− 第32話 コピー曲 −

お爺さんの七回忌で実家へ行った帰り道、
車中、バンドで練習している曲を聞きながら
ヨメダにこうつぶやいた。
「今かかってるこの曲、
演奏するの
苦手なんや〜。」



「ほう。
言うたな
そしたら聞くけどな、オッサン。
得意な曲はあるのんか?

言い返す言葉が見つからず、ただ、前方を行く車を見すえる私。



カーステから流れる曲が変わる。
気をもち直してこうつぶやく。
「あ、この曲は
コピーやから簡単や。
一から作るのは難儀やけど、
コピーやと楽やわ〜。


場の空気を察してか、娘がフォローしてくれる。

「え〜!お父さん、この曲やるの〜?
ス〜ッパッパッって、オモロイやん!」

私が子供の頃に流行った3コードの、
シンプルだけどもノリのいい
ごきげんなロックンロールである。



「コピーするのは、そ〜ら簡単やろ。
あたしが言いたいのは、
この曲のグルーブが、
オッサンに出せるのか?
っちゅうことや!」



またもやグゥの音も出ない私...



「ま、こんなこと言うのも
があるからや。
どうでもエエような赤の他人には、
こんなキツイこと言わへんわ。
ちょっとでも良くなってほしいからや。
そこんとこ、分かってるやろな?!」



愛? 何それ!?
そんなもんドコにあるんじゃ?!
と言いかける私をさえぎり、
ヨメダは言葉を続ける。




でも、まぁ、オッサンが何をコピーしようが
アタシに関係ないし、
別にどうでもエエねんけどな。




完全に言葉を失いました...






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