三国町     TOPに戻る             越前・若狭紀行
       
  東尋坊「日本の地質百選」  荒磯遊歩道  高見順の書斎(みくに龍翔館)   高見順文学碑   
 

   三国町(みくにちょう、福井県坂井市)は九頭竜川(くずりゅうがわ)河口にある港町で、江戸時代は大阪と北海道を往き来する北前船(きたまえぶね)の中継港として繁栄した。北前船は瀬戸内海で塩、三国で米や石、酒田で酒などを買い入れて北海道で売り、帰りはニシンや昆布製品を買い込んで大阪で売り捌(さば)くと、幕末には一航海1000両(約一億円)の利益が出たとされる。
 北前船交易により三国には森田家や内田家、等の豪商が育った。明治になって廻船業が衰退するや森田家は倉庫業や銀行業に転業して1894年に森田銀行を創業、森田銀行は後に福井銀行と合併して今日に至っている。

 高見順の生まれ故郷である三国は美しい夏の海や冬に鉛色の空の下で荒れ狂う日本海が文学の風情を醸すのか、室生犀星、中野重治、三好達治、多田裕計、高濱虚子ら多くの文学者が関わりを持った町である。松並木の続く荒磯(ありそ)遊歩道沿いには文学碑がいくつも見られる。

 2000年は三好達治生誕100年の年(1900〜1964年)にあたる。格調高い作品を残した達治は福井の海を深く愛した人である。
44歳の時、萩原朔太郎の妹アイと再婚して三国で短い新婚生活を送った。1944年から1949年まで三国で過ごし心の故郷としての思いを込めた詩集を刊行した。

 
福井県立三国高等学校、大野高等学校の校歌や、福井県民歌は達治の作詞
(作曲は音楽家・指揮者として著名な小松長生(三国町出身)による。

 高見順(1907〜1965)は福井県坂井郡三国町平木で当時の福井県知事・阪本ソ之助(さかもとさんのすけ)と高間コヨ(古代)の間に私生児として生まれ、1930年に高間芳夫として正式に認知された。高見順は私生児としての生い立ちを生涯の悩みとして背負って生きた人であるが1956年に訪れた高見を三国町民が温かく迎えたのを機に我が故郷として実感し「おれは荒磯の生まれなのだ」と綴った。1935年第1回芥川賞候補になった頃から多くの作品を発表したが第1回芥川賞は『蒼氓』(そうぼう)の石川達三(1905〜1985)に。高見順の父・ソ之助の兄は永井久一郎でその子の永井荷風(1879〜1959)とは従兄弟の関係にあり文才に恵まれた一族である。荒磯遊歩道沿いに川端康成の揮毫(きごう)による高見順文学碑が建っている。みくに龍翔館には父・阪本ソ之助の手による掛け軸を垂れた高見の書斎が再現されている。ソ之助は三頻と号する漢詩人でもあった。
  石川出身の室生犀星(1889〜1962)は1909年に僅かの期間であるが「みくに新聞」に勤務したことがある。犀星が20才、ちょうど俳句から詩へと移った時期である。

 福井市出身で「長江デルタ」で1941年に第13回芥川賞を受賞した多田裕計(ただゆうけい、1912〜1980)は戦時中妻の実家のある三国に疎開した。三国中学校校歌は彼の作詞による。

 三国港の防波堤は1878年から2年7か月かけて工事が行われた。仙台の野蒜(のびる)港と共に明治三大築港とされ、明治政府が行った築港第1号である。現在は延伸されて927mの長さを誇る。

 東尋坊は、輝石安山岩の柱状節理が顕著な海食崖が約2km続く景勝地で「日本の地質百選」。
 三国町の総合案内施設として、みくに龍翔館が設立されている。

 怨念の絵師 岩佐又兵衛(三国町出身で歴史小説を得意とする作家・中島 道子、河出書房新社)
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「又兵衛、そちは岩佐を名乗っているが、摂津領主、荒木村重の子ではないか」と恥部を刺してきた。
何たることよ――と思いながら、「いかにも村重の倅(せがれ)にございますが」と淡々と応じた。
すると、

「そちの一族は惨憺たる目に遭うたそうじゃが、悔しくはないか」
と言い出した。これにはさすがの又兵衛も面喰らった。
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 『荒磯』(高見順、思潮社・現代詩文庫「高見順詩集」
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おれは荒磯(ありそ)の生まれなのだ  おれが生まれた冬の朝黒い日本海ははげしく荒れていたのだ  怒濤に雪が横なぐりに吹きつけていたのだ
おれが死ぬときもきっと  どどんどどんととどろく波音が  おれの誕生のときと同じように  おれの枕もとを訪れてくれるのだ
 
  「
われは草なり
われは草なり  伸びんとす  伸びられるとき  伸びんとす  伸びられぬ日は  伸びぬなり 伸びられる日は  伸びるなり
われは草なり  緑なり  全身すべて  緑なり  毎年かはらず  緑なり  緑の己れに  あきぬなり
われは草なり  緑なり  緑の深きを  願ふなり
ああ  生きる日の  美しき  ああ  生きる日の  楽しさよ  われは草なり  生きんとす  草のいのちを  生きんとす