芋づるずるずる .
「あ!ソラッドとクロノだ!」 「カナタ。ルーンも一緒か」 「こんにちは」 カインの家へ向かう道中でばったりと出会ったのはソラッドとクロノさん。 どうやら向かう場所は同じらしく、たぶんソラッドたちも僕たちに交渉に来たんだろう。 「カナタから話は聞いたか?」 「うん。猫を拾ったんだって?」 「そう。それで、飼えるかどうか聞こうと思ってな」 「カイン次第かな…。でも、きっと大丈夫だと思うよ」 むう、と真剣に悩んでいるらしいソラッドに微笑みかける。 彼は少々ズレたところで一生懸命だ。 そこが彼らしいといえば、彼らしいのだけど。 「ただいま」 僕が先に中へ入って、カルジェリアの三人を家の中へ招き入れる。 家にはファウンスのメンバーが全員集まっていた。 「おかえり、ルーン。なんだ、カルジェリアを引き連れてどうした?」 「少し邪魔するぞ。…ああ、カイン」 「ん?」 個人的にはあまり親しい間柄とは言えないソラッドに呼ばれて、カインは目を丸くしている。 きっとソラッドが自分に何の用だろうとか、内心で思っているんだろう。 「唐突なんだが、猫を飼えないか?誰か猫嫌いが居るなら、元のところへ捨てるしかないんだが」 「そっ、それは駄目だよソラッド!ね、嫌いでも好きになるよね!?」 カナタがカインに駆け寄って、無茶を言いながらその胸倉を掴む。 普段の彼からは想像もつかないほど乱暴な行動だ。 それも猫を想うゆえだと思うと、微笑ましく思える。 けれど掴まれた本人は、そうでもないみたいで。 「ちょ…っ、誰も嫌いなんて言ってないだろ!?落ち着けって!」 「だって、だってソラッドが捨てるって…っ!!」 がくがくとカインを揺さぶるカナタはすでに涙目で。 容赦なく揺すられているカインもそろそろ危ないかも。 「カナタ、早まるな。そういうのは断られてからにしろ」 ソラッドが至極冷静な声でカナタを止めた。 彼はカディセスに促されたのか、ソファに腰を下ろしている。 おかげでようやく解放されたカインが、あまりにも悲壮な顔をしていたものだから、思わず声を出して笑ってしまった。 「な、なんで笑うんだよルーン…」 「だって、断ったら殺される…!って顔してたから、おかしくって」 「…なんで分かるかなー」 がしがしと頭を掻くカインは、自分が読まれやすい性格だとそろそろ気づいてもいいと思う。 「それで、飼えそうか?猫は今ハークスが世話をしていて…そうだ、そういえば俺が作ったキャットフードの出来栄えはどうだろうか。ああ、フィレン。君も気になるか?よし、ならば試作品の残りを君に譲ろう」 「……ん!」 流れるように話すクロノさんと、それにきらきらと目を輝かせて頷くフィレン。 あの二人の間ではあれで会話が成立しているらしい。 「…なんで通じてるんだ、何が通じ合ってるんだ?」 カディセスが一人興味を持っていたけれど、フィレンとの意思疎通なんて簡単なことだ。 他の人には理解できないみたいだけど。 「まあ、俺は基本動物好きだし。ウチで飼うのは構わないよ」 「ほんと!?ありがとう!カイン大好きッ!」 「うおあ!?」 肯定的な返事をした途端、打って変わって感極まったカナタにすごい勢いで抱きつかれて後ろに倒れるカイン。 後頭部を床に打ち付けたらしく、随分と痛そうな音がした。 どちらにしろ結局痛い目に合ってしまう辺りは、彼の体質も関係してるんじゃないかと思う。 「他も、構わないか?」 ソラッドが確認するようにファウンスの面々を見れば、全員が頷く。 それに満足したらしく、彼にしては珍しく満面の笑みを見せた。 「ありがとう。早速連れてこよう。…カナタ、カインがそろそろ死ぬぞ。クロノ、ストップ」 玄関へと続く廊下への扉を開けながら、ソラッドはカルジェリアに集合をかける。 その声を聞いた二人は、はっと我に返った。 「へ?あ、ごめんカイン!」 「…俺はもう駄目だ…」 「カイン…っ、カインー!!」 「はいはい。お前はさっさと戻れ。こいつは適当に転がしとくから」 「…ごめんね。よろしく、ハクト」 …こう言うのもなんだけど、三流ドラマの展開だった。 ハクトが割り込んだおかげでそれは中断したけれど。 「ふむ、仕方ないな。この話はまた後日ということで…」 「ん」 「そう言うな。俺とて君と話すのは楽しいからな。またいつでも来るといい」 「……わかった」 フィレンとクロノさんの会話も終わったらしく、フィレンは名残惜しそうにクロノさんの背中を見送った。 本当に懐いてるんだなって思って。 僕はフィレンの寂しそうな顔は見たくないから、急いでソラッドさんに駆け寄る。 「あの、僕とフィレンも行っていいかな?」 「何?じゃあ俺も行こう」 「え、なんだよそれ。じゃあ俺も」 「…オレだけ置いていかれるのはゴメンだぜ」 なんだろうこの芋づる方式。 結局ファウンス全員がカルジェリアを訪れることになって。 稀に見る大人数での大移動になってしまった。 |
08.10.04 |