先輩だけは絶対敵にまわしたくない。
なつくとたのもしいそんざいです
最近、先輩にちょっとした隠し事がある。
隠し事って言うか、単に言いそびれてるというか、何ていったらいいか分からないっていうか。
まあ、出来れば自力で何とかしたいし。と、思ってたんだけど。
でも、簡単にばれてしまった。
「先輩?」
「これ、どうしたの」
先輩にいきなり腕を掴まれて何事かと訝る私に、先輩は無表情にそう尋ねた。
先輩が言ってる“これ”は指に巻いてある絆創膏のこと。うん。これね。
「えーと・・・ちょっと不注意で」
昔懐かし(?)剃刀レターをもらっちゃいました。
果たし状なんて初めてでもなかったし、特に何も考えずに手紙を開けたらすぱっと。
「不注意って?」
「プリントで切っただけですよ」
私がそう言うと、先輩はすっと目を細めた。
「いつから刃物を紙っていうようになったの?」
ぎく。
「靴に画鋲。何年前の手だよ。ほんっと下らない」
・・・何でバレてるんでしょうか。
先輩が怒ってるのは嫌がらせの首謀者たちなんだろうけど、それでも内心冷や汗だらだら。それに、黙ってたのも、怒られそうだし。
「何でちゃんと言わないの」
「・・・相手するの嫌だって言ってたじゃないですか」
以前、自分のファンくらい自分で管理しろと言った時にめんどくさいとのたまったのは他でもない先輩だ。
大体、先輩に言ったってどうなるものでもない。
そりゃ、先輩だったら簡単に犯人見つけて解決してくれるだろうけど。
虎の威を借っちゃうのは、嫌なわけですよ。
それに、そんなにお人好しでもないので。
自分で犯人見つけてきっちり片を付けてやりたいんです。
こんな真似しておいて、何事もなく済むと思っちゃいけません。
・・・先輩の性格の悪さがうつったかな。
「彼女になったら説得する、って言わなかった?」
「彼女になったから、です」
好きでもないのに、ただの誤解だけで恨まれるのなんてご免だったし、今でも逆恨みなんてご免被りたいけど。
「喧嘩売られるのなんて今に始まったことじゃないし、自分の面倒くらい自分で見られます」
そう言っても、先輩の表情はまだ不満げで。
不機嫌な先輩を相手にするのは、先輩のファンを相手にするより大変だと思う。
けど―――
「でも、どうしようもなくなった時はちゃんと頼りますから」
―――これでも結構頼りにしてるんだから。
・・・性格とか行動に問題は多いけれども。
「これからはこういうの、ちゃんと報告すること」
ため息混じりにそう言われた。
でも、先輩に報告したら、自分で解決する前に蹴りがついてそうだなぁ。
まあ、悪い事じゃないんだろうけど。
何ていうか、ちょびっと相手に同情してしまうわけで。
だって先輩って絶対敵にまわしたくないタイプだもん。
「返事は?」
「・・・ふぁい」
そんなやりとりをした翌日。
何だか怯えた目で私を見る女子が数名。
嫌がらせの実行犯と見て間違いないだろう。合掌。
手出さないって言ってたはずなのになぁ。
まあ、自業自得なんだろうけど、あの怯えっぷりは一体。
・・・何したんですか、先輩。

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