ことあるごとに人のことを意地悪だ、と言うけれどそれはそっちにも問題があると思う。
いじめてはいけません
「何で先輩がここにいるんですか?!」
彼女よりもはやく、小都の実家のリビングにいた俺を見て、小都が声を上げた。
小都の反応が見たかったから、とか言ったら怒るんだろうな。
まあ、でも家主の許可はとっている。
「娘を一人で家に残すのは心配だからって連絡をもらったんだ。近頃物騒だからね」
夫婦そろって旅行に出掛けるらしく「心配だから」と言いながらも楽しげな声で連絡をもらったのは今朝のことだ。
小都にバレると逃げ出しそうだから、もちろん今まで黙ってたけど。
「コウくんの裏切り者ぉっ!!」
母親はともかく父親まで同意するなんて、と嘆いてる。
まあ、父親は知らないらしいけどね。
「理解のある両親で良かったね」
「良くないです!!」
確かに、理解ありすぎだとは思うけど、好都合だから気にしない。
「この間の看病のお礼に今日は俺が世話してあげるよ」
「結構です!! 自分の面倒くらい自分でみれます!!」
出会った頃からそうだけど、小都は状況を把握してすぐ受け入れるようなことはしない。とりあえず、反発する。
最初はともかくとして、今も。既に条件反射というか、習慣になっているらしい。
まあ、警戒されるようなことをしているという自覚はないこともないし、別にいいけど。
俺も、今のところ小都のいう「意地悪」をやめる気ないし。
こういう場合はとりあえず。
「帰って欲しいっていうなら、帰るけど」
テーブルに置いておいた箱に視線をやる。
「じゃあ、これもいらないよね。小都の好きなチーズケーキ」
「え?」
「最近物騒なのは本当だし。ついこの間も隣町で押し込み強盗が」
「え。」
「犯人まだ捕まってないみたいだけど?」
「・・・」
「ついでに、今夜は雷らしいし。それでも、いてほしくないんだよね」
「・・・・・・」
なら仕方ない、と立ち上がって玄関に向かおうとした俺を小都が引き止めた。
「何?」
「う、えっと・・・」
押されると逃げるくせに、引かれると弱い。
しまった、と言いたげな表情をしているけど、どうしてほしいかは明らか。
「いてほしい?」
そう問いかけると、ものすごく複雑な表情で、けれど、こくりと頷いた。
「じゃ、何してくれる?」
「ほぇ?」
「善意でここにいようとした俺を疑って、追い返そうとしたんだから、ここにいてほしいって言うからにはそれ相応のことをしてもらわないと」
「なっ・・・!!」
「傷ついたなぁ」
「・・・っ絶対嘘だ!」
小声で言ったみたいだけど、ちゃんと聞こえてるよ、小都。
思考回路と口が直結してるらしく、考えたままに口に出してることが多い。
本人、気付いてないみたいだけど。
まあ、声に出さなくても表情に出てるし、分かりやすいことに違いはない。
今も何か考えているらしく、くるくると表情を変えている。
そのうち、小都の中で何か決心でもつけたのか、何か小さく呟いてから俺の服のすそを掴んできた。
「・・・い、一緒にいて、ください」
この辺りが小都的に精一杯なんだろう。
内心悔しがりながらも、顔を赤くしながらこっちを見つめてきてそう言う。
無意識無自覚なのは知ってるけど、この無防備さもそろそろどうにかしてほしいような気もする。
まあ、その辺りは近々きっちり自覚させるとして。
とりあえず今は、「意地悪だ」と呟く小都の期待に応えるとしようか。

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