どうしたらいいのか、全然分からない。



むりにいうことをきかせようとしてはいけません



「お願い!!」

床に頭をぶつけるんじゃないかという勢いで頭を下げられた。

「えーと・・・」

新聞部の面々に迫られていた。

曰く、先輩の特集を組ませてほしい、と。

・・・何で私に言うのか分からないんだけど。

何でも校内人気男子ランキング投票をやるから、それに伴って先輩の記事を書きたいらしい。先輩だけじゃなく、女子に人気のある他の男子の掲載もするらしい。そういえば、姫とか王子とかよく分からん人気投票の称号があったような気がする。けど、詳しいことは知らない。っていうか、聞いてなかった。

「そういうのは先輩に直接言えばいいと思うんだけど」
「言ったら断られたんだもん!!」

先輩、そういうの面倒くさがりそうだもんなぁ。

「・・・本人が嫌がってるなら諦めなよ」
「嫌よ! だって売れるんだもん!! 貴重な収入源なのに!!」
「高宮先輩は他の生徒からの要望もダントツで、実現出来なきゃうちの沽券にかかわるの! 廃部の危機なの、お願い〜!!」

拝み倒されても困る。

「昔は撮らせてくれてたのよ、無許可だったけど黙認って感じで。でも最近、ていうか狭山ちゃんと付き合いだしてからガードが固い!!」
「私のせい?!」

そんな身に覚えのないことで、恨めしげな視線を送られても!!

「彼女のお願いなら断れないでしょ!?」

断ると思う。ていうか、下手なこと言おうものなら私の身が危うい!!

そう思って、先輩のためというよりむしろ自分のために頑張って断った。
なのに、どうして私の周りにはこう人の話を聞かない輩が多いのか。

以来、しょっちゅう私の近隣に出没しては拝み倒される。

・・・そんなことされても無理だってば。

疲れている私を見て、奈緒ちゃんが感心しているように言った。

「流石というか、よく調べてるわね」
「何が?」
「先輩の動かし方。先輩に頼まなくても小都を巻き込めばいいってこと」
「は?」
「もれなくオプションがついてくるって分かってて小都に付きまとってるんでしょ」

オプションっていうか、メインじゃないのか。

熱意をもって何かに取り組むというのは悪いことじゃないと思うけど、これは正直困る。
私が先輩にどうこう言うようなことでもないし。
だけどそう言っても諦めてくれない。

「まあ、高宮先輩がどうなろうとあたしは知ったことじゃないからどうでもいいんだけど」
「・・・奈緒ちゃん」
「小都は困るわよね。鬱陶しいのも勿論だけど、裏商品とかもあるらしいし」
「裏? 何それ」
「ランキング1位になった人とのデート権を抽選で一名様にプレゼント」
「は?」
「だから女子人気の高い高宮先輩を引っ張り込もうとしてるんじゃない」

何だそれ。
仮にも彼女の私に、その手伝いをしろ、と?
何考えてるんだ、あの人たちは。

いい加減、諦めてもらわないと。・・・鬱陶しいし。

何度も言ってはいるけれど、もう一度びしっと断りにいこうとしていたら、いきなり腕を掴まれて引き寄せられた。
私にこんな行動に出るのは一人しかいない。

「最近、妙なのがちょろちょろしてるけど」

仮にも女の子をつかまえて妙なもの呼ばわりですか、先輩。

「あれは、どういうこと?」
「正面切って頼んでも断られるからって・・・」
「それで、小都は自ら進んで俺を売ろうとしたわけ?」
「違いますよ! 勝手についてきてるんです!!」
「ふうん・・・」
「・・・疑ってるんですか?」

前科がないとは言わないけど、隋分前の話だ。時効時効。
人が本気で嫌がることをしようとは思わない。相手が先輩であった場合、尚更だ。・・・仕返しが怖すぎる。

「いや、どうすれば手っ取り早く収まるかなと思って」

思案するように顎に手を当てて、いっそ引き受けるか、と呟いている。

「受けるんですか?!」
「何、その顔」
「だって、嫌だったから断ったんでしょう?」
「確かに面倒くさいけど、いつまでも追いかけられるのも鬱陶しいし、小都にも負担かけてるでしょ?」
「自惚れてるって笑わないでくださいね」
「何?」
「・・・もし理由が私のため、とかだったら受けなくていいです」

私に迷惑かけないため、とかだったらそんなことしなくていい。

「何で? 困ってたんでしょ」

いや。だって、その・・・

そりゃ、困るのは困ってるんだけど。そんなの今に始まったことじゃないというか。今更というか。

あのふざけた記事は先輩がもてるからこそ出来る企画であって、デート権とかまでやるのかどうかは分からないけど、どっちにしろ私にとってはあまり楽しい話ではないというか・・・やなんだもん。

私に頼んだところで効果がないと分かれば、そのうち諦めるだろうし。

「・・・小都は、ずるいよね」
「は? 何が・・・」

何もずるいことなど言ってません。
言い返そうとする前に、やたら先輩の声が近いことに気付く。近いっていうか、耳元で声がするんですけど!!

「そういうこと言うから」
「・・・あの」
「何」
「ちょっと離れてください」
「何で?」
「近いです!! って、わ!?」
「小都から誘ってきたんでしょ」
「そんなことしてませんよ! 何の話ですか!」

迷惑とかそんなしおらしいことを考えるなら、今、この状況を!! 何とかしてほしい!
こっちの方がよっぽど困る。
分かってるくせに楽しそうな顔するなぁ!!

やっぱり、奈緒ちゃんの言ってたことは間違ってる。
私が何を言っても全然きいてくれない。

先輩の動かし方なんて、きっと誰にも分からないに違いない。






・・・ちなみに、その後どういうわけかさっぱり来なくなった。

でも何か周囲の人間から妙な視線、というか生暖かい目で見られ「新聞部」とか「記事が」とかひそひそ聞こえてくるのは気のせいか。気のせいだと思いたい。そうに違いない。

奈緒ちゃん、ため息つかないで!!






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