Ranaway 『G』 to 『J』 U 「泣いてるの、サガ?」 星矢は、十二宮の階段で蹲っているサガを見て疑問符を投げかけようとし、しかしサガの双眸に光るも のを見つけると、とりあえずその事は他所に放っておこうと判断しサガの元へと駆け寄った。 自分もサガの前でしゃがみ込み、サガの視線の高さに顔を合わせると星矢はそっとサガの頬に手を寄せ た。 思わずピクリと反射で反応したサガだったが、星矢のあまりに無防備で無念無想な手の動きにゆっくり と瞳を伏せた。 子供特有の高めの体温が冷たく湿った頬に心地よい。 心配そうに覗き込む星矢の幼い顔に、サガは張り詰めていた神経の糸が緩んでゆくのを感じ、思わず座 った体勢のまま、ひしと星矢に抱きついた。 「わわっ・・!サガ?本当にどうしたんだ?」 自分よりも遥かに長身のサガに上半身を預けられ、思わず尻餅をつきそうになるのを、星矢は男の意地 で両足を懸命に踏ん張って耐えた。 腕の中で丸まるサガは、自分よりも大きいはずなのに今は何故か酷く頼りなげで。 色々聞きたいことはあるものの、星矢はともかくサガを落ち着かせようと背中をさする。 瞬間、サガの髪から甘い匂いがフワリと香り、星矢は理由の分からない胸の高鳴りを感じた。 「どうしよう・・・・も、・・・家に帰れない・・・・」 途方に暮れた子供のような瞳でサガがポツリと呟いた。それは星矢に対しての言葉というより、自分に 対する囁きに近かった。 「サガ、家に帰りたくないのか?」 星矢の言葉にビク、と反応したサガはやや長考するような顔をして、コクリと頷いた。 ニコ、と星矢は子供らしい笑顔を形作ると、何でもないことのようにあっさりと言い放った。 「じゃあ、俺ん所来ればいいじゃん!!」 (本当にいいのだろうか・・・・これで・・・・) サガは突然振って沸いたような怒涛の展開に正直に戸惑いを隠せなかった。 今サガは、何と日本に向かうための飛行機に搭乗していた。 機体の持ち主は、やはりと言うか城戸沙織名義のもので、個人で持つには豪華すぎる貸切状態の内装を 見てサガはため息を漏らした。 数時間前、星矢が言い出した申し入れにサガは素直に驚いた。というより、ぶっ飛んだと言った方が言 い。 「俺さ、沙織さんが日本に帰るから護衛頼まれてコッチ来たんだよね。今から沙織さん迎えにいったら スグ日本に行くらしいから、サガもついでに来ればいいじゃん!」 っつーかさぁ、わざわざギリシャから日本に行く間の護衛の為だけにコッチ呼び出されたんだぜ?これ ってどうよ? 爆弾発言の後、ブツブツと語る星矢を尻目に、サガはポカンと口をひらいたまま固まってしまった。 「せ、・・星矢?そんなこと簡単には出来ないと思うが・・」 「ええ〜大丈夫だって。サガも行くとこ無いって言ってんだから丁度いいじゃん」 「しかし、女神がそんな急に私が同行する事などお許しになるはずが・・・・・」 「・・・サガ、まだまだ甘いね・・・沙織さんのこと分かってないぜ・・・」 「いいわよvじゃ、皆に気づかれないようコッソリ行かなくちゃね!!」 あっさり、しかも無茶苦茶上機嫌で返されサガは再度固まってしまった。 いいのかそれで! 本来ならば当然の突っ込みも、ここではしてくれる人もおらず、あれよあれよという間にサガの日本行 が決まり、気づいたときには機内に座って、日本に向かってランナウェイをしていた。 (しかし・・・・こんな簡単に決めてしまってよいのだろうか・・・) 「サーガ、何眉間に皺寄せてんだよ?」 「わッ・・・ビックリした」 思考の海に漂っていたサガは、突然星矢に声をかけられパチクリと眼を瞬かせる。 「また余計な事考えてたんじゃねえの?さっかから大丈夫だって言ってんのに」 プゥと頬を膨らます星矢の様子は子供の可愛らしさに溢れていて、サガはクスリと笑みを零す。 「いや・・・しかし突然私などが押しかけては迷惑ではないか?」 「なーに言ってんだよ。んな訳無いじゃん。何なら今の沙織さん見てみろよ、あれのどこが迷惑そうに みえる?」 視線を奥にやると、成る程、沙織は先程から鼻歌でも歌いそうな勢いでルンルンと本を見て物色してい た。 「サガがお供に付いて来てくれるなんて初めてよねぇvvあぁ一体どのプランがいいかしら!」 沙織は嬉々とした声を発しながら、楽しそうにフフと微笑んだ。 その様子は、普段女神として威厳と慈母に満ち溢れた姿では無く、13歳という年相応の少女の明るさ に満ち溢れている。 「・・・・・・女神は一体何をしてらっしゃるのだ?」 自分が歓迎されていることは分かった。しかし沙織が何故ああも楽しそうなのかは理解できない。 怪訝そうに眉を顰め、しかしその顔すら美しい様のサガの顔を見て星矢はハアと息を吐いた。 「・・・スグ分かると思うよ。サガ、美人だから大変そうだな・・・・」 「・・・??」 「あ、星矢だ!おーい、星矢〜〜〜」 「おお、瞬〜〜〜わざわざ来てくれたのか、サンキュー・・・ってか何で氷河と紫龍までいんの?」 「随分な言われようだな」 「沙織お嬢さんに呼ばれてきたのだ・・・しかも急ぎで。折角マーマの墓参りをしていたのに・・」 迎えにきた瞬の後ろに紫龍と氷河が立っていて、星矢は最初驚きはしたが、二人の様子を見て即座に納 得した。 「あぁ・・・成る程ね・・・・緊急省令かかったのか・・・・その理由教えてやろうか?」 「??ああ―――!サガッ!何でここにサガがいるの?!」 瞬の大きな声に、サガは思わず恥ずかしそうに頬を染め、やぁ、と小さく返事をした。 「ん、何か色々あってしばらくコッチにいることになったんだ」 説明になっていない説明に、瞬たちは何だそりゃ。と声を出しそうになった。 が、さらに後ろに控える沙織の存在を認識した途端、ピタリと口を噤んだ。 触らぬ沙織に祟り無し。 暗黙の了解で皆は、ここは細かいことは流すべし、と長年の教訓を心で反芻した瞬たちだった。 「へぇ、サガがコッチ来るなんて初めてだよね〜日本へようこそサガ!」 順応力の高い瞬は、美少女と見まごうばかりの顔に極上の笑みを浮かべながらサガに手を差し出した。 「あぁ、しばらく迷惑をかけることと思うが、よろしく頼む」 負けず劣らずの壮麗な笑みを浮かべ、サガはよろしく、と瞬の手を軽く握りかわした。 その様子は、美人同士流石に一枚の絵のでもなりそうな勢いで。 「フフフ、やっぱり美少年と美青年が微笑み合う構図はいいわね〜絵になるわv」 「沙織さん・・・・」 「・・・・・うん」 「・・・・・」 毎度分かっていることながら、沙織の不適な笑みを感じ取り、星矢たちは重苦しいため息をついた。 この人は、確実に今の状況を楽しんでいるだけであることは分かっている。 普段生真面目で冷静に勤めているサガが、完全に聖域から切り離されているこの状況は、沙織にとって これ以上無いというくらいにオイシイ状態なのだろう。 サガをダシに使って遊ぼうという沙織の一存から自分達か呼ばれたのかと思うと、涙の一つも零れ落ち そうな紫龍たちであった。 沙織に言わせれば、 「すぐに呼び出せれて、さらに暇そうで、しかも視界に入っても暑苦しくない奴と考えたら、あなた達 しかいなかったのよ。」 とでも吐き捨てられるだろう。 普段は成りを潜めてはいるが、昔の女王気質はなんら変わってはいない沙織なのだった。 なんせ6歳のときに「馬になりなさい!」って言った女だぜ・・・・ 星矢たちが苦い記憶に追憶を廻らせていたが、ふいに放たれた沙織の一言で其れは遮られる形となった 。 「さあ、何をモタモタしているのです、さっさと行くわよ!」 「へ?どこに?」 「東京見物です!」 「「「「東京見物ぅ?!」」」」 星矢たち4人が同時に言葉を発し、不思議なサウンドを奏でる。 「そうです。サガは日本は始めてなのでしょう?だったらここはやはり最初は日本の首都、東京をまず 押さえておかないと!」 青銅たちの戸惑いを他所に、沙織はウキウキと声を弾ませている。 さっき見ていた本はコレの事だったのか・・・・・ やたらと冷静に受け止めてしまえる自分が少し悲しくなりながら、星矢は成る程合点がいった、と思っ た。 「あ、・・・・・女神?・・・そ、そのようなご配慮、私などのために執り行うことなど勿体無いこと です」 サガはそんな沙織の思惑も露知らず、振って沸いた己への待遇にただただ恐縮そうに身を縮こまらせれ る。 (サガ・・・・騙されてるよ!) 青銅たちは心の中でツッコミを入れ、しかし自身の命の保身のために黙っておいた。 「サガ・・・私はただ、大切な存在である貴方に、私の生まれ育った日本という国を見てもらいたかっ ただけなのです。でも・・・貴方には迷惑だったのかしら・・・」 悲しげに顔を伏せ、弱々しく声を発する様は流石の一言で。 星矢などは、思わずNYにでも飛んでいってオスカー像を引っさらってきて、沙織に「狐クイーンの称 号を」とか言って差し出してやろうかと思った程だ。 ・・・そんな恐ろしいことやらないけど。 「女神ッ?!も、申し訳ありません、女神がそのようなお慈悲を私などに対してお考えくださっていた なんて・・・・お願いです、そのように悲しまれないでください・・・」 自分が女神を悲しませていると判断したサガは、自分の方が泣きそうな顔をして沙織の肩をのそっと手 を置く。 「では、行ってくれるのですね?!」 即座にパァッと顔を輝かせて沙織はサガの顔を覗き見た。 (やはりプラフか・・・・・) 青銅たちの反応はやはり冷め切ったもので。しかし当の本人のサガは、そんな事も露知らずニコリと微 笑む。 「はい、折角の女神のお慈悲、無闇に無碍にしてしまってはそれこそ天罰が下ってしまいます」 二人が微笑む様は、確かに絵図的には美しいと言える、両者とも女神の様に可憐な笑みを浮かべていた 。 しかし、その内に秘めるものは、全く異質なものだと青銅たちは思う。その中身たるや・・・・ 「ところでサガ?」 「はい、何でしょう女神?」 「そのローブ、日本では文化が違うから街中歩いたらすっごく目立ってしまうのよ。着替えを用意した から着て頂戴?」 (来た――――!) そう、その中身はというと、本職であるはずの女神の微笑みは、到底言葉に出来ぬほど真っ黒で凶悪 だということだった。 NEXT まだまだ続く・・・全4話予定・・・早くも狂い始めました。ヤバイです; つか、この話何なんだ・・・女神最強伝説?女神×サガ? ・・・・星矢サガは次回でしょうか・・・・(聞くなよ) |