サガは怒っていた。 それはもうかつてカノンをタコ殴りにしてスニオン岬へと閉じ込めた時ぐらいの勢いで怒ってい た。 (もうあんな奴など知らん!何であのような奴が私の弟なのだろう・・・!) 激情のまま双児宮から飛び出したサガは、物凄いスピードで下へと続く階段を降りていった。 普段清流のような美貌を誇るその顔はクシャリと歪められ、目尻には怒りと悲しみのためにジワリと涙 が浮かんでいた。 途中アルデバランが守護する宮に差し掛かったが、何も言わずに走り抜ける。 普段礼節を重んじ、他人の宮を通るときには必ず了承を得てから通るサガにとっては、前代未聞の軽 挙だった。 しかし頭に血が昇りきっているサガには、そんな事を考える余地すらないのか、その足を止めること は無い。 だが、しばらく時間が絶つにつれて少しづつサガの歩調が緩まっていく。 先程までは怒りの感情が脳内の殆どを占めていたのに、だんだんと悲しみの比率が侵食していき、サ ガはとうとうその足を止めた。 「・・・・・カノンの・・・馬鹿・・・・ッ!」 もはや投げ捨てるように呟くと、うずくまるように、その場でしゃがみ込んでしまった。 Ranaway 『G』 to 『J』 事の起こりは、1週間前まで遡る。 「いいか?絶対俺がいない間に無茶すんなよ?体調が良くなるまで安静にしてろ、いいな?」 強い口調で詰め寄ってくるカノンに、サガは困ったように身を縮こまらせた。 「う・・・ん、分かっている・・・」 「本当だろうな?無茶しやがったら承知しねぇかんな?」 不振そうなカノンの視線はやはり居心地悪く。 元々頑丈とは言いがたいサガだったが、ここ最近になって本格的に体の調子を崩し、無理やりカノンに ベットに押し込まれたサガは、薄っすらと赤い顔をしていた。 カノンは当初、俺がサガの看病をする!と息巻いていたが、その目標はあっさりと一命で砕かれてし まった。 海闘士として13年間活動してきたカノンは、復活後の海界と聖域の重要なパイプ役として借り出さ れる事が間々あった。 女神の命令とあっては、そう無碍に断ることもできずに、悔しそうにカノンは歯噛みした。 この超絶ブラコン青年は、この愛しくて仕方が無い兄を病気のまま放って残していくのが不安で仕方 が無かったのだ。 「俺がいない間はあんま動くなよ、仕事なんか他の奴等に押し付けときゃいいんだ。ああ、それに食 事のこともあるな・・・」 ベットの周りを熊のようにウロウロしながら、カノンは誰が見ても過保護すぎるだろうセリフをブツ ブツと呟いている。 そんな弟の様子を見つめながら、サガは呆れたようにため息をつき、しかし少しくすぐったそうにク スリと笑った。 「カノン・・・、私はもう子供ではないのだ、心配には及ばないよ」 「いーや、安心できないね。サガは周りには気ィ使いまくるくせに、自分の体にはトンと無頓着じゃ ないか」 ツカツカとサガの傍まで歩み寄ったかと思ったら、カノンは軽く覆いかぶさるようにサガに上半身を 預けた。 「・・・即効終わらせて帰ってくるからな」 ふて腐れたような弟の声を耳元で聞き、サガはうっすりと笑った。 「ああ、待っているよ、カノン・・・・」 そうこうしている内にカノンは海底へと視察へ向かっていった。 サガも最初は1日寝ていれば治るだろうと思い、安静にしていた。 だが、1日たち、2日目になっても一向に体調は万全にはならず、サガは如何したものかと些か思案 した。 今はどこもかしこも忙しい。この聖域の例外には漏れず、怒涛のよな仕事が溜まっていた。 自分一人だけがこうしてヌクヌクと休養を取っているのは申し訳ないと思うサガは、早速業務に復帰 しようと支度を始めた。 幸い顔色からは赤みは引いたし、何とかなるだろう。もしかしたら、周りに過剰に心配されるかもし れないが、一人でやりたいからと言って個室に入れば問題ないだろう。 そう自分で納得したサガは、自分に向かって、『もう自分は完治した』と自己暗示をかけながら教皇 宮へと向かっていった。 「あれ〜?サガもう体大丈夫なの?」 不意に声をかけられ、サガはハッと顔を上げた。 黙々と業務をこなしていたサガは、本日の教皇補佐のミロが近づいてきたことに全く気づけずに、ア ワワと慌てた。 しかし、別に気配を消していた訳でもなんでもないミロは、キョトンと不思議そうに首を傾げる。 「あ、ああ、心配には及ばないよミロ、もう大丈夫だ。」 少し集中しすぎていたな、と内心恥ずかしく思うサガだったが、本当のところは集中していたからミ ロに気づかなかったのではなく、単純に相手の小宇宙を感じ取れなかっただけなのだった。 それを意味することはただ一つなのだが、悲しいかな、変なところで意思の強いサガは、まるで自分 の体の異変に気づくことは無かった。 「そう〜?まぁ、本人が言うなら別に良いけど・・・でさ、本題なんだけど、教皇がサガにちょっと 来て欲しいってさ」 「シオン様が?分かった。すぐ行こう」 椅子を引き、スックと立ち上がったサガは、一瞬クラリと眩暈を感じだが、強固な意志で相手に悟ら れないように足を踏んだ。 しかし、そこは黄金の者たる所以なのか、僅かな気配を感じ取り、ミロはうーんと顔を顰めた。 「サガ、ほんとに大丈夫なのか?」 少し不安そうに顔を覗き込んでくるミロに慌てて、サガは無意識に半歩下がり距離を取った。 「本当に大丈夫だから・・・ホラ、顔の赤みだって引いているだろう?」 「う〜〜〜ん、確かに赤くは無いけど・・・・って言うか、むしろ青褪めてると言ったほうが・・」 ミロの言葉は最後まで続かなかった。 無理やり歩きだそうとしたサガの体は、ゆっくりと、しかし呆気なく崩れ去り、その場でバタンと倒 れた。 「っ、サガ!?どうしたの!?」 慌ててサガの体を抱き起こし、ミロはその手に伝わってきたサガの恐ろしいまでの体の冷たさにビッ クリした。 普段色白なサガの顔色のせいで気づかなかったが、至近距離で見ると、血の気を失ったかのように蒼 白な色をしていた。 「た、大変だ!早く皆に知らせないと・・・!!」 意外とハプニングに強いミロは、まずは医者医者!とサガを抱きかかえると、急いでたったかと走っ ていった。 結局、体調を悪化させたサガは、有無を言わさず双児宮へと強制返還されたしまったのであった。 これを知って烈火のごとく怒ったのが、海底から帰ってきたカノンだった。 一生懸命仕事を終わらせ、飛ぶように愛しい兄の元へと帰ってきたと思ったら、サガがまた無理をし てぶっ倒れたという話を聞かされて愕然としたのだった。 幸い大した事にはならなかったが、倒れた日は酷い状態だったらしい。 カノンが出かけている間の1週間。 倒れてから数日経っていたのでサガは幾分回復していたが、そんな問題じゃない!とカノンは怒っ た。 「・・・・・・で?」 眉を片方だけ歪め、しかしその顔からは一切の表情が欠落したカノンの顔は、サガでなくとも何と も空恐ろしいもので。 いつも感情を隠さずストレートに出すこの弟は、めったにこんな表情を見せない。 つまりは本気で怒っているのだ。 「・・・・・・すまない」 子供のように身を縮こまらせ、サガはポソリと呟く。 「一体何に対しての謝罪なんだ?無闇に謝られても困るんだが?」 冷淡な態度を変えず、静かな様は逆にサガを強く詰問するかのようだった。 「・・・その、無理はしないと約束したのに・・・破る形になってしまったから・・・・」 バン!と机を叩いた音にサガは思わず肩を強張らせる。 「破る形になっただぁ!?サガ、お前はちゃんと言っただろう、『無茶はしない』と!その結果が これか?お前にとって俺との約束はそんなにも薄っぺらいモンなのかよ?!」 ワッと声を荒げるカノンは、凄まじいまでの怒りで満ち溢れ、しかし其れはサガが心配で心配で堪 らなかったカノンの心情の裏返しだった。 「ちが、・・・そうではない、カノン。私はただ・・・皆の仕事の負担を増やすのが心苦しくて・ ・・・」 「それでぶっ倒れて皆の世話になってなんじゃあ、ほんとに世話ねぇな」 ハン、と怒りのまま笑うカノンの言葉に、サガは痛いところを突かれたかのように気まずそうに眉を 顰める。 「そうやって、自分はいかにも頑張っています、ってとこ見せて一体何になるっていうんだ?それ が周りの迷惑にも成りかねんってことも分からないのか、サガ」 「なっ・・・・」 今まで罰が悪そうにカノンの怒りをその身に浴びていたサガだったか、今のカノンの言葉は聞き捨 てならなかった。 「カノン・・・そんな言い方・・・ッ」 「サガ、お前は何時だってそうだ。自分が一人で抱え込めばいいとでも思ってんのか?それがどれ程 皆に心配かけてんのか分かってんのか?!」 「・・・・・・ッ、だが・・・私は!」 「一人で悩んで、一人で抱え込んで、そうやってお前は自分一人犠牲にでもなればいいとでも思って いるのか!?そんなだから13年前もあんな・・」 「ッツ・・・!カノン!!!」 バシン!と響いた小気味良い音をカノンは自分の耳元で聞き、しまった、と思ったがもう遅かった。 サガは、カノンの頬を張った腕もそのままに、顔を真っ赤に染め上げ眼に涙を溜めながら体を震わせ ていた。 「・・・・っつ!そんなの・・・この私が1番よく分かっている!!」 「サ・・」 「私の弱い心のせいで・・あんな罪を犯してしまった、・・・けど、だからこそ私は――・・・・ッ !」 最後は叫ぶように声を絞りだすと、サガはそのまま弾丸のごとく双児宮から飛び出していった。 「ッ、サガ!!」 カノンは瞬間、追いかけようとしたが、グッと堪えてその場に立ち尽くした。 あんな事を言うつもりではなかったのに・・・・ 早くも先程の己の失言を後悔し始めているカノンは、どうしてこう自分は後先考えず行動してしまう のか、と己の性格をなじった。 今はお互い気が高ぶっていて話し合いにもならぬだろうと判断し、とりあえずサガが落ち着いて帰っ てくるまで待とうとカノンは思った。 その間にも、自分も頭に昇った血を下ろせばいい。 カノンは冷静に、冷静にと慎重に考えを廻らせながら、ゆっくりと息を吐き、とりあえずサガの帰り を待つ準備をしようと行動を開始した。 しかしその後、カノンはこの行動こそが己の愚挙だったと、再度己の性格の浅はかさをなじるハメに なるのだが。 「っ・・・・う、うぅ」 一方サガは、今だにうずくまったまま、ポツンと身を小さく丸めていた。 こうして改めて一人で考え込んだら、途端に抱えきれない程の膨大な感情が押し寄せてきて、本格的に 涙が溢れてきた。 行方を失った子供のように膝を抱え、グスグスと鼻を鳴らしながら、サガは心底自分が嫌いだと思っ た。 激情に任せてカノンを引っ叩いてしまった事を酷く後悔し、自己嫌悪に陥る。 カノンは何も間違ったことを言ってはいなかった。 むしろ、余りにも誠の真実を自身に突きつけられ、自分の中の汚い部分を見せ付けられたかのように 感じ、己の心を守るためにまるで八つ当たりのようにカノンを殴ってしまったのだ。 なんと、なんと浅ましい人間なのだろうか。 サガはうまく纏まらぬ思考の中、それでもボンヤリと考える。 (どうすればいいのだろう・・・今更私は、どの面下げて双児宮に・・・カノンの元に帰れるというん だ・・・・) いいや、とばかりにフルフルと首を力なく振り、帰れない・・・と途方に暮れた様に呟いた。 帰れない。帰りたくない。帰れない。 グルグル廻る思考に酔い始め気分が悪くなり始めた時、下の方から思いもかけない声がサガの耳を打 った。 「あれ?サガ・・・サガなのか?」 不意にかけらた声は、青年にしては高めで、子供にしてはやや低い。 微妙な思春期特有の、声変わりをしかけたこの声をサガはよく知っていた。 「せ・・・・星矢・・・?」 僅かに顔を持ち上げ、目線を階段の下の方へと見やると、そこには自分を見つめながら眼をパチクリ と見開いた星矢が立っていた。 NEXT って続くんかい!!(一人突っ込み) はい、すみません続きます。何か書いてるうちにドンドン妄想が暴走して(汗) またまたネタの爆弾投下してくれた広海っちに、感謝と謝罪の言葉を送ります(イラネー!!) 「青銅を巻き込んで日本にプチ(?)家出するサガで、カノサガ」。 うーん、何ともはた迷惑な双子です。魔性だね魔性!(黙れ) 今頭ん中大変楽しい状況なのですが、きっと楽しいのは私だけだと思います; 次回青銅初チャレンジ!ハッキリ言って自信無い!だって私原作黄金ばっか注目してみてるから青 銅の子供達の性格掴み切れてないこと請け合いです。(うぉい!) まぁ、私の小説全員偽者だからいっかー(良くねぇよ) 次回は星矢サガだー!魚ーーー!!(←うおーとお読みください/アホか) |