いつもの先輩からは想像つかない。




ときどきあまえんぼうになります



先輩が、風邪をひいて学校を休んだ。
鬼の霍乱。という言葉が頭をよぎったのは言うまでもない。
先輩なら風邪の方から逃げていきそうな気がする。
でも、気になる。
先輩一人暮らしなんだもん。大丈夫だろうか。

という訳で、お見舞いのために先輩のマンションまで来てみた。

まあ、正直に言えば、弱ってる先輩が見てみたいというか。
悪趣味だって?
人をからかうことを生きがいにしている先輩の方が悪趣味よ。

渡されていた合鍵を使って部屋に侵入する。
いや、行く前に一応メールはしたんだけども。返事こなかったから。

先輩は、大人しくベッドで横になってた。
でも、眠ってはいなかったみたいで、人の気配に気付いたらしい先輩と目が合った。

「こと・・・」

どことなく舌足らずな喋り方で、いつもの含み笑いも無い。
何ていうか、母性本能がくすぐられそうな感じ。
つまり・・・可愛い、と思う。
いくら風邪ひいてるとはいえ、可愛いなんて先輩本人に言おうもんなら、後日何されるか分からないので絶対に言わないけど。

ていうか、来てみたのはいいんだけど、看病って何したらいいんだろう。
ここ最近、風邪をひいた記憶がないからいまいちピンと来ない。
お母さんに聞いてみたら「添い寝」とかほざいた。
何考えてるんだ。


「薬飲みました?」
「んー・・・」

飲んでないらしい。
でも、何か食べないと薬飲めないか。
部屋には、何か食べた痕跡がない。
もしかしたら、朝から何も食べてないのかも。

「先輩、おかゆ食べられますか?」
「・・・たまごのやつ。」

・・・・・・やっぱり、可愛いかも。

「台所借りますよ?」
「ん」

お粥作って、薬も飲ませて。
ちょっと嫌がられたけど、冷却シートもおでこに貼り付けて。
ベッドのすぐ傍に、ドリンクも置いておいた。

看病といって思いつくのは、これくらいなんだけど。

「他に欲しいものないですか?」
「ん・・・」

私の問いに、先輩は言葉じゃなく、行動で答えた。

ベッドに引きずり込まれたのだ。

・・・風邪ひいてても、やっぱり先輩は先輩だ!!
誰だ、可愛いなんて思ったの!!

でも、それ以上何かしてくる様子はなくて。

「先輩・・・?」
「ちがう。奏」

名前で呼べってか。
熱出してるくせに、そんなことにこだわらなくても。

「・・・奏」

そう言うと、先輩は無邪気な・・・ほんとに子供みたいな嬉しそうな表情を浮かべて。
きゅっと私を抱きしめると、そのまま目を閉じた。

・・・何、今の。

いつもの、邪気がふんだんに含まれている笑みじゃなくて。

―――あんなの、ずっこいよ。卑怯だ。凶悪だ。

先輩、しばらく風邪ひいててくれないかなぁ・・・


そんな願いも虚しく、翌日には完全復活を遂げてしまうんだけれども。
いじめっ子モードも、全開だったけれども。
それでこそ先輩、と思ってしまう自分もどうかと思うけれども。



・・・次にあの笑顔見れるの、いつだろう。






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