笑みを浮かべると、更に怪訝そうな表情。
笑って騒がれたことはあるけど、笑って顔を顰められたことはない。
無自覚にしろ、人の感情には敏感なようだ。
「勘がいいんだね」
何となく悪戯心が湧いて、彼女を壁際に追いやって身動きをとれないようにする。
すると、顔を赤くして青くするという器用なことをやってのけた。
俺に反応してるわけではなく、単に男慣れしてないらしい。
「な、何の真似ですか?」
必死に冷静になろうとしてるけど、動揺してるのがありありと見て取れる。
「何だと思う?」
「か、彼女に誤解されてもしれませんよ?!」
「彼女なんていないけど?」
「え? だって昨日の―――」
ああ。そう言えば見られたんだっけ。
「あれは向こうから寄ってきただけ」
来る者拒まずというわけではないけど、まあ、それなりに。
恋人ではないけれど、同意の上なのだから問題はない。
でも、別に今更欲しいとも思わない。
それよりも―――
「もうやめるよ。それよりおもしろそうなもの見つけたから」
「なっななな・・・っ」
真っ赤な顔をした彼女に告げる。
「よろしくね、小都」
―――初めて見た時に憶えた彼女に対する感情を、彼女の傍で見極めてみようか。

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