round0 事の起こり
くそぅ。人の足元見やがって・・・
プリントの束を抱えて、若干ふらつきながら歩いていた。
資料運びの真っ最中。
重い上に、旧校舎までって案外遠い。
だからこそ、手伝わせられたわけなんだけど。
あのものぐさ教師め。
しかし、成績が結構やばい私としては、先生の頼みを断るわけにはいかない。
私の昼休みが・・・
さっさと運んで教室に戻ろう。
やっとたどり着いた準備室のドアを開けると、そこには別世界が・・・ってわけではないけど、私の知らない世界があった。
まあ、何ていうか取り込み中だったらしい。
「―――お邪魔しました」
反射的にそう言って、ドアを閉めた。
・・・びっくりした。
びっくりしつつも、きっちり資料を部屋に置いてきた辺りは素晴らしいと自画自賛する。
そう言えば、旧校舎はサボりのメッカだと聞いた事がある気がする。
休み時間だから、サボりではないんだけど。
ていうか、一瞬目が合ってしまった。
あれって、高宮先輩だよね。
噂に大して興味のない私でも知っているくらいの有名人。
顔、頭、性格良しの優良物件だそうだ。
彼女はいないとか女子が言ってるのを聞いたことがあるけど、どうやら違うらしい。
ま、どうでもいいか。
目が合ったところで向こうは私のことなんて知らないだろうし、今見たものを吹聴して回る気もさらさらない。
もう関わることもないだろう。
そう結論付けて、今の出来事は頭の隅に追いやられた。
その時の私は知る由もなかった。
後日先輩に呼び出され、望んでもないのに気に入られてしまい、気苦労のたえないスリル満点な日々を過ごすことになるなんて。

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