あっちもこっちも敵だらけなんです。
あるていどのきけんをかくごしましょう
先輩と付き合い始めて数週間。
・・・心がちっとも休まらない。
まず、先輩のファン。
ほんとに彼女の座についてしまったことで今まで以上に睨まれる。
たまに、泣かれたりとか。何かすごい極悪人になった気分。
まあ、そんなのは今にはじまったことじゃないし、今のところ大した害はないからとりあえずいいけど。何か対策考えとかなきゃ。
次に、親。
母さんは完全に先輩の味方だし、コウくんは敵ではないかもしれないけど所詮母さんの言いなりなので役に立たない。
朝起きたら先輩が家にいるのとか、あまつさえ部屋に通すのとか、ほんと止めて欲しい。心臓に悪いから。
そして、友人。
奈緒ちゃんは、話は聞いてくれるけど、その後は「がんばれ」というだけで放置。
まあ、話聞いてくれるだけでも有り難いんだけどさ。
でも、先輩とも通じてるらしく、密告されることもしばしば。
賄賂受け取ってるでしょぅ!! 友達を売るなんて・・・っ!!
友情を疑うよ、奈緒ちゃん・・・
そしてそして、何より、一番の敵は、先輩だ。
本来なら味方であろう恋人に、一番警戒心を抱かなきゃいけないのってどうなんでしょう。
付き合いだしたからと言って、先輩との関係は今までと変わらない。
でも、付き合いだしたことでエスカレートしたっていうか。
身の危険をひしひしと感じる。
隙あらば迫って来るんだもん!!
毎回ぱにくってる私の反応で遊んでるんだってことは分かってるんだけどさ。
先輩の顔が目の前にあって、冷静でいられるわけないじゃん。
心臓に悪い。
先輩と知り合ってから何年分の寿命の縮まる思いをしたことやら。私こんな生活してて長生きできるのかなぁ・・・
「小都?」
名前を呼ばれて、思考の渦から我に返った。
・・・しまった。
おそるおそる先輩の顔を見ると、にーっこりと笑ってる。怖っ!!
「俺と一緒にいるのに考え事?」
「いえその、心の平穏について少々・・・」
しどろもどろになりつつも、どうやって逃れようかと頭をフル回転させる。
もっと賢かったらいいのに、と切に思うのはこんな時だ。
「俺と一緒にいると心がささくれだつとでも?」
「滅相もゴザイマセン。」
でも、平穏とは程遠いのは事実だけど。
そうだ、全部先輩が悪い。何で私がびくびくしなきゃいけないのさ。
きっと先輩を睨む。
「先輩が悪いんですよ!」
「何が?」
「そんなだから」
私の言葉の意味が分からなかったらしく、僅かに眉を顰める。
「だ、だから! どきどきしちゃって心が休まらないんです!!」
・・・あれ、私何か言葉間違えた?
だって、これじゃまるで・・・・・・
だあ!! 違う!!!
こんな乙女ちっくに誤解されそうなことを言いたかったんじゃなくて、先輩のセクハラのせいで心の平穏が保てないって文句が言いたかったわけで!!
私の言葉に、先輩はちょっと目を見開いて。
それからいつもの、企むような笑みを浮かべる。
「小都が悪いんだよ」
「何でですか!」
「そんなだから」
そう言って、唇を重ねられた。
・・・こうやって、いっつも先輩に翻弄されてしまう。
けど、それは今だけじゃなくて、ずっと。
いつだって変わらない。
先輩が傍にいる限り、いつでも一生、身の危険。

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