「おやまあ・・・・・」
珍しく取り乱した斎藤に、腕を引っ張られる勢いで着いた土方の執務室には、斎藤の証言通り、紙の ように顔を白くした土方が横たわっていた。
畳の上に倒れたままになっている土方を、とりあえず奥の土方の寝室に運び、布団の上に寝かす。 その際羽織と脱がせて、襟元を少し緩めることも忘れない。
本来なら袴も脱がせたいところなのだが、土方の性別の秘密を守る為にも、斎藤の目の前でそれは 出来なかった。
(ま、大方『例のあれ』なんだろうなぁ。土方さんってば、変に融通利かないから、どうせ痛いの 我慢し過ぎて貧血でも起こしたんだろ)
男の自分には想像も出来ないが、あの一月に一度訪れるとゆう痛みは、相当のものだそうだし・・・・ 。大変だなぁ・・・・。
等とつらつらと考えていると、隣で沖田がやる事を見ていた斎藤が口を開いた。
「沖田さん、土方さんはどうしたのだろうか?顔色も相当悪いし、ここはやはり医者を呼んだほうが ・・・・」
先程よりかは落ち着きを取り戻したが、やはりどこか焦ったような声で言う斎藤に、沖田は内心くくっ と笑いながらも、それを表には出さずにやんわりとそれを遮った。
「だからちょいと落ち着きなって、斎藤さん。大丈夫ですよぉ、たぶんただの貧血です」
だいたい医者など呼ばれたら、今まで隠してきた土方の性別が露見してしまう。それだけは絶対に 避けなければならない。
「たぶんって・・・・そんな好い加減なっ。土方さんにもしものことがあったらどうするんだ!やは り医者を・・・」
「はいはい分かりましたよ。心配性だなぁ、斎藤さんは。じゃあまず山崎さんに見てもらいましょう。 それで山崎さんが医者を呼んだ方がいいって言ったら、医者を呼ぶ。それでいいでしょ?」
「ま、まあそれなら・・・・」
山崎は鍼医の倅だけあって、この新撰組内で一番医術に精通している。その上最近では独学ではあ るが、本格的に医術を学び始めているようだ。それ故そんなに重い症状でない限り、まずは山崎に診 てもらうのが適当なのだ。
(それに・・・・・山崎さんにだったら、土方さんが女だってばれても大丈夫っぽいしなぁ。何せ あんだけ土方さんに忠実だし、口、硬そうだし、土方さんの不利になるような事は絶対しないだろ)
いや、もしかしたらもう既に事実を知っているかもしれない。何せ監察が天職とも言える程に 優れた洞察力を持っており、尚且つ医術に通じている・・・・男女の違いなど、体の造りなどから 察知していても可笑しくない。
知っている上で、土方に仕えているなら・・・・とりあえず信用はできる、と見ていいだろう。 「と、話が纏まったとこで、それじゃあわたしが山崎さんを呼んでくるから、斎藤さんは土方さん を診てて下さいねぇ」
「え、ちょ・・おきたさ」
「御願いしますよぉ〜」
焦る斎藤をそのままに、沖田は笑顔を浮かべたまま部屋を出て行った。
「診ててくれって・・・・・俺にどうしろと」
言うのだあの人は。
とりあえず、山崎が来るまで番をしていろとゆうことだろう・・・と解釈して、布団に寝かされた 土方の傍らに座ってみる。
が、落ち着かない。
大体目のやり場に困る。目の前にあるのは、普段から白い顔色を一層蒼白くさせた所為で、どこか 作り物めいた人形のような、整った美貌の顔。その肌とは対照的に、これが鴉の濡れ羽色、とでも 言うのだろうか。布団の上に散らばった、そしてその持ち主自身の額に かかっている、漆黒の艶やかな髪。その上緩めた襟元から覗く、白く、綺麗に浮き出た鎖骨 がなんとも言えずに・・・・・・。
      って俺は何を考えているのだっ!?)
確かに目の前の上司は、これが同じ男なのか、とさえ思ってしまう程の・・・いや、女でさえ滅多に いないであろう、とゆう程の美貌の持ち主ではあるが・・・・。
(土方さんは俺の上司で、しかも立派な男子だ!)
自分が唯一、この人の為に刀を振るおう。とさえ誓った、武士なのだ。土方歳三は。
だから例え、透き通るように白い肌が何ともきめ細かかろうが、頬に影を落とす閉じられた睫が長い ことに気付こうが、紅を差したように色付いている形良い唇が、どんどん近寄っていようが・ ・・・・。
そう、どんどん、どんどん近付いて・・・・・・。
「待たせちまったね〜斎藤さん。山崎さん、呼んできましたよぅ!」
「失礼します」
すっぱーんと開け放たれた襖から、沖田と山崎が入ってくる。
「って、おやぁ?斎藤さん、何固まってんのさ?」
斎藤が手を後ろについて、上半身を仰け反らせた体制で此方を見て固まっている。
今日の斎藤は何時に無く言動が珍しいこと尽くしだったが、こんな体制で、しかも心底驚いたような 顔        と言っても元が無表情なので、傍から見ればさしたる変化は無いように 見える        で固まっているのは、明らかに妙だ。とゆうか変だ。
が、今はそんな事はどうでもいい。
「山崎さん、土方さんどうですかぁ?」
此方も斎藤からあっさり目を離し、土方の手を取って脈をはかったりしている山崎の方に向き直る。 山崎もちらりと沖田のほうを見て、そしてまた土方に視線を戻した。
「軽い貧血ですな。後何らかの£ノみが加わって、気絶しとるだけですから、心配はいりません 。まあ、暫くは安静にさせといた方がええでしょうが・・・・」
「ああやっぱり。良かったぁ〜。勿論ちゃあんと、安静にさせますよぉ。と言っても、このまま寝か せとけば良いだけなんですけどねえ」
暫くは起きないでしょ。とケタケタ笑っていると、視界の端で斎藤の体がぴくり、と揺れた。
「ああ、正気に戻りましたぁ?斎藤さん。安心してください、土方さんはやっぱりただの貧血だった からさぁ」
「お、お・・・・おれ・・は・・・・」
漸く気がついたのかと思ったら、今度はぶるぶると肩と声を震させている。
「斎藤さん?」
「どないしたんですか、斎藤さん」
二人の声が聞こえているのかいないのか、寧ろ二人の存在自体を認識していないようにさえ見える斎藤 は、突然がばっと立ち上がると、
「俺はまっとうな性癖を持った人間だ      っっ!!!!!」
叫びながら、何処かへと走り去った。
同時に、庭の木から一斉に鳥たちが羽ばたいていく。
「・・・・・・どうしたんでしょうねぇ?」
「・・・・・・なんなんでしょうね?」
変を通り越して、もはや奇人かもしれない。
とりあえず、あの叫び声で土方が目を覚まさなかっただけでもよしとしよう。
示し合わせたかのように頷き合って、二人は何事も見なかった事にした。
「では私はこれで・・・・・」
「ああ、ありがとうございましたぁ山崎さん」
立ち上がり、斎藤が開け放ったままの襖から足を踏み出した山崎は、ふと、沖田のほうを振り返る。
「そう言えば沖田さん」
「なんですかぁ山崎さん?」
逆光になって、沖田の位置からは山崎の表情は見えない。が、何故か微笑んでいるように思える。
「いえ、ね。余計なことかもしれませんが、この後副長が目ぇ覚ましはったらでいいんで、出来れば 今日中に・・・・」
「・・・・今日中に、なんです?」
「今日中に、非番とって別宅の方に行かれた方が、よろしいかと」
もうちょいで、始まると思うんで。
「では」
「・・・・・・」
そのまま背を向けて去っていく山崎を見送りながら、沖田は少し、口の端を歪めた。
「う〜ん、やっぱり知ってたみたいだなぁ。さすが山崎さん、ってとこかぁ」
面白くなってきたなぁ〜、山崎さんか・・・・あと斎藤さんも何だか、面白い事になってるみたい だしぃ。ま、歳さんにとっては災難だろうけど。
土方を起こさぬよう、くっくと噛み殺した笑いを漏らす。
「これで暫く、退屈しなくて済みそぉ」









次回は「もし土方歳三が女だったら(京都編その2)」、ついに伊東のかっしーも登場だ!
土方さんはかっしーの執拗なまでの(求愛の)攻撃に耐えられるのか!?その時斎藤は!? 黒ヒラメ沖田は!!?
様々な思いが京都の新撰組屯所内で絡まりあう!! 次回をお楽しみに!


注!)次回予告はでたらめです。くれぐれも信じないよう、御願いします。
   ・・・・・・でも要望があったら、書く、かも。(←いねぇよ)







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△モドル