客席に取り囲まれた舞台。僅か一人が通れる程の幅を残して、フェンスが立てられ、
サーチライトのような照明が舞台と客席を照らしています。
―破滅への前兆―
エルシノア(デンマーク)王の居城に、夜毎ハムレット王の亡霊が現れるという。
事の真偽を確かめる為、ホレイシオは兵士と共に歩哨に立つ。
現れる甲冑姿の亡霊。(西洋の甲冑でもなし、日本の鎧兜でもなし、私は三国志の
頃の中国の戦装束が一番近いような気がしました。)
しかしどれほど問うても何も語らず、鶏の鳴き声を聞くやいなや亡霊は姿を
消してしまう。
―城内の大広間―
国王夫妻、重臣一同が集まり、フォーティンブラスのデンマーク侵攻について
話し合われている。(藤原君登場。フェンスの扉をはさみ国王夫妻と背中合わせで
たたずんでいます。ほとんどまばたきせず、恐ろしいほど思いつめた横顔。
これはBR席の特権。藤原君の表情がよく見えます。そのかわり、井上君はフェンスの
枠と重臣達に阻まれてさっぱり見えませんっっ。近すぎるのも問題です。)
一人広間に残り、フェンスに身体を叩き付けながら、叔父と母を罵り嘆くハムレット。
そこにホレイシオが現れ、昨夜の出来事をハムレットに告げる。
―旅立ち―
楽し気な笑い声と共にオフィーリアとレアティーズが駆け込んでくる。
(ここだけお花畑で陽だまりの世界。どこまでも、らぶらぶな兄妹である。ちっっ。)
『手紙を書けよ。』『ハムレット様の事本気にするなよ。』と口うるさい兄。
『人に厳しい事をおっしゃって自分はやりたい放題なんてことはなさらないでね。』
とやりかえす妹。
見送りに来たポローニアス。息子に生活態度について説教をする。
その間ずっとじゃれてる二人。妹を背にしがみつかせたまま『また始まった。』と
目配せする兄。(聞いてないね。君達。)
息子と娘の肩を抱き寄せる父。微笑ましい幸せ家族の肖像。
息子が出立した後、父もまた『王子と会うな』と娘に命じる。
―真相―
―友来る―
国王夫妻に呼び出され王子を訪ねてくるローゼンクランツとギルデンスターン。
王子はのらりくらりと話をはぐらかす。
やがて不意をついて、二人の首根っこをつかまえ、フェンスに顔を押さえつけて
『さあ言え!何を頼まれた!』とつめよる王子。
なんとか誤魔化そうと連れてきた役者達の話題を持ち出す二人。
役者達の登場。(客席後方の扉から次々現れます。)歓迎する王子。
―生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。―
王子の狂気を探るため娘をおとりにするポローニアス。国王夫妻も陰に潜み様子を見る。
昔貰った贈り物を返そうとするオフィーリア。
『お前を愛してなどいなかった。尼寺へ行け!』と激しくののしるハムレット。
(狂った演技をしているというよりも、彼女と母親の姿がだぶっているように感じました。
『お前もやっぱり《女》か!母と同じ《女》か!』という様に。)
泣き伏す娘を慰める父。(たかお鷹氏、ものすごく不憫そうに優しく肩を抱いています。
しかしおとーちゃん、あんたが無理矢理やらせたんでしょうが〜っと思わずツッコミ。)
―我ハ見タリ―
蝋燭の灯された大広間。大きな幕を境に舞台と舞台裏に分けられ、今まさに王子の
仕組んだ芝居が始まろうとしている。(東南アジアの仮面劇のような被り物をした役者が
これからのあらすじをサイレントで演じています。)
心変わりした母への皮肉と亡くなった父の死の真相を役者に演じさせ、王の反応を
見つめる王子とホレイシオ。(劇中王妃の月川勇気氏のそれは美しいこと!肩が露わな
ドレスでなかったら女性だと思ってました!また暗殺者ルシエーナスの井出らっきょさん
裸にコテカ姿。コテカはちょっと...。クレームこないかなあ。あれ某部族の正装では
なかったでしょうか。)
突然立ち上がり、ルシエーナスに襲い掛かる王。逃げ惑う役者と重臣達。
―スローモーション...。―
ゆっくりと、ゆっくりと広間から逃げ出してゆく人々。王子はフェンスに背をあずけ
ホレイシオはそのかたわらに。王の狂態を見つめ続ける二人の眼。
駆け寄ろうとするオフィーリア。しかし父に引き戻される。精一杯王子に向かって腕を
差し伸ばす。必死で伸ばされたその手がなぜか悲しい。
残されるハムレットとホレイシオ。亡霊の言葉が真実であったと確信する。
【第二幕】
フェンスがすべて取り払われた何もない舞台。
―王妃の部屋―
王妃の部屋に呼び出されるハムレット。
王に対する不遜な態度を叱り、狂気の理由を尋ねようとするが、逆に問い詰められる王妃。
言い争う内、陰に潜むポローニアスをハムレットは殺害してしまう。(愛するオフィーリアの
父親のわりにはあまり大切には扱われないかわいそーなおとーさん。)
父王の死の真相を告げ、母の不義を激しく罵り、なじる息子。怯える母。
やがて現れる亡霊の姿。しかし母にはその姿は見えない。
父は再び告げる、『忘れるな。』と...。
母の膝にすがりつき、『どうか清らかに生きてほしい。』と懇願するハムレット。
(『ごめんなさい。』とかぼそい声でつぶやき、しがみつく藤原君は小さな子供の様です。)
『私はどうすればいい。』という母の言葉に、再び逆上する。
『安心して。誰にも言わない。』約束する母。(篠井さんの王妃はこのシーンあたりから
とても母性を感じましたが、高橋さんの王妃は『女』ですねえ。『私が何をしたというの!』
と開き直るところなど、『母』というよりも『女』だなあと思いました。)
ハムレットは王の命令でイングランドへ旅立つ。
王子殺害命令書を携えたかつての友人達と共に....。
客席後方よりフォーティンブラス登場。
金髪パンクヘア。足首まであるスーパーロングコート。黒のスターブーツ。
顔が映るぐらいまぶしい胴(笑)をつけた小栗君。(ライトの反射が目に沁みたわ。)
黒の目出し帽をかぶったどこのゲリラかテロリストかといった風情の部下を従え
客席の端から端まで駆け抜けていきます。
『どこの軍隊か?』と問うハムレット。『ノルウェー軍です。』と答える隊長。
(隊長の二反田さん、『フォーティンブラス様です。』と言う時ものすごーく誇らし気なんで
すよねえ。『どーだい!うちの大将は!いい男だろう!』てな感じで満面の笑みでした。)
名誉のため、死に赴こうとする兵士達と彼らを率いるフォーティンブラスの姿に羨望の
眼差しを向け見送るハムレット。
―五月の薔薇―
狂乱のオフィーリア。王妃が何を尋ねても、歌い、踊り、大地に伏して泣くばかり。
戸惑う国王夫妻。
やがて、『王はどこだ!』の民衆の声。抜き身の剣を片手に恐ろしい形相のレアティ
ーズが飛び込んでくる。
『父を返せ!地獄堕ちになってもかまわん!復讐だけは徹底的にやってやる!』
怒り狂う青年を王はなんとかなだめようとする。
再びオフィーリアの歌声。狂った妹の姿に凍りつく兄。花言葉と共に花を手渡す少女。
(仰向けに倒れ込み、ぼんやり歌う杏ちゃん。その顔を覗き込んでる井上君。
愛おしくてならない、不憫で不憫でならないという様子が伝わってきます。)
―ウンディーネ―
―葬列―
―惨劇―
謀られた剣の試合。
真っ白な顔色で静かに試合へと赴くレアティーズ。(怒りの表情なんですが『本当に
俺は正しいのか?』と迷っているようにも見えます。井上レアは勝っても負けても
自分は破滅と覚悟して臨んでいる様子に思えました。)
激しく戦う二人。王子が二本連取。王が祝いの杯を王子に勧める。その杯には毒が。
王妃が知らず、息子に代わりその杯で乾杯する。うろたえる王。
レアティーズがハムレットを背後から毒刃で斬りつける。
もみあううち二人の剣が入れ替わり、今度はハムレットが斬りつける。
恐ろしい叫び声と共に毒に倒れる王妃。
最後の気力を振り絞りながら、『己も王子も助からぬ。王こそが犯人。』と
レアティーズはすべての真相をうちあける。
激怒した王子は王を刺し、さらに母の命を奪った毒杯をあおらせる。
王子を赦し、また赦しを請い、こと切れるレアティーズ。
ハムレットも遂にたおれ、ホレイシオも毒杯で後を追おうとする。必死で杯を奪う王子。
『真相を語り伝えてくれ。そして次の王はフォーティンブラス。』
最後に言い残し王子は絶命する。慟哭するホレイシオ。
(ここで再び落涙。舞台に落ちるのは高橋さんの汗か涙か。)
フォーティンブラス登場。あまりの惨状に驚き、ホレイシオに問いかける。
『すべての顛末正しくお伝えいたしましょう。なにも知らぬ人々に私の口から語らせて
いただきたい。』懇願するホレイシオ。命ずるフォーティンブラス。
『王子を武人として壇上へ上げよ。行け!兵士らに命じるのだ。大砲を撃てと!』
(ハムレットのかたわらに跪き、哀悼の口付けをおくるフォーティンブラス。
やがて兵士達がハムレットの身体を頭上高く掲げる。)
【ハムレットあれこれ】
ラストシーン。
ホレイシオの自殺をとめるところなんですが、藤原王子は語り伝えてもらうことなど
本当はどうでもよかったのではないでしょうか。
自分達が煉獄におちるのは自業自得。しかし唯一の友をむざむざ同じ目に
あわせるのは耐えられなかったのでは。(この優しい生真面目な友人に頼みごとを
しておけば絶対に後追いなんてできないだろうと。そんな風に見えましたねえ。)
シェークスピア作品をすべて知っているわけではありませんが、この作品で強く
感じたものはキリスト教の存在です。
司祭に懺悔し穏やかに最後を迎えなければならない。自殺もだめ。
でなければ煉獄に堕ちる。うむむむ。この時代穏やかに(畳じゃなかったっっ。)
ベッドの上で死ねる人なんてほとんどいなかったのでは?
戦つづきだろうし、はやり病や飢饉などの行き倒れ、死産の子供、事故で不意に
亡くなった人も天国へゆけないのでしょうか?
(どんなに良い人でも?そんな殺生なっっ)
もうひとつ、義理の姉、弟でも近親相姦なの??
(血のつながりはないのに?それともハムレットの単なる感傷なんでしょうか。)
それから、レアティーズに詫びるシーンなんですけど、『悪いのはハムレットの狂気
であってハムレットのせいではない。』シェークスピア師匠!この台詞いらない!
なんですべて俺のせいと言えんの!騎士らしくない!男らしくない!
(これは私が日本人のせいなのか?言い訳がましくて嫌だわーっっ。)
―やっぱりつっこまずにはいられなかった私....(笑)―
墓掘り二人が穴を掘っている最中、通りかかるハムレットとホレイシオ。
(墓掘り達は石や古い骨を無造作に放り出しています。
23日は勢いあまってしゃれこうべのひとつが舞台下の観客の足元へ。
いくら作り物とはいえ、足元にずっとあったら嫌だったろうなあ。)