俺のこと、信用してないみたいでおもしろくない。




さみしがりや、おくびょうです



「見ての通り、逃げた後ですけど」
「らしいね」

会いに来た彼女の姿はなく、代わりに彼女の友人がそう言った。

逃げてる理由は分かってる。
俺が小都と別れるだとか、他に本命がいるふぁとかそんな類の噂のせい。

「分かってると思いますが、小都は自分から泣き言なんて言いませんよ」

他の女といても、何にも言わない。
噂だって知ってるはずなのに、口に出さない。

「高宮くん」

声のした方に目をやると、ここ最近よく見る姿。
偶然、とか言い出しそうだが、違う学年の校舎にいてそんなはずない。ついてきてたんだろうか。

「今帰り? 良かったら一緒に・・・」
「ああ。ちょうど良かった。話があったんだ」

そう言って連れ出そうとすると、望月さんが彼女に聞こえない低い声で言った。

「高宮先輩が何しようとどうでもいいですが、小都泣かせたらタダじゃ済ませませんから。脅しでなく」
「知ってる」

小都がおかしい原因。最近、俺の周りをちょろちょろしてるこれのせい。
こいつが鬱陶しいのは勿論だけど、小都の態度も不満だ。

俺が他の女に言い寄られても、何も言わないし。
たとえば、好きな人が出来たとか言ったら、「そうですか」とあっさり引き下がりそうだ。
俺を好きじゃないとまでは思わないけど、信用されてないんじゃないかとは思う。


「君は内部進学希望してるんだっけ」
「? ええ」

話があると言われて何か期待でもしたのか、いきなり何だろうというような顔をしてる。
そんなのに構う気もないし、第一今の俺の機嫌は良くない。

「こんなに素行が悪いと厳しいんじゃない?」

嫌がらせ等に関する数々の証拠。
こんなもん残してるあたり、頭が足りない。こんなくだらないことすること自体で頭の悪さは既に露呈してるけど。
小都のことがなくても、こんなタイプとは関わりを持たない。

「手出し無用。分かるよね?」

にっこり笑ってそう告げると、言葉が見つからないのか口を開いたまま、何も言わない。
これ以上相手にしてるのも馬鹿らしい。

さっさとその場を後にして教室に戻ろうとすると途中で面倒なのに声をかけられた。

「ひでー。慕ってくる女の子にその仕打ち」
「限度をわきまえない方が悪い」
「まあ、相手の女の子も詰めが甘いよね。別れたって噂が流れた甲斐あって」
「別れてない。噂流したのも俺じゃないし」

ポケットに入れてる携帯が震動する。

「メール? 小都ちゃんから、じゃないよなその仏頂面」

返事の代わりにさっきの資料を投げ付けてやる。

「いらねーの? 人がせっかく集めてやったのに」
「見つかったら面倒いから持ってろ」

自分が何をされたかなんて関係なく相手に同情するようなお人よしなんだから。

まあ、もう必要なさそうだけど。


****


「久し振り」
「う・・・」

「嫌味だ」って呟いたの聞こえてるよ、小都。
たまに考えてることそのまま口に出してるからなぁ・・・本人気付いてないみたいだから言わないけど。

「大丈夫?」
「あんなメール送っておいて何言うんですか」
「それはこっちの台詞」

まあ、送ってきたのは小都じゃないけど。
俺は20分以内って入れただけ。
小都のいた場所からなら間に合う。かなり急げば、だけど。

「最近おかしかった理由は分かってるけど」
「え」
「解決したから」
「え?」
「それ言おうと思っただけ」

小都の予想と違ってたからか、話を終わらせようとしてるように見えた俺に戸惑った表情を向ける。

「それだけ、ですか?」
「何?」
「・・・怒って、ます?」
「そう思う?」

まあ、何とも思わないわけじゃないけどね。

「何でこういうの言わないの? 彼女守るくらいの甲斐性はあるつもりだけど?」

女子の間で嫉妬やらやっかみがあるのは承知してる。
そんなしょっちゅうあるわけでもないけど、いつも未然に防げるわけでもない。
第一、本人に何も言わずに避けられるとどうしようもない。

「嫌になった?」

首を振る。

「頼りない?」
「違っ、だって、あの人先輩にも・・・あ」

ああ。何となく分かった。
確かに関わりた合いになりたくないタイプではあった。脅しとかも平気でやりそうだったし、実際したわけだ。

「俺がそんなのでどうにかなるとでも?」
「・・・だって、何か目が怖かったんだもん」

小都は進んで争いごとするような性格じゃないし、周りに強烈なガード役がいたわけだし、免疫なくても無理ないかもしれない。

だけど、それはそれ、これはこれ。

「心配しちゃ悪いですか」
「悪くないよ。でも小都がそれを一人で抱えるのは悪い。これ以外にも言ってないのあるみたいだし?」
「何で知って・・・!?」

ひっかかった。
まあ、自白してくれなくても知ってたけど。

「う・・・ごめんなさい」

こういう素直なとこが、小都のいいところと言うか付け込まれやすいところというか。

軽く頭を撫でてから引き寄せた。
珍しく全然抵抗されない。
このまま元通り、で別に構わないんだけど。まあ、一応。

「ところで 、これはどういうこと?」

小都にさっき送られてきたメールを見せる。
送信者、望月奈緒。
隠し撮り、というか不意打ちで撮った仲良さそうな男女の写真に一言。

『あんまりいじめると、うちの親戚にしちゃいますよ』

「うぇっ!」

メールを見た小都はおろおろしながら弁解を始めた。

「えーと、奈緒ちゃんのいとこのお兄ちゃんで」
「親戚にされそうな仲なわけ?」
「違います!それは奈緒ちゃんの冗談で・・・先輩だって! 最近、女の子に囲まれてたじゃないですか!」
「あれは害虫退治。面白くもなんともない。小都は楽しかったみたいだけど」
「だから、そういうんじゃなくって」


何でもないのくらい分かってるけど、これくらいしとかないと、ね。




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