・・・二度と先輩の前で、他の人に隙なんて見せるもんか。




きちんとききかんりをしましょう




最近、変な呼び出しが増えた。

先輩のことを好きな人は勿論、その逆もたまにある。
完璧な優等生と信じてたって、だからこその多少の嫉妬(逆恨みともいう)とかあるみたいだし、たまに本性表して脅したりとかしてるみたいだからなぁ・・・。

つまり、先輩に良からぬ感情を抱いてる人たちが少数とはいえ、いるってこと。

今まで先輩は表立って彼女って作らなかったから、彼女=弱みみたいに考えてる人もいるわけで。
くだらないとは思うが、被害がもろ自分に来るんだからそうばっさりと切り捨てられるものでもない。

でもまあ、基本は無視。
いやだって、先輩が怖いし。
無視するのが当人のためっていうか。



でも、こんな呼び出しは初めて。

「高宮先輩について教えてください!」

そう勢いこんで言ってきたのは、かなり整った顔立ちの少年。そこらの女の子より可愛らしい顔立ちをしている。つまり、私負けてる?

「えーと・・・」

必死な顔でそんな懇願されても、どうしたらいいの。

「・・・先輩が好きなんですか?」

無駄にライバルが多いなぁ。

敵意剥きだしにしてるお姉さんから、何故かこっちが罪悪感を感じてしまうような儚げな女の子まで幅広く、こっちは顔も知らないのに相手は知ってたりとか、逆恨みされたり応援されたり。でも、ライバルの幅広すぎっていうか、誰を好きになろうと当人同士の問題だし、個人の自由だとは思うんだけど、それが仮にも自分の彼氏相手だとすると、ちょっと複雑なような気も・・・

「違います!!!」

なんだ。びっくりした。

私の思考を読んだのかどうかはまでは知らないが、何でか必死になって否定された。
とは言ってもなぁ・・・。

「本人のことは、本人に聞くのが一番良いかと・・・」

個人情報を勝手に漏らす気もないけど、下手なことを言って危うくなるのは彼より何より自分の身だ。彼には申し訳ないけど、私は自分が可愛い。
たとえ答えを得られなかったことで彼から恨まれようとも、うっかり答えて先輩に怒られるはめになるよりはよっぽどマシだ。けど、彼は「それはそうですね」とあっさり引き下がった。物分りが良くて何よりだ。この後、直接先輩のところに行くんだろうか。美少年に迫られる(と言ったら御幣があるかもしれないけど)先輩。・・・覗きに行ってもいいかな。
そんなことを考えつつ、用件は済んだろうと思って教室に戻ろうと思うと、何でか慌てた様子で引き止められた。

「・・・聞き方間違えました」

つまり、まだ私に聞きたいことがあると?
本人に聞け、と言った以上そういうことなんだろうとは思うんだけど。

「高宮先輩に興味があるわけではなくて」

こんな前置きが入るのは、さっきの私の勘違いを気にしてるんだろうか。
けど、何だ違うのか。先輩の反応が見物だろうと思ったのに。

「狭山さんは高宮先輩みたいな人がタイプなのかと思って・・・えーと、つまり・・・狭山さんのことが知りたいんです」

・・・・・・。

先輩と係わるようになってから、色々な方々から様々な言い回しで、平たく言うと別れろこんにゃろー、みたいなことを言われて来たせいか、遠まわしな言い方も多少は読み取れるようになったかと思ってたんだけど。
これは、どう解釈すべきなんだろう。

これって、告白なんでしょうか?

違った場合、自意識過剰、恥ずかしいとしか言いようがないけど、ここまで顔を赤くされてしまうと、勘違いしたって仕方ないじゃないかと思う。

人間、一箇所くらいは短所と呼ばれるようなものがあるもんだから、彼の場合は趣味がおかしいのかもしれない。彼の第一声から考えると、言葉選びも若干おかしい。
ちなみに先輩は趣味と言わず、性格とか根性とか色々なものが悪い。

「えーと・・・」

いつまでも現実逃避して沈黙しているわけにはいかないとは思うんだけど、何を言えばいいんだろう。

どうしよう・・・っていうか、どうも出来ないんだけど、でもどうしよう。
いらない敵意に対するかわし方、というか無視の仕方は学びつつあるけど、こんな自体は想定外。奈緒ちゃんや先輩じゃあるまいし、免疫なんてあるわけがない。

「狭山さん」
「はははははいっ?! えーと、ごめんなさい! 私付き合ってる人がいるので!!」

一気にそれだけ言って後退さったけど、それよりも彼が近づいて来た距離の方が多かった。つまり、近い。
どうしよう。
先輩の時は蹴って逃げ出す、とかやってたような気がしないでもないけど、見ず知らずの少年(多分先輩よりは常識的)にそれをするのはどうなんだろう。でも、このままじゃちょっとまずいよね!?
てか、ここまで近づかれると、あんまり呑気なことも言ってられない!!

「せ・・・」

「あんまり触らないでくれる?」

そう声がするのと同時に、知らない間に慣れてしまった腕の中に引き寄せられる。

・・・何でこんなにタイミング良く現れるんだろう。

その疑問を口にしたら、顔を顰められた。何で。

「文句があるなら望月さんに言って」

別に文句はないですけど。奈緒ちゃんと何かあったんだろうか。何でそんなに仲悪いんですか・・・いや、良いのかな。二人とも嫌いな人間には容赦なしというか、会話すらしないから。ていうか、奈緒ちゃんも私が呼び出し受けた時点では笑顔でいってらっしゃいとか言ってなかった? 私がピンチに陥ると分かってたのなら、一言教えといてくれればいいのに。不意打ちって威力おっきいんだから!

とかいらないことを考えているうちに、先輩が少年に何か言ったらしく、顔を青くして赤くして。それから去っていった。・・・何を言ったか問い詰めたいような知りたくないような。ちゃんと聞いてれば良かった。


これで全部終わった気になっていた私はまだまだ甘い。

むしろ、こっからが災難の始まりっていうか・・・





「・・・放してくれませんか?」

助けてくれたのは有り難いけど、私そろそろ帰りたいんですが。
けど、先輩には私の声は全く届かなかったようで、全然放してくれる気配がない。

「・・・あの」
「小都は、俺の彼女だよね」
「・・・そうですね」
「俺のものだよね」
「・・・私は私のものです」

目を泳がせながらもそう答えると、ぐいっと更に引き寄せられた。

「俺の、だよね・・・?」

耳元で囁くなーーっ!!!

「小都は隙だらけだね。だからつけこまれるんだよ」

頭を上げて、にっこりと笑って言った。

一番つけこんでる人が何言うんですか!!



・・・もう、やだ。




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